NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':Access56 


「あらあなた、お仕事は?」
 いつもの時間になっても着替えようとしていない。
「一段落着いたのでな?、休みを取った」
 どうもシンジの事らしい。
「久しぶりですね?」
「ああ、たまにはのんびりと過ごすのもいい」
 珍しい優雅な一時だ。
「そうだわ!」
 ユイは何かを思い出して手を打った。
「たまには映画でもどうですか?」
「映画?」
「ええ、チケットがちょうど2枚あるんです、シンジ達ですと取り合いになるんで、どうしようかと思っていたんですけど、ちょうどよかったわ」
 ばたばたと慌てて取って来る。
「新聞屋さんに貰ったんですよ?、いつもとても親切で…」
 券を見る、恋愛物だ。
「ふむ…、すまんな、ユイ」
「はい?」
「今日は少しやりたい事が」
「そうですか…」
 行きたくないからとついた嘘。
 ゲンドウは傷つかれて少し焦った。
「ユイ…」
「いえ、いいんです」
 ニコッと微笑む。
「ここ数年忙しくて、デートもしたことなかったでしょ?、あなたと…と思うと」
 そっと目元を拭う仕草。
「この券、やはりシンジ達に…」
「わかった、わかったよ、ユイ…」
 ふうっとため息をつく。
「それでは!」
「何時からだ?」
「6時からです、すぐにしたくしましょ?」
「ああ…」
 ゲンドウは立ち上がりながら、ふと思い出したように付け加えた。
「それからな、ユイ」
「はい?」
「その新聞屋、家に上げてはいかんぞ」
「ま、あなたったら」
 ユイは新聞屋を男と勘違いしているゲンドウに、少し可愛さを感じてしまった。


GenesisQ'第56話
炎の言霊



「お兄ちゃん、電気ぐらいつけたら…、うわぁ!」
「ぬへぇ…」
 頬を押さえてほけらっとしているトウジ。
「き、気持ち悪い…、どうしたの?」
「ハルカ…、夏は青春の季節やのぉ!」
「ガッツポーズ取られても…」
 たははっとハルカは困り顔。
「それでなんか用なんかぁ?、わしいま忙しいんやけどなぁ」
 なにが?、とは思ったが、深く考えない方が幸せなのは間違い無い。
「えっとね?、電話」
 受話器を差し出す。
「誰や?」
「シンジお兄ちゃんから」
 シンジぃ?
 あからさまに嫌そうな顔をする。
「なんやぁ?、わしいま男の声なんぞ聞きたないでぇ…」
 なに準備してるんだろう?
 突如両のこめかみに人差し指を当て、これはヒカリからの電話やヒカリからの…、と呟く兄を無気味に思う。
 こういうのは好きなんでしょ?
 こういうのは好きなんでしょ?
 こういうのは好きなんでしょ?
「よっしゃ!」
 リフレインして、忘れないようにしたらしい。
「もしもし!」
 ハルカから受話器をひったくる。
「あ、トウジ?」
「おう、今日は大変やったわ」
 明るいな…、トウジのテンションについていけない。
「そ、そう?」
「まあったくケンスケにも困ったもんやで、おなごをあないな目で見おって」
 なんだろうな?
 シンジはちょっと突っ込んでみた。
「それはトウジだって同じじゃないの?」
「な、なに言うてんねん!、わしはそんなことせぇへん、ヒカリ一筋やないか!」
 あれ?っとシンジは思った。
 トウジがこんなこと言うなんて…
 一方トウジは…
 うわ!、いまワシなに言うてしもたんや!?
 調子に乗り過ぎて焦ったようだ。
「すまん、今のは忘れてくれや!」
「うん…、いいけど」
「いや、忘れられたらいかんのやけど、あ、わ、わしなに言うてんのやろな!?」
 のろけられてる場合じゃないよな…
 シンジも本題に入ろうと焦った。
「それでミズホの事なんだけど…」
「信濃ぉ?、なんやしつこいなぁ…」
 シンジはムッとしてしまった。
「そんな言い方…」
「嫉妬すんのもええかげんにせんと、ワシも怒るで?」
 バカにして!
 トウジの物言いが油を注ぐ。
「そ、それにやな?、信濃なんてあかんて、やっぱヒカリの方がええわ、あ、いや!、嫌らしい意味とちゃうで!?」
「なにが!、写真売りまくってるくせに!」
 サーッとトウジの顔から血の気が引いた。
「な、なんでお前が知っとんのや!」
 何を今更!
 シンジはトウジのおかしさに気がつかない。
「ちゃう、ちゃうんや、あれは!」
「なんだよ!」
 棚に上げようとするのが許せない。
「あれはケンスケがやなぁ!」
「もういいよ!」
「あ、ちょい待てって…」
「さよなら!」
 ガチャン!
「あ、待ってぇな、デートはどないすんねんなぁ〜!」
 デート?
 とっくに切れていると言うのに、トウジは受話器に向かって絶叫している。
 シンジをヒカリと思い込む、その自己催眠は完璧に作用していたらしい。
 お兄ちゃん、シンジお兄ちゃんと、そうだったんだ…
 しかしハルカは、兄もその道に踏み込んだのだと、勝手に思い違いをしていた。


