「和ちゃんいじけないでよぉ〜」
 だがそう言う目は笑っている。
「うう、薫のいけず…」
 部屋の隅で、背を向けてのの字を書いている和子。
「空気が重くなったね?」
「そりゃこの部屋のヌシですから」
「だったら逆らうなー!」
「きゃあ!」
 不意打ちで押し倒された。
「口答えするんなら、あたしより胸大きくなってからにしなさいよ!」
 後ろから手を回して揉みしだく。
 脇を締めてガードしたが遅かった。
「和ちゃんには負けてないもん!」
「嘘付くなー!」
 ふにふにっとしかできなかったが、自分よりは無いと確信できた。
「身体検査で勝ったじゃない!」
「あんなのいんちきに決まってるぅ!」
「不正を差し込む余地が何処にあるのよ!」
「買収!」
「どうやって!」
「こうやって!」
「きゃはははは!」
 くすぐられた。
「埒があかないようだね?」
 やけに落ちついている。
「カヲル君、楽しまないでよ!」
「ごめんごめん、でも本当はどうなんだい?」
 和子はくすぐるのをやめて顔を上げた。
「毎日揉んでんだから知ってますよぉ?」
「うんうん、ありがとうね?、ここまで育ったのは和ちゃんのおかげ☆」
 涙が浮かんでいる笑顔を上げる。
「かーっ、むかつくー!、よっしわかった!」 「え、なに?」
 急に立ち上がった和子に驚く。
「お風呂入ろう、お風呂!」
「ええ!?、なんでそうなるのよ!」
「もちろん比較するために決まってるでしょうが!」
 いそいそと洗面器の用意を始める。
「和ちゃん、酔ってる?」
「それも随分と酔っているね?」
「酔わいでか!、やってらんないわよ、こんちくしょー!」
 げふ。
「ゲップしないでよヲヤヂ臭い…」
「あたしの何処がオヤジなのよぉ!」
 うるさいぞぉ!っと、隣の部屋から壁を蹴られた。
「股の間にタオルをパーン!ってするところ!」
「こら!」
「そんなことするのかい?」
「しないって!」
「それに腰に手を当てて牛乳飲むし」
「するんだね?」
「しーなーいー!、あ、酒切れた…」
 持ち上げた缶に愕然とする。
「飲み過ぎ!」
 ビシッと指差される和子。
「え〜、だって楽しいんだもん」
 和子はケラケラと陽気に笑った。
「楽しいお酒は良いものさ…、買いに行くかい?」
「行く!」
 カヲルに抱きつく和子。
「カヲル君!」
「ジュースももう無いだろう?、薫も何か欲しいんじゃないのかい?」
「う…、お菓子くらいは」
 カヲルの微笑みには逆らえないらしい。
「じゃあ行こうか?、立てるかい?、和子ちゃん」
「押し倒してぇん☆」
 和子はカヲルを誘うように、抱きついたままで倒れようとした。
「和ちゃんには足の裏で十分よ!」
「女王様ぁん☆」
 踏まれても喜ぶ和子であった。






「こ、コダマさん、どうしてここに!」
 いつもとは違う、暗闇に溶け込むかのような姿に驚く。
「月が奇麗な夜はいいわね?、暗闇がはえて落ちつくわ…」
 ごくりと生唾を飲み込むケンスケ。
 そう呟くコダマの表情はどこかが妖しい。
「…月を撮っていたのね?」
「はあ…」
 ケンスケは持て余しそうになっていたカメラを持ち上げた。
「あなたが撮ろうと言い出したの?」
「この子ですけど…」
 ケンスケの後ろに隠れ気味だった和美を押し出す。
「和美ちゃんって言います、こちらは洞木コダマさん」
「あなた良い感性してるのね?」
 膝を折るように屈み気味になる。
「お兄ちゃん…」
「恐くないって、俺の師匠なんだから」
「…あたしは弟子を取らない主義よ?」
「良いですよ、僕が勝手に言ってる分には」
「勝手な子ね?」
「はい」
「えっと…」
 流れるようなやり取りに戸惑ってしまう。
「いいのよ?、すぐに慣れるから」
「はぁ?」
「俺も随分染まっちゃったなぁ」
「ちょっと恐い…」
 引き気味になる。
「そう?、まあおいおいね?、あなたの妹かしら?」
「そうなるかもしれないって話で…」
「そう」
 改めて自己紹介する。
「コダマって呼んでね?、人は紅の流れ星と呼ばないわ」
「…呼んでもらえないんですね?」
「そうなのよ」
 首を捻る。
「どうしてかしらね?」
「いや、よくわかりますけど…」
「漫才コンビ?」
 ようやく和美は気がついた。
「良いボケしてるわ」
「突っ込みじゃないんですか?」
「お兄ちゃんってお笑い目指してる人だったんだ…」
 認識としては正しいかもしれない。
「違うって、何だと思ってんだよ?」
「オタク」
 ぐさ!
