「なんやナカザキやないか?」
「あ、鈴原君!」
 電信柱で待ちぼうけを食っていた薫は、知った顔に瞳を輝かせた。
「なにしとんねん、こんなとこで?」
「トウジ、おい誰だよこの美少女は?」
 ケンスケが紹介しろと耳打ちする。
「ああ、知り合いのナカザキ薫や」
 たたたたたっと、走り過ぎようとしたヒカリがそのままのポーズでぴたっと止まった。
「なんや、ヒカリ?」
「あ、ううん、なんでもないの」
 ぴと…
 牽制するようにトウジに引っ付く。
「お、おいっ、なにべたべたしとんねん」
「いいでしょ?」
 今度は腕を取られる。
 トウジはもう真っ赤だが、それ以上にヒカリの方が赤くなってしまっている。
 ちらりとシンジを見るヒカリ。
 あたしも、鈴原に…
 なにやら触発されているらしい。
「あたしはカヲル君を待ってたんだけど…、知らない?」
 そんな二人に薫は微笑む。
「知らんのぉ…」
「あいつならホウキで隅っこに掃かれてたから、まだ家なんじゃないかな?」
「そう、ですか…」
 薫はちょっとだけ残念がった。
「…それで納得できるのか」
 ケンスケはちょっと腑に落ちない。
「じゃ、まあいっか」
 ごそごそと薫は鞄の中を漁りだした。
「なんや、誰ぞに用でもあるんかいな?」
「うん、碇君にと思って、これ」
「なに?」
 ようやくまともに話すシンジ。
「誕生日プレゼント、ほんとは恥ずかしいから、カヲル君に預けようかと思ったんだけど…」
 頬が桜色にわずかにそまった。
「ありがとう、薫さん」
「ううん、碇君には、いろいろとお世話になったから…」
「じゃあこれからも面倒見るよ」
「え?、きゃ!」
 シンジは薫を抱き上げていた。
「ああ!、いつの間に縄から抜け出しおったんや!」
「シンジィ〜」
 何故だか涙を流すケンスケ、白いハンカチも咬んでいる。
 シンジはゆっくりと薫の瞳を覗き込んだ。
「さあ、行こう、僕たちの愛の城へ!」
 それってどこのことかしら?
 一瞬現実から離れてしまう薫。
「バカシンジィーーー!」
 背後でアスカの雄叫びが聞こえた。
 駆け出そうとしたシンジの体が急に強ばる。
「あの、どうしたの?」
「え?」
 薫はシンジの瞳に正気を見つけた。
 カヲル君にも、抱き上げてもらったことはあったけど…
 やっぱり男の子なんだと、薫はシンジに対する認識を改める。
「あ、あの、うわわわわわ!、僕!?」
 急に忙しなく、背後からの恐怖と腕の中の重みと周囲からの好奇の目に慌てふためいた。
 そのシンジの慌てっぷりに、薫はおかしくなってしまった。
「逃げちゃお?」
「そ、そんなことできないよ!?」
「今はその方が良いと思うけど?」
 シンジはアスカの気配に脅えるように、脱兎のごとく逃げ出していた。






「あれ?」
 薫はシンジの足が遅くなっているのに気がついた。
「どうしたの?」
 別に嫌がるでも無く、薫はシンジにしがみついていたのだが。
「ごめん…」
 と言う謝りの声に、薫はやや苦笑気味に微笑んでしまった。
「…そろそろ、降ろしてくれる?」
「うん…」
 正直、シンジは腕がつりそうになっていた。
 まるで壊れ物でも扱うかの様に、それでも無理をしてゆっくりと薫を下ろしてやる。
 シンジは薫に離れてもらうと、その場にへたり込んで落ち込んだ。
「シンジ君…」
 薫も同じようにしゃがみこむ。
「僕は、何てことをしてしまったんだろう?」
 どうやら薬が切れたらしい。
「どうして?」
「どうしてって…」
 シンジは顔を上げられない。
 よしよしっと、その頭を撫でてやる薫。
「どうせまたいつものでしょ?」
 顔を上げるシンジ。
 薫はニコッと微笑んでいる。
「カヲル君から、色々と聞いてるの」
 はぁっと、シンジはため息をついた。
「薫さん、学校はいいの?」
「ん〜、この時間じゃ、もうね…」
 8時45分、まだ遅刻で住む範囲だが…
「ごめん…」
「たまにはいいんじゃないのかなぁ?」
 薫は無邪気に、シンジを誘った。






