NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':80 


「…これ、おかしくない?」
「なんだい?」
 ぺらぺらと残りのページを確認する。
「まだこんなに残ってるのに…」
「これからってことさ」
 アスカは嫌な予感を覚えた。
 あるいはそれは、空を飛んだはずなのにもう戻って来ているカヲルに対してだったかもしれない。


「シンジ!」
 パッと表情が明るくなった。
 いつから待ってたんだろう?
 晩…、と言われたから、ご飯を食べてから僕は出て来た。
 いなかったら帰るつもりだったんだけど…
 シンジはアスカを無視して、公園のベンチに腰掛ける。
 一瞬だけアスカは辛そうな表情をした、しかしすぐに笑顔を作り、シンジの隣に腰掛ける。
「…で、話しってなにさ?」
「うん…」
 他人と居るのって、苦痛なんだよな…
 シンジは立ち上がろうとした。
「用が無いなら、僕…」
「待って、お願い!」
 腕を引かれた、アスカが立ち上がった。
 え?、なに?
 首に抱きつかれた、抱擁?、キス?


「ちょっと待ったぁ!」
「んあ?」
 間抜けな声を出して、首だけ持ち上げる酔っぱらい。
「キスって何よ!、なんでこんな所で…」
「あすかちゃんは了解済みだよ?」
「なんですってぇ!?」
「そこは君の範囲外だからね?、彼女がOKしたのなら口は出せないさ…」
「でも、だからって!」
 爪を噛む。
「まあ、そこは雰囲気もいいし、そのくらいの思い切りはあった方が良いんじゃないのかい?」
「…わかったわよ!」
 なんだか自分が同情を引いてるような気がして、アスカはそれが気に食わなかった。


 こうして二人でいても信じられない。
 アスカが好き?
 僕のことを?
 横目でちらりと様子を窺う。
 楽しそうに、幸せそうに腕を組んで…
 どういうつもりなの?、よくわからない…
「アスカ…」
「なに?」
 居心地が悪い、もう限界に近いんだ。
「ねえ、なんでこんなことするのさ」
「好きだからよ…」
 アスカの気持ちがよく分からない。
 アスカはシンジに悪い噂が立たないよう、一人になったシンジに自分からアタックしたのだと話を振りまいた。
 それは確かに正しい、だが周りはそれでもアスカと寄りを戻すためにマユミを振ったのではないかと噂する。
 そう見られても仕方ないよな…
 ただマユミの視線だけは恐い。
 それにカヲルの目線も恐かった。
 授業中など、ふと、カヲルの見ているものが目に入ってしまう。
 …なんで?
 アスカを見ている。
 いつから?
 ずっとだ。
 昔、そう、初めて会った時からかも知れない。
 そう言えば、カヲル君ってアスカのこと気にしてたっけ…
 凄く単純な図解が思い浮かぶ。
 なんだ、そういうことなんだ。
 だからそんな予感を抱いていたのかもしれない。
 シンジの心は決まっていた。


