NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':76
「なぁんかパッとしねぇよなぁ」
ぼやいたのは大和マサシ。
「なぁんであいつに女が居て、俺にはだぁれも居ないわけ?」
彼が見ているのはトウジとヒカリ。
ぷっと誰かが吹き出した。
「なんだよ、わかってねぇなぁ」
なぁにが?
「やっぱ凡人にはわかんねぇんだよ」
だからなにが?
「俺の魅力だよ」
あほくさ。
「やっぱ良い女は良い男を知るってね?」
じゃあどんな女が良いんだよ?
「そうだなぁ…、惣流、綾波…」
ああ?、無理無理。
「まあ見てろって」
そして玉砕。
惣流アスカ。
校内アイドルの一人。
そうだよ、俺の隣で…
自分を際立たせるはずの存在。
しかし彼女には見下げられた。
綾波レイ。
自分の憧れる存在。
いつか隣に立ち、笑い合えるはずの存在。
なんでだよ!
それは夢、あるいは夢想。
この…
ぎりっと拳を握り締める。
自分こそが相応しいと感じたその場所には、すでに別の男が立っていた。
男とすら認められない、ただのガキが。
GenesisQ':第七拾六話
「TRICK STAR」
気持ち良い?
心地良い…
楽器を弾く事がとても楽しい。
でもそれ以上に楽しいのは?
歌う事…
レイの瞳の色が変わる。
しかしそれに気がつく者はいない。
それ程に瞼はうっすらと開かれているだけだから。
アー…
ギターを止めて、声を漏らす。
それも歌詞を口ずさむのをやめ、音階のみを紡ぎ出す。
まずった…
タタキは後悔していた。
これ、レコーディングやっとくべきだったな…
声質がかわっていた、フレーズを奇麗に紡ぎ出すそれは、常人には不可能な音域を目指して幅を広げる。
キーが変化する、歌の途中でキーコードが変わることは珍しい。
それだけ多くの音域を必要とするからで、それは単純に声域の広さ、声量の大きさ、問い詰めれば訓練された”喉”を必要とする。
(声楽ってのがあったな…)
訓練された人間の音域の広さには、どうあがこうと楽器が追い付くことは無い。
最近の量産アイドルであれば、複数の人数でグループを組み、それぞれの音域でのパートを作って音を広く見せ掛け、聞かせる。
しかし、レイは一人でそれをやる。
タタキはちらっと仏頂面をしているマサシを見た。
わかってねぇな…
レイが変わったのは、それを必要としたからだ。
なんのために?
シンジのためか…
ギターの音に負け始めたからだ。
リズムの問題では無く、声との調和を目指す音。
その音につられ、弦の音に導かれるよう限界を目指す。
そして限界を越えた。
こりゃあのCDも考えなきゃいかんか…
どうせ出すなら上のものがいい。
声とギターで会話してやがる…
シンジも次第に目を閉じ始めていた。
そっか…
珍しく反抗的な態度を取った自分。
その理由を理解した。
これなんだよね…
トリック的な音は確かに人を喜ばせるし、驚かせるが…
でも…
それ以外の全てを潰す。
もちろん潰さないやり方はあるが。
先輩のは、音を潰すんだ…
バンドである以上はギターも楽隊の一つでしか無い。
もちろんそこに埋没する必要はないが、しかし。
自分勝手に、楽しんで…
目立つためだけに輪を乱すことは無い。
調和を感じる。
これなんだ…
今まで何度か自分のして来たこと。
したはずのギター。
歌もそうだったよね?
レイに導かれるように合わせた事。
全部同じなんだ。
同期と同調、シンクロとハーモニー。
鼓動が歓喜の悲鳴を上げて広がり、高鳴る。
そして”楽曲”は静かに締めくくられた。
●
「はぁ…、やっぱかなわんわ」
「はっ!、なんだよあれ、辛気臭いギター弾きやがって」
特別に取ってもらった待合室。
トウジは椅子に腰掛け、放心したように天井を見上げている。
逆にうろちょろと忙しなく歩いているのはマサシだ。
ヒカリはなんとなしにぼうっとその姿を見比べていた。
何を比べればいいのかしら?
