NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':64 


 昨夜のこと。
「ふうん…」
「ふうんって、それだけ?」
 シンジの部屋。
 明日どうするかを報告しに来たレイは、シンジのそっけなさに不満を感じた。
「だって僕には関係無いし」
 ムッとする。
「そう言う言い方って無いじゃない?」
「どうしてさ?」
「だってキクちゃん寂しくてあたしに…」
 シンジは居住まいを正してレイを見つめる。
「レイ…」
「なに?」
「僕にどうして欲しいのさ?」
「どうって…」
 別に期待していたわけではない。
 でもちょっとぐらい乗ってくれたって…
 母として見に行く、あるいは予行演習。
 そんな感じで、シンジにも受け取ってもらいたかったのだ。
「正直、僕にはどうしてみんながそんなに入れ込むのか分かんないよ…」
「それは、だから大変な事があってね?」
「だからママって呼ばせてるの?」
「だってしょうがないじゃない…」
「なにがさ?、ねえ、聞いてもいい?」
「ん、なに?」
 シンジは冷たい目を作った。
「キクちゃんはレイをお母さんだって思ってるの?」
「う、うん…」
「近所のお姉さんじゃないんだね?」
「どういう、意味?」
 ほんとは少し分かっている。
「おかしいじゃないか、そんなの…」
「でもキクちゃんは信じてるみたいだから、信じたいみたいだから」
「だから騙すんだ、おもちゃにして」
 パン!
 どうしてなのかわからない、が、レイは思わず叩いていた。
「シンちゃんのバカ!」
 ドタドタと階段を降りていく。
「バカ、か…」
 シンジはゆっくりと背後に倒れた。
「嫉妬…、違うな、なんだろ?、モヤモヤが晴れないや…」
 お母さんの振りをしているレイ。
 それがどうしても気に食わない。
 シンジにはその理由が分からなかった。


「終わったみたいだよ?」
 シンジは双眼鏡を下に下ろした。
「そうね、何かあったみたいなんだけど、こんな事なら盗聴器を仕掛けとくべきだったわ?」
「と、盗聴器!?」
 さすがに驚く。
「相田辺りなら持ってるでしょ?、あれ?」
 キクにレイが話しかけている。
 それに対して、先生らしい男も近寄っていた。


「キクちゃん…」
 話しかけるが、キクは無表情なままだ。
「いつもあんなことされてたの?」
 キクは無言で頷く。
「そう…」
「髪が青いとか、肌が白いとか、子供はいじめるためなら『違い』を探し出しますよ」
「先生…」
 近くで見ると好青年に見える、先程の態度からなにかしら情熱を持っているのも分かる、が…
 くさい…
 キラリと光る歯がやたらと白々しい。
「でもキクちゃんのお母さんがこんなに若々しい方でしたとは」
「は?」
「遺伝ですか?、髪…、あ!、いやこれは失礼しました」
 そんなに変かなぁ?
 それ程意識したことは無いのだが…
「なあキクちゃん?こんなに奇麗なお母さんと同じじゃ嫌か?」
 ぷるぷると首を振る。
「そっか、じゃあ負けちゃダメだぞ?、嫌ならやめてって言わないとな?」
 それには答えようとしない。
「う〜ん、困った…」
 今度はレイが顔を覗き込む。
「ごめんね?、ママ、キクちゃんの辛さは分からないの」
 そう言う言い方は!?
 先生が引きつった。
「みんな奇麗だ、好きだって言ってくれるから」
 ゆっくりとキクが顔を上げる。
「みんな?」
「うん、…キクちゃんはパパが欲しい?」
 キクは悩みながらも頷いた。
 にっこりとレイは微笑む。
「じゃあパパになってくれる人は、この髪の色が好きな人がいいよね?」
 それで一応話しを打ち切る。
「あ、ごめんなさい込み入った話をしちゃって…」
「こ、こちらこそ聞いてしまって…」
 ポリポリと後頭部を掻く。
「しかし驚きましたよ、キクちゃんには聞いていたんですけど」
「はあ?」
「いやぁ僕もキクちゃんに懐いてもらって…、やっぱりこういう子は守ってあげないと」
「はい?」
「キクちゃんのような子は特殊です」
「はあ…」
「だからこそ、自分は愛されていると言う確信が持てるよう、より多くの愛情を注いであげなければなりません」
「まあ…」
「一度内側にこもってしまうと、中々自分を出してはくれませんが…、わたしはキクちゃんに笑えるようになってもらいたいと思っています」
「そうですか」
 キクちゃん、笑わないのかなぁ?
 そんな事は無いような気がする。
 まあ何か誤解があるみたい、けど言えないよね…、ホントのことは。
 別に嘘を吐いているつもりは無いのだが、自分の存在そのものはニセモノだ。
 ボロ出すとまずいしなぁ…
 どうにも笑って護魔化すしかない。
「ママ…」
「ん、なに?、キクちゃん…」
 キクはちょっと赤くなりながら言葉を紡いだ。
「…パパになるなら、この人がいい」
「へ?」
「おいおい、キクちゃん…、困りましたね?、お母さん」
「は、はは、は…」
 どうしよシンちゃん?
 レイは本気で困ってしまった。



続く







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