 受話器を叩きつけたまま、シンジは固まったように動かない。
「し、シンジさま?」
 ミズホが怖々と覗き込むと、シンジは壁の一点を睨んでいた。
 シンジさま、ミズホのためにそれ程まで…
 怒ってくれてと、両手を組み合わせて、うっとりと入り込む。
「嫉妬…、甘美な響きですぅ」
 いつもなら「うっさい!」っと突っ込まれる所だが、あいにくとその二人はここにいなかった。






「にゃー!、アスカ勘弁してってぇ!」
 レイは子供部屋の壁際に追い詰められていた。
「い・や・よ・!、手を組む前に、まずはお互いの隔たりをなくっちゃね?」
 にんまりと優しい笑みで手を差し出す。
「な、なに?」
「あれよ?」
「あれ?」
「あれを出せって言ってるの!」
 アスカは照れているのか?、何故だか顔が上気している。
「ああ、あれ?」
 レイはその感じに、ようやくなんのことだか思い至った。


 時間はちょっと遡る。
「それでは、儀式を始めます…」
 わざわざローブ代わりにシーツを被るレイ。
 手にはろうそく、だが暑いのでエアコンは全開だ。
「はいですぅ!」
 神妙に頷くミズホ、畳の上にはいびつな魔法陣がフリーハンドで描かれている。
 良く見ればチラシの裏を繋ぎ合わせて作ったものだ。
 その上にばらまかれている写真は…
「あ、このシンちゃんいいなぁ…、ミズホ焼き増しさせて?」
「だめですぅ!、宝物なんですからぁ」
 他にはシンジに買ってもらった靴下や、果てはアイスの棒まで積まれている。
「さ、これで準備おっけぃ!、後は一身に祈るだけ!」
「はい!」
 ミズホはレイは同じように膝をついて、祈るように瞑想に入った。
 シンジ様、シンジ様、シンジ様!
 目を閉じて念じまくる。
 以前思い付いた、テレパシーによるシンジとの伝心を目指しているらしい。
「もっと祈るの!、頭の中がシンちゃんで一杯になるくらいに!」
「はいですぅ!」
 そのためのシンジづくしらしい、気分的にはUFOとの交信に似ている。
「シンジ様!、シンジ様!、シンジ様!!」
 教官の言うことに素直に従うミズホ。
「よし、いい調子!」
 目、閉じてるかなぁ?
 薄目を開けて横目にちらっと。
 今度は顔の前で手のひらを振ってみる。
 おっけー☆
 にこっと奇麗に微笑んで、レイはひょいひょいっと数枚の写真をブラの中に隠していった。
「あんたらバカぁ?」


 ペタンと腰を落とすレイ。
「いやぁあ!、足りないって騒ぐミズホ、ごまかすの大変だったのにぃ!」
 もう入れていないはずなのに、レイは胸を抱き隠して逃げすさった。
「そんなの知らないわよ?、さあさっさと渡さないと…」
 ふっふっふっと、邪悪な笑み。
「剥ぐわよ?」
「え?」
「剥いでシンジの前に突き出してやるって言ってんの!」
「アスカ!、シンちゃんと既成事実作るの手伝ってくれるの!?」
「だぁ!」
 怒りにレイをひっくり返す。
「いったーいよ、アスカ!」
「うっさい!、どうしてあんたはそう、「はじらい」とか「羞恥心」ってもんがないのよ!」
 ぶうっとふくれる。
「だってぇ、いいじゃない、シンちゃんなんだし…」
「あっまーい!、あんたがそんなだからっ、シンジがスケベになってくのよ!」
 ビシッと指差す。
「そっかなぁ?」
 レイは可愛く小首を傾げた。
「そうよ、そう!、まったく鼻の下伸ばしちゃって、だらしないったら…」
「アスカ…」
「な、なによ?」
 レイの「ははぁん?」な横目に焦りまくる。
「妬いてる?」
「だっ!?」
 背中を向ける。
「だぁれがあんたなんかに…」
「あれぇ?、あたしだけじゃないんだぁ…」
 うりうりと足を伸ばして突っついてみる。
「アスカって、堅かったんだ」
「ち、違うわよ!」
「そうよねぇ?、じゃあどうして?」
「え!?」
 レイは立ち上がると、背中から抱きついた。
「アスカも素直になればいいのに…」
 耳元の囁きに、ちょっと心惹かれてしまう。
「素直にシンちゃんに抱きつけばいいじゃない?」
「してるわよ、一応…」
 首に回された手に手をかける。
「一応でしょ?、それじゃあミズホにだって取られちゃうよ?」
「あたしは…」
 顔を伏せる。
「いいじゃない、ほっときなさいよ!」
「だめ!」
 レイはギュッと抱きしめた。
「レイ?」
「今日シンちゃんとデートしててわかったんだけど…」
「なによ?」
 ちょっと声に角が立つ。
「シンちゃん、恋愛音痴じゃないかなぁって…」
「へ?」
 キョトンとしてしまうアスカ。
「なによ、それ?」
「ううん、シンちゃんだけじゃなくて、あたしも、みんなも…、だって付き合うってなに?、キスもほとんどしたことないし…」
 耳元の台詞を聞きながら、アスカはそっと唇に指先を当てた。
「そう…、よね?」
「うん、好きな事は好きなんだけど…、きっとシンちゃんとあたし達って恋愛してないと思う」
 二人で深刻になってしまう。
「レイ?」
「ん?」
「それはそれとして、写真は焼き増ししなさいよね?」
 ちゃっかりしてるんだから。
 レイは微笑み、頷いた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

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