NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':63 


 さて…、シンジが奥手過ぎるがゆえに、女の戦いは加熱していく一方である。
 肌を磨く事も、艶を出す事も、いつかあるかもしれない事、その事態に対して一番の自分で迎え入れる、いや、向かい撃てる態勢を整えておかなければならない。
 またそうやって女として自分を高める事こそが、シンジの気を引く事にも繋がる。
「だからって何も胸の大きさで張り合わなくても…」
 レイは勝てないので傍観組だ。
「シンちゃん…、なに赤くなってるの?」
「鼻血も出てまふ…」
 上を向いているのはそう言う事だ。
 部屋の隅っこに座る二人、真ん中ではアスカとミズホの論戦が続いている。
「シンジ様は垂れ乳なんかに興味ありません!」
「あんたみたいに急に育った奴なんて、劣化が激しくって即行しおれるわよ!」
「む!」
「それに比べてあたしのなんて張りと言い大きさと言い完璧ね?」
「お尻とウエストの太さにぴったりですぅ」
「なんですってぇ!?」
「わたしより(Pi−!)kgも多いくせに、なに言ってるんですかぁ!」
「おあいにく様!、身長と体重の比率から行けばあんたの方が太ってるのよ!」
「胸で肩こっておばあさんみたいに背を丸めてるよりましですぅ」
「「うがーーーー!」」
 ティッシュを詰めて下を向く。
 そんなシンジにテレビのリモコンがマイク代わりにつき出された。
「それでどうですか?、碇君の見解は?」
 レイの笑いを堪えるような、ひくついた口元が気になってしまう。
「シンジ様は垂れ下がった胸よりも、この張りのある…」
「あんたの風船なんて!」
 シンジはふと、レイのパジャマの膨らみを見てしまった。
「もう!、シンちゃんのエッチ…」
「あ、ごめん…」
 顔を赤くして、胸を抱き隠すレイに慌てる。
「なに考えてたの?」
「な、なにも考えてなんて…、はっ!」
 レイの吹き出すような笑いと、覆い被さるような影にドキリとする。
「シンジ様!」
「シンジ!」
「はいっ!」
 シンジがはっきりしない以上、勝利は勝ち取りもぎ取るしかないのであった。


 はぁああああ…
 アスカとミズホのケンカはシンジの大ボケによって、一応火花を散らす程度に収まった。
「いっそ死んだら楽になれるかも…」
「でもそれをするには甘くて捨てがたいんじゃないのかい?」
 カヲルの誘惑は的を得ている。
 ちなみにシンジの見る所、相当時間が経っているというのにコマが動いた様子は無い。
 詰まっちゃったのかな?
 カヲルは瞬きもせずに盤を見ている。
「禁断の果実はいつの世もリスキーな物さ…」
「別に無理してまで食べたくないのに…」
「食べ頃だからお薦めなのさ…、それともこのまま腐らせるのかい?、何もかもを」
 パチン!
 ようやく動いた。
「ファンクラブに動きがある…」
「え?」
「シンジ君が付き合わないのはその気が無いからだと…、主にシンジ君の願望派だけどね」
 パチン。
「そんなのあるの?」
「あるさ…」
 カヲルは手に持っていた将棋の本を置いた。
「そしてそれを応援する派閥も存在する…、シンジ君が誰かに決めれば、必然と片手に余る人数がフリーになるからね?、邪魔なのさ、誰にとっても」
 シンジははぁっと溜め息を吐いた。
「将棋より難しいや」
「そうかい?」
 カヲルはニコニコと状況を楽しんでいる。
「僕が誰かと付き合って、アスカ達が諦めてくれるならね…」
「勝負は最後まで分からない…、そうだね?、フリーが決定したとしても、シンジ君一筋の態度を取るかもしれない」
 でも…、とシンジは話を続ける。
「それは自惚れだよね?、僕にそんな価値は無いし」
「またくり返しているのかい?」
 同じ悩みを。
「少しなら、僕にだって何か出来ると思うよ?、でもアスカ達みんなを惹きつけておける何かって…、そこまでは自信は持てないよ」
 眉目を歪める。
「何を考えているんだい?」
 シンジは表情を引き締めた。
「…好きと、言える度胸かな?」
「度胸?」
「うん…、誰か一人だけ、側に居てもらえたらいい…、他の誰かが泣いたとしても、ごめんと謝れる勇気が欲しい…」
 それが出来ないから、到底一人になどしぼり込めない。
「贅沢だね?」
「うん…、泣かれるのは恐いよ、でも僕が寂しくなりそうでもっと恐いんだ」
 その時にはもう、誰も残っていないかもしれない。
「寒いから…」
 必要なのはあたしじゃ無かったのねと、選んだその子も去るかもしれない。
「だから今はまだ…」
「そう焦る事も無い、言わなかったかい?」
「…誰かに言われた気はする」
 結構、っとカヲルは頷いた。
「ならそれで良いじゃないか」
「うん…」
「高校の三年間は長いようで短い、でも短くても三年あるからね?、上級生は焦るかもしれない、でも受験生はせめて、まだ決まらないで欲しいと願っている、そうだろう?」
「そうかな…」
「そうだよ」
 カヲルは微笑む。
「他にもそう言う人は大勢いるんじゃないのかい?、シンジ君が誰かに決める、それは確かにフリーな状況を生み出すかもしれない…、彼女達が自暴自棄にかかって大安売りするかもしれないからね?」
 う…
 シンジは何故か苦しさを感じて胸を押さえた。
「でも下手に煽ればシンジ君はアスカちゃん達の中から誰かを選んでしまうかもしれない、それは意図する所ではないからね、面白くはないだろう…」
「…カヲル君、楽しい?」
 僕をいじめて。
 はぁはぁと息が荒くなる。
「事実を述べているだけさ…、可能性もね?、でも可能性は時間とそれに関る人の多さによって、飛躍的に選択肢を増やしていく…、適切な場所、思い切る所でシンジ君が決めなければ、他人の流れに流されるままになってしまうよ?」
「例えば今のように?」
 アスカ達の取り合いの中で、関係者なのに流されている。
「シンジ君がいさめればやめるかもしれないね、大人しくはなるかもしれない…、でもそれは彼女達の個性を殺す事になってしまう、そうじゃないのかい?、僕たちの間には確かに強い絆が存在している」
「絆?」
「そう、絆…、そしてそれを信じたままでケンカもしている…」
「だからすぐ仲直りするの?」
「どんな風に見えてもじゃれ合いだからね?、でも壊すのも簡単なのさ…、ただ一言、嫌いだと告げればいい」
「そんな!?」
「簡単なんだよ…、壊すのはね?、一言でいいさ…、一言で崩壊する、捨てられる事への恐怖、その脅えはシンジ君が一番良く知っている事だろう?」
 それは幾度も追いかけた事があったから。
 引き止めた事があったから。
「うん…」
「さっきも言ったけど、選択はここぞと言う時にすればいいと思うよ?、少なくとも今じゃないし、今は悩む事がシュミュレートになって君に知恵をもたらしてくれる」
「そうだといいけど…」
 カヲルは興味を移すように、再び本を取って駒を並べ始めた。
「シンジ君に今の幸せと引き換えに出来るほどの価値を見いだせない以上、それは彼女達の魅力不足と言う事さ…」
「そんな!?」
「彼女達はそのために己を磨く…、シンジ君は、それを見守ってあげればいい…」
 話を打ち切られて、シンジは憮然とした表情でまた頬杖をついた。
 何処が好きなの?、優しい所、か…
 優しいって、便利で曖昧な言葉だよな…、勘違いも多いし。
 そんな人だとは思わなかった!
 あれ?
 その罵りを思い付いた瞬間、シンジは少し寒気を感じた。


