NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':Turn Namber 54 


 スタンガン!?
 使った事など無い。
「碇君!」
「くっ!?」
 シンジは突き出しながら、押しやすい位置にあったボタンを押した。
 バチッ!
 一瞬の閃光。
「うわっ!?」
 ドサッと落ちたトカゲのような生き物は、ばたばたともがいた後に動きを止めた。
「効いてる?」
「碇君、まだ来る!」
「こんのー!」
 シンジは脇に引いてから、突き出すようにスタンガンを使った。


「はぁ、はぁ…」
 マユミは逃げ場を探すように後ずさり、結局うろに手をかけていた。
「!?」
 唸っている声が聞こえる。
 恐い!
 猫が怒っているのだと思った、でも違っていた。
 苦しんでる?
 そうっと覗き込む。
 …産まれそうなんだわ!
「碇君!」
 叫んで伝えようとする。
 だめ!
 猫はトカゲの背に飛び付き、押さえつけてから首筋に噛り付いていた。
「この!」
 シンジはシンジで、ナイフでも使っているかのようにスタンガンを振り回している。
 だがいくら頑張っても二人なのだ、その隙をついて、トカゲは横から回り込んでいた。
「どうしよう、だめ…」
 足ががくがくと震え出す。
 どうすればいいの?、どうすれば…
 頼るものがなにも無い。
 碇君…
 必死のシンジが見える。
「山岸さん!」
 シンジも気がついたのか、トカゲについ背を向けた。
「あぐ!」
「碇君!」
 トカゲに押し倒されるシンジ。
「このっ!」
 シンジは身をよじったが無駄だった。
 ドカッ!
 猫が体当たりをかけて助ける。
 シャーー…
 トカゲの息を吐く音が間近くで聞こえた。
「山岸さん!」
 ひっ!
 シンジの声がきっかけになって、マユミはついしゃがみこもうとしてバランスを崩した。
「きゃ!」
 倒れ込む瞬間、うろに入り込もうとしたトカゲに手をかけ、巻き込んだ。
 ドサ!
 一緒に落ちるトカゲ。
「きゃああ!」
 ばたばたとマユミの上で暴れ回る。
「この!」
 シンジはそのトカゲにスタンガンを見舞った。
「あっちいけよ!」
 更に持ち上げ、放り捨てる。
 ドサ!
「大丈夫だから!」
 シンジは脅えるマユミの頭を抱え込んだ。
 マユミはシンジの腕に手をかけるように、その体で自分を隠す。
「なんだ?」
 空気がシン…と、静まり返った。
「…産まれたんだ」
「え?、あ!」
 マユミはその呟きの意味に気がついた。
 シュー、シュー、シュー…
 トカゲ達の気がさらに荒くなる。
「どうしたんだろう?」
 不安になりながらも、中腰を起こす。
 その腰には、不安げにマユミがしがみついている。
 シンジ達には分からなかったが、お産のために新しい血の匂いがしてしまったのだ。
「まだ、くる!」
 シンジは今度こそ絶望を感じた。
 シャアアアア!
 だが猫の方はまだまだ諦めてはいない。
 さらに身を低くして、威嚇の声を上げている。
「行かなくちゃ…」
 シンジはマユミの手をそっと引き剥がした。
「碇君?」
「行かなくちゃ、まだ戦わなくちゃ、守らなきゃ…」
 誰をかはわからない、だがシンジの呟きは呪文のように、シンジ自身を奮い立たせていく。
「うわああああああ!」
 シンジの上げた雄叫びに、トカゲ達もびくりと震えた。






 朝が来た。
 産まれた子猫の背を、ペロペロと舐めている親猫。
 シンジはちょっとだけ覗くと、微笑んでからうろを離れた。
「…酷いや」
 缶詰は無事だったのだが、乾パンやクッキー、チョコなどの携帯食料はやられていた。
「山岸さん、連絡取れたかな?」
 その頃マユミは、少し離れた場所で無線機を使っていた。


