NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':64 


「あっやっなっみすわぁん☆」
 るんたた♪とスキップしていた鰯水が、ヒキッと引きつったまま凍り付いた。
 その足元を女の子がてくてくと通り過ぎる。
 瞳の色こそは違えどそっくりだ。
 先程叫んだ名の少女を幼くすればピッタリな感じ。
「あ、キクちゃんですぅ!」
「って、ちょっと何でこんな所に居るのよ!」
 彼と同じ目的地の前で鉢合わせする二人。
 慌ててアスカが抱き上げた。
「ママ、いる?」
 ママ!?
「はいはい、ママならいるわよ」
「レイさぁん!」
 レイさぁん…
 レイさぁん…
 レイさぁん…
 レイさぁん…
 がび〜ん!
 取り敢えずは鰯水が燃え尽きた。


「ママ、いた」
 空気が凍りつくというのはこのことだろう。
「キクちゃん!」
 慌てるレイ。
「あんたちゃんと言いつけておかないとダメじゃない!」
「そうですぅ、お外は恐い人で一杯なんですよぉ?」
 えいえいっとプニプニつつく。
 んーんーっと嫌がって暴れるキクちゃん。
 そのなんというか未来の光景が現出したような、えも言われぬ雰囲気に世界が崩れる。
 教室中の人間の首がギギッと音を立ててシンジを見た。
 はっ!
 正気に返り、ブンブンとシンジは首を振る。
 マナが動いた、黙ったままレイの背後に忍び寄り、ポンと軽く肩を叩く。
「レイ…、隠し子?」
 シーンッと気圧変化まで起こした空気が耳に痛い。
「えっと…、あたしとシンちゃんの…、ああっ、うそ嘘!」
 シンジが泣きそうなったのでやめた。
「近所に住んでる子よ!」
「そうですぅ、レイさんからこんなに可愛い子が生まれるはずありませぇん」
「そんなことないわよ、ね?、シンちゃん…、む!」
 ほっと胸を撫で下ろしている集団の中に、シンジが居るのを見て不機嫌になる。
「ひっどーい!、まさかシンちゃんまで疑ったの!?」
「そ、そんなことはないと思うよ!?」
「なんで「思う」なの!」
「だ、だってそっくりじゃないか!」
 めずらしく言い合いを始めるシンジとレイに、ミズホがあれぇ?っと小首を傾げる。
「…シンジ様、キクちゃん知りませんでしたっけ?」
「カヲルのバカを沈めた後にお仕置きかましたから、記憶が飛んでるんじゃない?」
 ふえ?っとしかしさらに疑問は深まる。
「アスカさん、カヲルさんのことカヲルって呼んでらっしゃいましたっけ?」
「あん?」
「う〜ん、アスカさんとカヲルさんの仲がそれほどまでに進んでいようとは、このミズホの目をもってしても…」
「あんたばかぁ?、前からそう呼んでるじゃない」
「そうでしたかぁ?、むぅ、アスカさんはシンジ様でなくカヲルさんにまで」
「だからどうしてそうなるのよ!」
「やあ、それは僕にとっても不本意だよ」
 わくな!、うっとうしい!
 見事な回し蹴りだが、カヲルはポケットに手を突っ込んだまま身を引いてかわした。
「白だね?」
「カヲルの癖に生意気なのよ!」
 間髪入れず右の正拳、こちらの方はかわせなかったようである。
「インパクトの瞬間に拳を引く事で衝撃の反作用までも相手に封じる「十七条拳法」、こうんなものにまで精通していたとは誤算だったね?」
「痛みが伝わって来る前に拳を引くのがコツなのよ!」
 まるで右足を下ろす前に左足を上げれば宙を歩ける的わざである。
「せっかく来たんだから、もうちょっと出番貰えば?」
 呆れるマナ。
「そうだね?、こういうのも悪くは無いけど」
 好きなんだ?
「それから、首筋隠したほうがいいわよ?」
「付いてるかい?」
「虫の痕…、肌白いから目立つわ?」
「シンジ君に見せて嫉妬してもらおうと思ったんだけど、それ所じゃないみたいだね?」
 よいしょっと立ち上がる。
「まあまあレイ」
「なによカヲル!」
「シンジ君を責めてもしようがないんじゃないのかい?」
「だって!」
「シンジ君との家庭を夢見たい気持ちも分かるけど、キクちゃんを放っているのは感心できないね?」
「あ、そだキクちゃん!」
 成り行きを見守っていた爆弾娘に顔を寄せる。
「…助かった、ありがとうカヲル君」
「レイも悪い気はしていないみたいだからね?、怒っているのはシンジ君に「ふしだら」と思われたからだよ」
「そんな!」
「なら少しは信じてあげたらどうなんだい?、第一レイにあれほど大きな子がいるはずは無い、そうだろう?」
 うん…、と頷く。
「そっか、そうだね?」
「そうさ、あんまり似てるんで戸惑ったのかい?」
「うん、ありがとうカヲル君、怒ってくれて」
「どうしたんだい?、急に…」
「人の気持ちを考えてないなって…、思ったから」
「わかってくれたなら、それでいいよ」
 カヲルは優しく微笑んだ。


