「でも…、羨ましいわね?」
 アスカは歩いている途中で見つけたベンチに腰かけた。
「なにがさ?」
 はいっと、アスカは真横にある自販機で買ったジュースを手渡した。
 シンジはそれを受け取りながらも、まだちゃんとアスカを見れないでいる。
 アスカの隣に座り、うなだれる。
「…だって、レイのために何かしようって決めたんじゃない?」
 アスカはシンジの様子を覗き見た。
「うん…」
 するとシンジも、同じようにアスカの顔を覗き見ていた。
「羨ましいわよ、ほんとにね?」
 アスカはねたましいと、視線を外そうとしてくれない。
 シンジは思い返した。
 そういえば…
 あまりアスカと、こうすることは無くなっていた。
 ぽてんと、アスカの頭が肩に乗っかった。
「アスカ?」
「あたしだってね?」
 その続きは押し黙る。
 甘えるような仕草。
 似合わないよ、アスカ…
 考えながら、笑ってしまった。
 それは僕も同じか…
 シンジは真正面にある、アライグマの檻を見た。
 他には、どんな動物が居るんだろう?
 横へ横へと、何気なくアスカの方へと顔を向ける。
 アスカ?
 潤んだ瞳が見上げていた。
 ドキッとするシンジ。
 えっと…
 シンジは直感的に、どうすればいいかを感じとっていた。
 ヤバいよね?
 アスカの頭のその向こうの、茂みの奥の物陰に、ぴょこんと黒い髪の毛のようなアンテナが立っていた。
 その根元に見える黄色いリボンを、シンジは目ざとく見付けていた。






 うう、何ですか、何ですかぁこれはぁ!?
 ミズホは苦悩していた。
 まあ賭けは賭けとしてもですぅ、邪魔してはいけないと言うお話しではありませんでしたからぁ…
 約束については、かなり利己的な拡大解釈を試みている。
 先程から盗み見ていると…
 あう!、シンジ様が叩かれました!
 なに微笑んでらっしゃるんですかぁ!?
 ああ!、アスカさん、シンジ様をいじめちゃダメですぅ!
 あうう、そんな寄り添って…!?
 あうあうあうっと慌てているミズホを、子供達が笑いながら指差している。
「あのおねぇちゃんおもしろーい」
 今のミズホには、そんな声も聞こえない。
 だってシンジとアスカがキスしそうになっていたから。
 あーうー!
 その時、シンジの瞳がちらっと動いた。
 はう!?
 間違い無いと確信する。
 シンジ様!
 シンジが助けを求めている。
 まあその様な感じに見えなくも無かった。
 しかしそれはミズホの中では真実であった。
 だからミズホは行動に移した。
「ごっどあろー!」
 と言いつつ、パンダの檻から盗んで来た竹を槍代わりに投擲する当たり間違っている。
「今お助けしますぅ、あう!」
 しかしその先手を、シンジの態度に気がついたアスカによって封じられていた。


 シンジぃ…
 頭の中がその言葉でいっぱいになる。
 シンジの緊張する目が、アスカの視線と…重ならなかった。
 どうして?
 不安になる、だがすぐに別の何かを見ていると気がついた。
 シンジ?
 良く見かける、強ばった表情。
 誰か居るの?、その先に…
 何となく見なくても分かるような気はする。
 それでもアスカは、ため息をつくようにシンジから離れ…
 そして振り向きざまに、飲みかけていたジュースの缶を振りかぶっていた。






