NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':80
「って、ちょっと待ちなさいよ!」
「どうしたんだい?、急に…」
カヲルは静かに飲んでいた。
「あんたがあたしのことを好きですってぇ!?」
「好きだよ?、なにかいけないのかい?」
にこにこと微笑みを絶やさない。
その笑みに、アスカはぞわわっと鳥肌を立てた。
「やめてぇ!、嫌ぁ!、あたしを犯さないでぇ!」
「…そこまで言うのかい?」
さすがにカヲルの頬も引きつる。
「痒いのよぉ!、痒くて痒くてたまんないのよぉ!」
「じゃあ、背中を掻いて上げようか?」
またしても空を舞ったカヲルであった。
シンジはふてくされるように眠っていた。
あれからまたアスカを避けるようになり、何度か泣きそうになって洞木に支えられている姿も見ていた。
それでもアスカに対してなにかしらの感慨を抱くことはなかった。
「シンジ!、おるんやろ、入るで!」
トウジ、ケンスケ、洞木。
三人組で押し掛けて来た。
「お前は何やっとんのや!」
胸倉をつかみ、持ち上げる。
「碇君、アスカ今日の便で出ちゃうの!」
「いいのかよ、このままで」
だがそれに対する反応は冷たい。
「離してよ…」
「なんやと!?」
「鈴原!」
洞木がトウジの腕を押さえる。
「そうやって…、また人を乗せて、なにが楽しいんだよ」
「おどれ!、まだんなこと言うとんのか!」
「だからあれは誤解なんだよ!」
「そんなことはもうどうだっていいよ!」
トウジの体を突き飛ばす。
「もういいじゃないか!、放っておいてよ!、どうせアスカが心配なんでしょ?、だったら自分達で何とかすればいいだろ!?」
「だからね?、碇君…」
「一度だって僕のこと考えてくれたことあるのかよ!、いつでもアスカ、アスカって…、誰も、誰も…」
僕のことなんて考えてくれなかったくせに。
「なに情けないこと言うとんのや!」
「自分達が悪いくせに、僕のせいにしないでよ!」
シンジの叫び、三人の叫び。
それはどちらに対しても、お互いに通じる所はなにもなかった。
「変えるならここしかないわね?」
「そうなのかい?」
何処から持ち込んだのか?、実は放り出される度になのだが…、物凄い量の空き瓶、空き缶が転がっている。
「この後ってだらだら続いてるだけじゃない!、ならここんとこでスパーッと、ねえ?」
タタキさん…、と続けようとして気がついた。
「ななな…」
声が震える。
そこに横たわっているのはただの酔っぱらいだ。
「なにやってんのよ、あんた達わぁ!」
「わぁ!、落ち着けアスカちゃん!」
「死ぬ、死ぬって!」
カヲルのぶち破った窓から二人同時に投げ棄てようとする。
大人二人が必死になって抗う姿に、アスカの膂力の凄まじさが見て取れた。
●
「ま、結局やろうってんだから金かアイドルになりたいのか…」
村雨の目が少しばかりいやらしさを湛えている。
「まあ好きに動かせてもらって、せいぜい美味しい場面を作ってもらうよ」
「気に入ったか?」
「もちろん」
やれやれと千葉は考えたが、これで責任は村雨のものだ。
「大人に見えても、な?、やっぱり考えが甘いよ」
それはお前のことだろうが、と冷ややかな目を千葉は向ける。
「じゃあ村雨に任せてもいいな?」
「ああ」
やや驚いたようだが、すぐにだらしなく頬を緩めた。
「女の子の扱いには慣れてる」
「そうか」
あれは女の子ってのか?
