NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':75 


「おう!、来たな」
 タタキと加持。
 スタジオ内だというのに、何故だか二人とも喫煙している。
「タタキさん、ここ禁煙ですよ?」
「気にしない気にしない、どうする?、練習は」
「もう十分して来ました、でも…」
「でも?」
「えっと…、レイにも手伝ってもらいたいんですけど、構いませんよね?」
「それはあっちに聞くべきだな?」
 くいっと顎で指し示す。
「これがテレビ局のスタジオかぁ」
「先輩、それよりどうすんですかぁ?」
「なぁにが?」
「先にやるのかって事!」
「そりゃ碇にやらせてやるよ」
 自信満々、だがそんな態度に二人はこっそりと溜め息を吐く。
「やめといた方がええんとちゃうか?」
「…そうだな、先輩!」
「なんだよ?」
「ここは先手で打って、シンジいじめてやりましょ!」
「そうか、それもそうだな、時間ももったいないし」
 そんな三人を放っておいて、ヒカリはシンジに近寄っている。
「ごめんね?、もう!、トウジったら…」
「わかってるよ、でも僕も負けるわけにはいかないからね?」
「そうなの?」
「…今日の、曲はね?」
 そう言って、シンジはちょっと自信ありげに微笑んだ。


 キーボードのチェックをしながらヒカリは思う。
 碇君の笑顔って奇麗よねぇ…
 ドキッとするのは間違い無い、奇麗というのは造詣のことでは無くて、そこに込められている優しさが見えるからだ。
 屈託が無い、とも言い換えられる。
 普通、照れが入っちゃうもんね?
 トウジのドラムがスタートする、ヒカリはキーボードを奏で始める。
 この瞬間が気持ちいい。
 あ、揃った。
 それが感じられて。
 でも無遠慮な不協和音が割り込んでくる。
 だから嫌なのにぃ!
 直前までは心地好いのに、それを急に乱される。
 ヒカリにはそれがたまらなかった。


「おいおい…」
「なんだ?」
「これのどこを評価しろって?」
「俺に聞くなよ」
「連れて来たのはお前だろ?」
「いやぁ、自信ありそうだったからさ?」
「はぁ…、まあいい、シンジ君に頼るさ」
 タタキは耳栓が欲しいと思った。


 シンジはここで改めてそうか、と思った。
「どうしたの?、シンちゃん」
「あ、うん…」
 これもだな…
 そう思う。
「音楽って、僕達みたいだね?」
「え?」
「楽器なんだよ、みんな」
「うん?」
「で、ね?、みんな何かの音を出してるんだ」
「うん…」
「でも普通はそんなの騒音にしか聞こえないよね?」
「…大和先輩みたいに?」
「そう、でも僕達はそうはならないでしょ?」
 レイはちょっとだけ考えた。
「それって、あたしのこと?、それともみんなも?」
「全部かな?」
「え?」
「全部だよ、誰かが大きく音を出して演奏を始めたら、みんなちゃんとバックに回るでしょ?」
「うん」
「フォローに回ったりとかさ?、勝手はしないよね?」
「それって…」
「そうだよ、付き合い方って言うのかな?、譲り合ってるんでも無くて…、もっとなんていうか、ごめん、上手く言えないけど」
「ううん、なんとなくわかる…」
「ごめん」
 シンジは苦笑いした。
 不安になることは無い。
 今の関係はどたばたと色々あっても、おおむね良好に進んでいる。
 そうでなければ、きっと皆の存在は騒音でしかないはずだから。
 そうだよ、僕もレイもアスカもミズホもカヲル君も、もっともっとたくさんのみんなも…
 上手く調和を保っている。
 それはきっときっと好い事のはずだから。
「レイ?」
「なに?」
「やっぱりレイに上げたあれ、歌ってもいいかな?」
「え!?、でも、あんなに練習したのに…」
 夕べまでの苦労がもったいない。
 それに一緒にギターの練習もしたのだから。
「いいんだ」
「でも…」
「その代わり、レイもギターを持って、一緒に歌って」
「え!?」
「だめ…、かな?」
「ううん、そんな事ない!」
「ありがとう」
 シンジはレイにも微笑んだ。
 ヒカリの時よりもはるかに奇麗に。






「どうだ碇ぃ!」
「うん、凄い歌だったと思うよ?」
 色んな意味で。
 みんなシンジの隠れた部分の方にうんうんと頷く。
「じゃあ次は僕の番ですね?」
「あ?、ああ…」
 ちえっと吐き捨てる声が漏れた。
 自分の歌とギターに圧倒されてる姿を期待したのだ。
「レイ、いい?」
「うん、シンちゃんは?」
「いいよ、え?」
 呆然としたマサシが肩を怒らせて割り込んだ。
「碇っ、これはどういうことだよ!」
「え?、なにが」
「綾波さんだよ!、なんで!」
「あれぇ、知らないの?、あたし達『Dear』ってユニット作ってるの」
「な!」
「はいはい、そう言うわけだから、ごめんね先輩!」
 マサシを追い出す。
「それじゃシンちゃん、今度こそ」
「うん」
 すぅはぁと呼吸する。
 行くよ?
 シンジは目で合図した。


 タラララン…
      ララン…
 タラララン…
      ララン…
 タラララン…
      ララン…
 タラララン…



いつも そばにいたくて
君の… 笑顔を見たくて

悲しい事ばかり、積み重ね過ぎて
本当の気持ちを、遠く…



隠して



心…  伝えることなく
君の  笑顔を曇らせ…

夢に見る事で、幸せ噛み締め
立ち去る事ばかり、選び…



苦しいよ



I can't come true.

Remember my heart to you.

二度と  戻れない君の


温もりが恋しい…


曇らせないでいて…


 レイが居る分、ギターがずれて聞こえる。
「けっ、なんだよこれ、辛気臭い弾き方しやがって」
 トウジの眉がピクッと跳ねた。
「甘いんだよ」
 トウジ!
 胸の前で組んでいた腕に、ヒカリの手がそっと添えられる。
 わかっとる!
 それでなんとかトウジは我慢できた。
 一方、レイはおかしな感じを受けていた。
 なんだろ、これ?
 この間収録したばかりだというのに。
 あの時…、完璧だって思ったのに。
 今は違う、もっと幅がある。
 厚みもある。
 歌いたい?
 歌って見る?
 レイはほんの少しの間、目を閉じた。
 瞳がその奥で赤くなる。
 なんだろう、この感じ。
 その瞬間、シンジも何かを感じていた。
 音が少しだけ変化した。



続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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