NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':65 


「ふぅうううううきゅうううううううう…」
 休み時間ごとにミズホはシンジの座席に噛り付く。
「今日はサボりなのかい?」
「アスカさんもですぅ…」
 カジカジとミズホによって削られていく。
 実に健康的な歯をしている。
「レイの様子でも見に行ってるんじゃないのかい?」
 ピタッとミズホの動きが止まる。
 続いてジワッと涙が滲む。
「…ずるいですぅ」
「アスカちゃんにでも引っ張り回されているだけだよ、後で埋め合わせを頼めばいいさ」
「はいですぅ!」
 渚カヲル、彼が何を考えて彼女達をけしかけているのか?
 この時点ではまだ誰も正確には理解しえていなかった。


Q_DASH65「からくりサーカス」


「この後は面談で、レイが帰るのは遅くなるのかしら?」
 ちらりと隣のシンジを見る。
「なぁに浮かない顔してんのよ?」
 シンジは柵にもたれ、しゃがみ込んでいた。
「そんなにキクちゃんが嫌い?」
「…そうじゃないよ」
「じゃあなに?」
「…分からないんだ」
「はぁん?」
「レイだよ…、やっぱり本当の家族じゃないから、キクちゃんも同じだって思ってるのかな?」
 アスカの目が鋭く細まる。
「…あんた本気で言ってんの?」
「半分はね?」
「半分?」
「レイは一人でいる寂しさを知ってるよ…、それは僕には分からない事だけど、だからキクちゃんがレイをお母さんって呼びたい気持ちも分かるんじゃないのかな?」
「…珍しく冴えてんじゃない」
「レイはずっとキクちゃんのお母さんで居るつもりなのかな?」
「そう悲観する事も無いんじゃない?」
「どうして…、そんなことがわかるの?」
 アスカはかなり楽観視している。
「だってまだ子供よ?、大きくなれば気がつく事よ…」
 そうなのかなぁ?、本当に…
 シンジは胸にもやもやしたものを感じていた。


 レイは目の前の男に悩んでいた。
「はぁ〜、お仕事が?、しかしですね、やはり親と子は一緒に住むべきですよ」
「はぁ」
「寂しさを知る子供は、その代価を求めます、しかしそれが与えられなかった時、寂しさは苦しみと逃避へと向かいます」
「そうですか…、そうですね」
 レイは自分の環境に当てはめてみた。
 曲がりなりにも父と母が出来た。
 その上同い年の恋人までも。
 恋人?、う〜ん、恋人かぁ…
 そのニュアンスがしっくりこない。
 うん、旦那様ね!
 いきなり外れる。
 それから少なくとも、決定的な寂しさに囚われたことは無い。
 破局的でも、それを回避できたから。
 あれ?
 レイは悩んだ。
 なんで壊れなかったのかなぁ?
 取り敢えず答えのでない考えは置いておく。
 寂しくなった時に抱きつける相手が居るって、幸せなんだ…
 自分には大勢居るのだから。
 でもキクちゃんは?
「…キクちゃんにも、友達が出来ればいいんですけど」
「友達でなくても、家族、ならどうでしょうか?」
「はい?」
 キョトンとする。
「やはりお母さんは家に居るべきですよ、出迎えてもらえる、帰って甘えられる環境というのは必要です」
「そうですね…」
「しかしあなたにはお仕事がおありのようだ、それも父親が居れば解決する問題ではありませんか?」
「ええ、まあ…」
 女性が聞けば差別だと思われそうな考えを平然と吐かれている。
 だがレイには自分がキャリアウーマンになると言うビジョンが無いので、その考えをわりと軽く受け流した。
「よければわたしがなりたいくらいですよ」
「は?」
「あ、いや!、ははは、それにしても似てますねぇ?」
「え?」
「いや、綾波レイって子がいましてね?、早くデヴューしないかなぁと、いえ、こっちの話で」
「ははは…」
 乾いた笑いを漏らすレイ。
 そんなレイを、キクは無言で盗み見ていた。


