「うへへへえ…」
 目元がとろんとしているミズホ。
「さあレイ、決着の時よ!」
「わかってる!」
 三人の足元を、ざあっと砂埃が流れていった。
 荒野の決闘…、とはいかずに、あいにくとお昼休みの運動場だ。
「おーい、そっち行ったぞぉ!」
「キーパー出てくんなよ!」
 現在サッカーが3組、バレーボールが6組ほど牽制し合いながら場所の取り合いをしている。
 その中央で、三人はかなり浮いていた。
 しかし当人達にはあまり関係が無いようだ。
 その手に握り締めているメモは、テストの結果をまとめて出した平均点だ。
 ここで負けたら、シンジはきっと…
 アスカの表情には思い詰めたものがある。
 負けちゃったら、せっかくの週末が…
 レイのデヴュー戦に賭ける意気込みは、普通のアイドルとはちょっと違う。
 シンジ様…
 ミズホの頭の中では、そんなこととはお構いなしに、バラ色の未来予想図が描かれていた。



GenesisQ' Neon Genesis
Evangelion
GenesisQ'47

星くずパラダイス11



「まったく…、どこに行ったんだろ?」
 その頃シンジは、レイを探し疲れて食堂前の自販機に並んでいた。
 カップ入りのコーラを取り、順番を後ろの人に明け渡す。
 誕生日か…、レイとミズホにはどうやってお返しすればいいんだろう?
 不意に笑いが込み上げて来るシンジ。
 アスカには、バカにされた事もあったっけな…
 コーラを口に含む、小さな氷がちょっとだけわずらわしかった。


「誕生日おめでとう、アスカ君」
「はい…」
 何故だか碇家で行われている、アスカ9歳のお誕生日会。
 しかしアスカは落ちつかないようで、不安げにシンジの姿を探している。
 その様子を見て、ニヤリと笑むゲンドウ。
「残念だったな…」
「え!?」
 まさか、シンジ!
 アスカの顔に落胆がよぎる。
「こんな時にアレク達がいないとは」
「あ、はい…」
 なんだ、違うんじゃない…
 アスカはほっと胸をなで下ろした。
 可愛いものだな。
 そのあからさまな変化を楽しんでいるゲンドウ。
 机の上で手を組み、口元を隠してニヤついているその姿は、どう見ても危ないおじさんにしか見えなかった。
「さて、今日はわたしとシンジからのプレゼントがあるのだが…」
 ピョンと髪の結い上げている部分が跳ねた。
「シンジと!?」
「そうだ」
 ニヤリ。
「気に入ってくれると嬉しいのだがな…」
 くっくっくっと、妙な笑いが漏れている。
 ゲンドウはバースデーケーキの向こうでほくそ笑んでいた。
「入りたまえ」
 半ば自棄気味にスパァンッと開く扉。
 なに、これ!?
 アスカは両目を剥いて…、呆れ返った。
「これは?」
 ゆっくりと、ぎこちなくゲンドウに確認するアスカ。
「R・田中一郎君だ」
「やは」
 ぎこちなく手をあげる「段ボール箱で組み上げたようなロボット」Rくん。
 いえ、そうじゃなくて…
 なんのつもりなの?、と聞きたかったのだが、アスカはゲンドウの悪ふざけに付き合った。
「ロボットなんですか?」
「そうだ、今度我が社で開発した万能人型無能ロボットRくん、その試作品だ」
「わぁ、凄いですねぇって…、言うと思ったんですか!
 アスカはケーキを避けるようにゲンドウにツバを吹き掛けた。
 父さん、やっぱり呆れてるじゃないか…
 どう見てもちゃちい特撮戦隊物の合体ロボットみたいな形で、しかも段ボール箱を繋ぎ合わせて銀色に塗っているだけでは、ごまかしようも無いだろう。
「当ったり前じゃない!、いっくら科学万能の時代だって言っても、まだロボットが実用化されるはずないでしょうが!」
 しかしアスカの見識は大きく間違っていた。
「あまい、甘いなアスカ君」
 ニヤリと余裕を崩さないゲンドウ。
「…しょせん一般に公開されている科学力など、氷山の一角にすぎないのだよ」
 はっとするアスカ。
「それって…」
「大国は20世紀末に、既にオーバーテクノロジーを手に入れていたのだよ」
 ゲンドウの足元、テーブルの下には、アスカとシンジの愛読書、「宇宙人との密約!」なるトンデモ本が転がっていた。
「それって、外宇宙知的生命体からですか!?」
「我々はグレイと呼んでいる」
 ニヤリ。
 ゲンドウの目元が笑いにひくつく。
「これは彼らの科学力の一部を使用した、その初号機なのだよ」
「なるほど!、じゃあやっぱりモニターしなくちゃいけませんね!」
 あ、アスカ…
 段ボール箱ロボットの中であんぐりとしているシンジ。
「じゃあこれあたしの下僕だから、何やらせても良いんですよね?」
「もちろんだ」
 ふふふふふふ…
 二人の口から、暗い笑いが漏れ出して来る。
 アスカ…
 シンジはそのアスカの瞳に確信した。
 気がついてる!
 当たり前だ。
「さ、行くわよバカロボット!」
「ど、何処に行くつもりなんだよ!」
 地を出して後ずさるシンジ。
「なによ!?、ロボットの癖にたてつくわけ?」
「何言ってんだよ、もう気がついてるんだろ!?」
「なにを?」
「R君…」
 ゲンドウが静かに声を掛ける。
「お前には失望した」
「ほらほら言われてるわよ!、悔しくないの?」
「ないよ!、もうやめようよ、父さんの口車に乗った僕がバカだったんだ!」
 ほほぉ…
 ちょっとむかつくゲンドウ。
「わたしがどのような口を開いたのだ?」
 うぐ!
 シンジは言い詰まってしまった。
 言える分けないよ!
 アスカが…、楽しんでくれるって言われただなんてさ…
 固まったまんま、微動だにしなくなるシンジ。
「じゃあ、話は終わったかしら?」
 振り返ると、アスカがにんまりと笑っていた。
「せっかく貰ったおもちゃだもし、大事にしてあげるわよ?」
 にやにやにや…
 実に嫌な笑い方をしている。
 絶対気がついてるよ…
 シンジはその笑みに確信を持った。
「とにかくあんたはあたしがケーキを食べ終えるまで待ってなさいよ!」
「ええ!?、そんな酷いよ、僕だって食べたいのに!」
 おもわず頭を取ろうとするRくん。
「これはあたしのケーキなの!、あんたロボットなんでしょ?、ロボットが物を食べられる分けないじゃない!」
 その動きをアスカは両手で押さえた。
「そんなのってないよ!」
 ジタバタともがくシンジ。
「あーもう、うるっさい!、あんたの分は取っておいてあげるから、とにかく今日はそのままでいなさいよ!」
 アスカはつい口を滑らせてしまった。
「ホントに取っておいてよね…って!、やっぱり気がついてたんじゃないか!」
 ぎくりとするアスカ。
「ふぅん、なんのことかしら?」
 うわ〜ん!
 そしてシンジの泣き声が響き渡った。
 必死に笑いを堪えているゲンドウの背後で、さすがにユイが怒っていたことは言うまでもない。


