なんか嫌だな…
 シンジは萎縮してしまっていた。
 シンジは知らないが、今の状況はレイの時と酷似している。
 加持がいる。
 いつもと変わらないにやけた表情で。
 タタキが居た、しきりに灰皿を気にしているのは、タバコを吸いたくて仕方が無いのだろう。
 まあ学校だしな…
 教育の場と言う事もあるし、一応我慢しているようだ。
 それからゲンドウが居た。
 なぜ?
 目で問いかけても答えてくれない。
 ニヤリと嫌な笑みを返されてしまった。
「さてと、シンジ君」
「はい…」
「今日も遅刻したらしいね」
「すみません…」
 それだけで呼び出しかけること, 無いじゃないか…
 とは思っても口にしない。
「それだけじゃない、欠席、自主早退の数も半端じゃない」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだ」
 ふっ…
 父のあざ笑うような声が聞こえた。
「無様だな」
 さすがに言い返せないシンジ。
「一応君は四類だからと言う事で大目に見て来たんだが、さすがにそうも言えなくなって来た」
「え?、どうしてですか?」
 間抜けな質問だったかもしれない。
「出席単位がまるで足りなくなって来た」
「……」
 思う所はあった、もし普通のテストが行われていたのなら、シンジはまるで歯が立たなかっただろう。
「シンジ君は一応テレビに出ていたから良かった、けど最近はさっぱりだろう?」
「…レイのアルバイトに着いていけなくて」
 内容的にではなく、金銭的に。
 一応加持に反論してみる。
「じゃあバイト代を出せば良かったか?」
「いや、そんな…」
 嫌な言い方をするなぁ…
 シンジはタタキの言葉に眉をひそめた。
「それで、だ」
 加持は本題に入った。
「シンジ君」
「はい」
 居住まいを正すシンジ。
「このままだと、君は間違いなく四類から放り出される事になる…」
 それって…
 シンジの思い詰めた表情に、加持はコクリと頷いた。
「じゃあ、ぼく普通科に?」
「一旦はな?」
「どういう、ことですか?」
 半分以上、聞かなくても答えは分かるような気がした。
「今の君には、はっきり言って普通科で通用するほどの学力が無い」
 退学、放校?
 シンジの顔は青ざめた。
「まあ落第の一回は覚悟してもらわなきゃならないかもな」
 加持の言葉以上に、父親の存在が痛かった。
 怒られる…
 シンジは小さくなって来ていた。
「で、だ」
 タタキが会話の合間に滑り込んだ。
「はい?」
「そこで俺の出番になるわけさ」
 シンジはキョトンとしてしまった。
「実はな、レイちゃんの四類編入が正式に決まったんだ」
「え!?」
 シンジは慌てるように加持に確認した。
「ほんとなんですか!?」
「ああ、レイちゃんにお願いしてみてたんだが、この間ようやく返事が貰えたよ」
 レイが…、本気なの?
 シンジは疑わしさを拭い切れない。
 だけど、本当なんだろうな…
 本当の所はシンジの想像とは違っている。
 それはあの賭けが関係していた。
 シンちゃん独り占めかぁ…、どうしよっかなぁ、タタキさんにホテル取って貰って…
 強引に仕事を入れる、その名目もあって、まだ勝ちが決まったわけでも無いのに、レイは計画を押し進めていた。
「レイが…」
「そこでシンジ君に、レイちゃんのサポートを頼めないかと思ってね?」
「え?」
 シンジは大人三人を見渡した。
「レイちゃん一人じゃ心許ないというのがまず一つ…」
「そんな…、だってレイの方が僕なんかより、よっぽどしっかりしてるじゃないですか!」
 タタキは分かってないなぁと余裕の笑みを浮かべた。
「ジオフロントでの収録を覚えてるだろ?」
「あ…」
 レイは泣いていた。
 一人になって。
「一人じゃダメなんだよ、あの子は…」
「じゃあなんでレイはOKしたんですか!」
 それがわかっていて!
 レイよりも、話を持ち掛けたタタキに怒りを覚えてしまう。
「お前を付ける、わたしがそう答えた」
「そんな…、勝手だよ、父さん!」
 噛付くシンジ、だがゲンドウはその程度では動じなかった。
「不服か?」
「当たり前だろ!?、勝手に決めて…、なんだよ、どういうつもりなんだよ!」
 はぁはぁと荒い息をつく。
「つもり…、か」
 ゲンドウは「そうだなぁ」と今考えた。
「…レイがもっとも信頼し、もっとも近寄らせ、それに安心するのはシンジ、お前だ」
 うぐっとつまるシンジ。
「その上でだ、レイの芸能活動の側に常に居てやれる者はシンジ、お前しか居ない」
「嘘だ!、だって普通、マネージャーとか…」
「それではレイちゃんが安心しないと言ったろう?、それに確かに条件的には最高だしな?」
 シンジはタタキに説明を求めた。
「最高って…」
「一応芸能科の生徒で、第三新東京市についてはその手の施設についての入場が、関係者扱いでフリーパスになっている」
「うそでしょう!?」
 しかし加持はゆっくりと頷いた。
「それだけじゃない、公共施設の大方が生徒手帳だけで利用できるようになっている、もちろん既にデビューしてる人間に限られているけどな?」
「でも僕はデビューなんてしてませんよ?」
 シンジは自分の手帳を取り出した。
「そこにクラス2と認定されているだろ?」
「はい、そうみたいですね…」
 シンジは手帳の一番下にある英文の横の数値を確認した。
「数字はテレビに出る頻度を示しているんだ」
 あれ?
