NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':78
かぽーん…
ししおどしの音が響く茶室。
茶をたてるのは美代だ、同じように座り、茶を受ける和服の女性。
ユイである。
「ユイさん?」
「はい」
ニコニコとユイは無意味に微笑んでいる。
「ミズホさん…、あの子の保護者はあなたと言うことでしたわね?」
やりにくい、その感情が美代の表情を堅くしている。
「あら、わたしはお預かりしているだけですわ?」
「ご両親から、ですか?」
「いいえ?」
便宜上の保護監督者としては、惣流夫妻の名が書類に記載されている。
「あら、でしたら本人の意志…、次第ですわね?」
ちらりとユイの反応を窺う、が…
にこにこにこにこにこ☆
ユイはまったく態度を変えなかった。
Q_DASH78
「天からトルテ!」
「赤木せんせぇ〜!」
ひょこっと理科準備室を覗くミズホ。
その後ろ姿を怪訝そうに少年達が目を向けている。
「なあ、あれ誰かなぁ?」
「ばっか!、信濃先輩じゃないか」
「え?、でも先輩って眼鏡なんてかけてたかぁ?」
さらに一年生ともなると大変である。
「あれって誰かな?」
「変な眼鏡ぇ…」
「顔見たこと無いのか?、すっげぇぞ?」
「いいじゃん、別にそんなのさぁ」
「あのぉ〜」
二人はビクッと震え上がる。
「赤木先生、どちらに居られるかご存じありませんかぁ?」
さすがに中学一年生よりは背が高いので、ミズホはちょっとだけ顎を引いて見下ろした。
!?
ずり落ちる眼鏡、その下の困ったような表情に少年達は赤くなる。
「あ、あの!、先生なら職員室じゃないかなって…」
「そうですかぁ」
「俺!、呼んで来ます!」
「ふへ?」
「ちょっと待ってて下さい!」
「…良いんですかぁ?」
「もちろんです!、暇だし」
「わかりましたぁ、ありがとうございますぅ」
にこっと言う、シンジのお株を奪う微笑みだったが、眼鏡のために威力は微妙に加減される。
「じゃ、じゃあ!」
と言って少年は背を向けた、もし眼鏡が無かったら彼は茹で上がったまま動けなくなっていただろう。
彼の友人はその身変わりの早さに唖然とし、ミズホはミズホで気がつかないまま、『魔』の理科準備室へと消えて行った。
「バージョンを落とせと言うの?」
「はいですぅ」
自信を持って送り出した最新バージョンが否定された。
これは開発者としてはプライドにカンナをかけて削られたようなものである。
「説明して、なにがいけなかったの?」
リツコはなんとか自制を行って堪え忍んだ。
ただ声がミズホには気がつかれない程度に震えていたが。
「勝手に変身しちゃいましたしぃ、自動迎撃モードが勝手に動いちゃいましたぁ」
あくまで後ろ回し蹴りはミズホの意志では無かったというのだ。
「それは不意打ちを受けたからでしょ?、身の危険を避けるためだもの、やむを得ないわ?」
暗い夜道は少女にとって鬼門である。
どんな変質者に襲われるか分からないのだ。
一瞬ミズホは、コート一枚でその下は裸体のカヲルを想像して首をプルプルと振った。
カヲルの首をマジックできゅっきゅと塗り潰し、そこにシンジの顔写真を張る。
これでおっけーですぅ。
脳裏で器用な修正作業を完了してから会話に戻る。
「でもでもぉ、小和田のおばさまに怪我させちゃいましたしぃ」
「…なんですって?」
ピクッとリツコの眉が反応した。
「小和田?、それは花柳界の名流の小和田さんかしら?」
「はいですぅ」
「そう…」
口元が嬉しそうに歪んだ。
小和田と言えば、名取を努めるだけあってかなりの芸達者であったはず…
ただその芸が非常に偏っているのだが、その訳は小和田家の創立にまで遡る。
元々花柳とは芸者や遊女のいる町の事である。
それだけに争いごとは絶えず、また客によるもめごとも頻繁であった。
場を収めるための物腰と微笑み、話術、しかしそれだけでは静まらない事もあった。
そのため芸子に多少の荒事を仕込んだのが、小和田流、武の始まりである。
「オートガードで対応できたのなら問題無いわね…」
「ぶちのめしてしまいましたぁ」
リツコがちょいちょと手招きする。
「はい?」
「あっちを向いて」
「きゃあ!、なにをなさるんですかぁ!?」
「動かないの、ちょっとデータを抜き出すだけよ…」
問答無用で背中をめくる。
下は例のタイツなので問題は無かったが、覗いていた青少年には「肌色」としか認識できずに鼻血もの。
