ざわざわざわっとざわつく更衣室。
 今日の体育はプールだから、レイは一段と隅っこにいた。
 だってみんなが見るんだもん…
 気恥ずかしいとか卑屈になっているわけでは無い。
 ただただそのジロジロと値を付けるような視線が、うっとうしいだけのことだった。
「惣流さんって、足長いよねぇ?」
「やっぱ血かなぁ?」
 アスカは逆に、全くと言っていいほど気にしていない。
「ばあっか、バランスよ、足だけ長くってもねぇ…」
 そう言って、アスカはポーズを取って見せる。
 例えそれがみんなとおんなじスクール水着であったとしても、アスカの出るとこが出ているプロポーションは、十二分に見栄えする。
 しかしプールと言っても、今日は生徒による清掃だ。
 何やってんだか…
 とは思うが、レイは皆の目がこっちに向いて来ないのでありがたい。
「ほんとにアスカって奇麗ですよね…」
 隣で着替えていたマユミが漏らした。
「…どうせあたしは小っちゃいもん」
「あ、そう言う意味じゃ…」
 慌てるマユミ。
 何を、とは言わなかったけど、思ったも同じ。
「ごめんなさい…」
「いいって、気にしてもしょうがないし、うう…」
 とか言いつつ、思いっきり気にしているレイ。
「でも!、わたしはレイの肌って好きです、奇麗で透き通ってて…」
 マユミはふっと、レイの腕に触れた。
 あっと自分のした事に、赤くなってうつむくマユミ。
 しかし視線は、ちらちらとレイの肌、とくに妖しい部分を盗み見ている。
 身じろぎするように、その視線から逃れようとする。
 うう、なんだか嫌な感じが…
 身の危険もちょっと感じる。
「ごめんなさい、変な事言っちゃいましたね…」
 マユミの上目使いはそれなりに可愛く、だけどどうしてレイにもじもじとしているのだろうか?
「いい、よく言われるし」
「そうなんですか?」
 マユミは驚きに目を丸くした。
「そうなんだ…、あの、やっぱり碇君がそう言うんですか?」
 なぜかここで浮かんで来るのは、今朝の光景では無くて京都でのキスシーン。
「…気になる?」
「あ、そうじゃなくて…、あの、…はい」
 最後は値踏みするような目に負けてしまった。
「そう、気になるの…」
 レイはちょっとだけ態度を固くする。
 シンちゃんのことが好きなのかな?
 でもそんなそぶりを見た事が無い。
「わたし、碇君のことはよく分からなくて…」
 マユミは正直に告白する。
「どうして、そんなこと言うの?」
 マユミはわずかに迷いを見せた。
「なに?」
 それを訝しく思っている間に、外から鰯水の叫びが聞こえた。
碇シンジが浮気しましたぁ!
ぬわんですってぇ!
 窓のすりガラスがビリビリ振動する
 怒りを高ぶらせたのは、レイではなくてアスカであった。






「バカシンジー!」
 授業そっちのけで駆け込んで来た。
 水着の上に慌てて着込んだため、シャツのボタンが一個段ちになっている。
 その目がざっと見回すが、いつもの席に姿がない。
「あのバカどこに行ったのよ!」
「逃げたかな?」
「うっさい!」
 ボゴ!っと後をついて来た鰯水に八つ当たり。
 カヲル君、後頼んだよ!
 そう言って逃げ出したのだが、あいにくとカヲルはアスカの足の下でつぶれたままになっていた。


「ねえ、どこまで行くの?」
 とぼとぼと歩くシンジの後を、てくてくとマナが着いていく。
「マナこそ、どこまでついて来るのさ?」
 マナは口笛を吹いてとぼけて見せた。
「良いけどさぁ…」
 はぁ…っとシンジはため息をついた。
 今日はもう何度目なのだか分からない。
「…それならね、逃げないで説明すれば良かったんじゃない?」
「…話を聞いてくれるようだったらね?」
 もう瞼を閉じれば見えるようだ。
 え?、マユミ知ってるの!?
 …えっと、あたしが見たのは抱き合ってる所で。
 顔を押さえて脅えまくるシンジ。
「あああああ、これで今日は家に帰れないよ…」
 と言うわけであてども無く学校を抜け出してうろついている。
 マナは金魚のふんよりも近くを歩く。
「まあ出席単位は余裕があるから良いけどぉ」
「……」
 恩着せがましい言葉に、シンジはちょっと身構えた。
「あ、シンちゃんあそこでクレープ売ってる」
「……」
「いいなぁ、欲しいなぁ…」
「……」
「おいしそうねぇ…」
「…はぁ」
 やはりシンジは根負けした。
「ストロベリーで良い?」
「うん☆」
 どうしても勝てないような気がする。
 シンジはチョコレートを頼んで購入。
「ん、おいし!」
 頬張るマナ。
「あ、シンちゃんのも一口食べさせて?、あたしのも上げるから」
「…良いけどさ」
 答えるが早いか、マナがいきなり食いつく。
「ん、シンちゃんの味がする」
「そう言う言い方、やめてよね…」
 気がつけば、シンジからため息は消えていた。






