カンッと、何度目かの乾杯をする。
 相変わらずカヲルと和子はえびちゅで、薫だけがジンジャーエールを開けていた。
「…寂しくは無いのかい?」
「たまに…」
 ふいの言葉に、ついポロと本音が出てしまう。
「あ、酔ってる?」
「うるさいってぇの、薫も飲めればいいのに…」
 微笑む。
「元気そうに見えるのに」
 薫は両手で缶を持って、ちびりと少し口につけた。
「お医者さんも言ってたけど…、普通じゃないんだって、治り方が」
「良かったじゃない」
 そそくさと薫のビール缶を用意する。
「健康なのは好いことさ」
「ええ、これもカヲル君のおかげかな?」
 和子はその缶を自分のものに変更した。
「あ〜、のろけって聞いててむかつく…」
 やってらんないとばかりに勢いあおった。
 ふふーんだっと薫。
「もっとむかついて結構よ?、でも胃腸の方は刺激の強い食べ物に少しずつ慣らせていかないと、上手く消化できないからって」
 カヲルに報告する。
「くやしいようだね?」
「ほんと!、おかげで和ちゃんには奢らされても、奢り返してもらえないし」
「出世返しと言うことで」
 こそこそとカヲルの背後に隠れようとする。
「それ意味違うし…って、カヲル君何本飲むの!」
 何気に山と積まれている缶
「僕は酔わない体質でね?、特に満月の前後は調子がいいのさ」
「とか言って狼になるんですよねぇ?」
「なに挑発してるのぉ!」
「けけけ、焦ってやんの」
 背後からカヲルの首に腕を回す。
「ちょっと離れなさいってば!、大体なんでカヲル君の隣に座ってるのよ!」
 和子は自分の持っていたビールをカヲルの口元に持っていき、含ませた。
「カヲル君まで!」
「嫉妬深いんだから、薫は」
「分かっていてからかっているんじゃないのかい?」
「あ、やっぱりわかりますぅ?」
 最後は自分で飲み切る和子。
「和ちゃん!」
「へぇへぇ、だってしょうがないじゃない?、クッション薫の分しか無いんだもん」
 カヲルとは反対側をパンパンと叩く。
「それとも薫がこっちに座る?」
「だったら和ちゃんがこれに座ってよ」
「やだべー、それなら先輩にそっちに行ってもらいましょうよ」
「う、それも嫌…」
「なんでよぉ」
 ぶすっくれる和子。
「だって和ちゃんすぐ押し倒しに来るじゃない…」
「そうなのかい?」
 しなだれかかる和子に尋ねる。
「だって薫、良い匂いするんですよぉ?、やーらかいし」
「それは羨ましいね?」
 薫はぼっと赤くなった。
「か、カヲル君!?」
「おおっと、やっぱり先輩も男だったんですかぁ!?」
 和子も興味津々に瞳を輝かせる。
「男には違いないからね?、好きな人の体温を感じるほどに触れ合う、それは人の喜びそのものじゃないのかい?」
「カヲル君…」
 熱い眼差しを向ける薫。
「うぉう、ドキドキだぁね」
 和子も次の瞬間に期待する。
「ああシンジ君、どうしていつも側に居てはいけないんだい?」
「カヲル君!」
「だはははは!、すかされてやんの、だっさー!」
 和子は期待した落ちに満足した。
「ふんっだ!」
 和子に足で指差されて機嫌を悪くする。
「でも渚先輩って、ほんとにホモなんですねぇ?」
 和子はひっくり返ったままで尋ねた。
「それは違うね?」
「世間的にはホモですよ、もーほ〜」
 ごろんとうつぶせにひっくり返る。
「酔っているね?」
 カヲルはぽこんと隆起しているお尻を見た。
「酔ってますよぉ?、酔ってちゃいけませんかぁ?」
 そのお尻をふりふりと動かす和子。
「酔いたい時もあるからね?、たまにはいいさ」
 ちびりとビールに口を付ける。
「これで良い男でもいればなぁ〜」
 和子は枕を抱き込んだ。
「隣にカヲル君座らせといて何言ってるんだか…」
「あれ?、手ぇ出していいの?」
「ダメ!」
 空になっている缶を投げる。
「って言ってますけど?」
 和子は顎を引くようにカヲルの背を見た。
「人を好きになることは悪い事ではないさ」
「だって?」
「カヲル君の女ったらし!」
 カヲルにも缶を投げる。
「そうなのかい?」
 しかし勢いが無いので簡単に受けとめた。
「聞かないでくださいってば、…カヲルってばあたしにちょっと似てるとこあるよねぇ?」
 再び仰向けに、だらしなく大の字になる。
「呼び捨てにしないの!」
 薫は目を釣り上げた。
「いいじゃない、かったいんだからぁ」
 けらけらと、酔っぱらい丸出しで和子は笑う。
「かまわないさ、その方が親しみやすいからね?」
「あたしだって「君」付けなのにぃ…」
