「ねえ、寄っていかない?」
 カヲル君、なんて答えてくれるかな?
 ドキドキの緊張感。
 瞳がキラキラと輝いている。
「薫…」
「はい」
 いつもとは違う声音で返事をする。
「君には兄弟がいないね?」
「はい?」
 唐突な質問に、薫は素早く切り返せなかった。
 カヲルはわざとらしくポケットに手を突っ込む。
「カヲル君?」
 奇妙な雰囲気を訝しむ。
「僕には家族がいない」
「え?」
 そうなの!?
 動揺する。
「事情が複雑なのさ、だから僕は君の期待には応えられない…」
「どうして?」
 そんなこと関係無い!
 薫は一瞬、詰め寄ろうとする。
「渚、この姓を持つのは僕一人だからね、君に合わせるわけにはいかないのさ」
 薫は口先を尖らせた。
「…あたしだって、渚薫の方が良いんだけどな」
 何かを期待するようにカヲルに呟く。
 カヲルは気づかう様に微笑んだ。
「姓は家族の証しでもある、さあ帰ろう、君の家族の元へね?」
「うん…」
 つまらなさそうに返事をする。
 そっかぁ、あたし一人っ子だもん…、お父さん達頑張ってくれないかなぁ?
 シンジ君、僕たちはどうすべきなのか?、話し合う必要があるようだね?
 二人はそれぞれに、多少物思いに塞ぎ込んでしまっていた。



Neon Genesis
Evangelion
GenesisQ'51
「上を向いて歩こう」



「だぁっはっはっはっ!」
 翌日。
 ひーひーと腹を抱えて、薫のベッドの上を転げ回る和子。
「何よぉ…」
 そんな和子を睨み付ける薫。
「あんたねぇ、そりゃ逃げられただけって」
「え?」
「普通中3相手にそんなこと言う?」
「あ…」
 薫は呆然と思い返した。
「渚先輩よくわかってるじゃない、あんたの性格」
 真っ赤になってうつむく薫。
「もうちょっとお天気に付き合わないとぉ、いつか自爆するぞ?、こら!」
 転がったままで、薫の足を足先でつっつく。
「薫は想い込みが激しいからねぇ〜、カヲル先輩、嫌気がさしちゃったんじゃない?」
「えええ!?」
 薫は派手に悲鳴を上げた。
「じゃ、じゃあさっきのって居留守だったのかなぁ!?」
「へ?、もう電話したの?」
「うん…」
「それで、なんて?」
「…出かけたって」
「逃げられたんだ?」
「違うもん!」
 だが和子は聞きもしない。
「だーはっはっはっ!、逃げられてやんのぉ!」
「違うって言ってるでしょう!」
 半泣きでキューッと首を締めにかかった。
「ちょ、薫、入ってる、入ってる、やばいって…」
 息を求めてあえいでしまう。
 もう!、昨日のうちに約束しとけば良かった!
 考え込んでいる薫は、和子が落ちても気がつかなかった。






 朝からどたばたしている二人がいる頃、トウジはゴクリと生唾を飲み込んでいた。
 夕べあの後、ヒカリに頭を下げに走っていたのだ。
 トルルルル…
 受話器を手に、相手が出てくれるのを願って待つ。
 ガチャ。
「はい、相田です」
「おう、け、ケンスケか?」
 緊張から口が先走ってしまった。
 ちょっとだけ間が空いてしまう。
「…何どもってんだ?」
「そ、そんなことあらへんわい!」
 ごまかそうと言う態度が見え見えになっている。
「まあいいけどさ…」
 親友のために、あえて深くは追及しない。
「ちょうどこっちも用があったんだよな?」
「な、なんやねん?」
 呆れるケンスケ。
「言いにくそうなのは感じるけどさ、そっちからかけて来たんだろ?」
「ま、まあそやけどな?」
 くっくっと言う笑いが漏れてしまう。
「なに笑ろうとんねん!」
「どうせ委員長だろ?」
 ギクギクっと固まるトウジ。
「なんでわかるんや!」
 ケンスケは完全に吹き出していた。
「いいっていいって、サービスしてくれば?」
「すまん!、昨日のんでちょっとな?」
「俺のせいってのもあるしさ、後ですぐ良さそうなデートコース見積もってメールしてやるよ」
「いつもすまんのぉ…、この礼はいつかするさかいに…」
 電話に向かって頭を下げる。
「あ、ほんでお前の方は何やってん?」
「ああ…」
 ケンスケは言いよどんだ。
「ちょっとさ…、オヤジが時間空けとけって言ってるんだ」
 トウジはそれだけでピンと来た。
「もしかして、あの話か?」
 そうだと答える。
「俺にも話させたいみたいでさ」
「ほうかぁ…、まあわしには頑張れとしか言えへんなぁ」
「俺に言われてもな?、頑張るのは父さんだし」
「まあなぁ、ほなわし…」
「ああ…、電話するのは俺のメール見てからにしろよ?」
「わかったわ、ほな」
 ピッと携帯を切ってから、ケンスケは「くーっくっくっ!」っと腹を抱えて笑い転げた。






