シンジって、こんな顔も出来るのね…
アスカはちょっとした感動を味わってしまった。
いつもこうならカッコイイのに…
レイとミズホは、なんとなくハンカチを咬んでうらやんでいる。
「じゃあ、解いて来るからね?」
階段を一段、二段と降りていくシンジ。
段を踏む度に、シンジの足取りが重くなる。
「あああああ…」
降り切った時には、「どよ〜ん」と雨雲を背負ってしまっていた。
「僕は何てことをしちゃったんだよ…」
アスカの悔しげな顔が思い浮かぶ。
絶対後で殺される…
シンジはずるずると重い足を引きずって、子供部屋へ顔を出した。
「マナ?」
「あ、シンちゃん終わったの?」
どっと力尽きるシンジ。
「ど、どうやって…」
ポリポリと、おかきをかじる音がする。
マナはのんびりと「はれぶた」を見ていた。
その横に縄とゴザが放り出されている。
「脱出したのかって?、脱出術を極めたこのあたしに、こんなもの通用しないって」
「脱出術って、なに?、それ…」
訝しく思うシンジ。
「知らない?、戦自の特殊技能講座で習うの、縄で縛っただけなら、肩の関節外すだけで簡単に抜け出せちゃうもの」
…それって、全然簡単じゃないと思うんだけど。
シンジはマナの正体に不安を感じてしまった。
「ま、まあ抜け出せたんならいいけどさ…」
「本気であたしを拘束するなら、二つの方法しかないもんね?」
「二つ?」
「そ」
怪訝そうな顔をするシンジに、怪しい目を向けるマナ。
誰にも聞こえないように、マナは隣に座らせる。
「一つはもっと本格的に縛っちゃうの、あ、でもシンちゃんには必要が無いよね?」
赤くなるシンジの耳元に息を吹き掛ける。
「ひ、必要が無いって、どうしてさ?」
慌ててシンジは離れてしまった、耳を押さえて。
「ふふふ、だってシンちゃんが好きって言ってくれたらね?、それでもう離れられなくなっちゃうもん!」
ドサ!
抱きつき、押し倒された。
「マママ、マナ!」
「ん、まだ変になっちゃわないでね?」
マナは鼓動を聞き取ろうと、シンジの胸に耳を押し当てた。
「くうううう、悔しい、シンジに、シンジなんかに手玉に取られるなんてぇ!」
アスカはダンダンダン!っと地団駄を踏んでいた。
「アスカもミズホも美味しいじゃない、あたしも…」
「って、これ以上ややこしくすんじゃないわよ!」
アスカの逆手は、ミズホの首根っこをつかんでいる。
「あううー!」
「あんたも大人しくしてる!」
ずるずるずるっと、強引に引きずり戻されるミズホ。
「今すぐシンジ様の元に行くんですぅ!」
「おいしいって踏んだ途端に、あさましいこと考えてんじゃないわよ!」
「…アスカが一番早かったくせに」
レイのジト目が伝染して、ミズホもじとっとアスカを見上げた。
「うっさいわね!、大体ミズホが怪しい薬を盛ったりするから…」
その視線から逃れようとするアスカ。
「うう、それもこれもシンジ様の浮気が原因…」
はぁ…
三人は同時にため息をついてしまっていた。
それからお互いに、不毛な事はやめようと頷き合う。
「で、どうするの?」
まずレイが議題を確認した。
「…ミズホ、あんた解毒剤とか持ってないの?」
「そんなのがあったら、もっと効果的に使ってますぅ」
まあそりゃそうか…、思わず二人は納得してしまった。
「大体さぁ、あんた、初めはなんの薬を飲ませるつもりだったのよ?」
「そ、それは…」
つつーっと、ミズホの頬を汗が伝った。
「ミズホ、妖しいって…」
「なんでもないですぅ、過ぎた事はもう忘れて…」
「ちなみにあんたが隠れて薬貰い直して来たのは分かってんのよ?」
「ぎっくぅ!」
ミズホはあわわわわっと大袈裟に慌ててしまった。
