「アスカって、僕のこと嫌いなのかなって思ったんだ、ほんとに…」
 急に沈んだ声に、アスカは逆に張り上げた。
「そんなわけないじゃない!」
 はっとするアスカと、驚くシンジ。
「わ、わかってるよぉ…」
「そう…」
 お互い赤くなってうつむいてしまう。
「あたしは…」
「え?」
「あたしこそ、嫌われちゃったのかなって思って…」
「ええ!?」
 向けられた背中が可愛く見える。
「どうしてさ!?」
「だって…、あの後、ちっとも遊んでくれなくなったじゃない?」
 それは単に、シンジが男の子のグループに入って遊び回っていただけのこと。
 シンジ…
 アスカは寂しいのを堪えていた。
 その胸には、『お猿のシンジ』が抱きしめられていた。
 代えられるわけないじゃない…
 一番寂しかった時に…、一番側に居てくれたお友達。
 お猿のシンジ。
 それだけじゃないけどね…
 シンジの名前と名札が重要。
「あ、そうだ!」
 シンジは良いことでも思いついたのか?、アスカに向かって微笑んだ。
「あの名札、新しくしようよ?」
 なんでこう無神経なのよ!
 アスカはとうとう我慢できなくなっていた。






「何をすねているんだい?」
「カヲル…」
 レイはいじけた目をカヲルに向けた。
 今だにスタジオ内の隅っこですねている。
「だってぇ…」
 ぶちぶちと不平を漏らし、レイはのの字を書いていた。
「せっかく土日はシンちゃんとって思ってたのに、賭けには負けちゃうし、シンちゃんには怒られちゃうし、ここに居るのはカヲルだし…」
 最後の一言が微妙に引っ掛かる。
「嫌なのかい?」
「そうじゃないけど…」
 その丸まっている背中に苦笑する。
「プレッシャーと言うものは感じていないのかい?」
「え?」
 顔を上げるレイ。
「これから本番なんだろう?、なのにシンジ君のことばかり気にしている…」
 レイは「ああ…」と思い出した。
「そういや、そうなんだっけ?」
 レイはすっかり、これから歌うということについてを忘れていた。






 パン!
 アスカはシンジの頬を叩いてしまった。
 ぐらっとよろけるシンジを、周りの人達も驚いた表情で見つめている。
 ぐっと、シンジは倒れる寸前で踏ん張った。
「なにするんだよ!」
 そして起き上がる反動を怒りに変える。
「あんたが悪いんでしょ!」
 ええ!?、僕なの!
 アスカの髪が烈火に燃えてる、シンジはなんとなく勢い負けした。
 好きな人のもの、捨てられるわけないでしょうが!
 と口にできる程の勇気はない。
 言えるわけないわよ!
 好きな人。
 その一言がとっても恥ずかしかったからだ。
「ぼ、僕のどこがいけないのさ?」
 しかし当然、口にしない想いは通じない。
「鈍感なところよ!」
「鈍感?」
「そうよ!」
 ぴっとそっぽを向くアスカ。
「…鈍感、なのかな?」
 シンジはひりひりする頬をさすった。
 鈍感か…
 違うな。
 シンジはレイの不満そうな顔を思い出した。
「違うよ…」
 シンジは口にした。
「酷い奴なんだ、僕って…」
 ちらっと横目を向けるアスカ。
 シンジはぎゅっと唇を噛み締めていた。
 シンジ?
 おかしな雰囲気を感じ取る。
「あんた、なに言ってんのよ?」
「レイの事だってさ…」
 ドキッとするアスカ。
「ホントは、僕の自己満足で…」
 レイのためになんて嘘だ。
「頑張れる事なら、何でも良かったんだと思う…」
 それがたまたまレイであっただけのこと。
「シンジ?」
 アスカは心配げに呼び掛けた。
「レイが喜んでくれるってわかってたんだ、だから良いと思ったんだ、でもこうして離れて、残念がってくれるって思えなかったんだ、きっと…」
 歯を食いしばる。
 顔を上げる。
「アスカに、賭けだからって、引き渡されたから…」
 僕は物扱いなの?
 もう一度、同じ暗い考えが蘇って来る。
「シンジ…」
「レイにとって僕は必要なのかもしれない、でも僕にできる事なんてほとんど無いんだよ…」
 悔しくて歯を食いしばった。
「それでも良いと思ってた、レイが必要だって言ってくれるなら、レイが頑張れるならいいって思ってたんだ…、でも」
 泣きそうな顔。
「でもレイはちゃんと…、うまくやれてる」
 悔し涙が溢れ出しそうになっていた。
「僕は居るだけで良くて、僕が頑張っても意味なんて無かったのかな?」
 アスカは優しくシンジを抱きしめた。
「…そんなことはないわよ」
「でも僕は役たたずだ…」
 シンジはやけになって吐き捨てた。
「黙って見ていればいいの?、ただ笑ってればいいの?、ねえ…」
 教えてよ。
 シンジの瞳はそう訴えていた。
 あたしになんて言ってもらいたいわけ?
 アスカも少し、戸惑っていた。