「はい、シンジ君」
「ありがとう…」
 ポップコーンを受け取る。
 正直場違いな感じがあった。
 ここは映画館だ。
 結構多いんだな…
 明らかに学生服の少年少女達が席を埋めている。
 シンジは自分もその中に埋もれてしまっていると感じた。
「きょろきょろしてると、目立っちゃうよ?」
「あ、うん…、薫さんって、いつもこんな時間にこんな所に来るの?」
「たまに、ね…」
「そうなんだ…」
 にゅうっと隣から覗きこむ薫。
「うわ!、なにさ!?」
 急なアップにシンジは慌てた。
「何か勘違いしてない?」
「え?」
「…検査とかまだあるから、その帰り寄ってるの」
「あ…」
 シンジは暗くなって、顔を伏せってしまった。
「どうしたの?、今日は一段と変みたいだけど」
「一段とって…」
「いつもはもっと明るい感じがするから、それに…」
「それに?」
 薫は赤くなって視線を外した。
「あたしの髪をすいてくれたシンジ君は、そんなじゃなかったと思うな…」
「あ…」
 シンジもまた赤くなった。
 ビーーー!
 二人の沈黙の間を埋めるように、場内は光量を暗く落とした。


 あんなのは確かに僕じゃないと思うけど…
 キスしたり、抱きついたりしたくなかったわけじゃない。
 だからかもしれない、シンジは酷いジレンマに陥っていた。
 僕って、ほんとに…
 エッチばか変態!、さいってー、もう信じらんない!
 怒りに燃えるアスカが見えた。
 シンジは想像にも関らずビクリと脅える。
 違う!、あれは薬のせいで!
 ほんとは自分だってしたかったくせに…
「映画、見てない?」
 そっと耳打ちされた。
「ごめん…」
 シンジも前を見たまま、頭を傾けるように近づけて答えた。
「つい考え込んじゃってさ…」
「なにをそんなに悩んでるの?」
 映画のシーンはちょうどキスシーンだ。
「さっき変だったのと、関係してる?」
 コクリと頷くシンジ。
「わからなくなったんだ」
「例えば?」
 何かを答えようとして、シンジは口をつぐんでしまった。
「話せないような事?」
「たぶん…、こんな話、薫さんには嫌われるだけだと思うから…」
「恐いの?」
「恐いよ…」
 薫の髪が鼻孔を刺激する。
「そんな心配無いと思うけど」
 え?っと、シンジは顔をはっきりと向けた。
「だってあたし、シンジ君のこと嫌いだから」
「…そう、なんだ」
「うん」
 嫌いと拒絶するわりには、かなり明るい。
「カヲル君と仲が良いから、結構嫌い」
 それって、僕のせいなのかなぁ?
 しかし心の痛みが少しはやわらいだ。
「酷いや、じゃあカヲル君と仲が悪くなったら、好きになってくれるの?」
「ううん」
 薫は後ろの人の気に障らない程度に首を振る。
「多分、もっと嫌いになっちゃうかな?」
 どうあがいても、とうてい好きとは言ってくれそうにないらしい。
「じゃあ、僕はどうすればいいのさ?」
「取り敢えず話してよ」 「話すのぉ?」
 シンジは思いっきり嫌そうな顔をしたが…
「うん」
 と肘掛けに置いていた手を握られては、逃げ出すことはできなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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