NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':75 


「暇だねぇ」
「ねえ?」
 最初のがレイで、次のがシンジ。
 広々とした子供部屋に、ぽつんと並んで座っている。
 やけに大きなテレビには、特になんでもないバラエティ番組。
「ねぇシンちゃん?」
「なに?」
 わははははっと、明らかに足した笑いが流れる。
「あの話」
「ん?」
「勝ったら、CDデビューって事でしょ?」
「ううぅ〜ん…」
 困ったように首を傾げる。
「シンちゃんは嫌なの?」
「別に…」
「別にって」
 横を向く、が、想像通りの曇った顔も、期待した明るさも無い。
 戸惑いでもなく、その表情はただただ困り果てている。
「別に有名になりたいわけじゃないし、ケンカに使いたくてやってるわけでも無いし」
「じゃあ逃げちゃう?」
「それはだめだよ」
「どうして?」
 ん…、と考え込む。
「多分…」
「たぶん?」
「先輩にも分かって欲しいから」
 シンジは紡ぎ出すようにそう言った。


GenesisQ':第七拾五話
「妖艶なる天使」


 バンバンバンバン…
 ドラムマシンから基本的なリズムを取るドラム音が鳴る。
 シンジはそれに合わせてギターを弾いた、が…
「だめだめ!」
 青葉に口を出されて手を止める。
 ここは青葉のマンションだ、風呂はないもののフローリングのワンルームで二十一畳とかなり広い。
 防音なのは、元々が事務所用に貸し出す予定だった部屋だからだ。
 おかげでこうして、練習も出来る。
「出だしから半テンポずれてるぞ」
 ドラムマシンの前にちょこんと座り込んでいたレイが機械を止めた。
「本番はギターだけなんだろ?、完璧を目指さないとな?」
 とは青葉の弁だ。
「そう言えば鈴原君達はどうしたんだ?」
「あ、今回はシンちゃんの敵なんです」
「そっか」
 エアコンを効かせているからか?、シゲルはタンクトップ一枚だ。
 レイは秋物のセーターにミニと黒のストッキング姿だったが、それでも失敗したと思っていた。
「熱い…」
 シンジが代弁する、シンジもトレーナーだったからだ。
 さらにギターも弾いているので汗が吹き出している。
「向こうはバンドとセットで来るのか?」
「でも勝負はギターだけなんでしょ?」
「そうでもない、かな?」
「どうして?」
「ん…」
 言葉をまとめるように答える。
「なんとなくね、ノリとか、違うからさ…」
「あ、それはわかるかも」
 これまで歌った経験で、シンジのギターがあるのとないのとでは違っていたから。
「ん〜、そうだなぁ、フィーリングというか、音のやり取りで変わって来るって事もあるからなぁ」
 シゲルはべべんと弾いているシンジの答えに感心していた。
 そこまでのレベルには来てるのか…
 セッションと言うものがあって、音楽には一定のルールが存在する。
 このフレーズの後には必ずこういう音が来て、このリズムで、このテンポでと決まり事が存在するのだ。
 それさえ踏まえていれば、多人数でいきなり適当に楽器をかき鳴らしても、ちゃんとしたセッションになる。
 ああこの人はこういう音の繋ぎ方をするんだな、こういう曲調が好きなんだな。
 そういった人格を感じられるのだ。
 シンジにはそれが出来るし、読み取れもする。
 だからか…
 大和の音に納得できない。
 その分、損なんだよなぁ…、今度のは。
 ちらりとシンジを見る。
 床にペタンと座ったレイの側で、ギターのコードを教えている。
 歌で護魔化してもいいし、多少のミスは無視してもいい。
 派手な技を見せればいいのに、演奏する側としてそれが許せないのだ、不協和音が。
 わかるんだよなぁ…
 大和マサシの気持ちも。
 誰でも最初は楽器をかき鳴らして遊ぶし、その後で人の真似をはじめる。
 シンジはその段階を過ぎて、次のステップに進んでいる。
「これと、これと…、うん、この四つのコードだけ弾ければなんとかなるから」
 それは違うぞ、シンジ君…
 妙な所だけ手を抜くシンジに、シゲルはちょっとだけ頭を傷めた。


