「その後がもう大変だったのよ、シンジは幼児化しちゃうし…」
アスカの話はまだ続く。
「お母さんですかぁ?」
「うん…」
ミズホの脳裏に浮かぶのは当然ユイの姿で…
ほーっほっほっほっほっ!
しかもどうしてかゲンドウをしばき倒している姿である。
「こら!」
アスカはシンジを引っ張り離した。
「あんたなにやってんのよ!」
アスカが怒っているのは、シンジの手が自分の頬とミズホの太股の間に挟まっていたからだ。
「あんたがそんな奴だったとは知らなかったわ!」
スケベ!
しかしシンジはなんの事だかわかっていない。
「ぼくシンジ、4歳」
「ばぶばぶって…、あかん壊れてきとんのとちゃうか?」
リツコを見るアスカ。
はぁっと、リツコはため息をついた。
「…甘えたいと言う願望は誰にでもあるわ」
「それがなによ?」
「恥ずかしいと言う思いが、普通はそれを表に出させないわよね?」
「だからそれが!」
だんだんと苛突き出すアスカ。
「ここまで言っても分からない?」
リツコは一同を見渡した。
「…可哀想ね、シンジ君は」
「な!」
リツコは蔑むように一瞥してから、階段を降りて行ってしまった。
「なんやったんや、今のは?」
「さあ?」
ケンスケとトウジのやり取りは、アスカ達みんなの心を代弁している。
「でも、俺は分かるような気もするよ…」
漏らすケンスケ。
みんなの耳がダンボになる。
「甘えたい時ぐらいあるよな、誰だって、泣きたい時だってあるし…」
「なによ!」
アスカが直情的に突っかかった。
「あたし達が悪いってぇの!?」
「そ、そうは言ってないだろ!?」
「まま、待てや、な?」
トウジが取り繕うように割り込む。
「まあ、離したれや、話を聞いてからでも遅うないやろ?」
アスカは一瞬きつく睨んでから、胸倉をつかんでいた手を放した。
「ほらケンスケ、説明したれや」
「わかったよ…」
素直に頷いたのは別にアスカの勢いに負けたわけではない。
、みんなの視線が痛かったのだ。
すうっと息を吸ってから、落ちついて答えをまとめる。
「相手が一人ならシンジだって甘えるんじゃないの?」
「なんですってぇ!」
一言目からケンカを売っているようなものだった。
「そっちが言えって言ったんじゃないか!」
「アスカ待って!」
レイがアスカを羽交い締めにした。
シンジはあいかわらずミズホの膝の上で気持ちよさそうにしている。
そんなシンジを覗き込むようにしゃがみこむマナ。
「じゃあ泣きたい時って、なに?」
レイは真剣に尋ねていた。
「いや、その…」
それ程真面目に思ったわけじゃないんだけどな…
ケンスケは言いよどんだが、今更話さないわけにもいかない。
「泣いてるとこ見られるのって、結構嫌なもんだからさ…」
それにシンジの周りは人が多過ぎるし…
ケンスケの締めくくりは、レイにとって思い当たる節が多過ぎた。
いつも戻って来てくれるシンジ。
でも、最初から泣き付いてくれたことは?
無いような気がする、いつもシンジは一人になろうと逃げ出していく。
シンちゃん!
レイは振り返った。
「シンちゃーん、お風呂入ろう、入れてあげるね?」
「うん!」
「ってマナ!、あんた何やってんのよ」
「シンちゃんのパンツ脱がすのはあたしー!」
「違いますぅ!」
レイは「あうー」っと勢いを削がれてしまった。
シンジの顔は、ゆっくりと泣き崩れ始めている。
「ちょ、ちょっとシンジ?」
いち早く気が付いたのはアスカだった。
「け、ケンカしちゃ、嫌だ…」
ぐす、ひっくとしゃくりあげるシンジ。
「あ、あのねシンちゃん…」
「ケンカしてるわけじゃないんですぅ…」
マナとミズホが同時に手を差し出そうとして…、やっぱりお互いを目で牽制してしまった。
「ほら、二人が恐いからシンちゃん脅えてるじゃない」
レイは優しく、シンジを背後から抱きしめた。
「どうしてみんなでケンカするの?」
肩越しに尋ねるシンジ。
「それはシンちゃんのことが好きだから…、わかってるでしょ?」
シンジは「うん」と頷いた。
可愛い…
素直なシンジに、ちょっとよからぬ感情を抱いてしまうレイ。
「じゃあ僕のことが好きじゃなかったら、ケンカはしないんだね?」
だがその言葉で冷めてしまった。
「好きだから取り合うんですぅ!」
否定するミズホに、うんと頷くシンジ。
「やっぱり…、じゃあ僕がどっかに行っちゃえばいいんだ」
「そんなことはありえませぇん!」
「そうよ、なに言ってんのよ、あんたわ!」
アスカはパンッと、シンジの両頬をはさみ込んだ。
「だって、僕が悪いんでしょ?」
「そんなわけないでしょうが!」
「そうよシンちゃん!」
どんっとアスカを突き飛ばそうとしたマナであったが…
「ちぇすとぉ!」
ドンッ!