 ひゅ〜…
 シンジは黄昏てしまっていた。
「よりにもよって、一番やなこと思い出すなんて…」
 るるーっと泣きそうになっている。
「あのあと結局、いくら僕だって言っても聞いてくれなくて、誕生日が過ぎるまで付き合わされたんだよなぁ…」
 と言っても、ヒーローごっこに付き合わされただけなのだが…
「そう言えば、アスカにあれのお礼言わなくちゃいけないんだけど…」
 アスカがくれたプレゼントは、チェロ用の弦だった。
 あんたにはギターよりこっちの方が似合ってるわよ。
 アスカに確認すると、そう答えてくれた。
「そんなに似合ってないのかなぁ?」
 最近うまくなり始めていた、それだけに反発心もある。
 やれてるじゃないか、僕にだってやれるんだ。
「あれ?」
 顔を上げると、アスカが勝ち誇ったように胸を張っていた。
「どうしたの?」
「ちょっと付き合って」
 その顔は、まさに自信に溢れていた。






「なんだよレイ!、どうしてそんな賭けをしたのさ!」
 シンジが怒ること自体が珍しいと思う。
 だからこそ教室内は静まり返り、レイは首をすくめる以上のリアクションが取れないでいた。
「土曜と日曜って言ったら一番大事な時じゃないか!、それなのにどうして…」
 語尾が怒りと悲しさで消えていく。
「それは、その…」
 元々はそんな番組に出るはずじゃなかったし、賭けだって土日にずれる予定じゃなかったんだもん…
 口答えにしかならない、それがレイに余計な恐怖心を呼び起こさせていた。
 口ごもるばかりで、言葉にできない。
 浩一、助けてあげないの?
 席で傍観している浩一に耳打ちする。
 これは当人同士の問題だからね、口出しできるほど勇気はないよ。
 ふうんっと、わかったようなわかってないような返事をするマナ。
「まあまあ、良いじゃないか、シンジ君」
「カヲル君…」
 ほっと息をつくレイ。
 シンジはその様子を目の端に捉えてしまう。
「約束は大事だからね、それは君にとってもそうじゃないのかい?」
「でも…」
 ぼくは物扱いなの?
 勝手に賞品にされて、さらにはその約束まで強要さてしまう。
 せっかく頑張るつもりだったのに…
 シンジの気持ちはないがしろにされてしまっていた。
 そんなのって、ないよな…
 その不満は顔に出ている。
 カヲルはしょうがないなとばかりに苦笑した。
「レイの事なら心配いらないよ…」
「カヲル君?」
 微笑むカヲル。
「プレゼントを用意できなかったからね、これは罪ほろぼしだよ」
「え?」
 レイもカヲルが何を言い出すのかと見つめた。
「僕がレイの相手をするよ、それでかまわないだろ?」
「いいの?」
 えーーー!?
 思いっきり嫌そうな顔を作っているレイ。
「それぐらいの時間はあるさ、レイも、今回は我慢するんだね?」
 レイはあからさまに頬を膨らませて不満を二人に見せつけていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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