「ねえ…」
アスカは蒼白になって、シンジを見た。
「なに?」
シンジは微笑むように首を傾けるが、何処か目は冷たい。
「シンジ、さっき自分が居なくなればいいって言ったわよね?」
「うん」
素直に頷くシンジ。
「それって、あたしでもいいの?」
「え?」
「アスカ!」
「ちょっと何言ってるの!」
怒るレイとマナ、ミズホはおろおろと言葉を探している。
「ちゃんと答えて…」
「寂しいのは嫌だよ…」
それは答えになっているようで、なっていない。
それでもアスカはその解答に満足した。
「じゃあどうして、あたし達も同じだって分かってくれないの?」
シンジの両手を取るアスカ。
「だって、みんな楽しそうだもの…」
「それは…!?」
アスカは認めざるをえなかった。
シンジを取り合っていること、それ自体が楽しいのだと。
「僕はネタなの?」
遊ぶための…
「違うわよ、バカ!」
じゃなかったら、どうして怒ったり泣いたりできるのよ、みんなあんたのせいなのに!
言葉が足りないというよりは、言葉に出来ない想いの方が多過ぎた。
もどかしさを感じたのはアスカだけでは無かった。
しかしここはアスカが動くべきだった。
キッと、キツイ目を向けるアスカ。
「さ、行くわよバカシンジ!」
「どこへ?」
アスカはシンジの手を取った。
「決まってるじゃない、寝るのよ!」
アスカは何かを言われる前に振り返っていた。
「いいわね?、あんた達も一緒に寝るのよ!」
そのアスカの迫力に、三人は思わずコクリと頷いてしまっていた。
●
「い、一緒に…」
「そうなのよ、それで三つほど布団並べたんだけど、シンジの隣の取り合いになっちゃってさ…」
ふわぁっと、アスカは大あくびをかいた。
ちなみにトウジ達はと言えば…
シンジ達が消えた後、ケンスケは隠し撮っていたカメラを止めた。
「俺達どうしようか?」
「こらもう、温かい目で見守ってやらな、しゃーないやろ?」
ごろんと寝っ転がるトウジ。
「そうだな」
ケンスケも同じように、横になって目を閉じた。
「その後はさぁ…」
ふわあっと、もう一度大あくびをするアスカ。
「布団の中で蹴飛ばし合いになるし、抱きつき合いになるし、揚げ句の果てにバカシンジ!、人が気付かないと思って胸に触って来たのよ?」
バキ!
クラスの幾人かの歯が、圧力に堪えかねて音を立てた。
「あげくにミズホとレイとマナがお互い抱き合ったりキスマーク付け合ったり…、たぶんシンジが何処に居るんだか分からなくなってたんでしょうけど、まったく…」
だがアスカはまんざらでもなさそうな顔をしていた。
シンジは間違いなく、あたしの体を抱いてたものね…
アスカは自然と誇るように、首筋のキスマークに触れていた。
「あら、ヒカリ、どうしたの?」
ヒカリはしばらくうつむき震えていたが、妙にすっきりしたような顔を上げた。
もう諦め切ったような顔で見るヒカリ。
「ううん、もういいわ、アスカ、あたしもう何も言わない…」
その目は分かってくれたと言うよりは…
「ちょ、ちょっとヒカリ!?」
「アスカ、とうとう遠い世界へ旅立ってしまったのね…」
妄想の世界に行っちゃってた。
「あんた激しく勘違いしてるわよ!」
だが聞いては貰えない。
「良いのよアスカ、それがアスカの幸せなら、あたしもう何も言わないから!」
さよなら〜っと去っていくヒカリ。
「あ…」
アスカはすっかり、シンジが薬でおかしくなっていたと説明するのを忘れていた。
●
さて、アスカが噂に拍車を掛けた所で、くだんの人は遅まきながらも登校して来た。
「ごくり…」
喉を鳴らして、校門をくぐるシンジ。
もうお昼はとっくに過ぎている。
耳の奥には、まだ薫の言葉がこだましていた。
結婚だって出来るんだから!
それは大人になった証しの一つ。
シンジにはまだまだ先の話。
だけど…
シンジ君を好きなみんなも16になって…
16ってね、もう結婚だって出来るんだから!
確実に時間は進んでいた。
一足先に16になったシンジ。
だけど同じ16歳でも、意味合いはみんなの方がずっと重いんだ…
答えを出さなきゃいけない日は近づいて来ている。
それに合わせて、ごまかしも効かなくなるだろう。
どうすればいい?
どうしよう…
考える暇すら無かったとは認めない。
だって見苦しいじゃないか…
自分に嘘をついても、嘘だと自分で分かっているのだから、辛くなっていくだけだ。
考える暇も機会も、十分にあった。
僕は何を迷っているんだろう?
追い詰められていると感じた。
辛いの?、僕…
みんなと付き合っていることが。
違う…、よね?
