NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':73 


 大和マサシ、彼のやり口は始めからアスカの逆鱗に触れていた。
「惣流さん、碇君が校舎裏で待ってるって」
「へ?」
 呼び出し方としては最低の方法だった。
「惣流さん、誰か待ってるの?」
「あんた誰よ?」
 シンジが居ない、それだけで不機嫌になっている。
「嫌ぁ、ファンの一人、かな?」
「はん?」
「ほら、あすかちゃんって居るじゃん?、惣流さん似てるって言われない?」
 なによこいつ?
 一瞬本気で相槌を打った事を後悔した。
「しっつれいな話だよなぁ、向こうが似てんじゃん、ねぇ?」
 マサシはアスカとあすかに面識がある事を知らない。
 あたしはあたしよ。
 あすかもそう言うだろうと思って、クスリと笑う。
「あのさぁ」
 マサシはその笑みを勘違いした。
「俺、惣流って結構イケてると思うんだよな」
「だから?」
「俺達って、結構いいとこ行くと思わない?」
「思わないわね」
「…なんでだよ?」
 アスカの一言で単純に不機嫌さを増す。
「あんたが軽いからよ」
 なんで来ないのよあのバカ!
 アスカはシンジを怒鳴りつけるために肩を怒らせ、離れた。
 後で呼び出したのはマサシだったと知れたのだが、証拠が無いためアスカは「つまらない男」と捨て置いていた。


「ふぅん、そんなことがあったんだ…」
「そうよ!」
 二人で腕を組んで帰る道…、だが、アスカの機嫌を直すために、シンジは商店街への寄り道を選んでいた。
「シンジもっ、なんであんな奴の肩持つのよ!」
 それでもシンジは苦笑する。
「仕方が無いよ…、練習してないみたいだし」
「それがむかつくのよ!」
 できない事を練習せずに…
「カッコいいからってヴォーカルやっちゃって、何よあの声?」
 声量と言うものがまるでない。
「音階外してるし、音痴だし、顔も悪いし、指太いし」
「それは関係無いんじゃ…」
「きっとあの手、水虫ね?」
 痒いから弦弾いてるのよ!
 先程からどの店に入るかで悩んでいる。
 そのため会話から真剣さが抜けて来ていた。
「テクってなによ?、変な技覚える前に一曲くらいちゃんと弾けっての!」
「…僕もそんなにうまくないんだけどなぁ」
 言って「ここにしよう」と腕を引っ張る。
「なによここぉ?」
 雑居ビル、それもビルとビルに挟み潰されたような細いビルだった。
「ここの二階なんだ」
「二階?」
 看板が出ている。
 喫茶クローバー。
「さっ、行こ?」
「きゃ!、ちょっと待ちなさいよぉ…」
 珍しく積極的なシンジに、アスカは少し戸惑いを覚えた。