 屋上。
「僕に用って、なに?」
 身構える。
「僕との接触を極端に避けるね?、君は…」
 本当のことだから、なにも言い返せない。
「山岸さんのことかい?」
「…うん」
 それもある。
「あれは彼女をただ送って上げたにすぎない、通り道だったからね?」
「そんなの関係無いよ」
 そう、カヲル君の気持ちは関係無い。
「…それでも、山岸さんが好きになったのは」
「僕…、だから僕を避けるのかい?」
「だめなの?」
「…悲しいね、僕は山岸さんよりも君のことが好きだというのに」
 そうなんだろうか?、そうなのかもしれない。
「でも僕は山岸さんの気持ちを選んだ、その時の想いは本当だから…」
「だから僕に、山岸さんを選べと言うのかい?」
「そんなことは…」
「でもそれが君の願いなんだろう?」
 確かにそうだ。
 僕は僕よりもカヲル君が好きなんだろうって突きつけたんだから…
「君は残酷だね?」
「残酷?」
「僕は…、アスカちゃんと同じだって言ったろう?」
 そう、確かにそれは前にも聞いた。
「顔、容姿、僕の場合は家もだね?」
「あ…」
「結局僕を見る目はみんな同じなんだよ、そして山岸さんも僕ではなく、車の迎えを待つような、普通ではない僕に憧れている…」
 カヲルの目が冷たい色を帯び始める。
「君は…、そんな人を僕に大切にしろと言うのかい?」
「…ごめん」
 返す言葉も無い。
 だから反射的に謝った。
「…そう思うのなら、少し隠れていてくれないかな?」
「え…」
「これから大切な人が来るんだ、僕はその人に伝えたいことがある」
「うん…」
 すごすごと、給水塔の裏に隠れる。
 ガチャ…
 しばらくしてドアが開いた。
「なによ渚?」
 アスカ?
 姿は見えないけど、声は間違い無い。
 立ち去らずに隠れろと言う言葉に従ったのは、半分こうなる予想があったからだ。
「やあ、最近シンジ君とはどうかと思ってね?」
「はん!、あんたが言ったんでしょうが、…優しくしてやれって」
 え?
 しかしそれは予想外の言葉だった。
「そうだね?、別に好きじゃない、とりえも何も無い、なんであんな奴をって、随分ごねられたけど…、で、今はどうなんだい?」
「どうって…、なにがよ?」
「今でも嫌なのかい?」
「…嫌だなんて言ってないじゃない」
「シンジ君は?」
「笑ってくれるもの…、落ち込んでるよりはいいわよ」
「それが君の居る間だけだったとしても?」
「…だってしょうがないじゃない」
「もう話したのかい?」
「言えるわけ…」
 話し?、話しってなに?
 嫌な予感が膨れ上がり、シンジは無意識の内に手を握り締める。
「決まったんだろう?、ドイツへの引っ越し」
「…ええ」
 引っ越し?
 ドイツ!?
「またシンジ君を騙すのかい?」
「まだいいじゃない!、今のシンジに…、そんなこと」
「嘘だね」
「なんでよ!」
「恐いんだろう?、またシンジ君が離れていってしまうから」
「違うわよ」
 カヲルは苦笑する。
 こんなにもあからさまなのにね…
 声には照れがある、顔も赤い。
 それでも言葉は素直じゃない。
 それに複雑な感情も混ざっている。
 でもどれもシンジには伝わらなかった。
 伝わったのは、言葉の内容、それだけである。
 それにアスカの態度は、カヲルの意地悪にすねているようにも見て取れた。
 ガチャン!
「え?」
 アスカは振り返った、ドアが開いている。
「シンジ!?」
 駆けおりる頭が見えた。
「渚!」
 パン!
 反射的に叩いて後を追う。
「結局、シンジ君は誰も信じていないんだね?、誰も…」
 だからこうも簡単に勘違いをしてしまう。
 カヲルは寂しそうに呟き、赤く腫れた頬を撫でた。


 シンジは逃げ出していた。
 逃げ出して、自分の部屋に逃げ込んでいた。
 学校を抜け出したから、鞄も何も放って来てしまったが、それでさえも気にならなかった。
「シンジ、何処に行っちゃったのよ…」
 その鞄を見たから、アスカはシンジが学校に居ると思い込んだ。
 だからシンジを見付けられなかった。
 それは決定的なすれ違いを産んでしまった。


「山岸さん…」
 陽が傾き、赤やけに包まれてもカヲルはまだそこに居た。
「これでよかったのかい?」
「はい…」
 体の前で手を組み合わせて、マユミはゆっくりと歩み寄った。
「渚君こそ…、よかったんですか?」
「…僕にはとても眩しいけれど、それはあの二人が育んで来たものだよ」
「好きだったんですね?」
「信じては貰えないだろうけど…、僕はアスカちゃんの事が好きだったよ」
 カヲルは一人ごちるように呟いた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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