NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':70 


 ジオフロントの基部はよほど特殊な作りをしているのか?、それともこの機械化がそう見せているのか?
 ほのかな電子の灯が浮かび上がらせるのは、エイリアンの巣に迷い来んだような心境だった。
 降り立つと同時に何気なく見上げる。
 暗い上方に、ぽつぽつと灯火が見える。
 時折走る光は、回路図のような流れを見せていた。
 ザワッ!
 突然全身が総毛立った。
 シンジは周囲の闇に目を細める。
 まるでそこに隠れている物を見つけるかの様に。
「シンジ君…」
 カヲルが耳打ちする。
「離れないで」
 頷く事しかできない。
 闇に青い光が生まれた。
 小さな光だが、一つ、二つと増えていく。
 あの怪物だった、それも一体や二体ではない。
 喉元、鎖骨のぶつかり合う辺りに勾玉がはまっている。
「純度が高くなっている…、シンクロは、そうか、精神汚染…」
 浩一の呟きは理解できない。
 勾玉による感覚の拡張、第六感の上の第七感の創造に精神が狂わされてしまった。
 人の心を覗きたくないと嫌悪するように、その感覚器官から伝わって来る情報に汚染され、狂気に心が染まってしまっている。
 浩一の呟きはそう言うことなのだが、それを読み取れたのはカヲルだけだった。
「で、どうするんだい?」
 カヲルは楽しげに笑う。
 ポケットに手を入れ、やや背を反らせるようにして皮肉に笑う。
「僕とレイの壁は絶対だからね?、彼らが疲れるまで放っておくのかい?」
 疲れる事があるのなら、だろう。
「気を抜いている暇はない、本体に逃げ出されても面倒だからね?」
 浩一が左腕を振る。
 肘から先に黒いものが染み出し、それが腕を包んで鋼鉄の左腕を作り出した。
「ロデム…」
 ドン!
 やけに太い指先から砲弾が飛び出す。
 それは壁の機械を圧し潰してめり込んだ。
「これで後は追い詰めるだけだ…」
 弾が形を崩して溶け込んでいく。
 それもまた、腕と同じように黒いなにかで出来上がっていた。


「迎えが…、来たみたいだね?」
 オルバの言葉に、うずくまっていたキクが顔を上げる。
 その顔からは表情が消えている。
「大丈夫、ママは君を抱きしめてくれるよ」
 ママ…
 声が漏れた。
 無意識の内なのだろう、ポケットをまさぐり何かを探している。
 ママ…
 ママ。
 ママがいない…
 無くしたはずのものを探している。
「そう、ママが来てくれるよ」
 安心させるような声も聞こえてはいないだろう。
 だがキクにはその方が幸せだったかもしれない。
 聞こえていれば、ついオルバを見てしまっただろうから。
 そしてオルバの表情には、言葉を裏切る、凄惨な笑みが浮かび上がっていた。


 時間は少し前後する。
「今日はあなたの着物を新調しなければいけませんから」
「ふきゅう…」
 胸を張って歩く小和田の後ろを、ミズホが鞄を胸に抱いてついていく。
 ジオフロントへ侵入、しかしミズホはどこか落ちつかない。
「どうかなさいましたか?」
「な、なんでもないですぅ…」
 ミズホは言いながらも気になっていた。
 恥ずかしいですぅ…
 二人の後ろにはボディーガード兼運転手である男が着いてきている。
 場合によっては荷物持ちの役目も与えられるからだ。
 黒服にサングラスだけでも目立つというのに、ガタイも大きい。
 相手がシンジであればいかなる視線もミズホ的フィールドにって無効化できるのだが、さすがに平時では通常人並みの感性が視線と言う名の痛みを受けて喘いでいた。
 そうですぅ!、こんな時こそシンジ様…
 ミズホは電球を思い浮かべる代わりに尻尾髪をピョコンと揺らした。
 ミズホ…、今日は遅かったんだね?
 シンジ様…
 それはなに?
 あ、これは今日買った…
 着物?
 はいですぅ、…あの、シンジ様?
 …あ、ごめん、ちょっと見てみたいなと思って。
 ふえ?
 ミズホの着物姿だよ、きっと奇麗なんだろうね?
 シンジ様ぁ〜〜〜☆
 はうはうとお供の隙を突くようにふらふらする。
「あ、そんなシンジ様、着崩れてしまいますぅ〜〜〜」
 何を妄想しているのか人が引いていく様な表情を浮かべたままでふらついていく。
「ふえ?」
 気がつけばはぐれてしまっていた。
「う…、小和田せんぱぁい」
 またぼうっとしてましたね?
 後で怒られるかもしれないと考えて青くなる。
「どうしましょう…、あ!」
 ここまで来れば才能かもしれない。
「シンジ様ですぅ!」
 非常階段へ消えていくシンジを発見。
「シンジ様ぁ!」
 ミズホは後を追って駆け出した。


