「あんた、あたしのことバカにしてない?」
あすかは目を細めた。
「そんなことは…」
「うそ!、だって…」
あたしを誉めてくれた人なんて居なかったもん…
うつむく、寂しそうな影が見える。
シンジはなんとなく手を伸ばした。
ポン…
「!?」
あすかは驚いた、シンジが頭を撫でてくれたからだ。
「頑張ったんだね?」
「バカにしないで!」
あすかはシンジの頬を叩こうとして、その振り上げた手を止めてしまった。
「尊敬してるんだよ…」
震える、手を動かせない。
「僕なんて、全然頑張りが足りなくてさ…」
何をすねてたんだろう、僕…
シンジはとても情けない顔をしていた。
だからあすかは、振り上げた手を自分でつかんでゆっくり降ろした。
本当にやりたいのなら、この子みたいにあがけば良かったのに…
結局はアスカ達の勢いに流されてしまっていた。
自分の意思で、自分で決めれば良かったんじゃないか…
シンジはあすかを見つめた。
「逃げちゃ、ダメだ…」
シンジは自分にも口にした。
「逃げても何も変わらないんだ…」
頑張って、変わろうとした、したつもりになっていた。
「でも、わかってなかったんだ…」
「なにが?」
シンジは言葉をまとめた。
「なんのために頑張っているのかって事…」
ねえっと、シンジはかがむように目の高さを合わせた。
「これから歌うんでしょ?」
あすかはぷいっとそっぽを向いた。
「頑張ってよ…」
シンジはかまわずに続けた。
「君が頑張ってくれたら、僕も頑張れるような気がするんだ…」
あすかは照れているだけだ、頬が赤い。
「あんたが何を頑張るってののよ?」
シンジは苦笑してしまった。
「そうだね?」
それはまだわからない、しかしシンジは「でも」、と続けた。
「あすかちゃんを見て、元気づけられる人も居るんだって事、忘れないで」
ぶんぶんと首を振るあすか。
「でもできないの!」
あすかはシンジにしがみついた。
「どうして?」
まるで子供のようだった。
「だってさっき嫌われたもの!」
あっとアスカが声を張り上げた。
「もうダメ!、きっと干されちゃう、あたし…」
アスカはシンジの肩をぐいっと引いた。
「それはあたしが何とかして上げるわ」
「アスカ?」
「ちょっとね…」
タタキにウィンクするアスカ。
タタキも分かっていると頷いた。
「だからあんたは、この子についていてあげて」
「え?」
アスカはシンジに耳打ちした。
「失った自信は、取り戻させてあげるのよ?」
誰かが支えてあげてね?
次にアスカは、ミズホに向かって指令を出した。
●
「シンちゃん!」
セットの裏で出番待ちしていたレイは、シンジにギュッと抱きついた。
なに?、なんなの?
あすかはそれを見て目を丸くする。
こいつ!