「じっとしてなさい」
リツコはまるで低周波治療器の様な物を張り付けた。
ケーブルの先はリツコの手元のコントローラーに繋がり、そこからさらにコンピューターの端末に繋がっている。
「ちっとも気持ち良くありませぇん」
「…あのね、これ、腰を揉んでるわけじゃないのよ?」
だが見た目はそれにそっくりである。
「まあガーディアンシステムにはオンオフをつけておくとして…、それから?」
「あ、はいぃ、服が破れちゃいましたぁ」
端末肢を外されると、いそいそとシャツをスカートの中に戻していく。
「なんですって?」
「ですからぁ、服が破れちゃいましたぁ」
まるで「お歳ですかぁ?」と耳が遠くなったのか疑うような口調でくり返す。
「…そう」
「そう、じゃありませぇん!」
おかげでお気に入りの「シンジのシャツ」が「減って」しまったのだ。
「これはもう構造的欠陥ですぅ!」
「そうねぇ…」
だがリツコは意外にも簡単にその批難を受け入れた。
「元々「体形矯正用」として考えた物だから…」
目的と実用性のどちらに重きを置くかだろう。
「わたし、そんなのに頼るほど悪くないですぅ」
「…あなたのためじゃないわよ」
言ってからの空虚な空気にハッとする。
「だ、だからってあたしのじゃないわよ!?」
「まだなにも言ってないですぅ」
墓穴を掘った上に土を被せると言う、平安京エリアン的なミスを犯した。
「と、とにかくそうね?、でも服にすると「常にそれを着ている必要」が出て来るから困るのよ…」
いつでもどこでも制服と言うわけにはいかないだろう。
「転送とかできないんですかぁ?」
かなり無茶な事を言う。
「出来ないことは無いわよ?」
…リツコにとっては不可能では無いらしい。
「ただあなたの身体的データ、…バストウエストなんかのライン、着ている下着や服なんかを含めたその時の情報を瞬間でサーチして、それに合わせた補正データを計算しないと、転送されたスーツが一部、そうね?、例えばスカートの裾なんかと融合してしまう可能性が有るのよ…」
不規則に風に揺れるスカートが不確定要素となってしまうのだ。
「それにね?、その膨大なデータを転送システムに変換するための諸計算も単純な物ではすまないわ?」
例えMAGIであっても数秒は必要になってしまう、その原因のほとんどはデータ転送のためにリンクさせる回線の太さによる物だ。
「案外大変なんですねぇ?」
「これがわたしの科学の限界なのよ」
随分と高い所にある限界である。
「ま、取り敢えず時期的にもこれでいいでしょ?」
「ふわぁ…」
白のコートだ、サッカー選手が羽織るようなスポーツチックな物で、背中にはミズホだろうか?、丸い円の中にポニーテールの女の子の横顔が黒一色でプリントされている。
「これはこれで夏にどうするか問題が残っているのよ…」
「あ、結構温かいですぅ」
両手を広げて背中に振り返る。
指先がわずかに出るくらいの大きさだった。
「それ、完全オートナビなのは変わらないから気をつけて」
「はい?」
「あなたがさっき気にしてたでしょ?、迎撃システムやなんかはそのままなのよ、あ、後、追加機能として暖房機能が着いているわ?」
「そうですかぁ?」
「あなたの体温と発汗、それに体感温度と外気温で自動調整されるから」
「はぁ」
「当然今までのように、普段から着る物じゃないから、タイツと併用すること、いいわね?」
「ふえ?」
「さっきタイツをバックアップモードに切り換えたから、コートのタイプ3が機能不全に陥るまでは動かないわよ?」
「着ていなくてもですかぁ?」
「あなたの周囲1.5メートル以内にそのコートが無ければ、同様に切り替わるわ」
「わかりましたぁ」
それではっと頭を下げる。
「改良はしておくわ?、そうね…、タイプ4が完成次第メールするから、取りに来なさい」
「はぁい」
がらがらと音をさせて戸が閉まる。
「…技術の授業も受け持とうかしら?」
正確には技術の「準備室」も欲しいと思うリツコであった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者
nary
さんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元
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