「で、レイは何が不満なんだい?」
 二人は移動用のバスに乗っていた。
 向かう先は、コンサート会場に指定された第三新東京ドームだ。
「シンちゃんが居ない事」
 レイは隣に座るカヲルに答えた。
「それは歌う事よりも大切なのかい?」
 もちろん、当たり前じゃないっと、レイははっきりと頷いた。
「聞いてくれる人が居ないのに、歌うの?」
 カヲルは肩をすくめて答える。
「いるさ」
「誰?」
 顎で、カヲルは車窓の外を指し示した。
「みんなとは言わないよ、でも君の出番を待ち望んでいる人達は居る、違うのかい?」
 そこには会場へ向かう人の列が動いていた。
 ぷるぷると首を振るレイ。
「でもあたしの一番聞いてもらいたい人はここにはいないもの…」
 カヲルは、その言葉にこそバカにしたような笑みを浮かべた。
「レイは、シンジ君を信じてはいないんだね?」
「怒るわよ?」
 レイの瞳が冷たさを増す。
「シンジ君は来るさ、必ずね…」
 レイは不思議そうに覗き込んだ。
「どうして言い切れちゃうの?」
「シンジ君だからね」
 カヲルはくすっと、悩んでいるシンジの姿を思い浮かべる。
「気持ち悪い…」
「シンジ君は心配しているさ、そして様子を見に来るよ、必ずね?」
「こなかったら?」
 それはそれで恐かった。
「嫌だもん、変に期待してがっかりするの…」
 レイはしょぼんとしょぼくれる。
「ならテレビ放送はどうなんだい?」
 え?っと尋ね返してしまうレイ。
「シンジ君はきっと君の出番をチェックするだろうね?」
 あっと、さもいま気がついたように驚いた。
「その時レイの様子がおかしかったら?」
 口ごもるレイ。
「再放送も決定している、シンジ君と一緒に見られるのかい?、その自分を…」
 レイには答えられない。
 ううん、きっと見れない。
 どうしたのさ、これ…
 シンジの悲しげに満ちた瞳が思い浮かぶ。
「シンジ君は落ち込むだろうね?、僕のせいだと…」
「脅してるの?」
「まさか」
 カヲルは肩をすくめた。
「僕はシンジ君の悲しむ顔を見たくない、それだけだよ…」
『レイ?』
 カヲルは『声』で語りかけた。
『なに?』
『君はどうなんだい?』
 決まってるじゃない…
 レイは再びうつむいてしまう。
「なら今レイのやるべき事は、何があるんだい?」
 すっくと立ち上がるレイ。
「わかったのかい?」
 頷くレイ、と同時に、バスはドーム裏口に到着していた。







[BACK][TOP][NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q