NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':Turn Namber 54 


「少しは見直したのに…」
 口で言うのは簡単と言う事だろう。
「ぜぇぜぇぜぇ…」
 だらだらと吹き出す汗に我慢できなくなったのか?、シンジが浄水器へとふらついていく。
「碇君!、真面目にやって下さい!」
「だ、だめだよ…、人間の体のほとんどは水でできてるんだよ?、水分が無くなったら死んじゃうって…」
「腹を決めた人がお腹がたるむようなことしないで下さい!」
「で、でも…」
「さっきのカッコ良さは何処へ行っちゃったんですか!?、そんなところをレイ達に見られたらどうするの!」
 うぐっ!?
 それを言われると返す言葉も無い。
 シンジはまたふらふらと波打ち際へと戻っていく。
「まったく…」
 腰に手を当てて、ふうっとため息をつくマユミ。
「はは…、僕には根性が無いのかな?、当たり前だよな、僕に根性なんてあるわけないんだ、大体なんでいいカッコするためにこんなことしてんだよ、あの父さんの息子だよ?、父さんだって尻に敷かれてるじゃないか、そだよ、情けなくったって良いんだ、情けないままでも良いんだ…」
 もう意識がもうろうとしてしまっているらしい、まともな思考が出来ないでいる。
 押し寄せて来る波から、少しだけ涼が取れていたのだが、いまでは足を引っ張られるだけで重荷にしかなっていない。
 意識が遠くなって来る。
「碇君!」
 マユミの叫びが聞こえた。
 倒れ伏す瞬間、シンジは「日射病」と言う言葉を思い出していた。






「あ、流れ星ですぅ…」
 あいかわらず、ベランダですんすんと鼻をすすっていたミズホが不意に顔を上げた。
「昼間には見えません」
 腰に手を当て、後頭部にお怒りマークを張り付けているユイ。
「それよりも、一晩中こんな所に座っていないの!」
「ふぇえええん、だってシンジさまが帰ってらっしゃった時…」


「お帰りなさいですぅ!」
「わ、ミズホ!?、どうしたのさ、学校は?」
 シンジは驚きながらもミズホを受け止めた。
「シンジ様が帰ってらっしゃった時に、一番にお帰りなさいって…」
「言いたかったの?」
「はいですぅ…」
 うるうるミズホ、そんなミズホのおつむをこつんと叩く。
「悪い子だね?、学校をサボるなんて…」
「でもでもぉ…」
「うん、嬉しいよ、ミズホ…」
 あ…
 顎先を持ち上げられる。
「シンジ様…」
「ただいま?、ミズホ…」
「お帰りなさいですぅ」


「そしてシンジ様のキスが、口付けがぁ〜〜〜!?」
「夢は寝ている時に見なさい!」
 ぽかんと叩く。
「まったく、誰に似たのかしら?」
 そいつは前からそんなものよ。
 冷たい目を向けているアスカ。
「ほら!、アスカちゃんと一緒にプールにでも行って来なさい!」
「ふええ!?」
「一日中そんな所に居るから、不健康な妄想に浸るんです、まったく!」
 そう言ってアスカに振り返る。
「あら、レイちゃんは?」
「お風呂場で水浴びしてます、もう二時間になるかしら?」
 まったく!
 怒りのボルテージがさらに持ち上がる。
「極楽〜☆」
 その頃レイは、湯船から足を放り出して、水浴びに快感していた。






 それから数週間が流れた。
 時は夏休みに入ってしまう。
 しかし世間が休んでいても、相田ケンスケの朝はかわらず早かった。
「よし!」
 起き上がると同時に、先ずはネットで今日の天気をチェックし、次に実際に外の曇り具合と湿度をチェックする。
「これなら今日のレンズは…」
 次にカメラとレンズの選択、天候に絶対は無いので、正副予備の三つを用意しておく。
「さて、行くか!」
 まだ6時ではあるが、今からでなければ各クラブの朝練の風景をカメラに収めることはできないのだ。
 今日は…、その後お昼から海か。
 和美はすでに帰っている、つい先日までは、その相手をしなければならなかったので、ろくに「新作」を収める事ができなかった。
 行くのが決定しているのはアスカ、レイ、そしてヒカリとトウジ、カヲルと言ったいつもの面子になっている。
「耐水用のD型装備にしないとな」
 日付を見る、もう7月も終わろうとしている。
「シンジ、いつ帰って来るんだろうな?」
 ケンスケの情報網を持ってしても不明である。
 何をしているのかが、非常に気にはなっていた。






「ほら、さっさと来るの!」
「ふえええ〜ん!」
 アスカに引きずられながら、ミズホも駅前に連れて来られていた。
「あれ?、結局信濃も来たんだ」
「おばさまが切れてるのよ、いい加減うっとうしいって」
 みんなで「ははは…」と汗を拭く。
 最近のミズホの動向の怪しさは、みんなの知る所になっていた。
「それで相田、ちゃんとカメラは持って来たんでしょうねぇ?」
 今日は以前からの約束の通り、水着姿の撮影を行うのだ。
「持って来たけど、適当に遊んでてくれればいいからさ」
「当ったり前よ!、このあたしに目線からポーズから要求するつもりなの?」
 儲けの何%かは持ってくんだから、協力してくれたっていいじゃないか…
 そうは思っても、それを口に出すような危険は犯さない。
 まあ今日は目の保養も兼ねるか…
 眼鏡の端には、既にお尻をつねられているトウジの姿が写っていた。






「はい、碇君」
「うん…」
 電車の中に並んで座っている。
 シンジはマユミから、冷凍ミカンを受け取った。
 やっと帰れるんだ…
 くっと涙を堪えているシンジ。
「思えば色々とあったよなぁ…」
「なんですか?、急に…」
「お腹が痛いと言えば、仮病は認めないって言われるし」
「当たり前です」
「僕をいじめて楽しいって聞けば…」
「嫌いなんです、気の弱い人って」
「…だからって病気になるほどやらせなくてもいいじゃないか」
「頑張るって言い出したのは碇君でしょう?、なら命ぐらいかけてください」
「死んだら元も子もないじゃないか…」
「意思の弱い人って、情けないですよね?」
 窓辺に頬杖をついたままで、シクシクと涙を流す。
「あ、マナ?」
 不意の言葉に横を向くと、マユミが携帯電話を取り出していた。
「うん、もうすぐ着くの、出迎え?、いいわよ…、あたしじゃなくて碇君の?、勝手にしていいと思う」
「うう、僕が何したって言うんだよ…」
 今度はさめざめとしてしまう。
 神様って、本当は僕のことが嫌いなのかな?
 思い浮かべた神様は、なぜかミズホに羽根が生えた姿をしていた。
 しかもそれが極楽トンボの羽根だったので、どうにも御利益は薄そうだった。



続く








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