NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':64 


 そりゃあ綾波レイさんの事は好きですよ?、でもみんなが思ってるような好きじゃなくて、好きな人が騙されてるのって何か許せないじゃないですか。
 そんなメールを匿名でばらまく女、山岸マユミ。
 ちょっと痛いかもしれない彼女が移動教室で歩いていると、キョロキョロと何かを探している女の子を見付けた。
 何してるのかしら?
 小学校低学年ぐらいだろう、短い髪にシャギーをかけている。
「ねえ、ちょっと…」
 ピクッと反応して振り返る。
 その瞬間、マユミはひくっと頬を引きつらせて固まった。
 キョトンとする女の子、だがマユミが動かないと見て取ると、そのままとことこと歩き去った。
 青い髪に白い肌、その子は誰かを連想させた。


第六拾四話「1ポンドの福音」


 その昔、三バカトリオと呼ばれた少年達が居た。
 そのメンバーが、こうして珍しくも揃っている。
 学校の屋上、ドアには会議中につき立ち入り禁止と貼り紙を張った上で、こちら側からノブに棒を引っ掛けて開かないように固定している。
「なんやぁ、美人のお姉様て、ミサトセンセのことやったんかぁ…」
 どよ〜んとシンジはうなだれている。
「いいよなぁシンジは、女運があってさ?」
 恨めしげにシンジは見上げる。
「なんだよそれぇ…」
「いやぁ、俺の趣味ってこれだろ?」
 構えるポーズを取る。
「やっぱ女の子には嫌われるしさ?、でもドッチを取るかって言うとこっちだし」
 それに対してトウジはついつい溜め息を吐く。
「ケンスケは偉いわ」
「なんだよ?」
「どうも逆らえんのや…、硬派を貫こうとか思てるわけやないんやけど…」
「「トウジは十分ナンパだよ」」
「ひ、酷いでお前ら!」
 ちょっとだけ雰囲気が明るくなる。
「さてと、それじゃあ本題に入ろうか?」
「うん…」
 座り込んだケンスケが、自分の携帯端末を膝に乗せた。
「ほんまにシンジって、こういうのに疎いんやな?」
 端末に電源が入り、二人はケンスケを挟むようにモニターを覗き込んだ。
「それじゃあ説明するぞ?、これがこの学校の勢力分布図だ」
 それはアスカ達を中心とする、ファンクラブの全体構造図に他ならなかった。
「先ずは惣流からだよな?」
 公認アスカファンクラブから、アスカ様にハイヒールを、の会まで、実に多様な種類がある。
「なんだこれ?」
 シンジは目を白黒させた。
「やっぱこの街で育ってるからじゃないの?、惣流は有名だよ」
「でも僕、アスカがハッピ着てるとこなんて見た事無いよ?」
 画面には何故だかやぐらの上で太鼓を叩いているアスカがいる。
「合成だよ、ちゃちいんだから…」
「そ、そうなの?」
「惣流のスリーサイズから比率を割り出すと、どう考えても頭はでかいわ足は短いわ、…わかんないのか?」
 …わかるわけないよ。
 ケンスケの分析力に驚愕する。
「こういうのが亜流なんだよ、公認…、惣流は認めてないけどさ、こっちは主に俺達から写真を買ってるし」
「…酷いや」
「惣流が認めてるから良いんだよ、公認で買ってるから公認ファンクラブ」
「ますます酷いや」
「まあクラブっつっても、単に写真揃えてるだけなんだけど、やっぱ綾波達に比べると歴史がある分だけ統制がしっかり取れてるよな?」
「はぁ?」
「ラブレターだよ、普通に出すと下駄箱が溢れるから、ローテーション組んで出してるんだ」
「はぁ…」
「まあごみ箱行き確定だからどうしようもないけど、惣流に直接頭下げに行った奴が後で闇討ちにされたって話、知ってるか?」
「うそ!?」
「それはこっちの過激派グループで、赤毛の会」
「…変な名前」
「なんでも綾波の青糸の会と小競合いが多いらしい」
「これ以上聞きたくなくなって来た」
「なに言ってんだ、これからだよ!」
 次はレイだ。
「男女比率って、なに?」
 愕然とする。
「惣流に比べると男子への人気って今一つなんだけどさ、そのぶん女子に人気があるんだよ」
「だから人気ってなに?」
「この辺りかな?」
 販売用の画像データを呼び出す。
「…ジーンズだね?」
「パンツ系が多いんだよ」
「よく僕のはいてるから」
「変にボーイッシュって言うのかな?、それよりこっちがどうも…」
「これは?」
「第三勢力」
「はぁ!?」
「いやぁ、主に女子で構成されてるんだけど、よくわからないんだ」
「よくわからないって…」
「綾波のファンクラブって言うよりは用心棒の集団なんだよな、ほらこの間のウサギ狩りの時にも綾波を守ってたろ?、それに他のクラブと連絡付けたりして動いてるし…」
「恐いよ、それ…」
「しかもバックがよくわからなくて…、女の子が端末のネットを使って動かしてるらしいんだけど」
 くしゅん!っと眼鏡に黒髪の長い女の子がくしゃみをしたのは内緒として。
「信濃派は分裂状態だな」
「どうして?」
「可愛いの内容がかなり複雑でさぁ…」
 甲斐甲斐しくお弁当を作ったり、日舞を習い始めたり、ぬいぐるみを着たり。
「人気はあるんだけど、クラブとしての指針を統合できないらしい」
「ふぅん…」
「後、…これはいいか」
「どうしてさ?」
「聞かないほうがいい」
「気になるよぉ…」
 しょうがないっと思いつつ、思わずニヤリと眼鏡が光る。
「武装、実力行使派で幾つかあるんだけど、馬の足友の会とかしっと団とか」
「あ、もういいや」
「これは主にシンジを狙う…」
「いいってば!」
 逃げるように立ち上がる。
「もういいのか?」
「うん…、知りたかっただけだし、それに…」
「それに?」
「深く関ると酷い事になりそうだから」
「まあそれはそうだろうなぁ…」
 ちちちちちっとスズメが鳴いた。
「じゃ、ぼく先に行くから」
「おう、じゃあまたな?」
 ノートを閉じる、と、ずっと無言でいたトウジが目に入った。
「…やたらと静かだったじゃないか」
「…言わんでええんかと思てな?」
「なにをだよ?」
「…碇シンジファンクラブ」
 なんで教えなきゃいけないんだよ?
 そんな意味合いを、トウジはケンスケの邪悪な笑みから読み取った。


