う〜ん…
薫は和子の後を着いて歩きながら悩んでいた。
落ち込んじゃって…
急に脇とかくすぐったら元に戻らないかなぁ?
危険な考えを持ち出している。
だめか、和ちゃんそういうの強いから、やっぱりこれぐらいでないと…
「薫…」
「え?」
薫は急に振り向かれて驚いた。
「なにやってんの?」
「あ、ははは…」
どこから取り出したのか?、ハリセンを振り上げている薫。
「なんでもないなんでもない、で、なぁに?」
はぁっと、悩ましげな吐息を吐く和子。
「実はね?」
「うん?」
「あそこ、渚先輩が女の人と歩いてる…」
「えーーー!」
薫は急いで確認した。
「カヲル君!」
「やあ、薫」
軽く手を上げる。
「やあ、じゃなくって!」
むっとしてレイを睨み付ける。
「何してるの?」
「デートらしいよ」
レイに冗談だよっと目で告げる。
「で、で、で、!?」
「デートですかぁ!、やりますねぇ渚先輩、薫ってものがありながら!」
勘違いしている薫と、分かっていてからかう和子。
「何を言っているんだい?、僕が想っているのはシンジ君だけさ」
ニコニコとしながら言い放つ。
レイはくいくいっと袖を引っ張った。
「…カヲル、この子泣きそうになってるんだけど」
「カヲル君、あたしのこと何とも想ってなかったんだぁ…」
ぐしっと両手で顔を押さえてしまう。
「何とも想っていなくはないさ、ただシンジ君がいつでも一番にいるだけのことだよ…」
「それはさくっと無視するとして」
レイはカヲルから紙袋を取り上げた。
「ありがと☆、あたし先に帰るから」
「いいのかい?」
「シンちゃんと泣く子には叶わないってね?」
それなりにつまっているはずの紙袋を、割と軽く下げて見せる。
「カヲルはミズホにも甘いもんね?、じゃ」
すっと離れていくレイをじっと睨む薫。
「この子はぁ…、嫌われちゃうぞぉ?」
その頭をぐっと押さえて、和子はレイへと謝らせた。
●
「ごめんなさいね?、和美を押し付けちゃって…」
ケンスケは曖昧に笑ってごまかした。
「ほら、和美もお礼を言わなくちゃ?」
ジオフロントの上層階にある展望レストラン。
「和美?」
和美はじっと黙り込んでいたが、意を決したように顔を上げた。
「おかあさん、おじさんと暮らすの?」
「え、ええ…」
とまどう。
「あたしはいらないの?」
「ケンスケ!」
ケンスケは激しく睨まれた。
「…俺はいいけどさ」
ケンスケは答えを待っている和美を見やる。
「…言いづらいからって、黙ってるってのは酷いと思うしさ?」
言い返せない。
「か、和美?、違うのよ…」
「なにが?」
「なにがって…」
困ってケンスケの父親と顔を見あわせる。
その事が癇に触ったのか、和美は癇癪を起こして立ちあがった。
「わかった!、じゃあ先に帰ってる!」
「ちょっと和美!」
手を伸ばしかけたが、引き止めるだけの言葉が無かった。
ケンスケは父親に睨まれて、やれやれと和美の後を追っていった。
●
「やれやれ、今日はよく荷物を持たされる日だね?」
「渚先輩って似合わないもんねぇ?」
「そう思うかい?」
洋服売り場のワゴンセールを眺めている。
「ビジュアル系よりはマシかもしんないって程度ですけど」
どちらも荷物を抱えるタイプではないと言いたいらしい。
「薫ぅ、その辺にしておかないと先輩疲れちゃうって」
「だ、め、だって綾波先輩よりまだ少ないんだもん」
そうなのかい?