「無茶苦茶痛かったですぅ…」
 拳でおでこを押さえ、ううっとミズホは涙目で訴えた。
「あんたバカぁ!?、こんなもん投げ付けられたら、大怪我どころじゃすまなかったわよ!」
 怒って槍を地面に突き刺す。
 ううっと唸るしかないミズホ。
 が、これにはミズホにも言い分があった。
「だってぇ…、わたしが体調の不良を訴えているというのに、お二人ともお出かけになられてぇ…」
 涙ぐむ。
「…元気じゃない」
 しかしアスカの視線は冷たかった。
 仮病だというのはバレバレだった。
 ぐし。
 ミズホはさらに涙ぐんだ。
 ついでに「ブシ!」っと手鼻もかんだ。
「ああもう!」
 アスカはミズホの手を引っ張った。
「ほえ?」
「洗うのよ!、汚いでしょうが!!」
 あ…
 シンジはその勢いに、いきなり取り残されていた。






「シンジは?」
「001は002、及び003と共に、新上野動物園にて所在を確認」
 携帯電話から状況が報告される。
「現在作戦は休止状態にあります」
 ゲンドウはその報告を聞くと、感情を込めずに命令を伝えた。
「作戦は現段階をもってシナリオZ(ツェット)へと移行する、以後の判断は君に任せる」
「了解しました」
 電話の相手の声には聞き覚えがあった、加持だ。
「そううまくいくものかね?」
 通話が切られるのを待って口を挟む。
 パチン…
 二人しか居ない、薄暗くてただ広いだけの会議室に、冬月の打つ将棋の駒の音が良く反響した。
「餌には食いつく、後はシンジ次第だ…」
「信じているのかね?」
 パチン…
 冬月は手元の本から視線を動かさない。
「わたしの息子だからな」
 にやりと嫌な笑いを浮かべる。
 その笑みを見ている限りは、どう考えてもただからかおうと思っているようにしか見えなかった。






「うう〜…」
 水飲み場で、バシャバシャと手を洗わされているミズホ。
「ほら!、もっとしっかりと洗いなさいよ!」
 アスカはミズホの手首をつかんで動きを合わせる。
「…だって、アスカさん達が」
「それはもういいから!」
 はぁ…
 叫んだ直後にため息をつく。
 これなのよねぇ…
 シンジの言うことも分かるのだ。
 無理だよ、みんなだっているんだからさ…
「どうかなさいましたかぁ?」
「なんでもないわよ!」
 叫んでから、アスカはしまったと少し焦った。
 ふえ…
 ミズホの顔が泣きそうに歪む。
「ああもう!、泣かないの!!」
「でもでもぉ…」
「泣いたらデートに混ぜてあげないわよ!?」
「ふえ!?」
 ミズホの表情が一変した。
「ほんとですかぁ!?」
 アスカは「はああああ…」っと大きくため息をついた。
「仕方ないでしょうが…」
「やりましたぁ!」
 きゃいきゃいとはしゃいでジャンプする。
「シンジ様とデートですぅ!」
 その喜び様を見ていると、独占できないわよねとも思ってしまう…
 でもそれじゃいけないのよねぇ…
 シンジの言葉がリフレイン。
 みんなだって…
 はっとアスカは恐い想像をしてしまった。
 二十歳になっても三十路になってもこのまんま…
 おじいさんになってもおばあさんになっても…
 ありうるだけに笑えないわね…
 純粋に喜んでいる、ミズホのようには明るくなれない。
 お手軽よねぇ…、今日が良ければいいんだから…
 そう言えばっと、考えつく。
 最近のあいつ、何してるのかしら?
 当然シンジのことである。
 監視しているわけでも無い、クラスが違うのだから、当然目の行き届かない部分もある。
 帰りの時間も合わないもんね…
 知りたいとは思うのだが、報告させるほどのことでも無い。
「アスカさん、どうなさったんですかぁ?」
 はっと我に返ると、ミズホがおかしそうに覗き込んでいた。
「な、なんでもないわよ」
「そうですかぁ?、…なら早くシンジ様の所へ行きましょう!」
 せっかくのデートが…
 わりきれない部分が悲しくなる。
「シンジ様とれっつらごーですぅ!」
 そ叫ぶミズホの能天気さが、アスカの心を更に暗くしてしまっていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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