 店の中は八畳間の様な狭さで、テーブルと椅子が申しわけ程度に並んでいた。
「よぉ、シンジ君、ようやく連れて来たな?」
「ち、違いますよぉ…」
 シンジはロン毛の青年に頬を赤らめた。
「青葉先生?」
「よ、アスカちゃん、久しぶり」
 店の奥で青葉がギターを弾いている。
「なにしてるんですか?」
「何って…、シンジ君、教えてないのか?」
「ええ…、ちょっと」
 シンジは迷うことなく奥へと進む。
「ここはバンドやってる連中が集まる店なんだよ」
「そうなんですか…」
 アスカが席に座ると、一階からウェイトレスが上がって来た。
「あ、僕ホットお願いします」
「あ、あたしも…」
 狐につつまれた感じのアスカに、ウェイトレスがクスリと笑う。
「でもシンジ、こんなお店に来てたのね?」
「うん、レイがバイト始めた後にね?、一人で帰るようになって青葉さんに会ってさ」
「そう、それで男同士の秘密だから…」
「だから?」
「青葉さん!」
「大事な彼女になら教えてもいいぞって、約束したんだよな?」
 彼女って…
 赤くなって、呆然とする。
「もう、あれ、冗談でしょう?」
「でも今まで連れて来なかったじゃないか」
 くすくすと笑う。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「あ、大和先輩のことなんですけど…」
 その名前にアスカは我に返った。
「ああ、彼か…」
「今日、ちょっと一緒にやらせてもらったんですけど」
「ちょっとシンジ…」
 くいっと袖を引く。
「あ、うん、大和先輩ね?、時々来るんだよ」
「ここにぃ!?」
 急に居心地が悪くなったように感じる。
「そ、マサシはミーハーだからな?」
「やっぱりそうなんですか?」
 アスカが青葉に尋ねたのと同時にコーヒー到着。
「ライブハウスに出入りしてる人間は、みんなこの店に来るからね?」
「はぁ…」
「一応秘密にしてるんだけど…、何処で知ったんだか」
 苦笑い。
「シンジ君みたいにマジメにやろうってんなら教え甲斐もあるんだけど」
「先輩、あの技がどうのこうのって目立つ事しか考えてないから、嫌われてるんだ」
 シンジもあまり好ましく思っていない。
「それで何も言わなかったの?」
「言っても無駄…、とは思わないけど、ほんとに遊びでやってる人だから」
 苦笑する。
「仲間内で目立ちたいんだな?、だからシンジ君に差をつけられてるのに気がつかない」
「差なんてもんじゃないわよ、あんなの…」
 気分が悪くなり、敬語を忘れる。
「トリッキーな弾き方は難しいよ、それが出来るから自分はうまいって誤解してる」
「先輩…、やりたい曲がないんだと思います」
「なによそれぇ…」
 一応でもなんでも、弾いていたのはオリジナルの曲だったはずだ。
「僕はうまく弾きたい曲があるんだけどね?、まだ弾けないんだ…」
「だからうまくなりたいの?」
 シンジは頷く。
「それで急に作詞とかも始めたわけね?」
「言ったっけ?」
「レイが自慢してたわよ」
 シンジは「はははっ」と汗を滴らした。






 シンジ…、なんだかんだって頑張ってたのね。
 まだ結果には結び付いてはいなくても。
 でも…、カッコいいわよ。
 クッションを抱きかかえ、部屋の真ん中で寝転がるシンジをじっと見つめる。
 レイ…、あんたも色々考えてんのね?
 カヲルの言葉をレイにも重ねる。
 あたし…、何してるのかしら?
 クッションにくぐもった息を吹き入れる。
 あたしはシンジが好き…
 でも好きだけじゃダメなのよ…
 あの夢を思い出す。
 あれもあたしよね?
 否定はしない。
 でもあたしに何があるの?
 幼い頃のシンジを知っている、優位に立っているのはその点だけ。
 好きだけじゃ…
 他にも自分が一番好きだと自負している子は沢山居る。
 ぶるっと震える。
 そんなの嫌よ!
 あんな嫌な女になるのも。
 置いていかれる側になるのも。
 あたしは嫌!
「…アスカ、機嫌悪くない?」
「あ、やっぱり?」
 シンジと並んで寝転んでいたレイがボソッと呟く。
「どうしたのかなぁ?」
「色々あるみたい…」
「やっぱり昨日の?、…聞いたの?」
「相談されちゃったの」
「ふぅん…」
 シンジはそっけない振りをする。
「あ、妬いてる?、シンちゃん」
「他人だから話せる事…、他人でないと話せない事…」
「なに?、それ…」
 ずりずりと這うように顔を寄せる。
「ん…、前にマナに言われたんだ」
「へぇ?」
「あんまり仲が良過ぎると、逆に話せなくなることもあるって」
「ふぅん…」
 そんなことを、ねぇ?
 自分と似たノリの友達を意外に思う。
「アスカが僕に話してくれないのは、そう言う事だって、思いたいんだ」
「どうして?」
「だって…、嫌だから」
「へ?」
 シンジはちらりと振り返る。
「僕…、アスカに酷い事ばかりしてるから」
 レイもならって、アスカを覗いた。







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