NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':67 


 時計の針の音でもしていればまだ眠りに付けたのかもしれない。
 緊張の中に単調な音が混ざれば、意識が勝手にまどろむだろうから。
 どうしよう…
 しかしあいにくとこの部屋にあるのはデジタル時計のみ。
 今更ながらにシンジは自分の迂闊さを呪っていた。
 なんで、どうして!?
 そう、この部屋に布団は二組あったはずなのに…
 それがカヲルのものだからか?、あるいはこれも調教の成果なのか?
 シンジは自分の布団だけを敷いていた。


GenesisQ’67
「エデンのどん底」


 深夜一時。
 シンジの身長が伸びる事を見こしてか?、布団はそれなりに大きい物だ。
 だが二人で入ればそれなりに限界、お互い背を向けるように入っていた。
 でも…
 触れ合っている背中がとても固い。
 どうしたんだろう、レイ。
 ちょっとだけ動いてレイを見る。
 ゴソ…
 枕が鳴ってドキッとした。
「…シンちゃん」
「ななな、なに!?」
 必要以上に取り乱してしまう。
「ちょっと待ってて」
 いきなりレイが起き上がった。
 びくっとするシンジの背は、まさにこれから犯されようとする少女のような儚さがある。
 って、そんなに恐がんなくても…
 レイは気付かれないように溜め息を吐きながら、一旦部屋から降りていった。
「はぁ…」
 解かれた緊張感にほっとする。
「…なんだろう?」
 一緒に眠りたいわけではない、それはちゃんと気付けていた。
「いつもなら抱きついて来るのに…」
 そこには護魔化している自分が居る。
 つい先程の、死にかけた恐怖が残っているから。
 一緒に寝たいのは…、僕なのかな?
 恐いから。
 抱きつきたいから。
 しがみつきたいから。
「最低だ…」
 相手からしてくれるのを待っているのが。
 どうにもできない垣根を、相手が飛び越えてくれるのを待っている。
 本当に最悪な気分だった。


 これと、これ…
 レイが台所で選んだ物は…
 マグカップが二つ。
 スプーンも二つ。
 スティックタイプのココア数本。
 それにお湯の入ったポットだった。
 階段の昇り下りには細心の注意を払い、特定二人の同居人に気付かれないよう足音を忍ばせる。
「シンちゃん、戻ったよぉ…」
 もちろん小声だ。
「なにしてたの?」
「これ、持って来たの」
 そう言って枕許に並べていく。
「ちょっとお話ししよ?」
「え…」
「大丈夫!、変なことしないって…、それに」
「それに?」
 レイは布団に潜り込みながら囁いた。
「声出ちゃったら、下に聞こえちゃうでしょ?」
 シンジの妄想が爆発した。


 二人はうつぶせに横になった。
 布団はお互い肩まで、枕に腕を乗せてココアを軽く混ぜている。
「で、話しって、なに?」
 取り敢えずシンジから口火を切った。
「ん…、あたしの言ったこと、覚えてるでしょ?」
「うん…」
 シンちゃん…、どうしてアスカにはちゃんと話すの?
「レイには、隠すのかって…」
「そう…」
 レイの瞳が悲しみに揺れる。
「あたしじゃ、ダメ?」
「え?」
「アスカほど信頼ってできないの?」
「ち、違うよ!」
 シンジは思わず大きな声を出してしまった。
「シンちゃん、声大きい」
「あ、ごめん…」
 慌てて声のトーンを落とす。
「…嫌なんだ」
「なに?」
「言葉で…、振り回しちゃうのが」
 色々と教えてもらった自分。
 その度に変わろうとした自分。
 頑張った自分…
「でもどれも自分からそうした方がいいと思った、いいと思った事なんだ」
「うん…」
「でも…、僕が考えてることって、きっとレイのためなんかじゃない」
「え…」
「でも打ち明けたらきっとレイは僕を悩ませないようにする、すると思う」
 レイは少し考えるような表情を作った。
 手のひらで温かいマグカップを弄ぶ。
「でもそれって…、思い上がりじゃない?」
「そっかな?」
「うん…、シンちゃんに嫌われちゃうのと、どっちかを選べって言われたら、迷うかもしれないけど…」
 シンジは口をつぐんだ。
「違うんでしょ?」
「わからない…」
「なら話してみて?」
 レイはココアを口に含んだ。


「カヲル君が言ったんだ」
「ん?」
「僕達は他人だって」
「え!?」
「レイは家に帰るんじゃなくて、僕が居る所に帰るんだって」
 カヲルぅ〜!
 電気を消していて良かったと思うが、体温の上昇は止められない。
「だから自分から離れるような事は考えちゃいけないって思った」
「そんな事考えてたの!?」
「だって仕方が無いじゃないか…」
「なにが?」
「キクちゃんを見てるレイは、とても優しそうな顔をしてた」
「そお?」
「うん…、お母さんって感じで、レイって案外主婦が似合うのかもねって、前にも言ったっけ?」
「…そんなにおばさんくさい?」
「ち、違うよ!」
「新妻って感じなら許してあげるけど…」
 それでもちょっと険を含んでいるのは気のせいではないのだろう。
「でもシンちゃん、どうしてキクちゃんにこだわるの?」
 あからさまにシンジはキクを避けている。
「…僕は嫌われてるから」
「え…」
「だから」
「そんなことない!」
「ううん、分かるんだ、おかしいよね?」
 具体的にどうと言うことは無いのだが…
 そっか…
 見当をつける。
 ミズホと遊んでた時だ…
 シンジはキクを盗み見ていた。
 なのにキクはシンジを一度も見なかった。
「レイは友達をとても大事にするし、思ってる」
 それは何度も見て来た事だから。
「シンちゃん…」
 レイもその友達が誰を指すのかに気がついた。
「だから思ったんだ、レイが何かを大切にしたいなら、それを邪魔しちゃいけないって」
 あ…
 不意に思い出す。
 キクの担任とやり合った時の態度を。
 シンジのシンジらしくない、嫌な姿を。
「人のできない事を代わってあげる…」
 断れないレイの代わりに…
「でも誰かのためになるのなら…」
 それは好い事なのかもしれない。
「シンちゃん…」
「わからないんだよ…」
 カップを持つ手が震えている。
「カヲル君は言うんだ、変わることはいいことだけど、僕はカヲル君の好きな僕じゃなくなっていってるって…」
「うん…」
「でもわからないもの!、僕はこれで良いと思ったけどダメなの?、みんなの好きな僕ってなに?、どんな奴なの?、なにが好きなの?」
 シンジは溜めていた分の苦しみを吐き出している。
「嫌われても良いと思った」
「シンちゃん!?」
「僕が嫌われて、みんなが居なくなってもみんなが笑ってくれてるならそれで良いと思った」
「シンちゃん、もう…」
「僕には…、なにもないから」
「もういいから」
「なにも出来ることがないから」
「いいから、ね?」
「自信も無いのに…、とりえも無いのに、誰に、どうして、好きって言えばいいの?」
 もがいてもあがいても見付けられないのに。
「ねえ?」
「なに?」
「レイは…、どうして好きって口に出来るのさ?」
 レイは少しだけ動いて、足と腕とを触れ合わせた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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