NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':75 


 はぁ、足が痺れちゃいますぅ…
 その頃ミズホは苦悩していた。
 これが晩ご飯ですかぁ…
 お膳にチョコチョコッと乗り、それを上品に箸で挟んで口に運ぶ。
 その手つきはまるで人に食べさせる時の動きだ。
 人、愛する人、シンジさまぁ…
 しくしくと心で涙する。
 会話のない食膳。
 量の足りないおかず。
 はいシンジ様、あ〜ん、なんてぇ…
 楽しみも無い。
「おばさん、これはないんじゃないの?」
「何を言いますか」
 ぴしゃりと押さえる。
「ミズホさんは修行しにいらっしゃってるのよ?」
「今時無理があるほどおしとやかにしてる子なんて居ないよ?」
「構いませぇん…」
「そう?」
「構いませんからぁ、クニカズさん」
 明かに無理をしていると分かる表情が痛ましい。
 それ以上に、食事をしていると言うのにお腹がきゅるきゅると鳴っているのがかなりおかしい。
「大変だねぇ」
「はいぃ…」
 つい本音が漏れてしまうミズホだった。


 クニカズは小和田家の分家の息子である。
 本家に居候し、医大に通う大学生だ。
「精神修行たって、こんなに非科学的な事は無いよなぁ」
 クスリと笑いながら、ミズホにあてがわれた部屋の襖を叩く。
「ミズホさん、いいかな?」
「ちょ、ちょっとお待ちをぉ!」
 寝っころがっていたのだろう、どたばたと慌てる音がする。
「どぅぞぉ」
 すっと開けると、やっぱりねっと言った感じで座布団の上に正座していた。
「僕だけだからね、そんなに気を張る事は無いよ」
「でもぉ…」
「大丈夫だよ、告げ口しないから」
「はぁ、それではぁ…」
「引っ掛かった!、おばさん!」
「はうあうあう!」
「冗談だよ!、冗談」
「はうう…」
 ぷしゅうっと突っ伏す。
「はい、これ」
「なんですかぁ?」
 コンビニの弁当、それも二つ。
「はうう!」
「ゴミは僕の部屋に捨てるから、早く食べて」
「でもぉ…」
 ミズホはそれでも思い悩んだ。
 口元に人差し指を当て、やや上向きに、目を細め、涎を滴らして。
 はぁうぅ〜、空揚げぇ…
 くぅっとまた音を立てるお腹。
 迷ってるなぁ、しょうがないけど。
 ミズホがダイエットを志すようなタイプでないのは分かっていた。
 そこで医大生らしく騙すことにする。
「ミズホさん?」
「はいぃ?」
「ここへ来て緊張してるでしょ?」
「はいぃ…」
 言いにくそうにうつむく。
「人間ってね?、緊張してるだけでもお腹が空くんだよ?」
「ふえ?」
「緊張してるってことは力が入ってるって事でしょ?、力が入ってるって事は筋肉を酷使してるわけだからね?」
「ふえぇ…」
 どうやら感心したようだ。
「さ、そう言うわけだから栄養は低いだろうけど、お腹だけでも膨らませておかないと保たないよ?」
「そ、それでは…」
 はうはうとラップを剥がし、箸を割る。
「頂きまぁっすぅ」
「はいどうぞ」
 ふぐぅ!っとのどを詰めたミズホに、次からはお茶も買って来ようと考えるクニカズだった。






 翌朝。
「いいのかしら?」
「なにがや?」
「こういうのってやっぱりまずくない?」
「かまへんかまへん」
 トウジとヒカリはシンジを迎えに歩いていた。
「対決言うたかて、別にケンカしとるわけやなし」
「してるじゃない…」
「先輩とシンジがやろ?、それもムキになっとんの先輩だけやないか」
「そうだけど…」
 土曜のヒカリはちょっと違う、と言うか、髪を完全に下ろし、ブローして膨らませてからまとめている。
 ちなみに髪留めはトウジからのプレゼントなのだが、それを知っている者はいない。
「わしらはいつも通りしとったらええんや、別に肩持つ必要あらへんて」
「うん…」
 でも自分達のバンドなのだ。
 まだちょっとだけこだわりを持ったままマンションを見上げる。
 五階建の低いマンション。
 二人はエレベーターに乗った、妙な沈黙が居心地悪い。
 ドアの前に立ち、インターホンはヒカリが鳴らした。


