「あ、シンジ様、今日お昼は?」
「あ、うん、まだだけど…」
お腹を押さえる、食べてないのは、午前中に逃げ出したのだから当然だろう。
「じゃあはいっ!、今日はオムライスですぅ」
にこにこっと、リュックの中から弁当箱を引っ張り出す。
「さあ、どうぞぉ」
ミズホは気味悪いぐらいに機嫌が良い。
…何かある。
「頂きます…」
シンジは脅えながらも、お弁当箱を受け取った。
パクッといく。
「…美味しい」
「もちろんですぅ、美味しくないものをシンジ様には薦めませーん」
にやりと隠れて笑むミズホ。
おかしい、何で怒ったりしないんだろう?
シンジは怖々とオムライスをつついてしまう。
「はぁ…」
そんなシンジの姿に、マナも伝染したかの様に、思わずため息をついてしまった。
「はぁ…、シンちゃんってホント良い性格してる」
「え?、どうしてさ…」
マナはオムライスを見ながら答えた。
「だってあたしとデートしてたのに…」
「でもドキドキはしなかったから」
シンジは素直に答えた、かなり残酷だがあっさりと。
「うう、それって酷い…」
傷つくマナ。
「しょうがないじゃないか、緊張はしたけど、やっぱり何だか違うんだよ…」
シンジはミズホに顔を向けた。
ミズホは嬉し楽しそうに、魔法瓶を取り出しお茶を注いでいる。
マナはミズホのにこぱっとした笑顔に嫉妬気味。
「それって、ミズホとかが居るから?」
「え?」
同じベンチに座っているのに、マナは背を向けていた。
シンジはお茶を受け取る手が思わず止まる。
「なんだよ、それ?」
怪訝そうにその背中を見やる。
「後から好きになると、やっぱり損なのかなぁって」
前にもそんな話しをしたような?
誰とだったかは思い出せない。
「そんなことないと…、思うけど」
だからそう言ってみる。
マナはかぶりを振って否定した。
「だってもう、シンちゃんの中ってみんなのことで埋まっちゃってるみたいだし…」
マナの寂しそうな背中に辛くなる。
「そうなの…、かな?」
「そうよ、あーあ…」
マナはお日様を見上げた。
「どうせ嫌われ者だからいいけどね…」
マナはシンジの先を読んで続けて叫ぶ。
「「そんなことはないよ!」」
わざとハモったマナに、シンジははっとしてドキッとした。
「きっとシンちゃんならそう言うと思った…」
「ご、ごめん…」
ついつい癖で謝ってしまう。
「シンジ様はいつもそうおっしゃいますからぁ…」
読みやすいのかもしれない…
お弁当を片付けていくミズホに尋ねる。
「そんなに僕、口走ってる?」
にこぱっとするミズホ。
「はい!、それにそれがシンジ様の優しさの現われじゃないんですかぁ?」
ミズホはかなり機嫌が良い。
「そうかな?」
怒ってないのかな?
ミズホとマナ、シンジは両方の機嫌を探る。
「そうかもしれないわね?」
マナは笑って微笑んでくれた、が、寂しそうに感じてしまうのは何故だろう?
あ…
その笑みが、レイの微笑みに被ってしまった。
「良いけどね…、シンちゃんに嫌われちゃったら、余所へ移ればいいだけだし」
卑怯な事を言い出すマナ。
「余所?」
「うん…」
やっぱり言わない方がいい…
「引っ越せばいいって事」
でも雰囲気にはとても勝てない。
こう言えば、シンちゃんが引き止めてくれるってことは、わかってる…
「おかしいよ、そんなことで引っ越しちゃうなんてさ!」
その考えが、マナを余計に暗くする。
だけどシンジは、いつもとはちょっとだけ違う慌て方をした。
アスカに言ったこと。
居なくなっちゃいそう…
ここに居るのは、僕が居るからなの?
ほんの少しだけ自惚れてしまう。
「それにマナって、タイミングが悪いんだけなんだよ…」
「え?」
今度はシンジがふてくされている。
「どういう事?」
「いっつも何かあった時に、ちょうどって感じで寄って来るしさ…」
シンジはちょっと思い返した。
それで何かを思い付く。
「でもそれって、慰めようとしてくれてたの?」
「…たぶん違う、と、思うけど」
「ふうん…」
シンジは意地悪くニヤついた。
「優しいんだ」
「違うってば!」
マナは躍起になって否定したが…
「でもみんなが僕に言うのも、そう言う事だっておもったんだ」
勢いを失いキョトンとするマナ。
ミズホも不安になって裾を握る。
「シンジ様?」
「…僕が優しいとかって言ってるけどさ、だって僕は自覚してないもの、きっとみんな誤解してるんだよ」
ミズホに笑いかける。
「僕ははっきりしなくて、振り回してばかりいてさ…、酷いよね、ほんとに」
「そんなことないですぅ…」
「あたしは…、あるかもって思った」
キッと、ミズホはマナを睨み付けたが…
「でも別に優しくしてくれたからって、好きになったってわけじゃないしね?」
よっと!