人を驚かせる技量?
トリック的な音?
そう言う意味では、シンジとレイのそれも凄い。
十分驚いたし…
ほんの一年前は、一緒にバンドを組んで遊んでいたはずなのに。
なにが違うのかしら?
本格的に学んだこと?
常に続けていたこと?
違う、よね?
音楽漬けというのなら、ここにいるマサシの方がよっぽど音楽を続けている。
それも四六時中、授業さえサボるほどに。
でも違う、碇君とは違う…
明らかな差がそこにはあるのに、ヒカリにはそれを言い表せなかった。
「すまん!」
しかしそれを科学的に分析していた少年が居た。
「いやぁ、今回のことは極秘プロジェクトでね?、いくら友人だからって話すわけには…」
「綾波達にも内緒ってのは?」
「スポンサーの意向なんだよ」
「ゼーレの?」
「そこまで調べたのか?」
「ネットで調べられる程度のことですからね」
タタキとケンスケ、二人だけが密室に居る。
「アスカちゃんについてはほんとに偶然だよ、Dearは前からオファーがあったけど」
「なんで今頃になって…」
「レイちゃんが乗り気じゃなかったからな、それで、な?」
「わかりました、次からはこっちにも情報下さいよ?」
「わかったよ」
ケンスケはタタキが持ち込んだノートパソコンを、自分のそれとケーブルで繋いだ。
「これがさっきのですよ」
「いやぁ、悪いね、ほんと!」
スタジオで歌うのだから、当然スピーカーやアンプなどは通していた。
そこでケンスケは自分のノートの外部録音端子を無許可で接続。
勝手に録音していたのだ。
ノートの中でガリガリとディスクの異音がしている。
「時間がかかるな?」
「レート上げてたから」
演奏時間のわりにコピー時間がかかっている。
ケンスケがCD用の44KHz/16bitステレオではなく、64KHzでディスクに取り込んでいたからだ。
「上を見とくって大事だよなぁ」
「そりゃ保存媒体は最高品質でってのが基本ですからね、ソースとして再利用できなきゃ意味無いし、っと終わりました」
64と44、単純に比較してもファイルサイズは1.4倍になっている。
「ぎりぎり入ったな」
「相田ケンスケをお忘れなく、…こっちのマスター、貰いますよ?」
「商売に使うなよ?」
「著作権はシンジ達でしょ?」
「負けたよ!」
「冗談ですよ、シンジ達に聞かせてやろうと思って」
「…なぁ、ケンスケ?」
「なんです?」
立ち上がりかけ、ケンスケはそのままとどまった。
「さっきの、バンド付きで再現できると思うか?」
ケンスケはニヤリと口元を歪めた。
「いやはや、波乱の決闘だったな?」
シンジは加持、レイと共にまだスタジオに居た。
「ごめん!、シンちゃん」
「もういいよ…」
はぁっと溜め息。
いま初めて既にCDが完成していると言う話を知ったからだ。
「でも編曲って凄いね?、僕の作ったのとは凄く違うよ」
先程からマスターアップしたテープのレイの歌を聞いている。
「で、これを出すの?」
「いや、さっきの様子だとお蔵入りだな?」
「え…」
簡単に言うが、レイの話だと既にレコーディングは終わり、プレス待ちになっているはずだ。
それを止める、さすがにシンジでも想像できた。
「でも、やめてどうするんですか?」
「どうせならってことだろ?」
「え?、どうせって…、まさか!」
「そう」
軽くウィンク。
「そんな!、無理ですよ、僕には出来ません…」
「そう難しく考える事は無いさ」
「でも…」
「顔が出るわけじゃないし、それに名前も適当に考えれば、誰もシンジ君だとは思わないよ」
「はぁ…」
「シンちゃん☆」
ポンとシンジの肩を叩く。
「頑張ろうね♪」
はぁ…
シンジはもう一度溜め息を吐いた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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