ごろごろと喉を鳴らしている黒いドレスの女の子は、確かにさっき関った「嫌な女」だった。
それがこの冴えない男の子に抱きつき、甘えている。
「来てくれると思ってた!」
「それはいいんだけど…、レイ?」
ん?っと首を傾げるレイ。
「そんな格好で歌うの?」
レイは離れて、自分の格好を確かめた。
「…似合わない、かな?」
おずおずと確認してくる目にドキッとする。
「そんなこと、ない、けど…」
言い辛くなってしまった。
「なに?、ちゃんと言って?」
レイはちょっと残念そうに言葉を待った。
「あ、ち、違うんだよ!、だって練習してた曲には合わないでしょ?」
そうかなぁ?と、まだこだわるレイ。
「でもちょっと失敗したのは間違いないかな?」
「え?、どうしてさ…」
「だってシンちゃん、『似合う』って言ってくれなかったもん」
そんなことないよと言いつくろいかけたシンジの口を、レイは人差し指で軽く押さえた。
「シンちゃんは本当にそう思ってくれてたら顔に出るからわかるの」
「そう…、かな?」
「うん、あ、ちょっと待っててね?」
話しながらもレイは、シンジの服装をチェックしていた。
う〜ん、なんとかテレビに出られるかな?、カヲルの衣装はあたしがハイヒールの痕つけちゃったし…
蹴倒した、ということだろう。
とととっと走っていくレイを見送ってから、口をつぐんでいたあすかが話し出した。
「…あんたも出るの?」
「…みたいだね?」
キッと、あすかはシンジを睨んだ。
「あたしに言ったのって、同情?」
「違うよ!」
思ったより大きな声を出してしまったので、スタッフ達から睨まれてしまった。
首をすくめて頭を下げる。
「あんたバカ?」
「なんだよ…」
「静かにしなさいっての」
「だって聞こえづらいだろ?」
お互い交互に、耳にぼそぼそと話しかける。
「ちょっと、息吹き掛けないでよ!」
「そんなことしてないだろ?」
「あんたバカァ?、ちょっとこのあたしと話せたからって、なに自惚れてんのよ?」
シンジはあすかの足が震えているのに気がついていた。
強がりなんだな…
「出番、まだなの?」
「もうすぐよ…」
シンジはどうしようか悩んでいた。
おそらく今の彼女に必要なものは、強気な自信だ。
僕はそれを与えられる、でも…
シンジはポケットから、禁断の薬を取り出していた。
●
「おじ様…」
タタキと一緒に入室するアスカ。
違う、あたしの知ってるおじ様じゃない…
アスカはごくりと緊張に生唾を飲み下した。
振り返り、一瞥するゲンドウ。
「…何故ここに居る?」
アスカは負けない!とばかりに大きく叫んだ。
「あすかって子の事です!」
「彼女か…」
わずかに動いた眉が、ゲンドウの動揺を現わしていた。
「お願いです!、あの子にチャンスを上げて!」
これも運命か…
ニヤリと隠れてほくそ笑む。
お互い惹かれ合ったか、運命とはしばしば仕組まれたように動くものだな…
仕組まずとも、出会ってくれていたことはありがたかった。
これで計画は一段と進むな。
にやり。
その頃ミズホは、別の場所で動いていた。
「え〜ん、レイさんがいませぇん!」
ミズホは廊下で泣いていた。
間抜けな事に、レイとは入れ違いになってしまっていた。
「何を泣いているんだい?」
そんなミズホに優しく声がかけられた。
迷子がそうするように、パッと明るい表情を浮かべるミズホ。
「…カヲルさんですかぁ」
しかし一瞬後には激しく落胆の色を浮かべる。
「御挨拶だね?」
カヲルはちょっとだけ意地悪をして、ミズホを置いていこうとした。
「ああ!、ちょっと待って下さぁい!」
慌てて後を追いかけるミズホ。
「…カヲルさん、いじわるですぅ」
ミズホは逃げられないように、カヲルのシャツの背中をつまんだ。
「そう言う時は素直になるのが一番だよ」
その子供っぽさに苦笑するカヲル。
ミズホは恥ずかしさに、上目づかいで赤くなった。
「うう…、ごめんなさい〜」
しょぼんとする。
「いいよ、僕も言い過ぎたからね?」
カヲルは笑って許してあげた。
「それよりどうしたんだい?、こんな所で…」
「レイさんを呼びに来たんですぅ」
おかしいね?っと、カヲルは首を傾げた。
「どうしてですかぁ?」
「レイならもう向かったはずだよ?」
「ええーーー!」
無駄足ですかぁ?っと、ミズホはうなだれた。
「こんなことなら、シンジ様のお側に居れば良かったですぅ…」
くすくすとその様子を笑ってしまう。
「…うう、酷いですぅ」
「ごめんごめん、じゃあ、一緒に来ないかい?」
ミズホは180度反転した。
「嫌ですぅ、シンジ様の所に戻りますぅ」
「そうか、残念だね?」
呟くカヲル。
「シンジ君が見える、特等席へ行くつもりだったのに…」
ミズホはがしっとカヲルの肩にしがみつき、目をうるうるとさせていた。
[BACK][TOP][NEXT]
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元Genesis Qへ>Genesis Q