「まあまあまあまあまあまあ、キクちゃんどうしたの!?」
 結局連れて帰宅したレイとシンジを、ユイが慌てて出迎えた。
「学校に来たんだ、だから…」
「まだお昼前よ?、またサボったのね?」
 ふうっと吐息をつく。
「こんなに不良になっちゃって…」
「ち、違うよ!」
「このまま学校に行かなくなって、いかがわしい場所に出入りするようになって」
「だから!」
「お願いだから若い身空で産婦人科へ行くためのお金なんてせびりに来ないでちょうだいね?、堕ろすのは認めません、産みなさい」
 ぽんっとレイが手を打った。
「なし崩し」
「企まないでよ、もう!」
 二人ともシンジの声は聞いていない。
「だから悩むことは無いのよ?、レイちゃん」
「でも、あたしの面倒まで見てもらっているのに、これ以上のご迷惑は!」
 パン!っとレイの頬を打った振り。
「レイちゃん!、あなたもあたしの娘なのよ!?」
 よよよっと倒れた振り。
「お母さま!」
 ひしっと抱き合う。
「あなたと子供の面倒ぐらい見てあげるわ?、シンジがあなたを捨てたとしても」
「お母さま…、ありがとう」
「ママ捨てられるの?」
 キクの一言に二人が振り向く。
「あなたのパパはなんて酷いのかしらね?」
「あ、キクちゃんの妹がお腹を蹴った」
「パパ?、パパって誰?」
「ごめんなさい、キクちゃん!」
「言わない方が良いと思ったの、ママを許して!」
 この二人は…
 ぐぐっと力を入れるが、ふしゅうっと脱力。
 いいやもう。
 どうせ勝てるはずが無いのだ。
「それで、アスカちゃんとミズホちゃんは?」
「学校だよ…、二人とも普通科だからそうそうサボれないしね?」
「なんだ、つまらないわねぇ…」
 さっさと上がれと指示を出す。
「それでキクちゃんは何の用事があったの?」
「それがこれを持って…」
 きっちり四つ折りにされたプリントを手渡す。
「…授業参観?」
「お母さんに渡しなさいって…、でも」
 困った風にキクを見る。
 キクはレイの足元に立っているのだが、何を考えているのか全く読めない。
「ママ…」
 ギュッとレイの裾をつかんで離さない。
「キクちゃんの家のことはよくわからないんですけど…」
「良い人達よ?、少なくとも悪い人達ではないわ?」
「でも、じゃあどうして?」
「ん〜〜〜、キクちゃん?」
 しゃがみ込んで目線を合わせる。
「どうしてなの?」
「おばさんはママじゃない…」
 非常に簡潔と言えば簡単な答えだった。


「…シンジ君のいない学校はつまらないねぇ?」
 友達がいないのか?、カヲルは浩一に話しかける。
「浩一くん今日は大人しいねぇ、何かあったのかい?」
 読んでいたミニサイズの本から、目だけを一瞬カヲルに向ける。
「遅かったじゃないか」
「途中でつかまってね?、逃げるのに苦労したよ…」
 首筋の辺りを押さえている。
「調子は?」
「肌が白いと損だね?、目立って…」
 ふうっと浩一は溜め息を吐く。
「親友の位置を占めたのなら、そろそろ次のステージに移るべきだろう?」
「もうなのかい?」
 カヲルは少し嬉しそうにする。
「友情が愛情に変わるのにそれほど時間はかからない、問題はむしろ渚だな」
「僕なのかい?」
「その首に付けられてしまった証しは、シンジ君に足踏みさせる事になる、気をつけた方がいい」
「そうだね?」
 カヲルは話しながら浩一の態度に気がついた。
「どうしたんだい?、浩一君…」
 読んでいるようで、ページを一度もめくっていない。
「さっきの子だよ」
「キクちゃんかい?」
 シンジは知らないと言うのに、カヲルはその名を知っている。
「…その昔、人工心臓にはない浄化能力を求めて、寄生植物を生み出した科学者が居た…」
「その話は聞いているよ?、その植物は肥大化して、巨大な球根となったけど溶岩の中に沈んだ…」
「一つの結晶を残してね?、そして同じ結晶がとある事件でシンジ君に迷惑をかけた」
「それには君も絡んでいたんじゃないのかい?」
「大事に至らないよう、少し誘導しただけだよ…」
 昔の話だ。
「それがどう関係するんだい?」
「その結晶…、勾玉をあの子は持っている」
「キクちゃんがかい?」
「何も起こらない事を祈りたいよ」
 浩一はただただじっと活字を眺め続けていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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