NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':63 


 バオン!、キキー!、ガシャン!
 最後のガシャンはご愛敬と言う奴だろう。
 校門にブルーの車が横付けされた。
「待ってシンちゃん!」
 慌てて飛び出そうとした少年、だがその腕を取って引き寄せられた。
 チュッ!
「忘れ物よん☆」
 ホッペに一撃。
「からかわないでくださいよ、もう!」
 跳びすさったのをにっこりと見逃して、ミサトはじゃあねんっと車を出した。
「まったくもう…、うっ!」
 それでもだらしのない表情は隠せない。
 シンジは校門をくぐろうとして、周囲の視線に引いてしまった。
 そしてこういう時にこそ、悔し涙を流すために彼がいる。
「い〜か〜り〜くぅん…」
「い、鰯水君…」
 どうしてお前ばっかりが!っと、血の涙を流す彼に、シンジはかける言葉が見つからなかった。



第六拾参話「かめ!」



「それがすっげぇお姉様って感じでさぁ」
 さっそく噂になっている。
「へぇ〜〜〜、碇ってそんなお姉さんに保護されちゃってんだ?」
 教室はそんな話題で持ち切りだ。
「でも綾波さんの噂が出たばっかりなのに…」
「やっぱり年上のお姉さんに教えてもらってんのかな?」
「……」
「「「すげぇぜ!、なんちて」」」
 ある種、尊敬と畏敬の年が込められた視線も感じられる。
 しかしシンジはそれ所では無い状況にあった。
「あんった、バカァ!?」
 もう面倒見切れないとばかりにアスカが指差す。
 背後で鰯水が頷いている所から、告げ口したのは彼だろう。
「そんなこと、言ったってさ…」
「言ったってじゃないわよ、あんた全然反省ってもんをしてないじゃない!」
 ふざけたのはミサトだし、そもそもが加持の紹介で相談に乗ってもらっただけなのだから。
「別に、僕が悪いわけじゃ…」
「相手がおばさんだからって、一人暮らしの女の所に泊まって来て、そういう言い訳するわけね?」
 お気付きのことだと思うが、いつも騒ぎ立てるはずのミズホはいない。
 少しカメラを移動しよう。
「ほらほら、ミズホ☆」
「うにゃんですぅ!」
 ハエ叩きにシンジの写真を貼っつけた『ミズホじゃらし』によって足留めされていたのだ。
 ちなみに実行部隊はレイただ一人である。
「別にやましいことなんかないよ…」
「じゃあどうして目を逸らすのよ!」
 詰問口調もきつくなる。
 怒るからじゃないか…
 口ごもるが、それを言うわけにはいかない、火に油を注ぐのが目に見えているからだ。
「だからぁ、久しぶりだったんでコーヒーでも飲んでけって誘われて、後ちょっと長居しちゃっただけだって言ってるだろう?」
「でも校門であれだったんだろ?、おはようのキスもしたんですよ、きっと」
 ギク…
「ちょっと…」
 鰯水の邪推が図星を突いた。
「あんたまさか…」
 アスカの目は、これ以上ないぐらいに軽蔑色を強めて細くなる。
「違うよ、誤解だよ!、寝坊しちゃったから慌ててミサトさんに声かけたら寝ぼけて抱きつかれて…」
 あ…
 シンジは失策に気がついた。
「アスカ…、さん?」
 ピクピクと眉が跳ねている。
「『ミサトさん』?、『抱きつかれた』?」
「そ、そんなに怒ることないじゃないか!」
「なによ、あんたが悪いんじゃない!」
「僕の何処が悪いんだよ!」
「そんなの自分で考えなさいよ!」
「わからないよ、わかるわけないだろ!」
なんですってぇ!?
 二人ともヒートし過ぎてとまれない。
「ちょっと遊びに寄らせてもらっただけだし、ふざけてただけじゃないか!」
「ふうん、あんたふざけてそう言う事するんだ?」
「僕がしたわけじゃないだろう!?」
「どうだか…」
「なんだよ、なに嫉妬してんだよ、そんなの気にすることない…」
 パン!
 シンジの頬が久々に鳴った。
「あ…」
 急激に冷めていく。
「アスカ…」
 しかし冷ややかに見下ろされた。
「最低…、信じらんない」
「アスカ」
「近寄らないで!」
 伸ばした手がびくりと震えた。
「あんたなんか知らない、絶交よ!」
 向けられる背中に声をかけられない。
 アスカぁ…
 情けない表情のシンジ、その背後で鰯水が「シッシッシッ」っと笑っていた。


