NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':71
「ママぁ…」
キクから淡い光が発せられている。
シンジは両肘をついて上体を起こした。
そこで初めてカヲルが気がつく。
「…月の唄?」
シンジが口ずさんでいる。
壁面のサーキットの光が早くなった。
蛍光燈程度の灯が得られるぐらい、ひっきりなしに走り始める。
「シンちゃん!?」
「シンジ様!」
「待つんだ」
立ち上がるシンジを支えようとするが、カヲルと浩一に邪魔をされた。
「でも!」
シンジは今にも倒れそうになっている。
だがキクも泣くのをやめていた。
「…なに泣いてるの?」
ビクッとキクは震え上がる。
えっく、ひゃっくとこぼれ出る声。
「キクちゃん」
キクは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている。
「…キクちゃんは、何を見たの?」
キクは「ふぇ…」っと泣く一歩前に進んだ。
「なにを望むの?」
シンジの声が低く響く。
「ママ、ねぇ?、そこにいるの?、ママ…」
女の子が不安そうに首を巡らしている。
そして不意に聞こえる幻聴。
ええ、わたしはここにいるわよ?
「よかったぁ、ママぁ…」
そう言って自分の胸を抱きしめる。
そこには一つの青い勾玉。
シャツの首元から覗ける白い肌には、木の根のような物が張り付いて脈動している。
「ねぇ?、あたしもママみたいになるのかなぁ?」
彼女は内なる声に問いかける。
お婆ちゃんも、ママもここにいるわ?
「ずっと…、ずっと一緒?」
ええ、ずぅっと一緒よ…
しかしその少女は突然大人になる。
でも、キクはどうなるの?
側に居てあげたい、ずうっと側に居てあげたい。
でも…
これは違うのよ。
違うの…
抱きしめたいの。
あなたのことを…
「…そう、だから新しいママを探していたんだね?」
キクの思考は浩一が読んで全員に回している。
「ママの想いを、願いを」
叶えてあげたかったのかい?
ぶえええええーん!
ミズホが泣き出す。
カヲルも優しい目を向ける。
「でも、あたしはママじゃないもの」
レイは叫んだ。
「泣かないの!、ママじゃないけど、ママじゃないけど遊んであげてたでしょ!」
しかしキクは泣き始める。
「キクちゃん!」
「レイ!」
意外と強い制止の声。
「…シンちゃん!?」
「…いいんだ」
シンジは顔をほころばせる。
「もう、いいんだ…」
わんわんとキクは泣く。
「間違ってる事が分かったから…」
「そう、だから泣いているんだよ?、キクちゃんはね…」
倒れかけたシンジをカヲルが支えた。
「大丈夫かい?」
「はは…、なんでだろ?、なんにもしてないのに、力が入らないや…」
キクの全身を蝕んでいた勾玉の汚染物質。
それらは記憶回路を形成してキクの感情を抑止していた。
シンジに流れ込んだのはその情報。
それを追体験と言う形で見て来たんだね?
浩一は適当に考察する。
「でも悪いけど、気を抜くにはまだ早いんだ」
ほら、っと壁と天井を見る。
「始まったね…」
カッと閃光を放ってショートした。
それと同時に、ビクンと怪物達が身を震わせる。
「活動再開、だね?」
ズズン…
腹に響く地鳴りが鳴った。
「うわぁ!」
シンジは情けなくレイにしがみついた。
「シンちゃん!」
しかしそんな叫びも、生き埋めにされるかもしれないと言う生理的な恐怖に押し流される。
地響きのせいで壁に張り付いていた物がめくれ、ばらばらと落ちて来るのだ。
「キクちゃん!」
シンジが一番早く気がついた。
直撃コースで壁材が落ちて来る。
「とう!」
ドガン!
ミズホのウサギ的飛び蹴りが決まる。
「あ…」
キクは見上げた。
「大丈夫ですかぁ?」
安心をくれる巨大なウサギを。
「ささ、早くここへ」
んしょっとお腹を持ち上げると、そこに継ぎ目でもあったのか横に割れていた。
キクの身柄を内部に確保。
…あの中、どうなってるんだろう?
緊迫した中、そんな素朴な疑問をシンジ一人が密かに抱く。
「浩一君」
「うん」
二人は怪物達の相手に奔走していた。
フォン!
