NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':70 


 彼女のベッドに横たえる。
 暗い部屋に差し込むのは街灯の灯。
「アスカ…」
 シンジはその頭をそっと撫でた。
 母には気付かれないよう、カヲルに手伝って貰い窓から運び込んだ。
「じゃあ行こうか?、シンジ君…」
 カヲルに決意を込めた表情で頷く。
「帰って来てるのぉ?」
 ユイの声が聞こえる。
「あら?」
 ユイは制服のままで寝ているアスカを見付けた。
「皺になっちゃうわよ?」
 くすっと微笑み、そのままそっと退室する。
 シンジの姿は既にない。
 カヲルに抱かれて、ジオフロントを目指して跳んでいた。


GENESIS Q'70
「YAIBA」


「ジオフロント…」
 まだ人も多い、閉店には後二時間はある。
「閉館は九時、従業員が帰路について、警備員だけになるのを待ってはいられない」
 浩一の言葉にレイは頷く。
「これだけの建物だからね?、一人二人が迷子になるのは珍しくない…」
「でもおかしくない?」
 レイには納得できない。
「だって行方不明なんでしょ?、呼び出しとか…」
「連れが居ればね?、でも一人で来ていれば、ここへ来ると言っていなければ…」
「どこで誘拐されたのか?、あるいは失踪したのか分からないと言うこと、そうだね?、浩一君」
 カヲルとシンジも到着した。
「…そう睨まないでくれないか?」
 シンジはギュッと奥歯を噛み締めて堪えている。
「シンちゃん…」
 その腕に手を添えるレイ。
「…そんなに許せないのかい?」
「なにがだよ…」
「僕はみんなを助けるために君を、彼女を利用したんだよ?、それなのに責めるのかい?」
「そんなことはどうでも良いよ」
「どうでも?、じゃあみんながあのまま死んでいたとしても?」
「そんなこと知るもんか」
「シンちゃん!?」
「…アスカを傷つけた」
 シンジはくぐもった声で呟いた。
「行こう、浩一君」
「カヲル…」
「シンジ君と君は一生を通じても理解し合えないと思うね?」
「それは悲しい話だね…」
 カヲルは苦笑する。
「でも僕は、シンジ君の意見に感動を覚えるよ…」
 大切な人を傷つけられた、その事に対する憤り。
 人類平和を望むより、その方がよほど人間としてリアルだからね?
 レイを従えて後に着いて来るシンジに、カヲルは何とも言えない表情を作って見せた。


 ジオフロント。
 その巨大な建造物は、当然それを管理、警備するための巨大なコンピューターを擁している。
 地下の食品売り場のさらに下、本来であれば基礎部分であるはずの深度を余分に掘り下げ、その部屋は上層の階を余すとこなくチェックしている。
 ビー!
 のんびりとコーヒーをすすっていた警備員が、慌ててモニターに取り付いた。
「どうした!?」
「地下二階の従業員用通路に侵入警報だ」
 一緒に覗き込んだ相棒に伝える。
「どこだ、いないぞ?」
 カメラを点検する。
「おかしいな?、赤外線探知に引っ掛かったんだが…」
「大きさは?」
「人間大のものだ」
「妙だな?」
 考える。
 扉は正規のパスを持つ人間で無ければ通れない。
 その上ネームプレートに仕込まれたチップが、その人間が誰なのかを判断している。
 登録されている身体データと照合され、それが無断借用されているのであれば、即刻通報される仕組みになっていた。
 だがその侵入者は、どうやらそのプレートも持ち合わせていないらしい。
「何処に隠れたんだ?」
 他に道はないが部屋はある。
「おかしいぞ、他の部屋はロックが解除されてない」
 つまりはまだ廊下の何処かに居るはずである。
「…映ってないぞ?」
「システムを総チェックしよう」
 この巨大なデパートを管理しているシステムである。
 万が一にも、誤報を出すような問題点があってはならない。
「クラッキングかな?」
「またバカなクラッカーがウイルスを撒いてったか?、一応スキャンもかけるぞ」
 もし本当にバグがあるのなら、例えば火災が起こっても安全な誘導と対処を行えないことになる。
「自己診断モードスタート」
「結果は十分後か…、それまでに一回りして来るよ」
 どんなに機械的な便利さが発達しても、やはり最後に安心できるのは自分の目なのだろう。
 彼は電気仕掛けのショック棒を腰に装備して、警備室を後にした。


