NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':78 


「なによこれぇ!」
 第二東京市、某高級ホテル。
「どうしたんだい?」
 隣に部屋を取ったカヲルであったが、夕食へとアスカを迎えにやって来ていた。
「この最後の…」
 抱き合って見つめ合い、そしてキスとともにフェードアウト。
「って部分よ!」
 それはようやく手渡された台本であった。
「なんでキスなんてしなくちゃいけないわけ!?」
「嫌なのかい?」
「当ったり前じゃない!」
 バシッと床に叩きつける。
 一応はまだ本ギレでなかったため、そのまま踏み潰す真似はしなかった。
「行くわよ、カヲル!」
「どこへだい?」
「決まってるでしょ?、タタキさんの所よ!、っとその前に…」
「なんだい?」
 アスカはビシっと部屋の外を指す。
「着替えるから出てって」
「はいはい…」
 Tシャツに短パンとアスカはやや不用心な恰好をしていた。


「これはどういうことなんですか!」
「…う〜ん」
 タタキは言い訳に首を捻る。
 向こうが片付いたのでアスカの様子を見に来ればこれだ。
 俺のシナリオにも無いんだな、これが…
 演出家が勝手に書き加えたのだ。
 ちらりと目でそれを訴えるのだが、もちろん通じることは無い。
「バッカみたい…」
「なによ!」
 ホテルのラウンジ。
 アスカは相席しているあすかを睨んだ。
「キスぐらいで何よ、別に何でも無いじゃない…」
「じゃああんたは出来るっての!?」
「必要があればなんだってするわよ」
 その言いようはまるで何も知らない子供の口調で…
「あんた…、人を好きになったこと、ある?」
 あすかはピクッと肩を震わせる。
「本気で人を好きになったこと、ないんでしょ?」
「バカにしないで…」
「するわよ!」
 何も分かってない!
 それがむかつく。
 本当に好きな人が居るのにキスなんて出来るもんですか!
 見も知らぬ人に大事な物を奪われる?
 想像しただけで死にたくなる。
 吐き気がしてくる。
 この子、ほんとに子供だわ…
 あすかの口調は、小学生が「なんでもない!」っと意地を張っているものと同じ感じがしているのだ。
「あたしは、仕事ならする、そう言ってるの…」
 あすかは頑に態度を表す。
「なんでそんなにこだわるわけ?」
「あたしは、これに賭けてるからよ…」
「は?」
 ここでようやくカヲルが口を開いた。
「ただのアイドルの枠、それを越えるには丁度いい話だからね?」
「そうよ」
 あすかはギュッと唇を噛む。
「あたしだって…」
 思い出すのはあの日のゲンドウとのやり取りだ。
 食い下がって訴えたこと。
 あたしには、もう後が無いもの…
 一度は降ろされかけた、あの時はアスカ達が居たおかげで命拾いをした。
 でも次は無いわ。
 今度また同じことになったとすれば?
 その恐怖心があすかを襲う。
 見返してやる…
 そんな事が言えなくなるほど、昇ってやる。
 その思いがあすかを突き動かしている。
 さてどうするか…
 タタキも少し弱っていた。
 シンジ達に対して黒い物を見られて逃げられるのを嫌ったのと同様に、アスカにも注意が必要だった。
 結局、アスカちゃんも乗せて引っ張り出したわけだからな…
 アスカにもこだわらせるだけの餌が無いのだ。
 逃げられたら洒落にならない、もう年齢的にもデビューするにはギリギリである。
 計画に余裕が無さ過ぎるんですよ、碇さん。
 タタキはアスカを盗み見た。
 アスカはあすかの思い詰めた様子を見ている。
 そしてカヲルは、そんな全員の心を値踏みしていた。






 別れた後で、アスカは自分のベッドに大の字になって寝転んでいた。
「コーラでいいのかい?」
「ええ」
 何気にカヲルが居るのだが気にしない。
 ここの所、約束通り小間使いのようなことまでされたので慣れたのだ。
 結してさせたわけではない。
「何を悩んでいるんだい?」
 アスカは体を起こすと、ジュースのプルタブを開けて顔をしかめる。
 わずかに吹き出した炭酸に指が濡れた。
「断らないのかい?」
 即答せずに、指をペロッと舐めてジュースを拭き取る。
「じゃあするのかい?」
「やんない、わよ…」
 だが歯切れが悪い。
「なにを迷っているんだい?」
 アスカは「はぁ…」っと溜め息を吐いた。
「真剣、なのよね?、一応は…」
 あすかの態度に悩んでいるのだ。
「見てると壊れちゃいそうで、恐いのよ…」
 ここであたしが逃げ出しちゃったら…
 あすかはそれでも意地を張り通し、そして無理がたたって倒れてしまうんじゃないか?
 そんな懸念が付きまとう。
「君があの子の責任を負う必要は無いよ」
「けどぉ…」
 自分に似たあの顔が、どうしても逃げる事をためらわせている。
「…君は、やめておけばいいと言ってもらいたいのかい?」
 少しばかり冷たい口調。
「なによ、急に…」
 眉をひそめる。
「僕は何も言わないよ?、君が決める事さ…、やめて逃げてしまえと言って欲しいんだろう?、その方が楽だからね?」
「そんなんじゃ…」
「ないのかい?、シンジ君がどんな顔をするか?、恐いんだろう?、考えるだけで…」
「あたしがキスしたいのはシンジだけだもの」
「…自分で決める事だよ、誰かの期待を蹴るのも、あるいは君を信じてる人を裏切るのも君が決める事さ、でなければ」
「なによ?」
「人に言われたままに選択したのなら、君は恨むんじゃないのかい?、あの時ああしていればと、どちらに従って進んだとしてもね?」
 言い返せない。
「プラスとマイナス、どちらが君にとって、…本当の君にとって悔いや後悔のない、あるいは少ない道なのか?、自分で自分を責められるように、他人を罵らないですむように、君が責任を持つべきだよ、分かるね?」
「…大事なのはシンジよ、悪いけど」
 誰に悪いというのだろう?
「まあ今はいいよ…、でもね?、撮影が始まったらもう後戻りは出来ないよ?」
 そしてその時は、着実に近付いて来ていた。



クランクインまで残り七日







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