すでに紙袋四つ、カヲルの手にはその紐が食い込み始めている。
カヲルはずっと和子の様子を観察していた。
「…いつも見てるね?」
視線の先には、バーゲンかごの人垣に体を突っ込んでいる薫が居る。
「薫を、ですか?」
「そうだね、好きなのかい?」
「もっちろん!」
薫に小さく手を振ると、薫は小さくべぇっと舌を出した。
苦笑してしまう二人。
「元気でいいと思いません?」
「そうだね?」
深呼吸し、再び悪辣な主婦に戦いを挑んでいく。
「でもはけ口が無いと、どんどん暗くなってっちゃうんですよね?」
「そうなのかい?」
カヲルは意味も無いような相槌を打った。
「人の話しに聞き耳たてて、どうこうって会話に混ざってるとこ想像しちゃって…、バカみたい」
「それは君の事なのかい?」
ぺろっと和子は舌を出した。
「愚痴臭いですね?」
「いいさ、心に壁を築くよりはよほど」
「壁、か…」
そして二人は薫を眺める。
ちょうど薫は勢い余って、ワゴンごとひっくり返っていく所であった。
●
「和美ちゃん、お母さん心配してるんじゃないの?」
ケンスケは先さき歩く和美を呼ぶ。
「一緒にいたいんならそう言えばいいんだって、無理になんてさ…」
「違う…」
ジオフロント前のバスターミナル。
「お母さん、きっと捨てちゃう…」
「捨てるって…、大袈裟だなぁ」
「違う!、だってお母さん、お姉ちゃんを捨てちゃってるもん!」
「え?」
ケンスケは虚をつかれたような顔をした。
「お姉ちゃん?」
こっくりと頷く和美。
ケンスケは兄弟がいるなどという話しは聞いていない。
「…悪い事をしたから追い出されたんだって、隣のお姉さんが言ってた」
それって…
聞くような話じゃないと思ったが遅かった。
●
「はああ…、疲れたぁ…」
ふらふらと歩く薫に声をかける。
「あんたほんと元気になったわねぇ…」
「そっかな?」
「そのまま新喜劇目指して見ない?」
「和ちゃんが行くんなら」
「よし良く言った!、じゃあさっそく!」
わあああああ!っと慌てる。
「ごめん和ちゃん!、あたしが悪かったから許して!」
「わかんなくってもよろしい!」
ふふふと嫌な笑みを浮かべている。
「ううう…、もう、和ちゃんのいじわるぅ」
薫は黙っているカヲルにすり寄った。
「カヲル君も何とか言ってよぉ…」
「いや、いいコンビさ、きっとうまくいくよ」
「カヲル君までぇ…」
泣きそうになる。
それを見て、和子は勘弁してやるかと頭を撫でてやった。
「和ちゃん?」
「…ちょっと聞いてくれる?」
「うん、なに?」
和子はカヲルをちらっと見た。
「…僕は居ないほうがいいのかい?」
「先輩は…、同情するような人じゃないと思うから」
「和ちゃん!」
たしなめる、が、それを押さえたのはカヲルだ。
「カヲル君…」
「さあ…」
カヲルは和子に先を促す。
その笑みに微笑み返してから、和子は遠くを見るような目をして語り始めた。
「昔々、お父さんと仲良く暮らしている女の子がおりました…」
「お父さん、お風呂わいたよ!」
「ようっし和子!、背中流してやるぞ?」
「これ洗ったらねぇ?」
エプロンを着けて台所に立つ。
制服のままだ、着替えると洗い物が増えるので、お風呂に入って寝間着に着替えるまでを制服で過ごしていた。
長い髪は、エプロンの紐を結んでいる腰にまで届いている。
「そう言えば、みんなもう一緒に入って無いって言ってたっけ?」
中学生になっていれば、普通はそうだろう。
「まあいっけどね」
そんなだから、学校でも男の子とは気安かった。
「ねえねえ?、あそこのカラオケ屋行ったんだって?」
「あ、うん、まあ?」
「あそこって通信なんだっけ?、時間いくら?」
「カラオケ、好きなんだ?」
「ちょっとねぇ、あんまり行かないんだけど」
「どうして?」
「お金保たないし」
笑って答える。
放課後。
「はい、タオル」
「ありがと」
白の体操着に赤いブルマー。
タオルを受け取ったのは陸上部の先輩だ。
顔を拭いて、タオルを返す。
「マネージャーは、走らないの?」
「はい、見てる方が好きなんです」
そう言って、眩しそうにみんなを眺める。
「でもさ、結構足早いって聞いたけど?」
「一生懸命練習するって言うのが向いてないんですよねぇ…」
苦笑いを浮かべる。
「で、人の世話はするわけだ」
「お父さんの面倒見るよりは楽ですから」
そう言って吹き出してしまう。
「先輩も頑張ってくださいね?、応援してますから」
「ありがと…」
走っていく後ろ姿を見送る。
可愛い、よな?
ちょっとだけ頬を染めていた。
愛想ばかりを振りまいていた。
別の日も、その先輩と水飲み場で話していた。
「へえ、お父さん再婚?」
「お母さんって呼ぶのはちょっと…」
相談しているつもりはない。
「でもさ、呼んでもらいたいんじゃないの?、やっぱり」
「そう言うものですか?」
「わかんないけどさ…」
しかしその気になっている。
「向こうも戸惑うかもしれないし、言って欲しかったらそう言って来るんじゃないの?」
クスッと笑う。
「心配してくれてるんですね?」
「そのつもりだけど?」
ありがとうっと、心からのお礼を言う。
「あのさ…、俺、相談とか乗るから」
「え?、あ!」
腕をつかまれた、引き寄せられる。
長い髪が勢いに揺れる。
「俺、あのさ!」
「えっと…」
頭の中がパニくってしまう。
どう答えればいいのか分からなくなる。
「だめかな?」
「先輩、彼女居ませんでしたっけ?」
彼はぎくりとした。
「だめですよ、そんなの…」
「…別れた」
「え?」
耳を疑う。
「だって!?」
「別れた!、それでいいんだろ!?」
そんな勝手に!?
まだ別れていないのは、その顔を見れば明らかであった。
[BACK][TOP][NEXT]
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元Genesis Qへ>Genesis Q