「アスカって、僕のこと嫌いなのかなって思ったんだ、ほんとに…」
急に沈んだ声に、アスカは逆に張り上げた。
「そんなわけないじゃない!」
はっとするアスカと、驚くシンジ。
「わ、わかってるよぉ…」
「そう…」
お互い赤くなってうつむいてしまう。
「あたしは…」
「え?」
「あたしこそ、嫌われちゃったのかなって思って…」
「ええ!?」
向けられた背中が可愛く見える。
「どうしてさ!?」
「だって…、あの後、ちっとも遊んでくれなくなったじゃない?」
それは単に、シンジが男の子のグループに入って遊び回っていただけのこと。
シンジ…
アスカは寂しいのを堪えていた。
その胸には、『お猿のシンジ』が抱きしめられていた。
代えられるわけないじゃない…
一番寂しかった時に…、一番側に居てくれたお友達。
お猿のシンジ。
それだけじゃないけどね…
シンジの名前と名札が重要。
「あ、そうだ!」
シンジは良いことでも思いついたのか?、アスカに向かって微笑んだ。
「あの名札、新しくしようよ?」
なんでこう無神経なのよ!
アスカはとうとう我慢できなくなっていた。
●
「何をすねているんだい?」
「カヲル…」
レイはいじけた目をカヲルに向けた。
今だにスタジオ内の隅っこですねている。
「だってぇ…」
ぶちぶちと不平を漏らし、レイはのの字を書いていた。
「せっかく土日はシンちゃんとって思ってたのに、賭けには負けちゃうし、シンちゃんには怒られちゃうし、ここに居るのはカヲルだし…」
最後の一言が微妙に引っ掛かる。
「嫌なのかい?」
「そうじゃないけど…」
その丸まっている背中に苦笑する。
「プレッシャーと言うものは感じていないのかい?」
「え?」
顔を上げるレイ。
「これから本番なんだろう?、なのにシンジ君のことばかり気にしている…」
レイは「ああ…」と思い出した。
「そういや、そうなんだっけ?」
レイはすっかり、これから歌うということについてを忘れていた。
●
パン!
アスカはシンジの頬を叩いてしまった。
ぐらっとよろけるシンジを、周りの人達も驚いた表情で見つめている。
ぐっと、シンジは倒れる寸前で踏ん張った。
「なにするんだよ!」
そして起き上がる反動を怒りに変える。
「あんたが悪いんでしょ!」
ええ!?、僕なの!
アスカの髪が烈火に燃えてる、シンジはなんとなく勢い負けした。
好きな人のもの、捨てられるわけないでしょうが!
と口にできる程の勇気はない。
言えるわけないわよ!
好きな人。
その一言がとっても恥ずかしかったからだ。
「ぼ、僕のどこがいけないのさ?」
しかし当然、口にしない想いは通じない。
「鈍感なところよ!」
「鈍感?」
「そうよ!」
ぴっとそっぽを向くアスカ。
「…鈍感、なのかな?」
シンジはひりひりする頬をさすった。
鈍感か…
違うな。
シンジはレイの不満そうな顔を思い出した。
「違うよ…」
シンジは口にした。
「酷い奴なんだ、僕って…」
ちらっと横目を向けるアスカ。
シンジはぎゅっと唇を噛み締めていた。
シンジ?
おかしな雰囲気を感じ取る。
「あんた、なに言ってんのよ?」
「レイの事だってさ…」
ドキッとするアスカ。
「ホントは、僕の自己満足で…」
レイのためになんて嘘だ。
「頑張れる事なら、何でも良かったんだと思う…」
それがたまたまレイであっただけのこと。
「シンジ?」
アスカは心配げに呼び掛けた。
「レイが喜んでくれるってわかってたんだ、だから良いと思ったんだ、でもこうして離れて、残念がってくれるって思えなかったんだ、きっと…」
歯を食いしばる。
顔を上げる。
「アスカに、賭けだからって、引き渡されたから…」
僕は物扱いなの?
もう一度、同じ暗い考えが蘇って来る。
「シンジ…」
「レイにとって僕は必要なのかもしれない、でも僕にできる事なんてほとんど無いんだよ…」
悔しくて歯を食いしばった。
「それでも良いと思ってた、レイが必要だって言ってくれるなら、レイが頑張れるならいいって思ってたんだ…、でも」
泣きそうな顔。
「でもレイはちゃんと…、うまくやれてる」
悔し涙が溢れ出しそうになっていた。
「僕は居るだけで良くて、僕が頑張っても意味なんて無かったのかな?」
アスカは優しくシンジを抱きしめた。
「…そんなことはないわよ」
「でも僕は役たたずだ…」
シンジはやけになって吐き捨てた。
「黙って見ていればいいの?、ただ笑ってればいいの?、ねえ…」
教えてよ。
シンジの瞳はそう訴えていた。
あたしになんて言ってもらいたいわけ?
アスカも少し、戸惑っていた。
●
「で、レイは何が不満なんだい?」
二人は移動用のバスに乗っていた。
向かう先は、コンサート会場に指定された第三新東京ドームだ。
「シンちゃんが居ない事」
レイは隣に座るカヲルに答えた。
「それは歌う事よりも大切なのかい?」
もちろん、当たり前じゃないっと、レイははっきりと頷いた。
「聞いてくれる人が居ないのに、歌うの?」
カヲルは肩をすくめて答える。
「いるさ」
「誰?」
顎で、カヲルは車窓の外を指し示した。
「みんなとは言わないよ、でも君の出番を待ち望んでいる人達は居る、違うのかい?」
そこには会場へ向かう人の列が動いていた。
ぷるぷると首を振るレイ。
「でもあたしの一番聞いてもらいたい人はここにはいないもの…」
カヲルは、その言葉にこそバカにしたような笑みを浮かべた。
「レイは、シンジ君を信じてはいないんだね?」
「怒るわよ?」
レイの瞳が冷たさを増す。
「シンジ君は来るさ、必ずね…」
レイは不思議そうに覗き込んだ。
「どうして言い切れちゃうの?」
「シンジ君だからね」
カヲルはくすっと、悩んでいるシンジの姿を思い浮かべる。
「気持ち悪い…」
「シンジ君は心配しているさ、そして様子を見に来るよ、必ずね?」
「こなかったら?」
それはそれで恐かった。
「嫌だもん、変に期待してがっかりするの…」
レイはしょぼんとしょぼくれる。
「ならテレビ放送はどうなんだい?」
え?っと尋ね返してしまうレイ。
「シンジ君はきっと君の出番をチェックするだろうね?」
あっと、さもいま気がついたように驚いた。
「その時レイの様子がおかしかったら?」
口ごもるレイ。
「再放送も決定している、シンジ君と一緒に見られるのかい?、その自分を…」
レイには答えられない。
ううん、きっと見れない。
どうしたのさ、これ…
シンジの悲しげに満ちた瞳が思い浮かぶ。
「シンジ君は落ち込むだろうね?、僕のせいだと…」
「脅してるの?」
「まさか」
カヲルは肩をすくめた。
「僕はシンジ君の悲しむ顔を見たくない、それだけだよ…」
『レイ?』
カヲルは『声』で語りかけた。
『なに?』
『君はどうなんだい?』
決まってるじゃない…
レイは再びうつむいてしまう。
「なら今レイのやるべき事は、何があるんだい?」
すっくと立ち上がるレイ。
「わかったのかい?」
頷くレイ、と同時に、バスはドーム裏口に到着していた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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