 実際には渚カヲルのファンクラブもあって、微妙な力関係を保っているのが実情だ。
「やっぱりもてるんだ、みんな」
 むうっと頭を捻るシンジ。
「もったいない…、そう、もったいないのかな?」
 でも…と好きになった理由を考える。
 別に顔ってわけじゃないんだよな、可愛いんだけど…
 この場合、可愛いで思い出されるのはミズホだ。
 アスカはずっと側にいたし、レイは出会いからしてあれだったから…
 強烈だったので、その部分に気付く過程がすっぽりと抜けている。
 ミズホは…、ねぇ?
 アスカとレイのぶつかり合い、あれがあったから「可愛い」よりは性格の方が印象付いた。
 でもミズホは始めから『シンジ様☆』だった。
 そのミズホが何をしているかと言えば。
「むう」
 である。


「なぁに悩んでるのよ?」
「シンジ様が…、あ、なんでもないんですぅ!」
 慌てて取り消すがもう遅い。
「シンジ?、シンジがどうしたのよ?」
 またかと思いつつも、教室中の人間が耳を傾ける。
「なんでもないったら、なんでもありませぇん!」
「あんたねぇ、そんな言い訳が効くと思ってんの!?」
「それよりもぉ、どうしてアスカさんがわたしのクラスに?」
 うっ!、ミズホにしては鋭い質問…
 ちょっと侮り過ぎたかと反省する。
「い、いいじゃないそれより何考えてたのか教えなさいよ?」
「べー、ですぅ」
「むっ!、そう言うこと言うとこれ上げないわよ?」
 ごそごそと取り出したものは…
「そ、それは!?」
「シンジ特製のクッキーよ?」
 はうう!
 デフォルメシンジの型抜きがされているとはいえ、それが本当に「シンジ製」のものであるかどうかはかなり妖しい。
 特にアスカのニタニタ笑いがそれを増長している。
 しかしもうキラキラと光り出したミズホの目は曇り切っていた。
「ううう、クッキぃ…」
 ピョンピョンとミズホは跳ぶ。
 アスカが頭上に包みを持ち上げたために、ミズホの背丈では届かないのだ。
「で、シンジがどうしたって?、ん?」
「うううぅ、ご様子がおかしくってぇ…」
「シンジの?」
「なんだかぼうっとしておられてぇ…」
「どうしたのかしら?」
「今朝から変なんですぅ」
 今朝?、あ!
 動揺して固まった瞬間を狙い、ミズホは椅子、机、アスカへと連続で跳ぶ。
「シンジってばもう…」
 ぼうっとしている間にクッキーを奪い、ミズホは教室の角隅で胃袋の中に詰め込んだ。


「シンちゃんはあたしが守るから」
「はぁ?」
 いきなり潤んだ目で手を握られてもさ…
 脂汗しか出て来ない。
「ねえ、なにがどうなったの?」
 正気を無くしていると見て、マナの方に質問する。
「ん〜〜〜、女の子の決意って奴だから、好きにさせてあげたらいいと思う」
 間違った事になりそうで恐いよ。
 そして爆弾がやってきた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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