 シンジは疑問を持った。
 でも僕がこの手帳を貰ったのって、テレビに出る前だったんじゃないかと思うんだけど…
 首を傾げている間にも加持の話は進んでいく。
「1はもちろんレギュラー番組を持っている子を示しているんだ、まあ最初の登録者はレイちゃんと言う事になるけどな?」
 レイが…
 どうしてだろう?
 シンジは悩んだ。
「悩めばいい、けどなシンジ君、決めるのは君自身だ」
 レイにはレイなりの理由があるんだろうな…
 シンジは学校に来るまでの想いを振り返った。
「やります」
「シンジ君?」
「やってくれるか!」
 嬉しそうなタタキとは反対に、加持はちょっと意外そうな顔をしていた。
「良いのか?、シンジ…」
「うん、でもみんなには黙ってて…」
 ゲンドウはその事について追及しなかった。
 シンジがやけに真剣な表情をしていたからだ。
 つまらんな…
 そう思ったことは、別として…






「失礼します」
 シンジは頭を下げて校長室を出た。
 ふぅ…
 緊張で掌が汗ばんでいた。
「よし!」
 その掌を、嬉しそうに握り込むシンジ。
「…碇シンジ君だね?」
 びっくぅ!っと、シンジは大慌てで後ずさった。
「あ、な、なんだ鰯水君じゃないか…」
 背後に居た鰯水は、白地に炎の目を描いたマスクを被っていた。
「違う、僕は断じて鰯水などと言う好青年ではないぞ!」
「…自分でそう言うことは言わない方が良いと思うよ?」
「うるっさい!」
 ざざっと、シンジは廊下の前後を異様な集団に挟み込まれていた。
「な、なんだよみんな…」
「ふふふふふ…、碇シンジ、今日こそお前の命運はつき果てるのだ!」
 その中の一人がトイレ掃除用のデッキブラシをシンジに向けた。
「く、臭い!?」
 鼻をつまむ一同。
「ふふふ、これで貴様ももう終わりだ…」
 彼の目は完全にイってしまっていた。


 うわぁあああ!
 午後の授業は、全校的に潰れてしまっていた。
「なんで、僕が…」
 シンジは校門の外に逃げ出していた。
 盲点なのだろう、みんなの騒いでいる声が聞こえる。
 シンジは裏門を出てすぐの所で、学校を囲っている壁にもたれていた。
「あーー!、居たわねぇ!!」
「アスカ…」
 シンジは疲れ切った目を向けた、事実疲れ切っていたのだが。
「シンジ様、どうなされたんですかぁ?」
 その様子に、いつもの調子に戻っていると分かった。
「あんたちょっと臭いわよ?」
 髪まで変な汚れがついている。
「ふはははは!」
 壁の上に人影、もちろん逆光にシルエットだけしか分からない。
「何やってんのよ鰯水!」
 すかーんっと、投げた石がその頭に当たった。
 鰯水の姿が消える。
「あんたまさか、あのバカにやられたってわけ?」
 向こう側でした異音を気にしたのはシンジだけだった。
「うん…、あ、触らないほうがいいよ?」
「なんでよ」
「…トイレ掃除のブラシでつつかれたんだ」
 すざっとアスカとミズホは遠ざかった。
「い、碇シンジ…」
 壁の向こうから、もう一度鰯水が這い上がってくる。
「何よあんたちょっとしつこいわよ!」
「これで貴様も終わりだ、ぐわ!」
 向こう側で「きゃーきゃー」と言う嬌声と、鰯水の「ぐえー!」と言う断末魔の悲鳴が聞こえた。
「バカね…」
 アスカには分かっていた、シンジにプレゼントを渡せなかった女の子達だ。
 原因は鰯水によるシンジの追い回し。
 まさに鰯水自身の自業自得。
「それにしてもあいつ、何のつもりでこんなことしたのよ?」
「うん…」
 シンジは言いづらそうにした。
「なによ?」
「こうしておけば、汚いって思って、僕と抱き合うような事はないとか、なんとか…」
 シンジの顔は、一言毎に真っ赤になっていく。
「ばっかじゃないの!?」
 アスカはシンジの手を取った。
「こっち来なさい!」
「え?、どこに行くのさ…」
「プールよ、プール!」
「え?」
「シャワー使って洗うのよ!」
 シンジは「ああ…」と、納得していた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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