「あー、喜べ男子諸君!、今日は普通科からの編入生を紹介するぞ」
 加持のおちゃらけた声に、男子一同がごくりと緊張のツバを飲みこんだ。
 思った通りの反応に気を良くする加持。
「では紹介しよう、綾波レイちゃんだ、入ってくれ」
 とことことこっと入って来て、レイはちょこんと御辞儀をした。
「綾波レイです、よろしく!」
 わあっと一斉に盛り上がる。
 噂は本当だったぁ!
 よっし、これで学園生活にも張りが出るってもんだ!
 一方シンジは、頬杖を突いてぼうっとその騒ぎを傍観していた。
 どうしよっか…
 気になることは一つだけ。
 愛想良く、盛り上がる集団に投げキッスまでしているレイ。
 でも、僕の方は見ていない…
 ここに来たのはデヴューの為だから…
 僕は支える側に回らなくちゃ…
 でも具体的に何をすればいいのかをシンジは「知らない」
 …タタキさんに、連絡取ってみなきゃダメだな。
 シンジは頭の中で、具体的に出来る事を模索していた。



Neon Genesis Evangelion GenesisQ'46
星くずパラダイス10



 今日は水曜日である。
 後三日でこのクラスに馴染まなくっちゃ…
 レイは無理に…と思えるほど明るく振る舞っていた。
 これが君の選択なのかい?、レイ…
 赤い瞳が自分を見ている。
 自分と同じ瞳が見つめている、レイはカヲルの不敵な笑みに、ドキリと鼓動を跳ね上げていた。






「シンジくぅん!」
 どたどたと階段を駆け上る足音と、その情けのない男の子の声に、薫の父は読んでいた新聞から顔を上げた。
「母さん…」
「なんですか?」
 のほほんとお茶を飲んでいる母。
「いま薫が帰って来たような?」
 かなり間の抜けた会話である。
「そうですね?」
 何が微笑ましいのか、やたらニコニコとしているお母さん。
「母さん…」
「なんですか?」
「…ここは怒るべきだろう?」
「なぜですか?」
 何故って…
 ちょっとだけ絶句する。
「良いじゃないですか…、あの病弱だった子があんなに明るく…」
「明るく?」
「男の子を連れ込んで」
 はっ!
 薫の父は、重大な事に気がついた。


「はいここに座って!」
「随分と良識を失ってしまったんだね、薫…」
 ふっと、ニヒルな笑みを浮かべるカヲル。
「僕には君がわからなくなって来たよ…」
「人の考えている事が全部分かるんだ、カヲル君って」
 薫はカヲルを勉強机の椅子に座らせると、自分はベッドの上にすとんと腰を落とした。
 やられたとばかりに肩をすくめる。
「そうだね?、それは無理だね…、人は他人のことを理解することは出来ない」
「ほんとに?」
「そう言いたかったんじゃないのかい?」
 薫はクスリと笑い否定した。
「でもわかる事もあると思うの…」
「それはなんだい?」
 カヲルの興味ありげな声に、ペロリと舌を出す薫。
「カヲル君が、シンジ君を好きだって事…」
「ああ…」
 まさか否定するわけにもいかない。
「そうだね?、その通りさ…」
 見ていれば分かると言う事もあるのだろう。
「わかる事も多いの…、好きな人のこと、いつも見てるから…」
 ちらちらとカヲルの顔を観察している。
「そうなのかい?」
「うん…」
 キシ…
 座り直した時、思いのほか大きくバネが軋んだ。
「カヲル君には分からないかな?」
 覗き見る。
「君の、気持ちかがい?」
 こくり…
 恥ずかしげにうつむく薫。
「そうだね…」
 はたで見ていても分かる。
 シンジ君…、君はいつもこんな気持ちだったのかい?
 薫は確かに可愛いよ…
 が、はっきり言って、答えに詰まる。
 分かると答えれば、その想いについても答えを出さなければいけないだろう。
 でも僕にできるのかい?
 自分に尋ねる。
 知らなかったよ、好きと答える事が、こんなにためらう事だったなんて…
 カヲルは薫と見つめ合っていた。


「ちょっとお父さん?」
「なんだ?、今忙しいから黙ってなさい!」
 そう言って薫の父、ナカザキ高志は覗き見る事に集中した。
 こっそりと開けたドアのすき間から、中の会話まで漏れ聞こえて来る。
 いえ、そうじゃなくてね?
 あたしにも見せて下さいよっと口を尖らせる妻、良江。
「まったく、あのへらへらした顔はなんだ?、青白い細い体と言い、あれは絶対ホモだ、モーホー!、そうに決まってる!」
 何を根拠に、そんな…
 さり気なくハンカチで汗を拭う母。
「あなた、なにを興奮なさってるんですか?」
 その言葉に、高志は信じられないと言った瞳を向けた。
「なにを?、母さん!、娘が朝から学校をサボって男と密会をしてるんだぞ!、密会を!!」
 密会って…
 そんな大袈裟なものだろうかと小首を傾げる。
「まあ良いじゃありませんか…」
 思い直し、高志を引っ張る良江。
「ちょっと母さん!」
 あくまで抵抗を試みる、が…
「娘の恋路を邪魔するもんじゃありません!、それにあの子、碇さんとこのカヲル君ですよ!」
 碇!?
 その名字に高志はギシッと固まった。
「碇とは…、薫の入院先を世話してくれた、あの碇さんか?」
「ええ…」
 ちなみにゲンドウのことではない、ユイの話しだ。
「そうか…、碇さんの」
 ほけらっとする高志。
「あなた?」
 何故だか目尻が下がっている感じに、良江は口元をひくつかせる。
 あっとまずった!
 冷えた空気に気がつく高志。
「そうか、そうだな、わかった!、碇さんの所のお子さんなら間違いは無いだろう…」
 高志は再びでばがめに戻った。
「うん、ここは断腸の思いで…、くう、立派になったなぁ薫ぅ…」
「何がですか?」
 あう…
 良江は護魔化されたりはしなかった。