カヲルの一払いで生まれた壁が敵を弾く。
「ん!」
浩一の電撃が昏倒させる。
「シンジ様!」
ミズホの切羽詰まった声に注意を引かれる。
「あれは…」
白銀の少年が立っていた。
全身が滑らかな光沢を放っている。
鋼の彫刻の様にも見えたが、その考えは否定される。
にぃっと口元が吊り上がったからだ。
「…オルバ」
浩一がその名を呼ぶ。
「残念な事に…、僕にはアンテナが無いんだよ、君のようにはね?」
オルバは唐突に切り出す。
「そのためにキクちゃんを利用したのかい?」
勾玉をコントロールするために。
ブォン!
金色の風が吹き荒れた。
カヲルの怒りの風だった。
ドカドカと怪人達は壁に叩き付けられる。
「だけどそれも解決できたよ、この街のおかげでね?」
オルバの足は地面と繋がっていた。
そこに無数のきらめきが浮かぶ。
「勾玉!?」
うっ!っとシンジは自分で自分の傷を痛めた。
「邪魔なんだよ、僕が地上に出るためにはね?」
ゴゴゴ…
先余程よりも大きく響き始める。
「ジオフロントを…」
「崩すよ、空間はブロックしてある、テレポートも出来ないよ?」
そのための電子サーキットか…
浩一は笑った。
「何かおかしいかい?」
「この程度で勝ったと思っている君がかな?」
「ほざくね…」
オルバの下半身を床が盛り上がって覆いつくす。
「顔!?」
驚くシンジをレイが庇う。
床を、壁を、取り込んで巨大な顔が作られていく。
オルバの下半身は蛇のように伸び、その顔に繋がっている。
「人である事もやめたんだね?」
つまらなさそうなカヲル。
「僕自身が、プラントだ」
ビシュン!
巨顏から蛇のような触手が伸びる。
その先端には勾玉を額にはめ込んだオルバの顔。
「…悪趣味だねぇ」
いくつもの顔のいくつもの口が開く。
その奥にも勾玉があり、それらは光り輝いた。
ブン!
光が薙ぐ。
キィン!
硬質な音が響いた、カヲルの壁だ。
ドォン!
爆発に惨状が照らし出される。
「で、どうするんだい?」
カヲルは浩一に対して口を開いた。
「このまま守っていてジオフロントが崩れれば、圧死は免れないよ?」
それも実に楽しそうにだ。
「大丈夫、それに逃がしもしないよ」
ゴォン!
巨大な手がオルバを下半身の顔ごと圧し潰した。
「な…」
驚くオルバ。
空いた壁の奥ににぃっと歪む赤い唇が見える。
「この…」
オルバの身体が壁に溶け込み始める。
「逃がさないよ」
ビジ!
壁がオルバを弾いた。
「な!?」
「驚いたかい?」
事も無げに浩一が説明する。
「植物…、いいや半生物と化していた勾玉を鉱物以上の生体とすることで強化した」
デジタル化することで、信号のやり取りを可能にし、支配下に置いていた。
もがくオルバ、蛇のような触手が巨大な腕にからんでへし折ろうと力を入れている。
「バカだね?、機械はそれ以上の事は何も出来ないのに…」
何故か自嘲気味に呟く浩一。
「あああああああああああ!」
オルバは胴部を伸ばし、指のすき間から逃れようとする。
「ビートX、頼めるかな?」
唐突にカヲルが切り出した。
「好きだね、君も」
くっくと漏らす浩一。
「ビートX、セットオン」
浩一の声に合わせて、静かな音が流れ始める。
ギター?
シンジは耳を疑った。
壁にめり込ませていたロデム…、黒い物体に目をやる。
壁中を走っているのと同じ光が放出されて、他の光と対消滅を起こしている。
サーキットの光りはやがて駆逐されて、ロデムからの一方的な蹂躪が始まった。
「リプログラム開始、機械生命体に半融合していた事があだになったようだね?」
この単調なリズムは…
光がリズムを刻んでいる。
「これ…、シンちゃんが歌ってくれた曲」
レイも驚いている。
何のことだかわかりませぇん。
ミズホはちょっと悔しそうだ。
「…カヲル、声?」
カヲルが歌い始めていた。
それはシンジも良く覚えていない、即興で歌った時の歌詞だった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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