NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':79 


「ミズホさん、ミズホさんはいないの?」
「ミズホちゃんなら今日は学校で奈々の付き添いですよ」
 放課後とおぼしき時間になっても帰宅しないのに業を煮やしたのか?、美代の声は多少荒くなっていた。
「あなたも、大学はどうなさったの?」
 純和風の屋敷には不釣り合いなティーカップを口につける。
 そんなクニカズに美代は当たった。
「もう単位は取っちゃいましたからね?、今日は自主休講ですよ」
「そんなことでどうするんですか!、勉学のために通っているのでしょう?」
「父さんや母さんのことなら心配いりませんよ、都合よく弟の方が出来は良いですからね?」
「そんなことだから、うちに預けられたりするのですよ!」
「傷つくなぁ」
 そうは言っているが表情はひょうひょうとしたもので、まったく精神的に堪えている様には見えない。
「学校に居るより楽しいからこっちに居るんですよ」
「そう?」
「特に最近は楽しいですよ?、おばさんが遅れを取るなんて初めて見ましたからね?」
 ひくっと美代の頬が引きつった。
「あら?、そんなにミズホさんがお気に入りなのかしら?」
「まあ…、楽しい子だとは思いますよ?」
 両親が居ない、そう言った瞬間の落ち込んだ様子を思い浮かべる。
「可愛いし、良い子だし、あなたはどうなのですか?」
「どうって…」
「一途で、少々常軌を逸した部分さえ直せば、今時の子にしては…」
「ま、確かに可愛いですけどね…」
 同情はしてしまうが、それだけだ。
 そう言えば、顔って気にしなくなったのいつ頃だったかなぁ…
 まだ何か言っている美代を無視して惚け出す。
 昔はバカな友人に付き合って、雑多な歌手グループの女の子達の名前を覚えたりもしていたはずなのに。
「それだけ落ちついたって事か」
「なんです?」
「あ、いえ、別に」
 苦笑する。
 顔には惹かれる、でもその次に踏み出すには年を取り過ぎたのかもしれない。
 真っ直ぐなんだもんなぁ、応援したくもなるよ。
 まあおばさんには悪いですけど。
 あくまでクニカズのそれは世話焼きである。
 だが美代にはそう見えない、クニカズがてっきり気に入ってしまったのだと見えていた。






「アスカちゃん、お客さんだよ?」
「あん?、客ぅ?」
 本気で帰ろうかと窓際で佇んでいたアスカである。
「あすかじゃない」
 カヲルが迎え入れたのは彼女だった。
「僕は少し出て来るよ」
「…悪いわね?」
「いいさ、アスカちゃんに話があるんだろう?、それに僕はタタキさん寄りだからね?、たぶん聞かない方がいいさ」
 まるで逃げるように出て行く。
 …これ以上予定から外れるのは好ましくないからね?
 心の中で思って、後ろポケットに忍ばせていたウォークマンのヘッドホンを耳に差した。
『聞いたわよ?』
『ごめんあすか、でも…』
 そこから漏れ聞こえて来たのは音楽ではなく、室内で交わされている二人の重苦しい会話であった。


「謝る必要なんて無いわよ」
 ぼすっとベッドに腰掛ける。
 アスカはその前に椅子を動かして座った。
「あたしもちょい役だって思ってたから頼んだわけだし」
「さすがにねぇ、キスってことになると話が違うじゃない?」
 お互いに堅苦しい雰囲気を脱ぎ捨てる。
「タタキさんは代わりの人を探してるわ?」
「タタキさんが?」
「契約に無かったもの、そんなの破棄するのが当たり前よ、それがアイドルってもんだし」
「アイドルねぇ…」
 あたし別にアイドルじゃないしなぁ…
 それが顔に出たのか、あすかはちょっとムッとした。
「あんたって、ほんとこういう世界に興味ないのね?」
「…ごめん、遊び半分じゃないなんて言えないわよ、やっぱり」
「あたしは遊びじゃないわよ」
「わかってる」
「わかってない!」
 叫ぶあすか。
「髪が赤いとか目が青いとか…、やっとバカにされなくなったの!、今度は可愛いって言ってもらえた、でもそうしたら頭が悪いとか…」
「あすか…」
 アスカは席を立つと、あすかの隣に腰を下ろした。
 その頭を抱き込む。
「そんなに辛かったわけ?」
「当たり前じゃない!」
 ほんの少しの抵抗、力を入れて体を引き起こそうとしたが、離れることはアスカが許さなかった。
「やっと、やっとよ?、やっと誉めてもらえたの!、やっと頑張って、それを認めてもらえるようになったのよ…」
 見た目だけではなく、中身も。
「泣いてるの?」
「あたしには他に何もないのよ、なにも、なにも!」
 容姿以外は何もかもが普通だから。
「これしかないのよ…」
 そんな事も無いでしょうに…、ううん、あるか、そういうことって。
 一瞬、ほんのわずかに今の関係になる以前のレイのことを思い出した。
「あんたには誰もいないってわけね?」
 アスカには溜め息以外に絞り出すものが何も無かった。