「薫…」
「うん?」
 カヲルは緊張感と言うものを味わっていた。
 今までに感じた事のない緊張だ。
 道が無いとはこのことだね…
 状況を打破する方法が見つからない。
 こんなことは初めてか…
 カヲルは進退きわまっていた。
「好きと愛してるは等価値ではないんだよ、僕にとってはね?」
「それは…、誰でもそうじゃないの?」
 ふっと寂しげに笑うカヲル。
「そうだね?、それはとても寂しい事だけど、だからこそ僕には君に答える術を持たない…」
 ズバァン!
 それに反応して、立ち上がったのは高志だった。
「それはうちの娘に不満があると言う事かぁ!」
「ぱ、パパ!?」
 ドアを蹴散らし、思いっきり乱入していた。
「あちゃー…」
 ごめんと娘に謝る良江。
「パパ、なにしてるの!」
「何もくそもあるか!、そりゃ確かにうちの娘は普通よりも発育が40%程局部的に遅れてはいるが…」
 はっ!
ぱぁ〜ぱぁ?
 その恐怖を喚起されてしまうような低い声に、高志は一瞬で我に返った。
「あ、いや、パパはお前のことを心配して…」
「そんなの良いからあっち行っててよ!」
 情けないのか、顔を赤くして…、しかも気にしたのか?、胸を両腕で抱いて隠していた。
「いや、そうはいかないよ…」
 まあまあと父の代わりに落ちつかせるカヲル。
「このままじゃ本当に学校に遅れてしまう…、そうは思いませんか?、お父さん…」
 だがその言葉が間違いだった。
 お父さん…
「嬉しい!、カヲル君!」
 いきなり抱きつく薫。
 どたぁん!
 バランスを崩して二人は椅子ごとひっくり返った。
「な、何をするんだい!?」
「だって『お父さん』って言ってくれた!」
 何かを激しく勘違いしている。
「それは便宜上の…」
「カヲル君!」
 バンッと高志は、半身を起こしたカヲルの両肩を叩いて言った。
「娘をよろしく頼むよ」
 えぐえぐと下唇を上げて鼻水をすすっている、有無を言わせぬ気迫がある。
「あ、ですから、ですね…」
 ゆっくりと首を左右に振る高志。
「君のことは妻から聞いたよ」
 どうして薫とは違うんですか?
 そうは思ったが口には出来ない。
 困ったね、これは…
 カヲルは逃げ場を探した。
「君は碇さんのお宅の子だそうじゃないか」
 まあ、そうとも言えるね?
 曖昧に笑うカヲル。
 本当は少し違うのだが…
 まあ、いずれ僕とシンジ君が一緒になれば…
 バラ色の脳味噌で物事を展開していく。
「碇さんとは今ちょっとした契約の途中でね、わたしとしてもそれを無にしたくはないんだよ…」
 諦めるのは仕事のためで、決して父として認めたわけではないぞ!
 高志は言外にそう物語っていた。
 …自らの想いを封じ込める父親、僕にはわからないよ。
 ぞくり!
 これもまた珍しく、カヲルは背筋に悪寒を感じた。
 高志の目が、完全にイってしまっている。
「薫やってしまいなさい!」
「ぱ、パパ!?」
「これはチャンスなんだよ、薫!」
「で、でも…」
 今度は薫の肩に手を置いた。
「お前のせいじゃないんだ、みんなこんなことをしてまでお金を稼ごうとしているパパが悪いんだよ、どうだろう?」
 『どうだろう』?
 『そうだろう』の間違いじゃないの?
 そうは思ったが、高志の目は「そう言うことにしておけ」とアイコンタクトを求めていた。
 ちょっとだけ考え込む薫だったが、ゆっくりと頷いた。
「…こうしないと、パパの会社が危ないのよね?」
「ああそうだ、そうだとも!」
『ニヤリ』
 無気味な笑みでカヲルを見やる二人。
 なんて親子なんだい、まったく…
 呆れ返るカヲル。
 なんて息のあった親子なのかしら?
 ほろりとする母。
「そうだ薫!、パパ達が応援してるぞ!」
「そうよ薫ちゃん、ママも見てるわ!」
「ありがとう、パパ、ママ!」
 僕の人権は何処にあるんだい?
 かつて無い恐怖をカヲルは味わう。
「さ、カヲル君!」
「考え直すつもりはないのかい!?」
 組み敷かれるカヲル。
「君には薫の良き伴侶となってもらうよ?」
 ジタバタと暴れるカヲルを押さえつける高志。
 いかりや長助の気分だね、これは…
 つまり『だめだこりゃ…』
 仕方が無いね…
 カヲルはふっと自重気味の笑みを浮かべた。
 それもこれも僕の美しさがいけないのか…、残念だね、シンジ君が居てくれれば、きっと嫉妬してくれただろうに。
 ボン!
 カヲルを中心として、突如爆発音と白煙が上がった。
「逃がさないんだから!」
 白煙の中からバラの花びらが舞い飛んで来た。
 突っ込む薫。
「捉まえた!」
 その手はしっかりと、煙の中の誰かを捕まえていたのだが…
「カヲル君…、違う!」
 引っ張り出した人影に歯噛みする。
「これは1/1ダミー人形カヲル君!、じゃあカヲル君は…」
 きょろきょろと見回すが、どこにもカヲル本人の姿はない。
「逃げられちゃった…」
 きゅっとカヲルにそっくりなダミー人形を抱きしめ、とても嬉しそうにするる薫であった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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