NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':71 


 山間をゆるやかに流れる川、そして田畑と、真っ直ぐに育てられている木材用の木々。
 それに時を遡ったかの様な古い家屋と、木造の校舎。
「驚かれました?、派出所や消防署も山の向こう、ここには何も無いんですよ?」
 そう言うが、キクはそれほど退屈を持て余している様には見えない。
「でも…」
「え?」
「キクさんは、ここがお好きなんですよね?」
 キョトンとキクは目を丸くした。
「…初めてです、そう言ってもらえたの」
「そうですか?」
 二人でのんびりと道を歩く。
「みんな、街へ遊びに行こうって、そればかりで」
 苦笑する。
「退屈なんじゃないですか?」
「…シンジさんは?」
 違う答えを貰えそう…
 そんな期待と予感を折り混ぜた目がシンジを覗き込む。
「僕は…、街が苦手で」
「苦手?」
「ええ…、人が…、かもしれません」
「そうですか」
 言葉が途切れる。
 だが二人の間には穏やかな温もりがある。
「え?」
 隣を歩いてたキクが、手がかする様に触れた瞬間、次は逃さないように絡め取っていた。
 照れた笑みに、シンジは赤くなって前を向く。
 二人の歩みは、さらに輪を掛けて遅くなっていった。


ふええええええええええええええ!
 ぼてっ!
 一瞬空気の淀みがしらけて晴れた。
「う〜〜〜〜」
 もそもそ動くお尻、ピョコピョコと揺れる丸い尻尾。
「ふぬっ!」
 っと起き上がった彼女は、そのうさ耳と真ん中の尻尾髪を盛大に揺らした。
ミズホ!
「ふえ?」
 うさぐるみモードのミズホが振り向く。
あああああー!、レイさん膝枕なんて何してるんですか!、はっ、とすればここがシンジ様のハーレムだと言うお話は真実」
「誰がそんな話したの!」
「先程わたしが…」
作るな!
「でもでもカヲルさんもいらっしゃいますし」
混ぜない!
「じゃあ僕もなのかな?」
浩一君も!
「秘密の密会場はいいねぇ、暗い世界で背徳の愛を交わし合う二人、シンジ君、次に来る時にはこの世界を薔薇で埋めて…」
刺に刺さってなさい!、ってそうじゃなくて、ミズホ危ない!」
 バジ!
 殴りかかった怪人が、ミズホの一歩手前で金色のほとばしりに感電した。
「壁!?、ミズホにそんな力…」
「違うよ、あれは…」
 カヲルは笑う。
「ふええ…、こんなこともあろうかと赤木先生に高出力雷電兵装を追加発注しておいて正解でしたぁ」
「ほぉおおおお、で、ミズホは誰にそれを使うつもりだったの?」
「ふえ?、誰って、それは、あのぉ」
こっち見てちゃんと答える!
ふぇえええええええ!、だってレイさんもアスカさんも半分どころか大半人間じゃないって言うか生ける人外魔境、ミズホは見ましたぁ!、お風呂場に毛むくじゃら怪人をって感じでしたしぃ!」
誰が毛むくじゃら…、なに鼻血出してるの?」
「あ、いや、ちょっと…」
 浩一が鼻を押さえている。
「下を向くより上を向いた方がいいよ?」
「ありがとう、カヲル君」
「いいってことさ、僕もシンジ君とお風呂に入った時には良くなるからね?」
「カ〜ヲ〜ルぅ!」
「のぼせただけさ、何だと思ったんだい?」
「護魔化されませぇん!」
「浩一君は上に昇るタイプだけど、僕とシンジ君は同じだからね?」
「何のことよ?」
「局部集中…、ふぐ!
 ジャンピングミズホの攻撃により圧死。
「ふっ、悪は滅びましたぁ」
「…ミズホも後でお仕置き」
「それより、どうも様子がおかしいよ」
「え?」
 見れば敵集団の動きが止まっている。
「…ミズホに呆れたとか」
「酷いですぅ!」
「いや、呆れたというよりむしろ、ぐ、がっ、ご!
 カヲルの上でビタンビタンとジャンプするミズホ。
「ビタンビタンび耽美、嘆美、耽美は良いねぇ、まさしく人類が極めた誉められるべき趣向」
「じゃあ浩一君と隅っこに行ってて」
「…時々泣きたくなるよ」
「おや?、浩一君は嫌いなのかい?」
「好きじゃないかな?」
「嫌いとは言わないんだね?」
「…人には隠された性癖がある、自分でも気がついていないだけかもしれない、誰にもそれを否定することはできないさ」
「真面目だねぇ、でもだめだよ?、僕とシンジ君は愛し合っているからね?」
 …浩一君、うまく逃げるのね。
 カヲルの本気を冗談でかわしただけなのだが、それを本気と取る人間もここには居る。
「お、お二人ってよく一緒にいらっしゃるとは思っていたんですけどぉ、やっぱり浩一さんもそうだったんですねぇ…」
 何だかミズホは嬉しそうだ。
「頷かないで欲しいな、できれば」
「でも本当の事なんだろう?」
「否定してないだけだよ」
「やっぱりぃ、ではカヲルさんのことは浩一さんに任せて」
「シンちゃんはあたしのだからね?」
「酷いですぅ!」
 ちなみにレイはシンジとキクを等分に見つめ、視界に収めている。
 キクちゃん…
 無表情を通り越して、人形のように動かなくなってしまっている。
 心配だけど…
 シンジが居るから動けない。
 でも。
 周りの敵も動かない。
 何が…、どうなってるの?
 その答えが見付けられなかった。