良く分からない、でも分かっているのは、どんどんと待たせられなくなっていくと言う事だ。
しょがないだろう!、朝なんだから!!
そう叫んでいたのが懐かしい。
今はみんな…
そんな状態の時にどう反応して来るのか?
シンジは想像して、赤くなってしまった。
でも、嫌じゃない…
そんなみんなを恥ずかしいとは思わないし、はしたないと罵る気持ちも無い。
嬉しい…、から?
みんなが僕を意識してくれているのが。
僕は恥ずかしいだけなのかな?
それも違うような気がする。
そっか、みんな…
当たり前のように、そうしてくるから。
自然に受け入れられるから。
「逃げちゃ、ダメだ…」
自然と受け入れてもらえているから、自然と振る舞えていたのかもしれない。
「逃げちゃダメだ」
シンジは決然としてくり返した。
僕も自然に受け入れて見よう。
シンジはちょっとだけ、前を向いて歩こうとしていた。
●
「碇シンジが来たぞぉ!」
もう後一歩行けば、非常警戒警報が発令されたかもしれない。
な、なんだろう?
シンジは言いようのない緊張感に包まれたまま、自分の教室までたどり着いた。
「あ、シンちゃん!」
異様な殺気を帯びた視線に晒されるシンジ。
「一人でちゃんと学校に来れたの?」
「なんだよ、それ…」
シンジの普通の態度に、マナはちょっと驚いた。
「なんだシンちゃん、もう元に戻っちゃったの?」
「普通って、まあ、そうかもしれないけど…」
席につくシンジに、マナは必要以上に近寄ろうとする。
「なに?」
「ん〜ん、別にィ?」
だって夕べはシンちゃんと!
その相手が実は違うのだと言う事に気がついていない、幸せなマナ。
「あの、碇君!」
隣の席の女の子が、急に声を出して席を立った。
「え?、なに…」
驚くシンジ。
「碇君と霧島さんって、付き合ってるの!?」
一同が聞きたかった事を少女は口走った。
シン…っと、空気が静まり返る。
そんなの決まってるじゃない!
余裕のマナ、しかし口を開こうとしたが…
「違うよ?」
っとシンジにやんわりと答えられてしまった。
「違うんですか?」
「そうだよ?」
「でも昨日…、霧島さん、碇君の家に泊まったって」
ちらりと見る女の子。
マナは牽制しようと目を釣り上げている。
「うん、アスカたちと遊んでたみたいだったけど…」
「酷い、シンちゃん!」
マナは抗議の声を張り上げた。
「夕べはあんなに激しくしてくれたくせに!」
ごくりと、少女だけでなくみんなが息を呑んだ瞬間。
「えっと、たしかに激しく蹴り飛ばされたけど…」
シンジの台詞に、マナも含めたクラスメートは目が点になってしまった。
「は?」
耳に手を当て、聞き直すマナ。
「僕、布団から蹴り飛ばされたから、そのままカヲル君の布団を借りて寝てたんだよ、みんな気付かなかったみたいだけど…」
失望のどん底と言った感じで、マナは頭の中を真っ白にした。
「碇君!」
話しかけた子が、いきなりリボンのついた箱を突き出した。
「え?、なに…」
「誕生日だって聞いたから…」
はにかむようなテレ笑いに戸惑う。
逃げちゃ、だめだ…
「ありがとう」
シンジは意識的に、ちゃんとしたありがとうをその子に伝えていた。
●
たったの一言と笑顔一つで、シンジは少女を一人、悩殺してしまっていた。
「大変!、碇君が誕生日プレゼント受け付けてるって!」
「うっそ!?」
その騒ぎがアスカの耳に入るまで、そう長くはかからなかった。
「バカシンジが!」
廊下を走るアスカ、その形相を持ってもシンジに群がろうとする波をかきわけることは出来ない。
「アスカさぁん!」
「ミズホ!、シンジは!?」
「だめですぅ、教室を出られたらしくて…」
ミズホは表情を陰らせていた。
「あんたなんて顔してんのよ!」
「でもぉ…」
シンジ様は、ご自分からプレゼントをお受けになられたと…
ミズホはアスカに、自分の聞いた話を伝えた。
「あんたバカァ?」
しかし思った通り、一笑に伏されてしまった。
「でもでもぉ!」
「どうせ夕べの薬がまだ残ってんのよ!、行くわよ?」
でも!っとミズホはまだごねた。
「でもシンジ様、どちらにいらっしゃるのやら…」
「あんたねぇ…」
アスカは呆れた顔でミズホを見た。
「あたしを誰だと思ってんの?、惣流・アスカ様よ?、シンジの幼馴染の!」
こういう時、あいつが何処に行くかぐらい分かってるわよ!
だがシンジは、アスカの想像とは全く違う場所に「呼び出されていた」
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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