「…ねぇ、監視カメラがあるけど」
 シンジは一応尋ねて見た。
「今はここ数秒間にカメラが捉えた信号配列を、そのままくり返し送り出すように固定している…」
「つまり誰も映っていない状態の映像が送られているって事さ」
 カヲルが訳す。
「そんなことまで…」
「できる、それでも僕にできることはわずかなんだよ」
 浩一から憂いを感じる。
「よくわからないよ」
「人を傷つけずに人を救う方法を僕は思い付かない、いや、思い付けない…」
「だから僕を盾に使うの?」
「それが最善だからね?、より多くの犠牲を止めるためにはベストな選択だ」
「…始めから助けようってつもりは、ないんだ」
「そうだね、僕は被害を食い止めるだけだよ…」
 シンジ、浩一供にトーンが落ちる。
「僕には浩一君がなにを考えているのかわからないよ…」
「そうだろうね?、その君との差が人に僕よりもシンジ君を選ばせる事になっている」
 カヲルはそのセリフに口の端を釣り上げ、レイは考え深く頷いた。
「シンちゃんは優しいもの…」
「…この先のジオフロント基部へのハッチが目的地だよ」
 シンジは上の空で聞いていた。


 まただ…
 レイの一言が頭の中で鐘を打つ。
 優しい。
 僕が?
 よくわからない。
 優しいってなんだろう?


 ハッチと言っても身を屈めればくぐれるほどのものだった。
 その先には地下へ向かってのキャットウォークが続いている。
「なんだこれ?、なんだよ!?」
 手すりを、落下防止用の柵を、そしてその向こうの壁を、天井を。
 無数の機械やパイプ、コードと言った物が這っていた。
「予想はしていたけど…」
「凄いね、これは」
 まるで生き物の巣みたいだ…
 シンジは自分の想像にぞっとする。
 じゃああの丸いのって…
「卵?」
 レイのぽつりと言う呟きに心臓を跳ね上げる。
「人が中に入っている」
「え!?」
「シンジ君を襲ったのは、ああやって捕まっていた素体だよ」
「素体ってなに?」
「あの勾玉は適格者を選ぶんだ、だからこそ大量に生産しても適合者の少なさから意味が無い」
「でもあんなに沢山居たじゃない!」
「だからだよ…、ああやって無理矢理シンクロさせているのさ」
「そんな、酷い…」
 呆然とするレイとは別に、シンジはただ気持ち悪さだけを募らせている。
「下は…、深いの?」
「せいぜい三階程度の深さだよ、行こう」
 そのわりに暗くて底が見えない。
 浩一に続いて階段を下りる。
 …そたいとか、てきかくしゃとか良く分からなかったけど。
 シンジには理解できない話が多い。
 アスカ…
 許せなかった。
 アスカに酷い事をした誰かが。
 だから今は浩一を睨んでいる。
 プチ…
 そんなささくれ立っている神経に、引っ掛かる音がした。
「なんだろ?」
「なんだい?、シンジ君…」
 ガシャァン!
 真隣の柵がひしゃげた。
「な、なに!?」
「レイ!」
 とっさに庇うよう抱きしめる。
 バジ!
 電撃が怪物を弾く。
「落ちってった…」
「今のって」
 シンジとレイ、呆然とする二人。
「…人間だよ」
「人間、なの!?」
 浩一に噛みつく。
「全身の筋肉が硬化するほど限界まで膨張していたけどね…」
 異質な化け物に見えるほど。
 表情筋に至っては鬼のような形相を作り出していた。
 肌色から赤に変わるほど張った皮膚は薄くなって…
「僕に…、なにをさせるつもりだって?」
 シンジは絞り出すように口にした。
「言っただろ?、あの時のように…」
 そんなの無理だよ!
 心の声が聞こえた気がした。
 シンちゃん…
 袖をつかむレイ。
 だが実際にはシンジは一言も喋ってはない。
 葛藤が見えるようだねぇ…
 カヲルは目を細める。
 逃げ出したい気持ちとこみあげる害意に対する憤り。
 シンジの顔が上がる。
「…行くよ」
 そのままシンジは、もう見えている階段の終わりに目を向けた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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