 キクが倒れた。
「何も言われないんだな…」
 シンジは自室に転がっていた。
 キクは早々に奥の研究室へ連れこまれてしまった。
 どうも昼間の散歩がたたったらしい。
「病気だったなんて…」
 なにも聞かされていなかった。
「違う、か…」
 教えてくれなかったんだ。
 理由はわからない。
 気をつかったのか、教えたくなかったのか。
「…なんだったんだろ?」
 倒れたキクを塩田が抱きかかえ、キクの父と共に消えてしまった。
「責めてるんじゃないよな?」
 黙殺された?
 初日のやり取りを思い出す。
 …キクさんの好きにさせてる?
 最悪な想像が頭を過る。
「…まさか、ね」
 もう先が長くない。
 何処かで読んだ本の話を、シンジはついつい思い出してしまっていた。


「申し訳ない…」
 頭を下げられて逆らえるわけもない。
「いえ、元はと言えば僕の…」
「あれは発作を持っておりまして…、それでも病弱と言うわけでも無いので自由にさせておったのですが」
 父親よりも年配の男性に下手に出られて、落ちついていられるほど肝はすわっていない。
 シンジはそわそわとしてしまっていた。
「お嬢さんには、くれぐれもお体を大事にして下さいと」
「ありがとうございます」
 深々とした挨拶、それにはシンジの父親との力関係もあるのだが。
「では…」
 シンジは屋敷を出て歩き出した。
 …駅まで歩いて2時間か。
 少しばかり気が遠くなる。
「ま、のんびり帰ろう」
 どこか感情に弁でも付いているのかもしれない。
 シンジは陰鬱な感情をすこんと抜け落としてしまっていた。


 …迷った、かな?
 大きな道沿いに。
 そう言われても、似たような道路が合流していたので、地元の感覚の無いシンジにはどれが正解なのか分からなかった。
「やっぱり車で送ってもらうんだった…」
 うなだれる。
「道を聞くにも…、戻るしか無いか」
 途中に家らしい家がなかったのだ。
 気恥ずかしさは残るが、やむを得ないと言い聞かせる。
 そして結局、竹崎屋敷まで戻ってしまった。


「あのぉ…」
 てれ笑いをしながら玄関を覗く。
「シンジさん!」
 驚くキク。
「あ、道に迷っちゃって…」
 塩田が渋面を作る。
「…では、お送りしましょう」
「塩田!」
 キクの凛とした声が響く。
「しかしお嬢様…」
「父にはわたしが話します、約束、そうでしょう?」
 渋々ながら下がる塩田に睨まれたような気がして、シンジは同じ家なのに居心地が悪くなってしまった様な気がした。


「マ、マ?」
 キクの口からポツリと言葉が漏れた。
 何をしている?
 その内側に声が囁く。
「ママ…」
 彼女はお前を見捨てた。
 お前を傷つける。
 母ではない。
「ママぁ」
「キクちゃん!」
 レイはシンジを横たえて中腰を上げた。
「ママ、ママぁ」
 キクは今まで見た事もないほど取り乱している。
「マ、マぁ…」
 そのまま上を向き、大口を開けて泣き始める。
 あああああ、あ…
「なに?、どうしたの?」
「泣かないでくださぃい〜」
 おろおろとドスドス右へ左へ走るミズホ。
 キクの泣きじゃくる姿に気を取られていて、誰もシンジの瞼がピクリと動いた事に気がつかなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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