NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':68 


 少し冷たくなった指先をココアの温もりで少しだけ和らげ、役目を終えたカップは冷たくなってたたずんでいた。
 一つの布団に二人の温もり。
 シンジの腕は自然と青い髪の下に潜り込み、抱きかかえるように折れている。
 レイの体はそのシンジの温もりを得ようとしているのか?、子供のように小さく丸くなっていた。
 ビクン!
 シンジの体が急に強ばる。
 表情は苦しげに引きつっている。
 うなされているのか?、額に汗が浮かび出した。
 はっ!
 鋭く息を吐き、瞼を開く。
 そうだ、そうだよ…
 どうして今まで思い出さなかったんだろう?
 あまりにも不自然だった。
 自分を貫いたあの触手。
 死に瀕するほどの苦痛だった。
 なのにそれをした者のことは覚えていても…
 取り憑かれていた男のことを忘れていた。
 …あの先生、どうしたのかな?
 不意に沸き起こる疑問符。
 マナも居たけど、大丈夫だったのかなぁ?
 シンジは顎を引き、レイの髪に思考を埋めようと試みた。
「レ…、綾波?」
 じっと見上げる赤い双眸。
 その瞳を閉じ、綾波はシンジの体に腕を回した。
 下に回された腕が、背中では無くシンジの髪を撫で付ける。
 うん…、うん。
 大丈夫、心配いらない。
 そう言ってもらえているようで、少しだけ心が軽くなる。
 ありがとう、綾波…
 シンジは再び、暗い闇の中に埋没していった。


GenesisQ’68
BLUE SEED


 第三新東京市。
 その中央に程近い、ほんの少しだけビジネス街から外れた場所に、工事中のままいつまでも放置されている建物があった。
 工事中を示すように囲われた土地はゼーレの所有になっていた。
 中にはほぼ完成状態にある円筒形の建物。
「今夜はここにするかなぁ」
 浮浪者が入り込もうとしている、寝床を探しに来たのだろう。
 ぼろぼろのコートにアンモニア臭が染み付いている。
 無音と闇が無人を示す建物に、まるで恐怖を感じていないようだ。
 オートロックのはずのホール、しかし完成前のために作動していない。
 少なくともそれ以外の理由は無いはずだが。
「寒い…」
 戸を開けると中からは冷気が吹き出していた。
「こりゃだめだな…」
 諦めて引き返す、なぜ冷房が効いているのかは考えなかったようだ。
 その一部始終を、彼はモニターで確認していた。
「この街も聖地にはなりえないんだね?」
 カヲルだ。
 真っ暗な部屋の中で、足元に映されている衛星からの映像を楽しんでいる。
「この街が作られた理由を考えれば当然だよ」
 浩一の前には一つの台がせり上がっている。
 まるで大理石のようだが、表面に浮かぶ電子回路のような模様が、ただの台座でないことを物語っている。
 その上には青い何かのかけらが置かれていた。
「それで、何か分かったのかい?、浩一君…」
 ピッと表示されるコードナンバー。
「601…、なんだい?」
「つまりわからないってこと」
 お手上げとばかりに肩をすくめる。
「ただ極小サイズの植物片がシナプスのように繋がっているのは分かったよ」
「植物片…」
「もちろんただの、じゃない、植物との一致率は…」
「99.89%…」
 データについて思考を巡らせる。
「…あの教師を覆っていた根はこれが増殖した物なのかい?」
 浩一は首を振る。
「あれは人間の肉、そのものだよ」
「…なるほど」
 やや楽しげに顎をさする。
「局部の皮膚を増殖する事により硬化させて鞭のようにしていたんだね?」
 あまりにも急激な変化のために水分が追い付かず、半ば石化したように見えた、それが根や枝の正体だよ」
 さらに勾玉から人型に流れるエネルギーの流れを表示する。
「これは?」
「新しい神経束を構築しようとしている」
「神経?」
「あれは新しい器官なんだよ」
 もう一つの情報を表示する。
 それは昔の、あの事件の時に死んだ少年のものだ。
「人が自分自身の意志で体組織を操るための…、でも」
「意思が薄弱であればあるほど、暴走を引き起こすんだね?」
 かつてキクの母親が取り込まれたように。
 あの教師が不快感の排除に努めたように。
「しかし…、キクちゃんがあれを仕掛けたんじゃないとすると…」
「彼…、しか考えられない」
「トレーズは?」
「マユミと少しもめたんだよ、今は、もう…」
「そうかい」
 少し気まずい空気が流れる。
「なら、後はプラントの位置だね?」
「規模が分からない、反応も今はまだ…」
「やはりシンジ君…、だね?」
 カヲルの言葉に浩一は頷く。
「彼の鋭敏な感覚にならかかるかもしれない」
「そのための」
「音楽だよ、シンジ君は平時でも時折その片鱗を見せる」
「特に、レイが絡んでいると」
 不機嫌そうな浩一に微笑みかける。
「損な仕事を引き受けているね?、君も」
「カヲルも…、そうじゃないのか?」
 カヲルは曖昧に笑って護魔化した。


 都庁、警察庁、それにゼーレビルのサブコンピューター。
 この三つをリンクして起動する超並列処理プログラム、V.MAGI。
 現在は第三新東京市の市民情報などと言った、基本的なデータ処理に用いられている。
 その回線は主に一般回線とリンクされていた、それだけに防壁やハッキング、クラッキング対策も常識を越えた範囲で施されている。
「にもかかわらず、ね…」
 夜中にいきなりの電話を受けたリツコは、ぶつくさと言いながらも理科準備室に戻って来ていた。
 朝ももう近い、モニターには秒間何十行と言う勢いでプログラムがスクロールしている。
 確かにおかしいわね?
 この時間に、V.MAGIからMAGIへのアクセス回数が増加している。
 役所が閉まっているのにね?
 なら何処からのアクセスだというのだろうか。
「アクセスそのものがV.MAGI内部から…、妙ね?」
 ならこれはV.MAGI自身が何かを調べようとしている、と言うことになる。
 もちろんMAGIが平時に起動することはない、いいや、起動はしていても処理速度は遅い。
 まさしく猫のようにあくびをしている状態だ。
 それでもその眠りを妨げようとする者には敏感に反応する。
 驚き飛び起き、MAGIは威嚇の唸り声を放っていた。
 フゥー!
 画面の上部隅では、毛を逆立てている猫のマスコットが点滅している。
 伸ばされて来る手を、猫パンチで撃退しているのだろう。
 このままいけば猫キックが出るかもしれない。
「ま、MAGIが落とされることは無いでしょうけど…」
 最悪自閉症モードで対抗しなければいけなくなるかもしれない。
 その場合は外部に向けて手の出しようが無くなってしまうのだ。
「まずいわね」
 何を調べようとしているの?
 リツコは検索されている情報の内容を調べていた。


 朝。
「シンジ、早く起きなさいって…、あああー!」
 予想しなくても分かるような展開。
「あ、あんた達、なにやってんのよ!」
「…んん」
 もぞっと、シンジの胸に小さくなる。
「アスカうるさい…」
「離れなさいっての!」
 ばっと布団をめくる。
「シンジも、いい加減起きろー!」
「アスカ、寒い…」
 ぶるっと震えて、シンジもレイを抱き込んだ。
 ぷっちん。
 何処かで何かがぶち切れた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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