 ケンスケは確かに何かがえぐり込むのを感じた。
「良い洞察力をしているわ」
「子供がそう言う言葉使うんじゃないの!」
 涙目になって訴える。
「子供ってバカにすると嫌われるわよ?」
「そうよ!」
「手なずけないで下さいって!」
「冗談の分からない子ね?」
「ほんとほんと」
 後ろから和美の両肩に手を置いている。
「かああああ!、わかりましたよ!、それで、今日は何の用なんですか!」
「用なんて無いわ、ただ通りがかりにからかってみただけよ?」
 コダマはしれっと答えた。
「じゃあついでだったんだ」
「そう言うこと、いい読みしてるわね?」
「一杯誉められちゃった☆」
「良い子には良いものをプレゼントしてあげるわ」
「ええ!?、なになに?」
 コートの裏を見せる、そこに並んでいるのは無数のレンズだ。
 コダマは脇のホルスターから、小さな小型のカメラを抜いた。
「ああー!、バルナックタイプのライカ!?、そんなプレミアものが現存してたなんて!」
 涎を垂らすケンスケにコダマは冷たい言葉をかけた。
「あげないわよ?」
「悔し過ぎるぅ!」
 メガネを涙で曇らせるケンスケ。
 気が引けたように困り顔で、和美はカメラとケンスケを見比べる。
「上げようか?」
「欲しい!」
「だめよ?、これは才能のある子が持って、初めて価値のでるものなんだから」
 ガーン!っとショック。
「俺には才能が無いって言うんですかぁ!?」
「資質の問題ね?」
「なんですかそれはぁ!」
「この子にはこれが合うわ、でもあなたはデジタルでないとだめよ?」
「ちくしょー!」
 お星様に向かって訴える。
「ねえお姉ちゃん?」
「なに?」
「ほんと?」
「今の話し?」
 和美はコクンと頷いた。
「そうね…、ほんとと嘘が半分ずつね?」
「よくわからない…」
「あなたにそのカメラが似合うというのは本当、でも彼がデジタルでなきゃダメだというのは嘘」
 和美は子供のように泣くケンスケに笑った。
「意地悪なの?」
「才能の種は人それぞれに違う物を持っているわ?」
「サイダネ?」
「わたしはきっかけを与えてあげるだけ、育てるのはあなた自身よ?」
「よくわからないけど、わかった」
 最初の一枚はコダマを写す。
「えらいわね?、御褒美に予備のフィルムを5本上げるわ」
「ありがとう!」
「写真は彼に焼いてもらいなさい?、それぐらいはできるはずだから」
「うん!」
 だが後で和美は首を捻る事になる。
 この一枚に、コダマの姿が写されていなかったからだ。
「じゃあ、また会いましょう?」
「コダマさぁん!」
 泣きすがるケンスケ。
「しつこい男は嫌がられるよ?」
 和美はけらけらと笑いながらシャッターを切った。
 がっくりと肩を落とす。
「お兄ちゃん、なさけなーい」
「そう思うなら撮らないでくれる?」
「じゃああと一枚だけ…、カシャッとな、あれ?」
 和美は別の人影を写した。
「やあ、相田君じゃないか」
「…なんだよ、渚か」
「御挨拶だね?」
「あ、また!」
 和美に気がつく和子。
「お昼の、お姉ちゃん…」
 和美はちょっと苦手そうにする。
「お母さんはどうしたの?」
 それを守ったのはケンスケだった。
「ああ、俺の新しい妹になるかもしれないんだ」
「え?」
「まあそう言うこと」
「和ちゃん…」
「良いから黙ってて!」
 口を挟もうとした薫の口を手で塞ぐ。
「どうかしたのか?」
「色々とあるみたいだね?」
「ふうん…」
 囁き合うケンスケとカヲル。
 薫の口を塞いだままで、和子はケンスケに話しかけた。
「何してたんですか?」
「和美ちゃんとカメラで遊んでたんだよ」
 ほらっとカメラを見せる。
「え〜?、ダメですよぉ、予備軍作っちゃ」
「違うって」
「和美ちゃんだね?」
「はい…」
 カヲルが声を掛けると、和美はピッと背筋を正した。
「僕が恐いのかい?」
「そうじゃないけど…」
 上目づかいで震えている。
「いいさ、人に疎まれることは慣れているからね?」
「そうなんだカヲル君…」
 慰めるように側に立つ。
「まあねぇ、そりゃあれだけもてればねぇ?」
「そうそう、泣いてる男子数知れずって奴だよなぁ?」
「男の子を泣かした覚えはないよ?」
 その言葉に肩をすくめた。
「シンジが泣いてるじゃないか?」
「シンジ君は嬉し泣きだよ」
 ぬけぬけと言う。
「カヲル君フケツ」
「どうしてだい?」
 わなわなとしている薫を挟む。
「カヲルってば碇先輩を胸の中で泣かせたんだぁ」
「いやぁんな感じがするよな?、それは…」
 そんなみんなを見上げる和美。
「お兄ちゃんのお友達って、へんなのばっかりだね?」
「「和美ちゃあん、何か言ったかなぁ?」
「い、痛いよお姉ちゃん達…」
 和美はいつの間にやら、みんなの雰囲気に溶け込んでいた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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