 ジオフロント内の喫茶店。
 ちゅーっとストローで、トロピカルジュースと言うやたら合成着色料が入っていそうな妖しいものを飲んでいる女の子がいた、レイだ。
「それでさ、この辺りの浜とこの辺りで撮りたいんだけど…って、おーい、聞いてるかぁ?」
 目の前でパタパタと手を振って見るケンスケ。
「え?、あ、良いんじゃないのかなぁ?」
 ケンスケははぁっと派手にため息をついた。
「あのさぁ、シンジがいなくて気になるのは分かるけど、ちゃんと見ておいてくれないかな?」
「撮影場所でしょ?」
 ケンスケとの約束でもある、アスカとミズホが逃げたが為に、レイが説明を受けるはめになってしまったのだ。
「後で惣流達にも話しておいてもらわないと困るんだよ」
「でもよくわかんないしぃ…、あ、でも大丈夫かな?」
「何が?」
 急に思い出すレイ。
「事務所、なんだかよくわからない間に所属してる事になってるの」
 ケンスケはカプチーノを一口含んでからメモ帳を取り出した。
「これか、四類の生徒の為に作られてる形だけのものだよ、ギャラ交渉とか生徒には全部できないからさ」
「ふぅん…」
「ふぅんって…、学生証に書いてあるだろう?、ちゃんと読んだ方がいいよ?」
「あ、そうなんだ…って、良く知ってるわね、相田君」
「現代社会で生き抜く為には、これぐらいの情報の収集と確認は必須なんだよ」
「…違うと思うけど」
 レイの呆れた視線に、ケンスケは肩をすくめた。
「いいさ、で、最終的な売り上げの確認だけど、ほんとにこれで行く?」
「うん、三人の合計で6:4」
「こっちが4で、そっちが一人頭2って少なくないか?」
 ケンスケは自分の取り分の多さに、ちょっとばかりとまどっている。
「う〜ん、あたしはバイトがあるからいいし、いまお金がいるのって、習い事に手を出してるミズホぐらいだから…」
「そっか…」
「それに金額に差が付いちゃうと、ケンカになっちゃうから…」
「ま、そうだよな?、さてと!」
 席を立つケンスケ。
「俺、用があるんで、悪いけどさ」
「あ、じゃああたしも…」
 隣の席においていた鞄を手に取る。
「なんだよ、ゆっくりしていけばいいのに」
「あ、心配しないで、ちゃんと下心あるしぃ」
 へ?っとあんったケンスケに、レイはレシートを突きつけた。
「はい、後よろしくね☆」
 苦笑しながら、引き受けるしかないケンスケであった。






「ケンスケ!」
 ケンスケはジオフロント内にある劇場の前で父親を見つけた。
「父さん、あ、どうも…」
 ペコッと頭を下げると、相手の女性も頭を下げてくれた。
 30を越えているはずであるが、若く見えるのは長い艶のある黒髪のせいかもしれない。
「で、どうしたんだよ?、中に入ってりゃ良かったのに…」
 声を潜めるケンスケに対して、容赦のない大きさで返事をする。
「和ちゃんがトイレってさ」
「…父さん。そういうのは嫌われるよ?」
 デリカシーないんだから。
 そんな様子に、彼女も少し微笑んでいた。


「やだなぁ、ここに来るの…」
「どしてぇ?」
 ジオフロント内を無目的にうろつき回る二人。
 薫と和子だ。
「だって和ちゃん、あたしに奢らせてばっかりなんだもん…」
 横目で和子を恨めしげに見る。
「酷い!、あんたはこの赤貧中学生に金払わせようっての!?」
 ごまかしにかかる和子。
「…この間、新しいなんだかって人のDVD、BOXで買ったって言ってなかったっけ?」
「ギックゥ!」
 和子は微妙に足を速めた。
「それにあたしのとこでご飯食べて、食費浮かせにかかってるし…」
「いいじゃない、あたしお母さんのご飯好きだもん☆」
 そう言って頭の後ろで手を組む和子。
 …和ちゃんって、どうして一人暮らしなんだろう?
 聞きたくてもやはり聞けない。
 言いたくないことってあるもんね…
 薫自身がそうだった。
 あたしだって、入院してた頃のことなんて話したくないし…
「あれ?」
 薫は和子が変な声を出したのに気がついた。
「どうしたの?」
「…ううん、ちょっとごめん!」
「え?、和ちゃん!」
 薫の返事を待たずに走っていく。
「…なに?、もう!」
 薫も慌てて、和子の後を追って走った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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