NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':79 


「ミズホさん、ちょっといいかしら?」
「ふへ?」
 奈々と一緒に帰宅した所を狙い撃つ。
 常々思ってましたけど、この子の言葉遣いも正した方がいいのかしら?
 間抜けな口調がなくなれば、もっと普通に見えるかもしれない。
 そんな事を考え始める。
 いえ、そうね?、これからもっと表に出て頂く事を考えれば…
 余計なお節介が先行し始めていた。






「よっ、元気そうじゃないか」
「え?、加持さんも!?」
 どうしてこっちにっと顔に出る。
「ちょっと墓参りにね?」
「面倒だからこっちにホテル取ったのよん」
「げっ、もしかして加持さん、ミサト先生と一緒に…」
 この世の終わりのような顔をする。
「あによぉ、文句あるわけ?」
「大ありよ!、加持さぁん、いくらなんでもミサトってことは無いじゃない?」
「あんたねぇ?」
 ピクピクと頬も引きつり出した。
「もう!、加地さんが『そこまで』困ってるんならぁ、あたしがボランティアしてあげるのにぃ」
 甘えるように腕に組み付く。
「それは遠慮しておくよ…、彼氏の視線が恐いからな?」
「は?、彼氏?」
「違うのか?」
 くいっと顎先でカヲルを示す。
「げぇ!、冗談やめてよ!」
「そこまで酷く言うことは無いんじゃないのかい?」
「言うに決まってるでしょ!」
「なんだ、遊びに来たって雰囲気じゃないな?」
「当ったり前です!、って言うか、加持さんが薦めたんじゃないですか、このバイト!」
 なんだか疑わしそうに加持を見る。
「はは、すまん、ちょっと連続で立て込んでな?」
「ひっどぉい!、その大事な用事ってのが…」
「なによ」
 アスカの流し目をミサトは真っ向から受け止めた。
「はぁ、加持さんももうダメね?」
「アスカよりはマシでしょう?」
「なによ!」
「受けて立つわよ!?」
「まあまあ、落ち着けって」
 アスカから逃れ、ミサトの背後に立って肩に手を置く。
「これでも俺の大事な人だからな?、…なんだ?」
 あんぐりと口を開けているアスカ。
「加持さんからそんな言葉聞くとは思いませんでした…」
「俺も言うようになるとは思わなかったよ、それより」
 目つきが微妙に変わる。
「さっきは騒いでたみたいだけど、どうかしたのか?」
 沈黙、アスカは急に俯いてしまった。
「わけありか…」
 そんな加持の言葉に後押しを受けてミサトは動いた。
「ま、こんなとこじゃなんだわ?、アスカも来なさい」
「え?、どこに…」
「あたし達の部屋よ?、ちょっちあたしも気分変えたかったとこだから」
「あたしはミサト先生の暇潰しじゃないのにぃ」
 それでも知っている人に悩みを聞いてもらえるのが嬉しいのか?、アスカの顔はほころんでいた。