 家に帰りつく。
 納戸、ロフト、屋根裏部屋、どうとでも呼べるような部屋で、シンジは天井、屋根にある窓に向かって黄昏れていた。
 はぁ…
 窓は十度から二十度の角度がある。
 ガラスのテーブルに頬杖をつき、夕方にしてはまだ明るい空に、なにやら憂鬱な世界をかいまみている様子だった。
 と・き・に、絶交と言う物は、実を言えば仲の良さを表すバロメーターでもある。
 親密で無ければ成立しない、でなければ例え縁を切った所で、「あ、そ」っといつも通りに相手にもされなくなるだけだろう。
 元々相手は縁で繋がっていると思ってないのだから、これは当然のことと言える。
 なら絶交の効力とは?
 アスカぁ…
 まさしくいまシンジが体感している物、そのものである。
 お互いの繋がりが深ければ深かった程、それを失うには痛みが伴う。
 どうしよう…、どうすればいい?
 そこから逃げ出すためには、関係修復を試みるしかないのだが…
「シンちゃん…」
 ここに邪魔する少女がいる。
 ちょっとジェラシって、シンジの背中にすり寄り添ってみる。
 やっぱりアスカって、シンちゃんの一部なのかなぁ…
 レイはシンジの首に腕を回し、思いっきり胸を押し付けた。
 むぅ…
 しかしそれでも無反応。
 のしかかるように、頭に胸を乗っけてみる。
 むむ…
 重みにシンジはうつむいたが、それでもいつものように照れてくれない。
 つまんない…
 今度はシンジの首に腰掛けた、それでも突っ込んでくれないので、そのまま頬杖までついてみる。
 グキ…
 不可解な音が鳴ったが、それはまあ一度置いといて…
 この時、シンジは別に無視してはいなかった。
 レイも放っておいてくれればいいのに…
 ちょこんと座り込み、心配してくれているのは分かっていた。
 でも僕なんて…
 心配してもらう価値もない男なんだ…
 シンジ、既にダークゾーンに突入している。
 女の子の気持ちなんて分からないよ…、それになんだよ、アスカ達にどうすれば良いのか知りたかったからミサトさんの所に行ったんじゃないか、それを…
 その時、ぴたっと温もりが張り付いた。
 レイ…、優しいなって、なにやってんだよ?
 ぎゅうっと押し付けられる感触にドキドキする。
 レイっておっきくなったよな?、昔のアスカぐらいには…、違う!青少年らしい肉欲に踊らされてる時じゃないだろう!?
 スパーク寸前の理性を何とかなだめる。
 ぽふん☆
 うわああああ!、頭に何乗っけてんだよ!、ダメだ!、こういう時は他のことを考えなきゃ…、そうだ天気!、明日の天気はどうなんだろう?、アスカの機嫌も晴れてくれないかな?、明日の天気はアスカのちミズホるでしょう、なんちて…、レイが入ってないや。
 グキッ!
 重いいいいいいいい!、どこすわってんだようおおおおお!
 などなど。
 意識の底に沈んでループ状に物事を考えてしまう寸前、シンジは一筋の光のようにレイを感じ、ロープにすがって現実へと逃げていた。


 その同時刻、アスカはアスカで悩んでいた。
 むう、失敗したわね…
 アスカの部屋、ノートは開いていても宿題は全くはかどっていない。
「良く考えたら、あたしの損の方が大きいじゃない…」
 今頃レイとなにしてるのやら…
 ミズホは運良くと言うか、悪くと言うか、稽古ごとで遅くなる。
「まったくこういう時にいないでどうすんのよ、あのお邪魔虫…」
 カヲルは下校中、謎の女子中学生二人組に拉致られていた。
「だからって、あたしにどうしろってのよ…」
 嫉妬したのは事実だ、それを認めないほど弱くはない。
 でも、シンジにそれをねだれるだろうか?、できるだろうか?
 人前で…、そんな、き、キスするだなんて…、そんな!
「ほっぺにチュッ☆」
 言った途端に聞かれてないか心配になった。
 口に出したら相当恥ずかしいわね…
 一人で真っ赤になってのぼせ上がる。
 シンジぃ、シンジってばぁ…
 だ、ダメだよアスカ、みんな見てるよ。
 いいの、はい、ん〜〜〜…って、なんでホントのキスになんのよ!
 妄想がミズホ並みに迷走している。
 シンジと一緒に登校して…
 やだなぁ…、もう学校に着いちゃった。
 そんなに嫌?
 だってクラスが違うから、シンジと放課後まで会えないんだもん…
 ならお昼一緒に食べようか?
 ん〜〜〜、いい、だって…
 だって?
 好きなの、少し寂しいけどシンジと離れてる時間も。
 え?
 シンジいま何してるのかな?、あたしのこと考えてくれてるかなって、ドキドキして、少し好き…
 アスカ…
 だから、ね?
 うん?
 またねのチュッ☆
かぁああああああ!、ぺしぺしぺしってね!
 いつの間にかお相手として机に置いていたお猿のシンジを叩きまくる。
 なんでキスよりチュッ!の方が照れるのかしら?
 半分以上がもうどうでもいい悩みにすり変わっている。
 はぁ〜あ…、シンジと二人っきりの時に、しとけばよかったなぁ…
 お猿を抱いて愚痴りまくる。
 レイが来る以前は、少なくとも毎朝そのチャンスがあったのだ。
 もちろん当時の子供っぽいままで、そんな事が出来ようはずはないのだが…
 わかってる、わかってるのよ…
 今更考えてもしようのないことなのだが、それよりも不安の方が募ってしまう。
 これからもあたし達って、こうなのかしら?
 将来に渡って、あの時ああしておけばよかった、その時にこうしておけばと、後悔をずっとするのかもしれない。
 恥ずかしいからと照れたがために。
「そんなの嫌!」
 ぎゅっとお猿を抱きしめる。
 力が強過ぎるのか?、腕が首に入っているため、お猿の顔が膨れ上がる。
「シンジはあたしのものよ、絶対誰にも渡さないわ!」
 ゴオオオオ!、景気よく炎が燃え上がり、その熱気に乗って髪がゆらゆらと揺れ始める。
 その気合いはぬいぐるみの首が取れかける程に込められた力で見て取れるのだが、考えていることは「ほっぺたにちゅう☆」っと非常につつましやかなものであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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