NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':71 


 生きて。
 生きるの。
 生きてちょうだい。
「ねえ?、お母さん」
「なぁに?」
 真っ白な部屋と揺れるカーテン。
 頬のこけた女性が少女に微笑む。
「お母さん、死んじゃったらどうなっちゃうのかなぁ?」
 死ぬと言う事の意味がよく分かっていないのだろう。
 それを知っているから、彼女は優しく言葉を選ぶ。
「…あなたの側にいられるようになるのよ?」
「あたしの?」
「だって居られるのなら、好きな人の側がいいもの」
「うん!、あたしもママが大好き!」

「ママ、ねぇ?、そこにいるの?、ママ…」
 ええ、わたしはここにいるわよ?
「よかったぁ、ママぁ…」
 それが幻聴かどうかは本人のみが知る所であろう。
 だが本人がそれを真実とするのであれば…
 幻は妄想ではなく、彼女はまだ、死んでさえそこにとどまり続けていることになる。


GENESIS Q'71
「窓辺には夜の歌」


 ガタン…、ガタタン…
 不思議な震動に目が覚める。
 あれ?
 不思議な光景。
 ここ…
 電車の中だ。
 …電車、だよな?
 首を傾げる。
 シンジの知っている電車とは少々違っていた。
 肘掛けは木で出来ているし、シートも温もりを感じさせる柔かなカバーで覆われていた。
 …どうして、僕、こんな所に居るんだろ?
 わからない。
 答えを見付けられない。
「次は終点〜、八瀬遊園〜」
「降りなきゃ…」
 何故かそうしなければ行けないような気がして立ち上がる。
 …駅は子供連れで溢れていた。
 八瀬…、遊園地?
 そちらではピンと来なかったのだが、隣り合う山のロープウェイ、そこでここが何処なのか知った。
「比叡山…、って京都!?」
 慌ててキョロキョロと辺りを見回す。
 家族連れ、観光客は多いが、多過ぎるというほどではない。
「…碇さん?」
 遠慮がちな声に驚く。
「あ、碇さん…、ですよね?」
「君は…」
 日本人形のように長く艶のある髪は前髪が真っ直ぐに切りそろえられていた。
 歳はシンジよりも少し低い程度。
 それよりも驚いたのはその服装だった。
 クリーム色のゆったりとしたセーター。
 下は茶系のスカート、その下には黒のストッキングだろうか?
 靴はありふれた白のスニーカー。
 秋から冬にかけての基本的な服装だ。
 …そっか、もう冬だもんな。
 先程の驚きが薄れ、不自然さを残したままだが受け入れてしまった。
 紅葉を過ぎて落ちた紅葉の葉が、道の隅に追いやられている。
「竹崎キクです、お迎えに参りました」
 静かに頭を下げるキク。
「あ、すみません…」
 シンジも慌てて頭を下げた。
 その慌てぶりがおかしかったのだろう、軽く握った手を口元に当ててくすりと笑う。
「お車を回しております、こちらへ」
「はい…」
 少しばかり赤くなって後に従う。
 …見とれてたって言ったら、もっと笑われるよなぁ。
 落ちついた仕草と物腰に意識を奪われていた。
 その気恥ずかしさがシンジから今の状況に対する違和感を全て消し去ってしまっていた。


 まるで鳴動するようにデジタルサーキットを光が走り抜けていく。
 その光が一瞬横顔を浮かび上がらせた。
「キクちゃん…」
 レイはシンジを抱き、しゃがみ込んだまま身動きできなくなっていた。
 そのレイを挟み合う様な形で立つカヲルと浩一。
「…何か聞こえないかい?」
 くす、くすくすくす…
 きゃはは…
「…子供の声か」
 お互いが睨んでいるのは取り囲むように距離を測っている怪人達だ。
 元は人間であったはずの者たち。
「大ピンチだね…」
「守ってる分には、ジオフロントが崩れない限り大丈夫だろ?」
 言ってから寒気が走る。
 …まさか、ね。
 だが浩一はその考えを捨て去らなかった。