「まったくシンジの奴ってば!、目を離せば次々と引っ掛けるわ、調子に乗るわ、人を軽く見るわ、えいもうこんちくしょう!、考えるだけでも腹が立つわね!」
 ズンズンズンっと足音が派手に鳴っている。
 誤解じゃん…
 とマユミから聞いてレイは分かっていたのだが、面白いから教えてあげない。
「こっちですぅ」
 ミズホの眼鏡が探索モードに切り替わっている。
 早速バージョンアップされていた、ポニーテールに仕込まれたアンテナと連動し、シンジの放つ固有周波数を探り出しているのだ。
「ふふふ、浮気は絶対許しませぇん」
 背中のリュックを「よいしょ」と背負い直す。
 シンジの呼吸数、心拍数から状態を割り出すミズホ。
 かなりヤバ気な状態にまで入っていた。


「はぁ…、なんだか良い天気だねぇ」
 小さな公園でベンチに座っている二人。
「そうね、ほんとに良いデート日和ね?」
 一瞬静寂が流れてしまう。
「どうしてそこで黙っちゃうかなぁ?」
「そう言うこと言うからだろう?」
 きゃっとマナは赤くなる。
「シンちゃん緊張してくれてるんだ」
「…うん、今にもアスカたちに見つかりそうで」
 被害妄想がかなり激しい。
「うう、いまいちムードが盛り上がらない…」
 がっくりと来るマナ。
「仕方ないんじゃない?」
「って、シンちゃんが言うなー!」
 マナはもう半泣きだ。
「だって僕はもう諦めてるし…」
「なんで!」
「たぶんそう言う星の下に生まれたとしか言いようが…」
「違う!」
 マナはビシッと指差した。
「シンちゃんは主体性に欠けてるから引きずり回されてるのよ!」
「マナに?」
「ちーがーうー!」
 ダンダンダンっと足踏みする。
「そんなこと言われても…、はっきり出来るんならとっくに」
「それはもう良いのよ!、もう!!」
「え?って、良いの?」
「良いの!、だからもうちょっと、ね…」
 ぽてっと、その頭を肩に預ける。
 なんだか、こんなことって良くあるんだけど…
 栗色の髪に青い髪が重なる。
 忘れちゃってたな、こんな感じ…
 急に走馬灯のように蘇る記憶。
 いつもみんなに振り回されて、ちっとも落ちつかない受難の日々…
「バカシンジー!」
「やっぱりな…」
 走馬灯のようにではなく、まさしくそれはそのものであった。






「アスカ、レイとミズホも…」
「あんたなにやってんのよ!」
「なにって…」
 シンジはマナと視線を合わせる。
 いつもならマナが先に言い出す所だが…
「デート」
 っと何故だかシンジは口にした。
 がーん!
 どーん!
 ずがーん!
 っと連続で岩が落ちる、みなの頭上に。
「や、やだシンちゃんデートだなんて、そんなこと言っちゃマナ照れちゃう☆」
「…だってマナがそう言ったんじゃないか…」
「シンちゃん!」
 レイはばっと詰め寄った。
「酷いじゃない!、あの二人だけの夜は遊びだったって言うの!?」
「は?、え?、何のことだよ!」
「これ見て!」
 レイは何かの手帳を突き付ける。
「なにさ?」
「手帳!、母子手帳!、三ヶ月だって!」
「バカシンジー!」
「嘘だ、でっち上げだぁ!」
 パシッとミズホがひったくった。
「えっと…、レイちゃんの日記、『今日シンちゃんとお月見しました、二人だけだったからちょっと大胆に迫ってみたんだけど、シンちゃん我慢してたみたい、でも目線が色んなとこ見てて恥ずかしかったかも☆』、シンジ様ぁ!」
 あうあうあう…、嘘の下から真実が漏れて来る。
「あんたも何よ、これは!」
「そうだよ!、酷い嘘つかないでよ!」
「シンジ様は反省してください!」
「はい…」
「何よ二人ともぉ…」
 レイは口を尖らせた。
「わかったもん、覚えてなさいよ、べーーーっだ!」
「あ、レイ!」
 シンジの制止にも振り返らない。
「あんたが悪いんでしょうが、バカシンジがっ、ふんだ!」
「アスカ!」
 ………。
 ミズホ…、と続けようとしたが、ミズホは動いてない。
「あの…」
「はい?、なんでしょうかぁ」
「行っちゃわないの?」
「どうしてですかぁ?」
 ニコニコニコニコニコ…
 何だかその笑みがとてつもなく恐いシンジであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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