「そっか、キス、ね…」
「うん」
 冷蔵庫から適当な飲み物を出して並べる。
 アスカの泊まっている部屋とは違って大した物はないのだが、それは逆に親しみのあるジュールやお酒で占められる事になった。
「アスカはしたくないんだろう?」
「でもみんなが」
「みんなは関係無いさ」
「でも…」
 みんな、とは言っても心配しているのはあすかの事だった。
 それとついでに、ケイタと言う少年のこと。
 あれはなんだったのかしら?
 一瞬、ほんの一瞬だけ胸が高鳴った。
 どうして?
「…なら、アスカ?、そうなった後のことを想像して見なさい?」
「え?」
 内側に篭った思考を断ち切られる。
「それを見たらシンジ君はどう思うかしら?」
 ゾクッと全身に悪寒が走った。
「嫌よ!、絶対に嫌!!」
 それは今まで感じた事も無いような恐怖心だった。
 ただ、何に対して感じているのかは分からない。
「見せたくない?、そうね、シンジ君はショックを受けるわね?、裏切られたと思って、アスカを嫌うでしょうね?、ううん、アスカはもう芸能人なんだって、演技でそんな事も出来ちゃうんだって思うかも」
「それは恐いな…」
「加持さん…」
 救いを求めて加持を見る。
「男から言わせてもらうとな?、いつでも不安なんだよ、好きとか言って貰えてもそれが演技なんじゃないかって」
「あたし、好きなんて言ったっけ?」
「言ってない、だから葛城は信用できるんだよ、見てりゃわかるからな」
「悪かったわねぇ…」
 ムスッとする。
「あたし…」
「シンジ君はテレビのアスカを本当のアスカだと思うかもしれない、じゃあどうなる?、アスカが何を言っても「嘘だ」「騙されてる」そうやって警戒するようになる」
 アスカの膝が見ていて分かるほどガクガクと震え出す。
「加持ぃ、脅し過ぎじゃない?」
 ミサトはビールを空けながら眉をひそめた。
「考えられる最悪のことを思っておくのが一番良いさ、ショックは少なくなるんだから」
 一応一理あるような感じはする。
「正直そんなアスカには同情できないな…、これも男の勝手な意見さ、でも心の痛みは絶対に残る、刻まれる、アスカはシンジ君を好きだと思っていたんだけどなってね?、裏切られたって気にもなるさ」
「まあ、あたしもアスカには好感を持てなくなるわね…、結局シンジ君よりも、どこぞの芸能人の方がいいってわけかって」
 遠くに行ってしまった誰かさんよりも、顔を合わせる人に同情心を抱くのは、すごく当たり前のことだから。
「これはあくまで、よ?、でもみんなはきっとそう思うわ?」
「あたし!」
「アスカとシンジ君の繋がりの強さを、みんながみんな知っているわけじゃないだろう?、それに俺達はもっと強く繋がってると思ってたからな?、それは君達に近い人間になればなるほどそうさ」
「渚君、レイちゃん、ミズホちゃん、でも一番信じてるのはシンジ君でしょうね?」
「その分、間違いなくショックはでかい」
 アスカは髪で顔を隠すように俯いてしまった。
「…で、相手の人って、そんなにいいわけ?」
 ミサトは調子を変えようと、お気楽な感じで切り出した。
「かっこいいとか?」
 アスカはぷるぷると首を振る。
 何故だか顔を上げられない。
 胸が痛いのよ…
 話を聞いている内に裏切ってしまったと言う思いが強くなって来ていた。
 なんでドキッとしちゃったのよ!
 大したことではないのに、アスカの中では酷い事だと心が傷む。
「見てたけど…、どっか頼りなさそうだったわねぇ?」
「やっぱりさっき下に居た子か?」
 アスカはコクンと頷いた。
 そんな態度にミサトはふふっとほころんだ笑みを浮かべる。
「まあ悪くはないんじゃない?」
「そうか?」
「乗り換えるのはアスカの勝手だしね、はっきりしなかったシンジ君が悪いわけだし」
「おいおい、葛城…」
 シッと、ミサトはアスカが見ていないのをいいことに指を唇に当てた。
「シンジ君だって、アスカを選んでくれるかどうか怪しいしね?、いいんじゃない?、それならそれでも」
「演技するだけよ!、本気じゃないわ!!」
 心の不安を吹き払うための絶叫を上げた。
 しかしまだ顔は上げない、上げられない。
「周りが騒げば同じことさ」
「いいえ、シンジ君がそう思えば、でしょ?」
 シンジがどう思うかなんて!
 考えなくても分かってしまう。
「結局アスカの想いなんて、その程度のものだったてわけね?」
「ああ、レイちゃんとミズホちゃん、最後まで誰か残るんだろうな?」
 やめて!
「選択するのはアスカさ、誰でも無い」
「やめるわよ!、やめればいいんでしょう!?」
「…でも、ね?、アスカ、大事な事を忘れてるわよ?」
「なによ!」
「シンジ君は、本当に相手の子よりも優しくないの?、カッコ悪いの?」
 びくっと固まる。
「思い出しなさい?、小さい頃の事から、一つ一つ…」
 どうして好きになったのかを。
 奇麗可愛いと言う形容詞が作る壁。
 それを気にする事もなく、ずっと側に居た男の子のことを。
「あた、し…」
 最初からずっと横に並んでいた、でもあたしは?
 麻痺したように感じなくなっていた温もりがある。
 そうよ、そう…
 暖かかったし、温かった。
 レイが居て、ミズホが居て、そしてシンジが中心に居るその場所が。
 そうよ、シンジは頑張ってるじゃない…
 不器用なりに、出来る事を探して、なのに、あたし…
 思い出す、たった一つの事柄を。
 ああ、そっか…
 ばかシンジぃ!
 そうやってアスカがぽんぽん言うから!
 似てたんだ、『あの二人』が…
 一人ではなく、二人の感じが。
 ドキッとしたのは、無くしてしまった懐かしさを感じてのこと。
「悔いや後悔なんて、どう選んだってするものよ?、でも取り返しはつかないの、でもつまらない人間にはならないで、良く考えて、決めなさい、…なに笑ってるのよ?」
「いや、…まるで自分に言い聞かせてるみたいだってな?」
「うっさいわねぇ」
 アスカには悪いけど…、と冷めた目で見る。
 やっぱり人のことだと良く見えるのよねぇ…
 言っている内に自分のことが当てはまっていた。
 後悔なんて、どうしたってするもの、か…
 それはその通りだとミサトは心を落ち着けた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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