「というのが大体の話しの流れなわけでぇ…」
 イエローにホワイトのラインの入ったスポーツビキニ。
「でへ…」
 照り付けるような、しかし夏直前の涼しさも含んでいるような太陽の下で、和子はカヲルの想像通りに顔を緩めていた。
「渚先輩の腕、渚先輩の胸、カヲル先輩の足」
 海に向かって腕を振り上げる。
「これこそ青春って感じ!」
「それで、その一皿のオムライスって言うのはなんなんだい?」
 カヲルはビーチパラソルの下、シートの上でくつろいでいた。
「って、秘密のオペレーションだったのにぃ!?、どうして渚先輩が!」
「さっき力説していたんじゃなかったのかい?、それに…」
 二人は薫を見た。
 ひゅ〜♪
 白々しく口笛を吹いて、視線をそらせる薫。
「この裏切り者ぉ!」
「べーっだ!、カヲル君は、和ちゃんなんかには渡しませんよぉっだ!」
 はいっとサンオイルの入った瓶を手渡す薫。
 ありがとうっと、受け取るカヲル。
「ああああああ!」
 驚き、ビーチパラソルの下でくつろぐ二人に指を突きだす。
「何でサンオイルがそこにあるの!」
「なんでって…」
 薫は和子が握り締めている瓶をちらりと見た。
「持って来なくていいってあれだけ言ったのにぃ!」
 がしがしと狂った目算に頭を掻きむしる。
「そう言われると持って来たくなるのが人情だと思うの…」
 くっと和子は涙を堪えた。
「…つまりそれを塗って欲しかったのかい?」
 そのまま天を仰いでこくこくと頷く。
 泣くもんですか!っと言う表現らしい。
「一皿のオムライス、これに隠された大事なことは、まず一つのものを分かち合わなければならないというシュチュエーションと、それを意識し合うと言うお互いなわけでぇ…」
 えぐえぐと鼻をすする。
「はい、渚先輩塗ってあげますね?、あ、手が滑っちゃった!、カヲルさんのあそこっておっきい☆、なぁんて美味しい展開がぁ!」
「見ていて飽きない子だねぇ」
「恥ずかしいよ和ちゃん…」
 ちなみにプライベートビーチでも何でもないただの海水浴場だ。
 人の目はかなりあったし、まだ泳ごうと言う酔狂な人間も少ない状態であった。
 海に向かって叫ぶ和子はかなり目立つ。
「まぁ…、塗ってあげない事も無いけどね?」
「ほんとですかぁ!?」
 急に目をキラキラと光らせる。
「でもそれだけが目的なわけじゃないんだろう?」
「あ、わかっちゃいました?」
 後頭部を押さえててへっと舌を出す。
「もちろん渚先輩とは、薫に恨まれない程度にはお近づきになりたいなぁ、なんて」
「和ちゃんにはあげません!」
 隣に座っている特権を駆使し、カヲルの腕にすがり付く。
 君にはボリュームが必要だね?
 押し付けられた感触に、そんな不届きな事を考える。
「はいはい、あんまり独占欲強いとみっともないわよ?」
 やり込められる薫。
 和子はにたっと笑って、鞄の中からカメラを取り出した。
「じつは写真を撮らせてもらいんですよね?、あ、大したのでなくていいんですけど、ちょこーっとえっちぃポーズなんて取ってもらえたらラッキぃかなぁって…」
 和子のカメラはどこぞの誰かのとは違い、よくあるデジタルカメラである。
「渚先輩の写真って結構売れるんですよ?、知ってるとは思いますけど」
 舐めるようにカヲルをフレームに納める。
 爪先から下半身へ…。
「足とか奇麗ですよねぇ?、渚先輩ってすね毛とかないの、剃ってるんですか?」
「和ちゃん!」
 薫はカヲルを庇うように動く。
 ごめんなさい!っと小さく手で謝る薫。
「いいさ、和子ちゃんには以前心配をかけたからね?」
「でもそれはあたしの…」
「ありがとうございますぅ!」
 どげしっといい雰囲気になりかけた薫を蹴飛ばす。
「和ちゃん…」
「ううん、そう言う渚先輩の優しい所って好きでぅ、あ、売り上げは3割上納させて頂きまふはら」
 むにっと背後から怒った薫に両頬を引っ張られた。
「良いのかい?」
 笑いを堪えるカヲル。
「そりゃもう薫のと合わせれば、こうがっぽがっぽ儲かりますし…、あ、でもツーショットはやめてくださいね?、売り上げ落っこっちゃうから」
「…あたしモデル代貰ったこと無い」
「う…」
 背後からのじとっとした視線が重い。
「あたし達、親友よね?」
 やぶへびだったかとがっくり来る。
「2割」
「4割ね?」
「守銭奴ー!」
「どっちがよ!」
「うう、あたしの豪遊資金がぁ〜〜〜」
 ちょっとトホホの入る和子であった。