「そんなのただの気のせいですぅ、先生の所に押し掛けた時に、こっそり渡してもらったなんてことは、シンジ様にかけなくてもありませぇん!」
「天地神明、シンジにかけて誓いなさいよ!」
「嫌ですぅ!」
これでは全然隠している事にならないだろう。
「で、これがその薬なんだ?」
レイが黄緑色の液体の入った瓶を、ちゃぽちゃぽと音をさせて振っていた。
「あううっ、いつのまに!?」
何故だかポニーテールの中を漁るミズホ。
「なんだかこれって鼻み…」
「きゃああああ!、言うんじゃないわよ!」
「…ず、みたい」
アスカは耳を塞いで聞かなかった。
「よくもまあこんなものを、シンジに含ませようとしたわね、あんたは!」
その状態でも、怒鳴るだけは一応怒鳴る。
「それはもう、おしおきですから、これぐらいでないと…」
ふふふと、ミズホの目はかなり危ない。
「で?、効用はなんなの?」
「あ、ラベルに書いてある」
「あーーー!、読まないでくださいぃ!」
ミズホのタックル、だがレイはひょいっと軽くかわして読み上げた。
「えっとね、赤木印、危険度XX、バイオハザード誘発の危険性あり…」
「ああもういいわ、聞きたくない」
アスカは適当に切り上げろと命令した。
「…それから、主に脳細胞に作用し、ニューロンネットワークの伝達経路を最適化することで、直感力を増強、決断力を高め…、ミズホ、これ先生に何の薬だって言われたの?」
「はぁ、シンジ様がカッコ良くなる薬だと…」
とうとう諦め、ミズホはがっくりと肩を落として、素直に答えた。
「しかたないわねぇ、まったく」
「シンちゃ〜ん!」
「って、ああ!、あんたそんなもの持ってってどうするつもりよ!」
レイは一瞬の隙をついて2階に走り降りていた。
「シンちゃんって、ああ!」
その目に飛び込んで来た光景は…
「あああああ!、シンちゃんが浮気してるぅ!」
「バカシンジィ!」
「シンジ様ぁ!」
「うわぁ、ご、ごめん!」
シンジはどうしようか迷っていた両腕を派手にばたつかせた。
「シンちゃん、焦ることないよぉ」
「うわわ、マナ、離れてよ!」
ゴロゴロと喉を鳴らしてくっつきにかかるマナ。
「シンちゃんの浮気者ぉ!」
突き出す拳。
何とか起きあがったシンジの顔面に奇麗に入った。
ガフ!
シンジの口に、例の瓶を押し込む形になってしまう。
ごふっごふ、ごふ…
「ちょっとレイ!」
「あ、ご、ごめん、シンちゃん!」
レイは我に返ってその小瓶を引き抜いた。
さすがにマナも慌てて離れる。
「シンちゃん!、腹上死なんて嫌だからね!」
そしてがくがくとゆすりにかかる。
ばたんきゅ〜☆状態のシンジ。
「あんたなに言ってんのよ!」
「ふくじょうしって、何ですかぁ?」
「はいはい、後でアスカに説明してもらいましょうね?」
ミズホはくるっとアスカを見た。
「知らないわよ!、そんなの!!」
「仲間外れは嫌ですぅ!」
泣きそうになるミズホ。
「え〜〜〜?、じゃあなんで顔赤いのぉ?」
「アスカぁ、漢字も教えてね?」
「感じ?、えっとぉ、腹上死って、どういう感じなんでしょうかぁ?」
またもやアスカに尋ねるミズホ。
「知らないっつってんでしょうが!」
「「こ、こわ〜」」
ミズホは目を丸くして固まり、後の二人は抱き合った。
「え、えっと、じゃあ知らない方が良いことなんですかぁ?」
一応場を取り繕うミズホ。
「でもある意味、どっちにとっても夢って言うか…」
「あたしは嫌かな?、だってそんなの寂しくなるし…」
「ええ!?、寂しい事なんですか?」
ミズホは派手に驚いた。
「う〜ん、う〜ん、でも死に場所はあたしの胸の中で!、なぁんてロマンちっくじゃない?」
「えええ!?、死んじゃうんですかぁ?、それは嫌ですぅ…」
