ぴんぽーん。
「は〜い」
 スリッパがパタパタと元気な音を立てる。
 夜遅くにもかかわらず、ユイは明るく出迎えた。
「あら相田君に鈴原君」
「夜分すんませ〜ん」
「シンジいますかぁ?」
 ユイはちょっとだけ困った風に、指を一本頬に当てた。
「なんや、おらんのですか?」
「そういうわけじゃないんだけど…」
 ああ…と、ケンスケは何となく状況を察した。
「そんなに酷いんですか?、今…」
「酷いって言うか…、まあ、気をつけてね?」
「気をつけてって…」
「言い得て妙っつ〜か…」
 二人は何となく顔を見合わせてしまったのであった。



GenesisQ’42話
「星くずパラダイス6」



「お〜いシンジィ、って、何やっとんねん?」
 トウジは見ていいものかどうか?、一瞬微妙な判断に迷ってしまった。
「いやぁんな感じぃ」
「相田!、なにカメラなんて構えてんのよ!」
 シンジの腕の中で、アスカは二人に角を立てた。
「良いじゃないかアスカ、照れなくても」
「うっさい、バカシンジのくせに!」
 二人は情熱的なダンスの真っ最中である。
「赤い顔して、何言ってるのさ?」
 アスカを押し倒すように傾ける。
「あああ!、シンちゃん!」
 悲鳴を上げるレイ。
 ドッキン!
 アスカは目を丸くして、突然近付けられた顔に鼓動を跳ね上げた。
 ふっ…
 だがシンジはからかうように、またアスカを引き起こしてダンスに戻った。
「アスカ、いい加減離れてよー!」
「シンジが離してくれないのよ!」
 二人の体はこれ以上ないくらいに密着している。
「いつの間にかランバダになっとらんか?」
「あったなー、そんなの」
 二人は部屋の隅にどかっと腰を下ろして、手短にあったおかきに手を出した。
「それあたしのおかき!」
「あ、あれ?」
「なんでお前がおんねん!?」
 背後におかきの入った器を隠すマナ。
「そんなの、シンちゃんと籍入れちゃったからに決まってるじゃない」
「嘘付くなー!」
「でっち上げないでください!、あ〜んシンジ様ぁ!」
 シンジにはミズホ、マナにはアスカが声を張り上げる、その隙を突いてレイはマナのおかきに手を伸ばしていた。
「ああ僕はなんて罪深いんだ」
「あいた!」
 いきなり放り出されて、頭を打つアスカ。
「多くの女性が僕を巡って争うなんて、でも悲しい事に僕の体は一つしか無い、だからわかってよミズホ、泣かないで…」
 またもシンジの手がミズホの首筋を這う。
「あ…」
「僕の心と体のどちらもあげるよ?」
「はう〜んですぅ」
 ミズホの目がとろんとなった。
 言葉を発する事も出来ないトウジ&ケンスケ。
 病気か?
 もっと悪いんじゃないか?
 だからアイコンタクトで伝え合う。
「まあとりあえず」
「撮っとくか」
「撮るんじゃないわよ!」
 とっさにカメラを庇うケンスケ。
「ああ!、眼鏡メガネ…」
 しかしアスカの手は、カメラでは無く眼鏡を奪った。
「ふふん!、これがなければ隠し撮りもできないでしょうが!」
「これじゃあ、ピンぼけにー!」
「ケンスケ、それオートフォーカスやないか」
 やけに冷静なトウジ。
「そうだった!、じゃあ今のシーンはしっかりと撮れてるはず!」
「オタクならオタクらしくマニュアルつかいなさいよ!」
 今度こそカメラを奪われる。
「僕のカメラがー!」
「あんた一体、何しに来たのよ!!」
 ベシッと、騒がしいだけのケンスケを蹴り倒す。
「そうですぅ!、これからわたしとシンジ様の、愛の巣作りが始まろうというのに」
「始まらないわよ、そんなもの!」
 巣作りねぇ…
 レイの脳裏になんとなく、蜘蛛の巣の張りまくった薄暗いロフトと、その奥に糸でぐるぐる巻きにされたシンジのイメージが浮かんでしまった。
「いや、わしらはシンジに…」
「シンジに、なによ!」
 爆発寸前のアスカにたじろぐ。
「あ、明日の対策でも考えてやろうかと思ったんだよ…」
「対策ぅ?、なんでそんなものが必要なのよ?」
 ケンスケは「ふぅ」っと肩をすくめてため息をついた。
「わかってないなぁ、シンジの誕生日なんだろ?」
「それがなによ?」
「あああああー!、そっかぁ」
「なによ、レイ!?」
 レイは耳を押さえるアスカにさらに怒鳴った。
「シンちゃん一人っきりなんだ!」
「だからそれが…、あ!」
 アスカもようやく気がついたようだ。
 シンジのクラスにはカヲルしか居ない、つまり防波堤が存在しないのだ。
「こ、これはまずいんじゃない?」
 ミズホとマナは良く分かっていないと言う様子。
「何がですかぁ?」
「シンちゃんの誕生日なんでしょ?、だったら悪い事なんて無いじゃない…」
「シンジの誕生日よ?、ここぞとばかりに…」
 アスカは神妙な面持ちで二人に語り出した。
「そんなに凄いの?」
「いつもはアスカが小姑役になってるから…」
「なるほど」
「って、納得するなぁ!」
 きゃー!っとそろってシンジの背後に逃げ隠れる。
「なによバカシンジ、そいつらかくまう気!?」
「誕生日!、僕の欲しいものは一つだよ!」
「え?」
 ドキッとするアスカ。
「ええ〜〜〜!、じゃあシンちゃん、あたしはぁ?」
「欲しいものは一つだけど、それは誰から貰えるのか!?」
 天井を仰ぎ苦悩する、まさしく節操と言う物が無い。
「はいはいはい!、あたし!、あたし!」
「シンジ様ぁ!」
「元気なミズホが一番さ!」
 裾をくいくいっと引くミズホを抱きしめる。
「「「あああーーー!」」」
「はうーん!」
「この変態がぁ!」
「酷いよ、僕はアスカが好きなのに」
「おおっ、言い切りおったで!」
 しかしミズホは離さない。
「あ、ディスク切れてた、証拠は撮れなかったな…」
「なんでそう言うタイミングなのよぉ!」
 アスカははっと、背後からの冷たい視線に気がついた。
「な、なによ?」
 怖々とお仲間に向かって振り返る。
「アスカ…」
「やっぱりねぇ」
「人のこと言えませぇん」
「うがあーーー!」
 アスカはついに、噴火した。