 血の匂い、ここまでしてる…
 猫が噛み殺したトカゲの死体。
 それの発する匂いだ、あの大樹が見えなくなるまで離れたというのに、血の香りは漂ってきていた。
 マユミはまだ少し脅えて震えている。
 適当な木を見つけて、その根元にうずくまった。
 携帯型の無線機だ、受話器のように耳に当てて、良く知っている子を呼び出した。
「あ、マナ?」
「マユミ?、この裏切り者ー!」
 いきなり耳が痛くなった。
「裏切り者って…」
「知らなかったわよ、マユミまでシンちゃん狙ってたなんてぇ!」
 真っ赤になるマユミ。
「ち、違うわ!、あたしそんなこと考えて…」
「何焦ってるのよ?、わかってるって、で、シンちゃんはどうなの?」
 マユミは夕べからのことをかいつまんで聞かせた。
「そう…」
「うん、あたし何もできなくて…、恐かった、かかわるんじゃなかったって思った、逃げたいって泣きたかった!」
「ちょっとマユミ!?」
 マナはいつまでもうなだれているマユミが容易に想像できた。
「マナ…」
 うつろな瞳を上げる。
 何も写さない瞳だ。
「マユミは、今なにしてるの?」
「なにって…」
 また下を向く。
「…シンちゃんを鍛えるんじゃなかったの?」
「だって…」
 口答えもできない。
「情けないなぁ…、そんなことじゃシンちゃんにも負けちゃってるわよ?」
 マユミの肩が、ピクリと震えた。
「打たれ強いもんね?、シンちゃんって…」
「恐かった!、どうしていいのかも分からなかった!」
「うん、わかるわよ…」
 わかってない!
 マユミはつい、そう言いかけた。
「…マユミは一度も恐い目にあわないままで生きていくつもりだったの?」
「え?」
 普通はそんなこと、考えもしないだろう。
「マナ?」
「シンちゃんは確かにいい加減ではっきりしなくて優柔不断に見えるかもしれないけど…」
 気分的にだろう、声を潜めてしまっている。
「シンちゃんは頑張ってるのよ?、頑張ってその結果が出ない内からくじけたりはしないの、深く考えてないだけかも知れないけどね?」
 ペロッと舌を出しているかもしれない。
「それでも結果に結び付かない内から、それなりにみんなと付き合うような、そんな最低な人でも無いのよ?」
 マユミは顔を上げた。
「もしそんな最低な人なら、例えそのまま付き合ってても、きっと他の子が出てきたらまた別の子に走っちゃうと思うわけ」
 マユミは思った。
 その最低な状態が今なんじゃないの?
「だからマユミには期待してるのよ?」
「え?」
 耳打ちする。
「しっかりシンちゃんを鍛えてね?、シンちゃんを優しいだけの男の子にはしないで」
「うん…」
 マユミは、「わかった」と、ちゃんと答えた。






「碇君…」
「あ、山岸さん、連絡はついたの?」
 マユミはこくんと頷いた。
「あの猫達は?」
「引っ越してっちゃったよ、ここはもう安全じゃないし、動き回れるようにもなったからね?」
 うん…
 マユミは放り出されているトカゲの死骸を見た。
「さ、僕たちも戻ろうか?」
「浜辺に?」
「あっちの方が安全だからね」
 シンジはまとめた荷物を背負った。


 ガサ、ガサっとまた枝葉をかきわけながら戻る道。
「碇君?」
「なに?」
 シンジが獣道をかきわけていくのを確認してしまう。
「碇君は、自分のことが好きですか?」
「へ?」
 いきなり何?
 そんな顔をして、シンジは振り返った。
「どうしたのさ、急に…」
「いいから、答えて下さい」
 う〜んと首を捻りながら、再び道を歩き出す。
「ねえ、もし、さ…」
 シンジは質問に質問で返した。
「好きな人がいて、その人がなにをしても許してくれるとして、それでも山岸さんはその人に何かをねだったりできる?」
 マユミは首を捻ってしまった。
「それは、どういう…」
「たとえば、その人が嫌がる事であったとしてもさ…」
「そんなの、言えるわけ…」
「でしょう?」
 荷物を背負い直す、寝袋などもあるのでかなり重い。
「それは山岸さんが人の嫌がることをする自分が嫌いだからだよね?、でも逆に人が嫌だって思う事をしない自分を好きだって言えるようになれたら、凄いと思わないかなぁ?」
 マユミは押し黙ってしまった。
「色々あったんだ…、でもわかったんだ、みんな自分の好きな人間になろうとしてるって」
 森を抜けた、潮の香りがする。
「だから僕は我慢できるんだ、どんなに辛くても我慢するんだ」
 照り付ける太陽、陽射しの下に帰って来た。
「さあ、もう一度頑張ろうよ」
「はい…」
 マユミはとりあえず、付き合って見ようかと思い始めていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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