「あ〜〜〜、もぉ、疲れたぁ…」
 子供部屋の真ん中を取り、レイはのぺ〜っと寝そべった。
「あんたが無理言って行ったんでしょうが?」
「…だって変なんだもん、あの先生」
「なに?」
「やたら側によって来るし、相談に乗りますからって電話番号聞こうとするの」
「それで?」
「護魔化してたら自分の番号教えようとするんだもん」
「断ればいいじゃない」
「キクちゃんが先生に見捨てられたら困るし…、それに番号貰っちゃったらかけないとやっぱりね…」
「で?」
「断り切れないから、鰯水君の番号教えて来ちゃった」
「あ、そ」
 この後のあの先生が番号を聞き間違えたのではないかと、全桁前後にずらして膨大な間違い電話をかけまくったのだが、それはまぁ別の話として。
「で、シンちゃんは何やってるの?」
 ボケボケッとしているのはいつものことだが、今日はさらにそれが酷い。
 あぐらをかいた膝の上にミズホが座り、シンジの腰に足を絡めて抱きついても気がつかない。
「って、あんたなにやってんのよ!」
「ん〜〜〜」
 左右に揺らしても気がついてもらえなかったので、ミズホは唇を突き出した。
「むちゅ!」
 シンジの唇が手のひらでガードされた。
 アスカが間に手を差し込んでいる。
「酷いですぅ」
「関係無いわよ、それに!」
 ぱこんと殴る。
「痛っ…、あ、な、ミズホ何やってんだよ!」
「遅いっての!」
 今度は本気で殴られた。


 大体がシンジの悩みは悩みとして成立してはいなかった。
 レイのやる事はレイの勝手で行う事だし、またレイがして上げたいと欲することは、たとえシンジであっても止める権利は何処にも無い。
 レイは例え好奇心混じりにしても、おおむね善意でキクに接しているのだから。
「シンちゃん何悩んでるんだろ?」
 しかし当然のごとくレイは理解していなかった。
「あんたばかぁ?」
 最近内緒の話をする時は、必ずと言っていいほどアスカの部屋にこもっている。
 キクはミズホが相手をしていた。
「じゃあアスカには分かってるの?」
 ふふんと意地悪な笑みを浮かべる。
「もちろんね?」
「えー?、どうしてわかるのぉ?」
「それはシンジがあたしに隠し事をしないからよ」
 遠回しな関係の示唆に、レイの表情が不機嫌になる。
「どうしてそういうこというの?」
「そうね?、ほんのちょっとだけ分かるような気がするからよ」
「なに?」
「あたしとシンジもあんたを見てたもの…、あんたがキクちゃんを見る目がどういうものかぐらい、察しが付くわよ?」
「あ…」
 胸のうちが温かくなる。
「アスカ…」
「な、なによ?、潤んだ目で…」
 気持ち悪くて後ずさる。
「ありがと…、心配してくれて」
「やめてよね?」
「そっか、シンちゃんずっと見ててくれたんだ…」
 あ、そういうことね?
 もちろんその辺の解釈的には、アスカの主観が大いに働いているのだが。
「シンジはいいわよ?、あいつはバカだから下手すれば一生居てくれるかもね?」
 二人は同時に、未来の様子を垣間見る。
 結局、結婚から逃げたシンジ。
 だが子供が居るし、家には三人の妻が居る。
 なんて嫌なビジョンなのよ…
 簡単に想像できちゃうのって、なんだか…
 はぁっと二人は溜め息を吐いた。
 あまりいい世界ではないので、その想像は軽く手で追い払う。
「で、あんたはいつまでキクちゃんの側に居るつもり?」
「そんなぁ、いつまでって、そんな風に…」
「あんたがそんなだから見抜かれんのよ」
「へ?」
 真上を指差す、正確にはそこにいるシンジを。
「キクちゃんはあんたを慕ってるけど、じゃああんたにほんとに子供が出来たら?」
「そんなのまだ早いよぉ☆、…ってごめんなさい」
「何処まで行っても他人でしょ?」
 あたしはホントの家族になれるもんねぇ?
 またシンジとの事を考えている。
「キクちゃんがあんたに捨てられたって、思わなきゃいいけどね?」
 ギクッと、レイは固まった。


 シンジは自分の部屋で自問していた。
 レイに嫌われちゃったかも、でも嫌なんだよなぁ…
 幾度か去られてしまいそうになったからこそ。
 さよならと言われた時の悲しみが分かるのだ。
 僕はどうなんだろう?
 何度か別れてしまいそうになったものの、レイとの距離は安定している。
 僕がすがったからだ。
 嫌だよ、側にいてよ!
 アスカにも。
 あるいはミズホも。
 キクちゃんにも同じ想いをさせるの?、レイ…
 キクが泣き叫ぶ子ならまだ良いと思う。
 でもキクちゃんはきっと泣かない…
 そう…、と、ただ受け入れるだけだろう。
 今の僕に似てるのかもしれない。
 今ならみんなに好きな人が出来たとしても、よかったね?と受け入れることができるだろう。
 僕はそのための距離を置いてる…
 キスされそうになっても避けるのは、だからこそだ。
 まあもっとも、そのためにより近付こうと皆が積極的になるのだが。
「でも僕はまだいいよ…」
 レイとは父、母を通じた家族の絆が残っているから。
 でもキクちゃんには誰が残るの?
 シンジはそのことが心配だった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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