 翌朝。
「ほら起っきろー!、バカシンジぃ!」
「うわぁ!」
 布団をめくられゴロンと転がる。
 不意の攻撃にパニ食って、シンジはきょときょとと周囲を眺めた。
「なんだ、アスカじゃないふわーあ…」
 大あくびをして瞼を閉じる。
「寝るんじゃないわよ!」
「いててててて!」
 耳を引っ張られた。
「なんだよぉ、もぅ…」
 結局朝練をサボっているため、シンジはアスカより余分な惰眠をむさぼれる。
「まだこんな時間じゃないか…、カヲル君は?」
「薫に捕まるのが嫌だからって、もう先に行っちゃったわよ」
 ふぅん…、薫ちゃん、可哀想だな。
 とは思うのだが、実はアスカがカヲルを売ったので問題は無い。
 これを人は情報の提供と言う。
「うーん…」
 シンジはまだ目をごしごしとこすっている。
「あんた変わんないわねぇ…」
 昔からずっと寝起きは悪いままだ。
「良いじゃないかぁ…、ぼく朝ご飯要らないからもうちょっと…」
「もう!、…目ざましぐらいじゃ刺激が足んないのかしらね?」
 アスカは蠱惑的に唇を歪め、軽く右の人差し指と中指で横になぞった。
 ちゅっ…
 え?
 一瞬なにが起きたのか分からずに、横に手を突いて身を乗り出しているアスカの顔を間近に見た。
「アスカ?」
「これで目が覚めたでしょ?」
「うん…」
 驚きで呆然としてしまったのだが。
「じゃ、早く下りて来て、あんたもご飯食べなさい?、いいわね?」
「…うん」
 アスカのウィンクを見ても、まだちょっとドキドキしている。
 あー…、なんだろ?、この感じ。
 キスではなく、香りにでもなく、アスカ自身に驚いた。
 あまりに自然で、照れもしていなかったから。
 当然のような行動と、流れるような手口に驚いた。
 ビックリした…
「ちゃんと起きるのよ!」
 言い残して階段を下りていく。
 シンジはまだ固まっていた。


 どっしゃー!
 アスカは階段を下りた所でしゃがみこんだ。
 焦ったー!、やっちゃったって感じよね?
 我慢した分、一気に血が登っている。
 真っ赤になって、今にも蒸気が吹き出しそうだ。
 シンジが寝ぼけてて助かったわ、でも明日からはもうダメね?、きっと意識して緊張してると思うしね?
 シンジの照れが、アスカにも伝染してしまうだろう。
 それに安売りしてると効果無くすし。
 飴と鞭だ。
 たまにで良いのよ、たまにでね?
 アスカは自分に言い聞かせてから立ち上がった。
「よし!」
 さらに一階へと下りていく、もちろんシンジのパンを焼くために。
 大丈夫、照れてない、熱も引いた!
 シンジに気取られなければよい。
 でもうかれるような非常に軽い足取りだけは、どうしても抑える事ができなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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