「アスカちゃん、お出かけかい?」
 ホテルのロビー。
「あんた待ち伏せてたでしょ?」
「彼女をね?」
「なによ」
 ぶすっとした表情のあすかに苦笑する。
「ほんと、君は昔のアスカちゃんに良く似ているよ」
「似てるなんて言わないで!」
「ごめん、君は君だものね?」
 あすかはむくれたままでそっぽを向いた。
「なによ!、二人ともホントによく謝るわね?」
 それを聞いたアスカとカヲルは、目を合わせて同時に吹き出した。
「な、なによ?」
 ふたりともあすかを無視して笑い続ける。
「ふ、ふん!、バカにすんじゃないわよ!」
「ご、ごめん」
「違うよ、どうもシンジ君の癖が移ったんじゃないかと思ってね?」
「シンジ?」
「僕のいい人の事だよ」
「なに言ってんのよ!」
「…シンジってあいつでしょ?」
 レイと一緒に舞台に上がった、あの情けない奴のことを思い出す。
「あんた、ホモ?」
 妖しい者を見る目つきで一歩下がる。
「そうよ、だから近寄っちゃダメよ?」
「酷いね君達は、…と、お迎えが来たようだよ?」
「「え?」」
「あすかさん!」
 ちっと舌打ちをするあすか。
「急に出ていっちゃうんだから!、タタキさんが心配してましたよ?」
「ねえあすか…、誰?」
「あんたねぇ」
 今度こそ呆れた顔をする。
「これからキスするかも知んない奴でしょうが、そんな事も知らないの?」
「え?、そうなんだ」
 アスカは気まずそうに近寄って来た彼を見た。
「ケイタ…、あんたもなに赤くなってんのよ?」
「え?、あ!、ご、ごめんなさい…」
 気まずそうに頭を下げる。
「惣流さん、ですよね?」
「え、ええ」
 やや面食らうアスカ。
 なにかしら、これ…
「ほら!、さっさと行くわよ!?」
「ちょ、ちょっと待ってよあすかぁ!」
 ずんずんと歩き出したあすかに焦る。
「あの、後で電話します!」
 そう言って駆け出した姿に合点がいった。
 …似てるわね。
 そしてなにか懐かしい感じもする。
「やっぱり!、アスカじゃない!!」
「え?、げぇ!、ミサト!?」
「ミサト先生、でしょ?」
 鬼よりも恐いというか、妙に血管をぴくぴくさせるミサトが居た。






「シンちゃん…」
「ん、なに?」
 下校時間を迎えて。
 レイはそんないつも通りのシンジに辛くなる。
 そうよね、シンちゃん知るわけないもん。
「ううん、一緒に帰ろう?」
「…うん」
 逆にシンジも怪訝そうにする。
「どうかしたの?」
「え?」
「だってさ…、いつも一緒に帰ってるのに、いまさら」
「あ、ううん、なんでもないの」
 そう、なんでも…
 レイはなるべく自然に見えるよう、シンジの腕に腕を絡めた。
 どんなことになっても…、あたしがシンちゃんを守ってあげるから。
 そういう思いに酔いしれながら。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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