「鈴原ぁ、準備はいいかぁ?」
「ええでぇ、マサシさん」
 シンジが学校をサボって一夜漬けに励んでいる頃、大和マサシもスタジオにふけ込んでいた。
「相田はどうした?」
 スティックで外を指す。
「まあいい、いくぞ!」
 例によって騒音を生み出す。
 ケンスケはほんのわずかに漏れる音を聞きながら、テーブルと味気ない観葉植物の置いてあるコーナーで缶コーヒーを飲んでいた。
「やっぱりなぁ…」
 店備え付けのパソコンでインターネットに繋いでいる。
 調べているのはレイとの約束事項だ。
 オープニングが決まってない、エンディングは綾波の言う通りだけど、いくらなんでも無名で使えるはずが無いし。
 それにしてはキャストが豪華過ぎる。
 あすか・ラングレーの初主演作なんだよなぁ?、その脇にこれって…
 酷くお金が動いている。
 だからこそ話題も呼んでいるのだろうが。
「スポンサーはゼーレか…」
 他にも幾つかはある、が。
「ダミーだよなぁ、これ?」
 上げられた名前を探っていくと、やはりゼーレに行き着いてしまう。
 ん〜っとっと考え詰まると、部屋からの騒音に苛付きを感じた。
 まったく…
 下手だ、と思う。
 シンジとか、渚が上手いだけなのか?
 そうではない。
 やはり基本がなってないって事か…
 さらに狡猾な部分も鼻につく。
 青葉さんを味方につけてるからって…
 やるのはシンジ一人だ。
 マサシが頼れば、シゲルも手ほどきをしてくれるだろう。
 ガキなんだよなぁ…
 人に頼る事をしない。
 正しい事でも自分に合わなければ否定する。
 それを口にする人間は敵だ。
「どうすんだこれ…」
 シンジのために手を抜くか?
 この場合の意味は逆だ。
 まともに演奏すれば、マサシとの不協和音が目立つだろう。
 トウジも大変だよ…
 リズムを取っているのはトウジのドラムだ、マサシの機嫌を損ねない程度にいい加減にやっている。
 シンジと何度か組んだ経験は、確実にトウジの技量を上げているのだから。
 さて、どうするかな…
 余りにも胡散臭いが、マサシを勝たせれば問題のほとんどは解決する。
 いくらなんでも先輩の”あれ”がオープニングを飾るわけないもんなぁ…
 その当人はと言えば…
 これで俺も!
 すっかりその気になっていた。






「いやはや…」
 シンジ君にも驚かされたけど、それよりもレイちゃんだな…
 様子見に来た加持は、ツインでギターを弾く姿に驚いていた。
「ホントに今日初めてなのか?」
「単調っすからね?、ポイントさえ押さえれば一緒に弾いてるように見えますよ」
「ひっどーい!」
 ベベんっとかき鳴らす。
「そりゃシンちゃんの音でちょこーっとは護魔化してるけど」
 レイの持っている赤いギターはシゲルのものだ。
 レイはコード四つ、シンジはほぼ全部で弾いている。
 ギター一つでは作れない音の重複を作れる事で、曲の感じが変わって来ていた。
 厚みが出ているのだ。
「いっそどうだ?、レイちゃんも手伝わないか?」
「え?」
「向こうはバンドとセットなんだろ?、これぐらいはハンデさ」
「でも…」
 ちらりとシンジを見る。
「ん…、レイが歌う?」
「いいの?」
「ギター引きながらじゃ歌えないよぉ…」
「それもそうよね?」
 言葉に反して嬉しそうだ。
「なら歌の切れ間にレイちゃんもギターを弾けばいい、できるか?」
「そりゃいいっすね?、でも大和が認めますか?」
「どう勝った所で文句は付けられるさ」
「それじゃあ…」
 口を挟むシンジ。
「どうして勝負なんて…」
「勝つことに意味は無いかもしれないが、負ける事にはある」
「どういう意味ですか?」
「ますます意固地になるかもしれないが、負ければ悔しさは募る、それが自分を変えるきっかけにはなる」
「そうそう、そう言う事ってあるっすよ」
 どこか嬉し楽しそうな青葉。
 何かあったのかな?
 シンジはそう首を傾げる。
「ちわーっ、シゲルぅ、差し入れだぞぉ」
「こんにちはぁ」
「あ、日向さんに、伊吹先生!」
 勝手にドアを開けて入って来る辺り、かなりの親しさを感じさせる。
「加持校長先生、だめですよぉあんまり不良育てちゃ」
「酷いなぁ、マヤちゃんは」
 苦笑いしながらジュースを受け取る。
「教頭先生が愚痴ってましたよ?、あ、それと一体どこに行っちゃったんだって」
「今日は早退願い出しといたんだけどなぁ」
「こんにちわぁって、うわ」
「あー!、相田君!」
「やばっ、伊吹先生!」
 更に遅れて来たケンスケが到着。
 きおつけ!っと固まってしまう。
「だめじゃない学校サボっちゃ!」
「はい!」
 ケンスケは敬礼しながらちらりと思った。
 シンジの周りには、これだけ「楽しもうとする人達」が集まって来る。
 そしてシンジはちゃんと楽しませる、意図しているかどうかは、別として。
 この差なんだよなぁ…
 大和先輩との違いは…、と、協力する気を失いそうになってしまった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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