「なんやそやったんですかぁ」
「恥ずかしい…」
 一方マヤは酷くショックを受けている。
「不潔、あたしが不潔…」
 寝ぼけ眼でマヤが出た。
 それもかなり着崩れていた。
 トウジとヒカリは「いや〜ん」と全開で、マヤとシゲルの関係を誤解したのだ。
 もちろんヒカリが「不潔よぉ!」っと叫んだのは当然のこと。
「んで、腹ぁ決めたんか?」
「う…、ん」
 シンジはまだはっきりとしない。
「かああああ!、情けないやっちゃなぁ、それでもマタンキついとんのか!」
「音楽は感性なの、マタンキは関係無いの」
「それに鈴原君は敵なんだから、シンちゃんをいじめないで!」
「ねぇトウジ?、やっぱり」
「かああああ!、ライバルやからこそハッパをかけるこの男の友情がわからんのか!」
 そんな子供達を見ている大人達。
「あれ?、加持さんはどうしたんですか?」
「ああ、帰っちゃったよ、葛城さんに用事があるとか言って」
 かしゃあああああぁんと落ちるコップ。
「あ、やば…」
「マコト君、まだ?」
「ああ、葛城さんが忘れられ…、違う!、雑巾!」
「あっ!、これ!」
「ってこれ俺のシャツじゃないか!」
「えーーー!?、てっきりそうだと思って夕べも」
「拭いたのか!?」
「ちょっと」
 てへっと愛らしく舌を出す。
 この年齢でそれが似合うのだから恐ろしい。
「てへじゃないっすよ…」
 それをあっさりと無視できるこの男もだろう。
「かああああ!、とにかく行くで、シンジ!」
「え?、もう…」
「お前のん見せてもらわんと、ワシらかて腹くくれんやないか!」
「結局素直じゃないんだよねぇ…」
 ケンスケの一言に、ヒカリはちょっと笑いを乾かせた。






 マサシは意気揚々と歩いていた。
「ここがテレビ局、で、俺はスターになるってわけだ!」
 とことん甘い男である。
「っと、受け付けはっと、すみませぇん」
 加持に貰った名刺を見せる。
「タタキさんに会いたいんですけどもぉ」
「タタキ、ですか?」
「はい!」
「申しわけありませんが、そちらの方でお待ちください」
 この後彼は、一時間近く待たされる事になる。


「えっと、受付はっと」
 マサシと同じように行きかけたシンジだが…
「シンちゃんこっちこっち!」
「え?、でも…」
「場所知ってるから良いの!」
「良いのかなぁ?」
 シンジの様子に受け付けのお姉さんがクスリと笑う。
「いいのよ?、君、碇シンジ君でしょ?」
「はい、え?、どうして僕の名前を…」
 奇麗なお姉さんに小さく笑われれば、多少は赤くなってしまう。
「テレビ見て知ってるもの、それに今日来るはずだからって、ね?」
「あ、そうなんですか…」
「ちょっとは自覚したほうがいいわよ?、結構狙ってる子、多いから」
「え?」
 むぅっとその様子にむくれるレイ。
「行こう、シンちゃん!」
「あ、うん」
「すんませぇん、ついででなんなんですけど、大和マサシて言う人、来てるかどうか分かりますか?」
「鈴原!」
「あ、先輩、もう来とったんですか?」
「そりゃ…、それよりタタキってのはどうなってんだ?」
「どうかしたんですか?」
「ずっと待ってるのに、来ないんだよ」
「タタキさんなら…、この時間はスタジオに居るよ?」
「だね?、行こうか」
「うん」
 しばし唖然と見送るマサシ。
「す、鈴原、あれ!」
「あれ?、ああ、綾波ですか?」
「どうして!」
「シンジの応援ですよ」
「応援!?、相田っ!」
「まあまあ、うちにも紅一点は居るんですから」
「すみませんね、美人じゃなくて」
 ちょっとすね気味のヒカリであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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