NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':62 


 どうしよう…
 シンジの悩み、それは周りも同じこと。
 ザワザワと水面下でうるさく、まるで授業に身が入らない。
 どうしてもみんなの、『進んだ』発言に当てられてしまう。
 ぼうっとくり返し考えている。
 どうしたらいいの?
 こんなことはじめ…
 てだ、と思いかけたが考え直した。
 まともに授業を受けた記憶が無いのは何故だろう?
 ま、いいや。
 その辺の都合は放り出す。
 どうしよう?
 シンジはレイの様子を盗み見た。
 …なにやってんの?
 唇と鼻の間でペンを挟んで遊んでいる。
「はぁ…」
 どうしてもついて出てしまう溜め息が、余計に自分を悩ませる。
 僕が悩む事じゃないんだけど…
 問題は先行してしまった噂だろう。
 当然のごとく「レイだけが特別な関係」と言う噂では無くなってしまっている。
 シンジ様はとってもお優しくてぇ…
 赤くなって『はうはう』言ってたな…
 噂と現実が半ば混ざってしまっているミズホは置いておくとして。
 アスカに連行されていったが、そのあとどうなったのかは定かではない。
 後はアスカがいつキレるか、か。
「頭痛いよ…」
 その呟きを、隣を通ろうとした国語教師が拾ってしまった。
「碇君、頭痛かね?」
「え?」
「顔が真っ青だぞ?」
「は、はぁ…」
 生返事を返す、それが良かったのか悪かったのか…
「あ〜、保健委員は…」
 シンジは保健室行きとなってしまった。


 気が引けたので一人で向かった。
 保健室は満員だった。
 唸っているのは現実を見たくない少年達。
 ここに入ったら、殺されるな…
 シンジの予感はほぼ正しいだろう…
 だからって逃げてもしょうがないんだけどさ…
 嫌になる。
 アスカって…
 レイって…
 ミズホって…
 どんな初体験が似合うだろう?
 家?
 旅行?
 デートの先?
 そんな事を考えている自分がとても嫌だ。
 誰かになら問題なかったのかもしれない。
 でも三人を一度に考えてしまう。
 嫌らしいよな…
 だから意識的に排除する。
 暗い感情は心の底に。
 真面目と思える事を表層に。
 そうして想いを封じ込める。
 誰かとを想像してしまわないように。
 一人に対する気持ちを強くしないように。
 え?
 シンジはふいに立ち止まった。
 授業中の廊下はとても寂しく、静寂でシンジを包み込む。
 いま、僕…
 自分の考えが信じられなかった。
 どうして?
 答えがどうしても見つからない。


 時が経つほど、君の笑顔がなにか…
 とても、寂しく。
 手が届く物に、答え探し求めても…
 何も、見つからず、ただ苦しみ増えて。

 言葉少なに、伝えたいメロディーを…
 いつも、かき消し…
 一人の時と、君の悲しみ知りながら…
 僕は、目を逸らす。

 いい加減さを重ねて…
 自惚れただ積み合わせ。
 優しさもない…
 見せ掛けの愛。

 君と、手を繋いで。
 幸せさがし続け…
 求め、歩いて。
 そんな日々も悪くは、ないけど?
 嘘の、川に溺れ。
 その瞳、輝き…
 曇らす、ことしか!
 とても、できない僕の、情けなさが…



 選び切れない…
 別れた果てに困り。
 道を探して…

 夢で描いた。
 ただの日常だけど…
 それもつかめず…

 さ迷い、闇の中を…
 照らし出す、何か求め。
 胸の鼓動と…
 リズム感じ!

 君の、手を探して…
 夜の向こうの君に…
 この手、突き出す!
 その温もりに、ただ触れたいから。
 失うことに脅え…
 夢のかけらに変えて…
 無かった、物だと!
 一人、堪え忍ぶ夜が、あるから…

 Ah…、Ah…、Ah…
 Ah…、Ah…、Ah…
 Ah…、Ah…、Ah…、Ahh…

 空が広がる…、街のざわめき聞きながら。
 いつも、探すよ…
 僕には何が、ある?


 パチパチパチ…
 ほとんどが鼻歌。
 屋上の柵にもたれていたシンジを誰かが誉めた。
「わりと良い声をしてるじゃないか?」
「加持さん…」
 何を黄昏てるんだ?
 いつものようににやけた表情が聞いている。
「…こればっかりは」
 やっぱり溜め息。
「噂は噂だろ?」
「いえ、そうじゃなくて…」
 聞いても良いものだろうか?
 少しの迷いはあったが、シンジは尋ねた。
「加持さん…」
「ん?」
「初めて二股かけた時って、どんな気持ちでした?」
 おいおい…
 さすがの加持も驚いている。
「俺は特定の彼女を作らなかったからそうなっただけさ…、シンジ君とは違うだろ?」
「そうでしょうか?」
 加持は言う。
「シンジ君は誰か一人を選ぼうとして保留にしてる…、大違いだよ」
「でも、このままじゃ動けそうに無いし」
 シンジの隣にもたれ、堂々とタバコに火を付けた。
「…吸うか?」
「指導室行きは嫌ですから」
「そうか…」
 ふうっと、一度煙を吹く。
「気まずくなるのが恐いか?」
「そうなんでしょうか?」
 自分でも良く分かってはいない。
「このまま流されていればいずれは傷つく、だが選んだとしても誰かは泣くだろうな?」
 シンジは上目づかいに加持を睨んだ。
「脅し、ですか?」
 いや?っと加持は首を振る。
「じゃあ…」
「人は器用なものでね?、振られたら振られたで、それでも友達で居ようとする」
「……」
「それなりにやっていける距離を見つけるものさ」
「たとえば離れ離れになったり?」
「何でも無いふりをして泣き顔を隠す…、これはシンジ君も経験した事があるんじゃないのか?」
 自分?、あるいはアスカ達?
 そのどちらにも覚えがあった。
「そうやってずっと友達でいてくれるさ…」
 何事もないように。
 平然とした振りをして…
「だからって」
 そんなの…
 自分自身が堪えられない。
 だって僕は知っているから。
 アスカの気持ちを、レイの考えを。
「温泉に行ってから、急に悩み始めたな?」
 ビクッとシンジは肩を震わせた。
「僕は…」
「行く前はそんな顔をしてなかったぞ?、どうした?」
 流れと雰囲気のせいで、つい素直に漏らしてしまう。
「レイと二人っきりになって…」
「で?」
「アスカ達のことが消えちゃって…」
「そうか…」
「でも違うんです!」
 まるですがるようにシンジは叫んだ。
「アスカだとアスカのことしか考えなくなっちゃって…、なんていい加減なんだろうって…」
 なるほどな…
 いつもの冗談で良いのならこう言うだろう。
 男なんてそんなもんだ。
 基本的にバカだから…
 向こうが抱きついてOKと言えば、そりゃあクラッと来て当然だろう…
 しかし隣の少年はそれができないでいる。
 何故か?
 傷つく所を見て来たからか?、違うな。
 直感する。
 俺の助言じゃ、シンジ君には役立たない…
 子供の純粋な恋愛と、大人の汚い付き合いの狭間に立っている。
 さて、どうするか…
 加持にも適当な言葉が浮かばなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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