「ぜぇはぁ、ぜぁはぁ、とにかくよ、今はそれ以上に大切な事があるでしょうが…」
 肩で息をしているアスカ。
「そうですねぇ…」
 ミズホはなぜだか中折れになった襖を突き破り、首に引っ掛けたままで正座している。
「明日のことが先かな?」
「あたしに任せときなさいって!、同じクラスなんだし」
 どんっと胸を叩くマナ。
「あんたは余計に信用できないのよ!」
 びゅんっと飛んできた座布団をばすっとレイへ軌道変更させたら、それはわずかにカーブを描いてカメラを構えていたケンスケに直撃してしまった。
「な、なんで俺が…」
 バタリ…
 泣く泣く倒れるケンスケ。
「星回りっちゅうのはあるさかいになぁ…」
 トウジは完全に寝っ転がってしまっている、その方が飛んで来る物に当たらなくてすむからだ。
「とにかく!、明日は誰一人としてシンジに近付けないわよ!」
「嫉妬丸出しぃ」
「今日のアスカは、ちょっと違う…」
 アスカは真っ赤になって我に帰った。
「ち、違うわよ!、今のシンジじゃ両手に紙袋じゃとまらないでしょうが!」
「シンジ様のていそーがー!」
 突然叫び出すミズホ。
「って、どこまで突っ走ってんのよ!?」
「あっ、わたしとした事が、涎が…」
 おっとっとっとやるミズホ、その前を銀髪の少年が何気に横切った。
「しょうがないね、じゃあその前に僕が貰って…」
「復活すんじゃないわよ!」
 がしゃーん!、べしゃ…
 本時刻、二度目の敗退。
「カヲル君…」
 シンジは、「ま、いっか」っと一言で打ち切った。
「酷い…」
 カヲルの呟きは当然夜風に紛れて聞こえない。
「しかしその調子やと、明日会うた方が面白かったかもなぁ?」
「わけのわからないこと言ってんじゃないわよ!」
「アスカ、嫉妬するより僕を愛して」
 ふっと耳に息を吹き掛けるシンジ。
「いやああああ!」
 耳を押さえて後ずさる。
 ぞわわわわっと、アスカの体は総毛立った。
 シンジはシンジで慌てるアスカに微笑んでから、くるりとトウジ達に向き直る。
「トウジ…」
「ななな、なんや!?、どないしたんや、ほんまに…」
 シンジはにこっと、はにかむように笑った。
 ざわざわざわっと、トウジの背中に悪寒が走る。
 なんや!?、えらい奇麗な顔しおって…
「うれしいよ、トウジ…」
 明らかにシンジの顔つきが変わってきていた、骨格も何となく細くなってしまっている。
「シンジ、お前…」
「おいでよ、僕の親友!」
「シンジ!」
「トウジ!」
 がしっと抱き合う二人。
「あああ、違う!、わしは何をしとんのや!」
 しかしトウジは即座に我に返った。
「いやああああ!、シンジ様ぁ!」
「ケンスケもありがとう…」
「うわあ!、俺を、俺をそんな目で見るなぁ!」
 まだダメージが抜けていないらしく、ケンスケは這うように逃げ惑う。
「まずいかも…」
 そんな中、レイが冷静に呟いた。
「なにがよ?」
「汚染が広がり出してるって気がしない?」
「それは興味深い話のようね?」
 ベランダへの窓がカラカラと開いた。
「「「赤木先生!」」」
「あんたそんなとこで何やってんのよ!」
 リツコの眉が釣り上がる。
「…前にも言ったけど、目上に対する態度を学びなさい、でないと…」
「なによ!」
「注射するわよ?」
 その一言を、冗談と受け取る者は居なかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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