逆にくるりと回るようにかわしたアスカの鉄山なんとかによって、部屋の隅に弾き飛ばされてしまった。
「ふふんだ!、そうそういつまでも同じ手に…」
「シンちゃんが居たから、あたしはここに来たの…」
「嘘言わないでくださーい!」
アスカの背中では、二人での取り合いが始まっている。
「あんた達ねぇ!、またシンジを泣かせる気…、!?」
すっくとシンジは急に立ち上がった。
「あ、な、なによ…」
アスカは真正面から睨んで来るような瞳に脅えた。
シンジは真顔に戻っている。
「寝る…」
「へ?」
もう一度、用件だけを口にする。
「眠い…」
「あ、そう…」
がっくりと脱力するアスカ。
落ちた肩に、シンジはポンと両手を乗せた。
「一緒に寝よう?」
「え?」
「「「えええええ!?」」」
意外にも、アスカは言葉につまって固まってしまった。
「シンちゃん!」
「シンジ君!」
「シンジ様ァ!」
シンジは慌てる三人にも微笑んだ。
「みんなも一緒に寝ようよ、ね?」
ドキンと、一度に鼓動を跳ね上げる三人。
「だ、だめよ、あんた何考えてんのよ!」
ようやくアスカは正常な思考を取り戻した。
シンジがまともな事を考えているわけは無いし、普通の状態であるわけも無い。
しかしそれでも、アスカは尋ねずにはいられなかった。
「どうしてさ?」
戸惑うのはシンジも同じ。
「昔はよく一緒に寝たじゃないか…」
口を尖らせる。
「アスカ…」
「酷い…」
「隠してたなんて、ズルいですぅ」
三人が同時にアスカのシャツの背を引っ張った。
「ち、違うわよバカ!、幼稚園の頃の話じゃない!」
「でも小学2年生まではお風呂…」
「きゃーきゃーきゃーーきゃーーきゃーー!」
慌ててシンジの口を塞いだが、遅かった。
鋭い視線が付き刺さっている。
「あ、はははは…、聞こえた?」
「そりゃもう、ばっちりと…」
ニンマリしているマナ。
「ふーん、ふーん、ふーん」
レイはからかうような目を向けている。
まあ、シンちゃんとは何度もお風呂に入ったことあるし…
あるいは余裕があるだけかもしれない。
「ズルいですぅ!」
やはりストレートだったのはミズホだった。
「不公平は是正すべきですぅ!」
「そうそう、というわけで、一番付き合いの浅いあたしから…」
進み出たのだが、襟首を捉まれて「ぐえ!」っとなってしまった。
「あんたにそんな権利、あるわけないでしょうが!」
「どうしてよぉ!、あたしだって…」
ふらっと、シンジは騒ぎを無視して歩き出した。
「ちょ、こらシンジ!」
「寝るよ…、いいよ一人で…」
アスカの中で、ようやくケンスケの言葉とシンジの行動が直結した。
このことなの!?
シンジが動くと、みながお互い噛付き合う。
そしてシンジはそれを見て、またうつむいてしまうのだ。
二人っきりだった頃の雰囲気を思い出す。
テスト前は?
「何でこんなのが分かんないのよ!」
「ええと…」
ぶつくさと言いながらも、問題を解くシンジ。
雨の日は?
「もう濡れちゃったじゃない!」
「ごめん…」
「あんたのせいじゃないでしょ?、ほら早く拭きなさいよ!」
「うん…」
シンジはアスカが使ったタオルで、髪を拭く。
そしてシンジ泣いてる時は、アスカが黙って側に居た。
今は?
シンジは一人じゃない。
寂しい時ばかりじゃない、でも…
泣いてると、うっとうしいぐらいにみんなが騒ぐ。
何か劣っていると、みんなに頑張れと要求される。
辛い時、悲しい時…、シンジが受験のために頑張っていた時。
あたしは寂しかった。
頑張ってたのに…
寂しかったのよ!
「アスカ?」
怪訝そうなレイの声も聞こえない。
シンジは出て行ってしまった。
レイもいたし、ミズホも居たのに、一人きりになりたいと行ってしまった。
どうして?
至らなかった自分が悪いから…
どうして?
アスカに冷たくされたから。
どうして?
レイやミズホに、変わりを求められないから。
どうして?
それをすると、あたしがもっと怒るから!?
アスカは自分が導き出した答えに硬直した。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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