マナは椅子の上に立ち上がって、手をあげた。
「宣誓!、あたしこと霧島マナは、シンちゃんのことを愛して愛して、きっと愛されると誓います!」
「なに勝手な事言ってんのよぉ!」
あ、帰って来た…
アスカの叫びに妙に冷める。
「シンちゃあん、これ見て?、今度は本物のお医者さんの診断書!、四ヶ月で双子だってぇ!」
「あんたこの婚姻届を忘れたわけじゃないでしょうねぇ!」
シンジは頭を抱えて唸り出した。
「二人とも嘘がバレバレだよ…」
二人は一度に「何故気付かれたの!?」っと驚いている。
「まあこの二人のやる事だもんねぇ」
「うっさいこの横恋慕女が!」
「なによぉ!」
アスカと鼻面を突き合わせる、これができる勇気ある者はそうは居ない。
「大体ズルいのよ!、ミズホだけちゃっかりと…」
レイはレイで、一人穏やかなミズホを巻き込む。
「ふふふですぅ」
キラーンと光るミズホの目。
やっぱり何か企んでたのか!
シンジの背中に悪寒が走った、ミズホの仮面がはがれていく。
「もちろんそれはそれとして、浮気の罰は「受けてもらいました」ぁ」
「「「はあ?」」」
そのおかしな物の言いように、みな一斉にキョトンとする。
「なによ、その完了形は?」
「じ・つ・は、先程のオムライスに赤木印の…」
ピ…
まるで狙い済ましたかのように、通信機能がオンになるミズホの眼鏡。
「ごめんなさい、間違えて「赤木印のツヨキニナールZ」を渡してしまったみたいなの」
「え!?」
「まあシンジ君には、まさにちょうど良い薬でしょ?、じゃ」
「じゃ?、じゃ!っじゃありません〜、赤木先生〜〜〜!?」
ピーピーピー…
しかし無情にも、通信は一方的に切られてしまっている。
「あうう、どうしましょう?」
ただおろおろとするばかり。
アスカたちは、シンジを中心として頷き合った。
●
「だからどうしてそう、ろくな事しないのよ!」
バン!っと机を叩くアスカ。
「…それが先生に取る態度かしら?」
軽く跳ねたマグカップに、リツコは激しく眉をしかめた。
「おあいにく様?、卒業したんだからもうそんな事関係無いもんね」
実に良い性格をしているアスカである。
「まったくもう!、シンちゃんを実験台にするのはやめてください!」
ここはリツコの準備室だ。
「失礼ねぇ、単純なミスよ、故意じゃないわ…」
「つまり、つまらないミスをするような人なんですね?」
マナの台詞に、リツコの口元が引きつりまくる。
「あの…、それで僕は一体どうなっちゃったんでしょうかぁ?」
シンジは不安そうに視線を泳がせた。
そのシャツの背中を、ミズホが申しわけなさそうにつかんでいる。
「あの薬は特別製でね、日向君に頼まれていた物だったんだけど…」
何でそんな物を?
シンジの疑問を余所に、リツコはじっとシンジを見ている。
「おかしいわね?」
「なにがですか?」
「どこか変わった感じはしない?」
「特には…」
自分の体をじっと見る。
「ふう、そう、じゃあ失敗だったのかもね…」
良かったじゃない何とも無くて。
その態度にアスカが切れた。
「やっぱり実験台にしたんじゃないの!」
勢い詰め寄る。
「あら?、事故だっていったでしょ?、でも無駄にはしたくないじゃない?」
「あんたのは確信犯的な部分があるのよ!」
相手が年上だと言う事も忘れさっている。
「まあまあ、先生も謝ってくれてるんだしさ」
「どこがよ!」
シンジはその剣幕に後ずさった。
「シンちゃんは甘いの!」
「そうそう、さっきも言ったでしょ?、そんなだから振り回されるんだって…」
そうよ!
アスカはビシッと指差した。
「これもそれも、みーんなあんたがバカだから悪いのよ!」
カチン!
その瞬間、シンジの頭で何かのスイッチが切り替わった。
「背を伸ばし、胸を張って目を細める。
「…かもね、ならそれのどこがいけないのさ?」
「え!?」
そのシンジらしくない態度に戸惑う。
「まあ僕はこういう奴だからね…、それが嫌なら見限れば?」
いつになく強気なシンジ。
「これは…」
リツコの目が喜びに大きくなる。
「シンジ様、なにをおっしゃっておられるんですかぁ!?」
「ミズホはこんな僕でもいいのかい?」
はうう、はうう、はううですぅ!
ミズホの髪を掻き上げるように、頬からうなじへと手を這わせる。
「ありがとうミズホ、君には真の愛の意味を教えてあげるよ…」
シンジは極自然に顔を寄せた、ミズホの顔に落ちる影。
「あんた何バカな事やってんのよぉ!」
パァン!
シンジの後頭部が派手に鳴る。
拍子にミズホの額に接触した。
慌てて唇を押さえ、後ずさるシンジ。
「はっ!、僕は一体何を…」
「ど、ドキドキですぅ!」
はぅ〜んと顔を隠して赤くなる。
「ま、まさか今のが薬の…」
シンジはようやく気がついた。
「そうよ?、どうやら予定通りの効果が得られたようね?」
リツコはちょっと嬉しそうだ。
「あんたなに喜んでんのよ!」
しかしリツコは動じなくて…
「いいじゃない、どうせ一週間ぐらいで効果は消えるんだから…」
逆に楽しそうに笑い始める。
「いいい、一週間!?」
その単位に焦ったのはシンジだ。
「そうよ?」
その数字に約三名が過敏に反応する。
一週間…
ちょうど週末。
おいしいですぅ。
謎の取り決めを思い出す。
「確かにシンジ君には必要な薬かもしれないけどぉ」
マナは一人だけ、そんなみんなを「なにかある!」っと怪しんでいた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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