 シンジが通されたのは比叡山から山間へ向かった場所であった。
「どうぞ…」
 下働きをしていると言う青年が導く。
 塩田と言うらしい、キクとは親戚なのだと言う。
 …木の廊下か。
 ふと思う。
 なに感動してるんだろ?
 木造平屋なのだから当たり前だ。
 ただ大きさは普通ではない。
「奥はご主人様とお嬢様の寝室、それに研究施設になっております」
「あ、ご挨拶は…」
「後でお伺いいたします、くれぐれも…」
「わかりました」
 奥へは立ち入るな。
 特に珍しくはない、このような名家には必ず立ち入りを許さぬ領域がある。
 それは土蔵だったり、井戸だったりと様々だが。
 シンジは畳の上に転がった。
 珍しくない、か…
 自分のことを整理する。
 家を継ぐ前に少しだけ気持ちを整理したくて、それなら良い所があるって紹介されて来た、そうだよな?
 起き上がる。
 何も…、おかしくないはずだ、なにも…
 シンジは障子を開け、そこから見える山並みに心を落ち着けた。


「碇、シンジです」
 シンジは食卓につくと、とりあえず上座に向かって頭を下げた。
「キク…、迎えに出たそうだな?」
「はい」
「いいのか?」
「車に揺られただけです、問題ありません」
「そうか…」
 シンジはキョトンとしてしまった。
 …親子、だよねぇ?
 とてもそうは思えないやりとりだ。
 それを見透かしたのか?、キクがはにかむようにぎこちなく笑む。
 シンジはバツが悪くなって頭を掻いた。


 その晩。
 …竹崎さん、悪い人じゃないんだ。
 和服と恰幅の良さに威厳を感じた。
 言葉づかいに問題はあっても、その内容はキクを心配してのものである。
 寝よう…、キクさんには悪いけど…
 近付かなければ、目くじらを立てられる事も無いだろう。
 ごめん、……。
 シンジは許嫁であるはずの、誰かの名前を思い浮かべた。


 記憶が飛ぶ。
「シンジさん…」
 揺り起こされる。
「…キクさん」
 起き上がる、障子ごしでも陽が高くなっているのは分かる。
「すみません、寝過ごしました?」
 キクは柔らかく微笑む。
「もうすぐ朝食です、…夕べは遅かったんですか?」
「少し考え事を…」
 言ってからキクの羨ましそうな顔に気がつく。
「キクさん?」
 はっとするキク。
「あ、ごめんなさい…」
 慌てて立ち上がるキクの手を、シンジは勢いでつかんでしまった。
「あ、ご、ごめん…」
 しかし手は離さない。
「…シンジさん?」
 照れたように赤くなる二人。
「…その、後で散歩に行きたいんだけど、案内してもらえないかな?」
 シンジにしては上出来の言い訳だった。
 本当は聞きたかったのだ、先程の表情の意味を。
「はい」
 だがそのほがらかな笑顔に、罪悪感を持ってしまった。


「…なんでしょうかぁ?」
 最大のイレギュラー、ミズホはその空間の異様さに身を震わせた。
「寒いですぅ…」
 地下のためかコンピューターの冷却のためなのか?
 ジオフロントを支える電力施設が集中しているわりには温度が低い。
「シンジ様は下ですね?、ん〜なんだか浮気しているような気がしますぅ!、って浮気!?、そんなっ、真夜中の情事、学生服と美人エレベーターガールなんて不健全ですぅ!」
 いやんいやん☆
「はっ!、あるいはその甘いマスクを盾にこんなところでハーレム計画!、シンジ様ぁ、わたしも入れてくださぁい!」
 ずだだだだだん!
 慌てて滑り落ちていく。
 しかしそこはミズホ、落ちついて対処した。
「ショックアブソーバー最大ですぅ!」
 ぼむっ!
 階段の途中に白くて巨大な丸いものが出現する。
 長い耳を見ればそれがなんであるかは一目瞭然だったが、突っ込んでくれる者は居なかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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