 カヲル達が一般の海水浴場で日光浴を楽しんでいる頃。
「よいしょっと」
 駅に降り立つ少年が居た。
 メガネが夏本番寸前の陽光にキラリと反射光を放つ。
 手に持っているのは黒いメモ帳、首から下げているのはα7000と言う骨董品のカメラだ。
「どうでもええけんやけどなぁ…」
 呆れ顔のトウジ。
「なんで海にくんのに、そのカッコやねん」
「お前に言われたくは無いよ」
 トウジの格好は白シャツの上にアロハシャツを羽織り、砂色のショートパンツでサンダルを引っ掛けていた。
 ケンスケはケンスケで、白いシャツの上にデザート仕様の迷彩服だ。
「暑ないんかい」
「心頭滅却すればな」
「ほうか…」
 うんざりする。
 ケンスケの額からはだらだらと汗が流れていた。
「まあええわ、ほんでどこから行くねん?」
 首筋からシャツを変色させるほど濡れている、見ているだけで気分が悪くなって来た。
「まあ順当に海からだよな?、それからちょっと歩けば山の中に結構奇麗な川があるし、そこもチェックだ」
 二人は手ぶらに近く、リュックだけを肩にかけている。
「とにかく今日はしっかりチェックしていくからな?」
「わあっとるって、撮影用の場所やろ?」
 二人はアスカたちの写真集用の撮影場所のチェックに来たのだ。
「これで売り上げの伸び方が違うんだから、しっかり見てくれよ?」
「わしのバイト代もかかっとるしな?」
 ポケットに手を突っ込んでいる姿は、どこぞのヤンキーの兄ちゃんにしか見えない。
 いや、今時そんな典型的な兄ちゃんなどいない分だけ、さらに妖しい。
「そうそう、委員長と旅行に行くんだろ?」
「ち、違うわ!」
 真っ赤になるトウジ。
「ちょっとあいつが、「北海道の牧場って見てみたい」って言いおったから」
「「あいつ」だってさ、ほんとに仲のいい事で」
 かしゃりと焦る姿をカメラに収める。
「お前こそどうやねん、親父さんの再婚相手、女の子おる言うとったやないか」
 ふうっとため息をつくケンスケ。
「あのなぁ、身内に手を出すほどバカじゃないよ、俺は」
「そうかぁ?」
「それに今の恋人達はこいつらだからさ」
 そう言ってファインダーを覗く。
「空しいやっちゃなぁ…」
「ちょっとそう思うよ」
 強がりの下には涙が滲んでしまっていた。






「さっむーい!」
 薄いピンク色のワンピース水着。
 我慢して膝まで入ったものの、海の水はまだやはり冷たい。
 薫は鳥肌の立つ腕をさすった。
「やっぱり無理だって和ちゃん、寒過ぎよぉ!」
 振り返ると、和子が「なにやってんの!」っとカメラ片手に叫んでいた。
「だめだめだめ!、気合いと根性は入れるためにあんのよ!、少しは我慢してあたしの私腹肥やすのに付き合いなさいよ!」
 ぱしゃぱしゃと波打ち際から逃げ戻って来る薫。
「なんで!?」
「薫が頑張る、あたしが儲かる!、するとちょこーっとは「奢ってあげよっかな?」って気になるかもしれないじゃない?、タダでもの奢ってもらおうなんて甘いわよ!」
「人をだしにしてぇ!」
 きゅーっと和子の首を締める薫。
「な、渚先輩だって頑張ってくれてるんだから…」
 一応必死で抗議を試みる。
 薫の肩にふわりとタオルがかけられた。
「カヲル君…」
「風邪を引くからね?」
 穏やかな微笑み。
 薫の頬に朱がさした。
「あ、赤くなった」
 ベシ!
「あ、あたしジュース買ってくるね!?」
 急ぎTシャツを羽織って駆け出していく。
 それを見送るカヲルと顔面を砂に埋めている和子。
「元気になったけど…、その明るさは今までを取り戻したい反動なのかい?」
「どっちかって言うと制限が無くなったんで地が吹き出したんじゃないかと…」
 さすがは親友である、和子は薫の本質を見抜いていた。


「まったくもう!」
 ぷりぷりと怒りながら浜からあがる。
 すぐに道路があり、そこに自販機があるので取り付いた。
「お父さんはお父さんで、何だ泊まりじゃないのかってがっかりしてたし…」
 どうやら父は、本気でカヲルを落とそうとしているらしい。
「あたしの勝手なんだからって、これ…」
 薫は自分の財布の間にさし込まれているものに気がついた。
「これって!?」
 顔がきゅーっと下から上に赤くなっていく。
「パパねぇ!?、何考えてんのよまったく!」
 粉薬のような袋に、中身の丸いわっかが浮かんでいる。
 中にあるものは推して知るべし。
「こんなの使ってる暇あるわけないじゃない!、和ちゃんだって一緒なんだから」
「なに叫んどんのや?」
 ドッキぃ!?
「だ、誰…、鈴原君!」
「変なやちゃなぁ…」
「あはははは…」
 薫はそそくさと財布の中にそれを戻した。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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