NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':66 


「ただいま…」
「お帰りなさいキクちゃん」
「どうだった?、お泊まりは楽しかったか?」
「うん…」
 義理の父と母、そんな認識すらも無い。
 ここに居るのはただの保護者だ。
「さ、お風呂に入って?、暖まらないと」
「風邪を引くぞ?、どら、一緒に入ろう」
「うん…」
 そこに別段不満は無いし、生まれる要素も見つからない。
 文句があるとすればただ一つ。
 ママじゃない…
 だった。


GenesisQ’66
「聖者の涙」


「うわぁ!」
 伸縮自在の鞭は正確にシンジの眉間を貫こうとする。
 ガンガンガン!
 マナの放つ銃弾が鞭を弾いて起動を変える。
「シンちゃん逃げて!」
 言葉に従えばいい、理性では承知している。
 あ、足、が…
 今頃になって初めの恐怖に襲われた。
 もしマナが居なければ?
 気がつかないままに死を迎えていただろう。
 先程までの悩みが急に下らなく思えて来た。
 僕、何やってるんだろう?
 逃げなくちゃ、逃げなくちゃ。
 今は逃げなくちゃ…
 言いたい事があるはずだから。
 誰に?
 みんなに。
 そう。
 みんなに。
 でも!
 狙われているのは僕なのに。
 勾玉なのだろうか?、もう眼球と言えるかもしれない。
 それの視線がシンジからマナへと動いた。
「シンちゃん!」
 マナが急かす、今はシンジだけを狙っているからまだいい方だ。
 攻撃の目標が単調だから、シンジを守ればそれですむ。
 しかしマナまでがその対象になったとすれば?
 対象を散らされた場合、反応できる自信が無い。
 シンちゃんは守る!
「早く!」
「うわあああああああああああああ!」
 そのマナの急かしは逆効果だった。
「シンちゃん!」
 シンジは走った、正面に。
 僕の、僕のせいだ、僕の!
「危ない!」
 ドス!
 脇腹を何かが貫く。
 重苦しい感触が体に響く。
 なんだよこれ、なんだよ!
 シンジはお腹を見た。
 貫かれている。
 化け物を見た。
 笑っているのは男だった。
 あの男だった。
 何か狂ったような表情をしていた。
 嬉しそうだった。
 なにが?
 どうして?
 ずるっと抜け出る感触。
 ごふっと熱いものが喉をこみあげる。
 あれ?、あれれ…
「シンちゃん!」
 膝を突いた、倒れ伏した。
 顔をアスファルトに叩きつけてしまった、頬が痛くなった。
 ついでに何かでべちゃっと濡れた、血だった。
 血?、誰の?
 あ、僕のか。
 そんな間抜けな事を考えた。
「シンちゃん!」
 耳鳴りがする。
 ガンガンガン…、あ、銃声か。
 マナ…、どうしてそんなの持ってるの?
 持っちゃいけないんだよ?、日本では…
 意識がどんどんと混濁する。
 鞭が上方から串刺しにしようと伸びあがる。
「シンちゃん!」
 マナの悲鳴がこだまする。


 キクはお風呂を上がると自分の部屋に戻った。
 幼稚園児らしく、勉強机とセットの椅子に黄色い制帽がかかっていたりするのだが、どこか白々しく、また空々しかった。
「君は何を求めている?」
 不意の質問。
 きょときょととするが声だけだ。
「何を求めて、レイに近寄る?」
 レイ。
 その単語に顎を引く。
「…好き」
「だから求めるのかい?」
 キクは頷く。
「じゃあ彼は?」
「彼?」
「なぜ、彼に力を上げたんだい?」
 キクはキョトンと小首を傾げる。
 この子じゃないのか…
 そんな動揺が通じて来る。
「なら、いい、でも、君の求めるものは悲しみに通じていれば、僕は壊すよ?」
 それが誰の声かは分からなかったが…
「欲しい、時は、貰う、もの…」
 キクはちゃんと答えて返した。


「シンちゃん!」
 上方から鞭が槍となってシンジを貫くかに見えた。
 ドン!
 爆発、四散。
 鞭が弾けた。
「…何をなさってるんですか?」
「マユミ!?」
 そう、そこに居たのはマユミであった。


 ここは久々のネルフである。
 今夜の警報を全て処理しろ、か、なるほどな。
 冬月にだけ送られている画像がある。
 シンジ君の負傷にロストチルドレンの出馬、これはシナリオに無い事だぞ?
 冬月は内心焦っていた。
 そう、ユイにバレれば命にかかわる事だろう。


 うたた寝しているレイが居る。
 アスカが迎えに行くと言い切ったので、レイは大人しく待つことにした。
 アスカのお布団、いい匂い…
 聞き様によっては危ない発言も交えつつ…


 僕は…、死んじゃったの?
 おかしいなぁ?っと首を捻る。
「こんなに簡単なものなの?、ちっとも痛くないや」
 言ってから「あ、そっか」っと改めて気がつく。
「もう死んでるからかな?」
 思い残すことと言えば、走馬灯と言う奴を見れなかった事だろうか?
 大事な事ばかり思い出すって…、誰かが言ってた。
 あるいは自分の本当の気持ちを知ることが出来たかも知れなかったから。
「色々あったはずなのに…」
 アスカ、泣いてくれるかな?
 レイ…、みんなが居るから大丈夫だよね?
 ミズホ、泣いちゃうよね…
 そしてカヲル君。
 ごめんね?、せっかく心配してくれたのに…
 結局答えることはできなかった。
「あ〜あ、死んじゃったらもう終わりだと思ってたのに」
 まだ消えることはできないのだろうか?
「ま、僕が居なくてもなんとかやってくよね?」
 でもそれで…
「え?」
 ほんとうにそれで、良いというの?
 誰?
 シンジの前に、光の人影が現われた。


 ぱちりとレイの瞼が開く。
 その瞳は赤く丸い。
「碇君が、呼んでる」
 レイはすっと足を下ろした。
 その仕草はいつもの快活さと引き換えに、とても落ちついた物腰を持っていた。


「マユミ!」
 鞭がしなった。
「はい」
 落ちついた返事をして手を伸ばす。
 黒髪が腕に巻きついて硬質化した。
 バシン!
 弾き飛ばす。
「このような事も出来ます」
 そのまま黒い鉄棍が伸びた。
 ガン!
 男の胸元を叩いて倒す。
 その瘤の真ん中の勾玉が割れた。
「すごぉい…」
「はぁ、碇くんの為の力じゃないのに」
「あ、そだ!、シンちゃん!」
 駆け出そうとしてマナは踏みとどまった。
 シンジが起き上がっていたからだ。
 その顔は幽鬼のように青白く、目はとてもうつろな光を湛えていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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