 口を尖らせ、すね始める。
「悔しかったら呼んでみればいいじゃない」
「そ、そんなこと…」
「え?、なぁに?、聞こえなぁい」
 和子は起きあがると、耳に手を当てて薫を挑発した。
「う、わかったわよぉ…」
「ほりほり」
 足の親指で膝を突っつく。
「か…」
「か?」
「カヲ…、ル?」
「なんだい?」
 カヲルが返事をした瞬間、薫の頭は茹であがった。
「ま、真っ赤、薫ってば真っ赤になってる!」
「うっさい!」
 房にしてつかんだ髪の毛で顔を隠す。
「けけけ、いいじゃない、カヲルってそういうのにこだわらないし」
「そうだけどぉ…」
 ゆっくりと顔を見せるが、やはり恥ずかしい。
「やっぱりあれですか?、外国じゃ「KAWORU」だったから?」
 和子はいったん切り上げた。
「名前は呼称にすぎないからね?、僕を指す言葉ならどう呼ばれようとかまいやしないさ」
 カヲルの反応は変わっていない。
「ほんとですかぁ?」
「常識の範囲内でなら、ね?」
 クスッと微笑みを和子に見せる。
「ちえ…」
「って、何考えてたのよ?、和ちゃん」
 ジト目の薫。
「内緒」
「にするんじゃないの!」
 薫は和子に飛び掛かった。
「だって薫怒るもん!」
「怒らせようとしないでよ!」
「仲がいいんだね?」
 カヲルは少し場所を動いた。
「だから言わないって言ってるじゃなぁい!」
「考えるって事がもうむかついて来るの!」
 二人がケンカする為の場所造りだ。
「ひっどぉい!、あたしに自由思想の権利は無いのね!?」
「検閲却下」
「薫のくせにィ!」
「どういう意味!」
 和子は動きを止めると、両手を組んで夢見る乙女のポーズを作った。
「「カヲル君、お休み、チュッ☆」、なんてやってるくせにぃ?」
「な、な、な、何で知ってるのよ!」
 どもりまくる薫。
「ひっどーい、覗いてたなんて!」
「ぷぷぷぷぷ!、ほんとにやってやんの!」
 げらげらと笑い転げる和子にはっとする。
「ひっどぉい!、騙したの!?」
「暴露したのは薫だもん☆」
 舌を出す。
「和ちゃんなんて大っ嫌い!」
「じゃあカヲルに慰めてもらっちゃおうっと☆」
 抱きつこうとした和子にタックルをしかける。
「カヲルくぅん!」
 涙目の薫。
「なんだい?」
「和ちゃんがいじめるぅ!」
「ってのび太じゃないんだから…」
 苦笑してしまうカヲル。
「仲直りすればいいんじゃないのかい?」
「薫って可愛い☆」
 組み伏せられたので、仕方なく抱きつき攻撃に変更した。
「どうしてそうなるの!」
「もう照れなくってもいいってば」
 よしよしと頭を撫でる。
「もう!、かいぐりかいぐりってしないでよー!」
「はいはい、ほんとに薫はお子様なんだから…」
「もう大人だってば!」
「カヲルぅ、あんなこと言ってるわよぉ?」
 薫の下からカヲルに笑う。
「それは僕の決める事じゃないよ…、ただ」
「ただ?」
「最近の薫は、急ぎ過ぎてるように感じるけどね?」
 こちらは落ちつき過ぎかもしれない。
「焦ってるぅの間違いじゃないの?」
「かもしれないね?」
「だそうだけど?」
 薫の目を見る二人。
 薫も動きを止めて、うなだれた。
「…だって、カヲル君ってもてるし、好きな人だっているし、学校違うし」
 指折り不満を数えていく。
「少ないチャンスは有効にってか?」
「それにしても、歳相応の付き合い方があるんじゃないのかい?」
 薫はいじけるように顔を上げた。
「…カヲル君は、その方がいいの?」
「強く迫られるよりはいいかもしれないね?」
 苦笑するカヲル。
「でも薫が大人になるのって、いつになるのかしらねぇ?」
「なによ和ちゃんってば大人ぶっちゃって?」
 和子はぐっとビールを突き出す。
「だってほら?、あたしって大人って感じだしぃ?」
「歳はあたしの方が上だもん!」
 胸を張るが迫力が無い。
「大人子供って言うのはね?、積んで来た人生経験で決まるのよ?」
「そ、そりゃあずっと寝たきりだったけど…」
 やり込められる。
「でがしょ?、薫はこれから色んな事を覚えていくの、覚えていくの、教えていくのはあたし、わかった?」
「随分と偏った教師だってことは…」
「酷いぃ〜!」
 ごろごろんと、和子は狭い部屋を転がった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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