マナの言葉を真剣に受け止める。
「そうそう、やっぱり生きてていくらだと思うから、ねえ?」
「って、あたしに振るんじゃないわよ!」
どさくさに紛れて、一人膝枕をしてやっているアスカ。
「あああ!、ずるいですぅ!」
「そうよアスカ、自分で話題振っといて!」
「シンちゃん、ごめんね?」
う〜ん…
レイの謝罪でも聞こえたのだろうか?、シンジが唸りながら目を覚ました。
「アスカ…、レイ?」
目に飛び込んで来たのは二人の顔だ。
「シンジ、大丈夫なの?」
「あ、うん…、ごめん」
シンジはゆっくりと体を起こした。
頭に手を当てている辺り、まだちょっとぼうっとしてしまっているらしい。
「…またケンカしてたの?」
そのままの状態でシンジは尋ねた。
「ケンカって言うか…」
寂しそうなシンジの目、レイは不安げにアスカに振った。
「まあ、いつものことよね?」
しかしてマナにタッチする。
「こんなのケンカの内に入らないモン」
「ごめん…」
シンジは顔を伏せた。
「シンジ様ぁ、わたし、シンジ様を困らせるような事はしていませんからぁ…」
ミズホがそっと寄り添いにかかった。
「でも、僕のせいなんでしょ?」
「えっと、えっと…」
「違うの?」
「まあ、原因はあんただけどさ…」
アスカはそっぽを向いている。
「そう、嬉しいよアスカ…」
それでも奇麗な微笑みを向けるシンジである。
うっ、また来たわね!っとアスカはとっさに身構えた。
「アスカの髪の色と同じ、その情熱がとっても僕には羨ましいんだ」
「シンちゃん!」
レイはたまらず視界に割り込んでしまった。
「レイ、すねないで、レイの唇は僕だけのものでしょ?」
「はいはいはい!、あたしも!!」
元気にレイを押しのけるマナ。
「ジュテーム、マナ、輝いてるね?」
「じゅ、じゅて〜む!?」
「もなむ〜」
「し、シンジ様?」
「さあいざ愛の園へ、僕たちに残された道はそれしかないんだ」
行きなりミズホを抱き込み、シンジはダンスを踊り始めた。
「はい、いちに、いちに、ほら、簡単だろ?」
「はいですぅ、あうう、シンジ様がこんなに近くに…」
シンジの手は腰に回っている。
「ちょちょちょ、ちょっとシンジ!」
「アスカ、君はまるで薔薇のつぼみだね?」
パートナーチェンジ。
「あんたちょっとおかしいわよ〜〜〜!?」
シンジはミズホを放り出し、アスカをぐるんと振り回した。
「あうう、酷いですぅ…」
襖に突っ込んでいるミズホ。
「さあ今そのつぼみを咲かせてあげるよ?」
シンジは唇を近づけた。
「ダメだってば、シンちゃん!」
「レイ、さあ!」
両腕を広げる。
ゴチン!
「あいたぁ!?」
落とされるアスカ。
「おいで、レイ」
「…なんだかシンちゃんのバックにバラ園が見えるんだけど…」
レイは自分の瞼をごしごしとこすった。
「愛、それは一輪の薔薇…」
「新境地開拓ですかぁ!?」
「病気が一段と悪くなってるじゃない!」
「あたし知〜らない」
レイはさっさと逃げ出そうとした、が…
「さあ、二人でお城を築こうよ、二人だけの愛の城をさ」
シンジに手を強く握られてしまった。
片手を取ってぐいっと引っ張るシンジ。
「きゃん!」
「レイ!」
バランスを崩したレイを、シンジは余った手で手繰り寄せた。
「あんた離れなさいよ!」
レイの脳裏にちょっと前のことが過った。
チャンスは逃さないもん!
静かに瞳をつむってしまう。
そしてシンジも、ゆっくりと目を閉じてしまうのだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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