「おっかしいなぁ…」
 そしてあの警備員。
「どうだ?」
「誰もいないぞ?」
 無線で連絡を取った後引き返していく。
 ふぅ、間一髪でしたぁ…
 ミズホはなんとかあのハッチに入り込んでいた。
 ちなみにそこまで、どうやって監視カメラから逃れたかと言えば…
「ふぅ、こんなこともあろうかと思って譲ってもらった、隠れ身の術用カメレオンシートが役に立ちましたぁ」
 裏側には赤木謹製の肉球マーク。
 これはその表面を微弱な電流によって色彩を変化させられると言うレジャーシートに若干の手を加えたお遊び品だった。
 染み一つない真っ白な壁、へこみも角もない真直ぐな廊下だったからこそ、こんな布一枚を持って壁に張り付くだけで護魔化せたのだろう。
 …はうう、わたしってばくの一の才能まであったんですねぇ?
 本気で思う所がミズホである。
「さ、急ぎませんと!」
 ミズホはシートを奇麗に畳むと、スカートの裏の秘密のポッケに押し込んだ。


 シンジの右から飛び掛かって来る。
 素早くポケットから右腕を引き抜くカヲル。
 キィン!
 そのまま目も向けずに敵を壁で受け止める。
 自分であれば自動展開される壁も、シンジ達を守るためには自分の意志で使わなければならない。
 意識的に展開するためのポーズとして手を動かしたのだ、本来であれば体を動かす必要は無い。
 でもそれは限界を意味するんだよ…
 カヲルの胸中は表面ほど穏やかではない。
 四方八方から襲われれば、カヲルだけでシンジを守り切ることはできないからだ。
「シンジ君…」
 カヲルは次々と襲い来る怪物を弾きながら口にする。
「歌えるかい?」
「え…」
「この危機的状況を乗り切るために、必要なんだよ、シンジ君が…」
「そんな…、ことを言われてもさ」
 レイにすがりつかれている。
 組んだ腕にしがみついているレイを見て気がつく。
 自分がその腕に手をかけ返していた事を。
 いつのまにか、その恐さに自分がすがっていた事を。
「どうすれば、いいの?」
 自分にも何かしらの力があることには感付いている。
 しかしだからと言って、思ったように使えるほど自覚しているわけではないのだ。
「そんなに便利に…」
「シンちゃん…」
 レイがギュッと奥歯を噛んだ後に決意を吐く。
「手伝うから」
「レイ?」
「アスカの仇は取らなきゃ、ね?」
 ガァン!
 轟音に驚く。
「これ以上は待てない」
 浩一だった。
 左腕に殴り飛ばされた怪物が壁面を陥没させてしまっている。
「浩一君!」
「手加減はしてない、死ななきゃいいけどね…」
 残忍な笑み。
 ドン!
 今度は指先からの砲撃。
 弾き飛ばされた誰かがお腹を押さえてうずくまる。
「やめて、やめてよ!」
「なら早くして、僕には他の方法は思い付かないんだ」
 まるで追い詰めるような言い方。
「カヲル君、やめさせてよ!」
「それはできない…」
「どうして!」
「シンジ君を守るだけで精一杯だからだよ…」
 今度は三体、宙を跳んで降りて来る。
「くぅ!」
 カヲルの反応が遅れ、三体のうち一体がレイの肩に触れた。
「レイ!」
 片膝を突くレイ。
「だ、だいじょぶ…」
「そんな分けないじゃないか!」
 赤い。
 赤い染みが広がっていく。
 血?
 血だ…
 その怪物は浩一によって殴り飛ばされていた。
「レイに傷を付けたね?」
 声が一段低くなっている。
「許すわけにはいかない」
 ダメだダメだダメだ!
 人間なんでしょ?、その人達も人間なんでしょ!?
 浩一の拳が唸る。
 怪物にアスカが重なる。
 壁に叩きつけられるアスカ。
 げほっと血が吐き出される。
 じわじわと手のひらが濡れていく。
 レイの怪我もシンジの平常心を失わせていく。
やめてぇーーー!
 シンジの声が空間を満たした。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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