危うく窓からダイブさせられそうになった事が、少しばかり尾を引いていた。
あの後のシナリオでは離れた二人がそれぞれに、シンジは暗く、アスカは新しい出会いを経験し、そしてまた二人は出会う。
お互い好きな人が居ながらの再開、だけど求め合った二人は…、と続く予定になっていた。
「んな泥沼、付き合ってらんないわよ」
にやりとアスカはほくそ笑む。
「あんたも酷いこと考えるわねぇ?」
徹夜でカヲルに打たせた新シナリオは、既に主要な人間に配布済みである。
あすかも今読んでいた。
「ま、いいわよ?、好きにすれば?」
もちろんっとアスカは頷き、そしてケイタが赤くなる様な微笑みを向けた。
カチャ…
そしてどこかで電話が置かれた。
「いいのか?、碇…」
いつもの部屋、いつもの二人。
「ああ、予算は度外視してある、なにも問題は無い」
「だがこの作品にかけた金、一つ部門が傾くぞ?」
「いざとなれば赤木君の提唱する新プロトコルの使用を早めるだけだ」
「シナリオを一つ繰り上げるのか?」
「MAGIシステムの機能拡張にともなう工事はいずれ必要になる、データベースにおける副収入はバカにならんよ」
「それはそうだろうが…」
それに、と続ける。
「どうやら放送に耐えられる代物になりそうだからな」
「そうか…」
ならレイ君の方はどうするつもりだ?
冬月はその部分だけ飲み込んだ。
とりあえずテンションを作り出すために、あすかの旅立ちのシーンが撮られる…、はずだった。
そこにはあすかが寂しそうに立ち、そして母親に呼ばれてゲートに消える。
まあ大筋はそんな所の…、はずだった。
「アスカ!」
だがそこにケイタが駆け込んで来た。
「なに!?」
村雨が焦る。
「監督!、どういうことだ」
「アスカちゃんがどうしてもキスは嫌だっていうんでな?、シナリオを変更した」
「俺のシナリオをか!?」
「ま、スポンサーからの意向でワンクールにまとめろとも言って来たし」
「なぜ!、絶対行けるんだ、これは」
「わかってないねぇ」
にたにたとした笑みを向ける。
「これはあすかを売り出すためのドラマなんだよ、村雨の名はテロップに出てればいいの」
「バカにして…」
「それにアスカちゃんのことは任せろって言ったろ?、だから放っておいたんだよ」
「その話しをしたのはさっきだろう!?」
「…この業界、言ったことに後先は関係無いってわかってるよな?」
くっと歯噛みする。
「文句があるなら、アスカちゃんに言って来な」
「ああ言ってくるとも、どこだ!」
「第三新東京市」
「え?、なんだと…」
「もう帰っちまったよ、自分の出番はなくなったからって…」
「なんで!?」
「元々金で雇ったわけじゃないし…、それに無理を言って頼んだだけだからな?、契約書類も無いし…、どうにもならんさ」
はめられた!?
村雨は肩を震わせた。
「…違約金は払ってもらうからな」
「なぜ?」
「俺のシナリオを勝手に変えただろう!?」
「基礎設定のプレゼンは渚カヲル、お前はライターだけどオリジナルの許可はお前には無い、その辺のことはちゃんと書類に書いてあるよ、よく読んどけ」
これで大方こいつの責任って事になるか。
逃げられないように巻き込んでおく。
さぁって、あすか、最後の仕上げを頼む。
千葉は深く椅子にもたれた。
もともと女の子と違って、男の子はそう見た目に変化が出て来ない。
だからケイタは中学、高校と両方の役を、多少のメイクで行う事になっていた。
「はぁ、はぁ…、もう、行っちゃったのか…」
一応ここまでの筋として、マユミも説得に加わり、あの日、三人に何を聞かれたのか?
また苛められると思っていたけど、それは勘違いだったこと。
ただ三人はシンジとの関係を聞きに来ていた事などを告げ、それを話して「なぁんだ」とシンジに見捨てられるのが恐かったと告白した。
シンジは大事な事を思い出した。
ケイタは語った、シンジとして。
赤い髪、どうしたの?、なに泣いてるの?
苛められるの?、苛められたの?、僕じゃダメなの?
強くなるの、誰にも負けないぐらい、強くなるの。
強くなるから、強くなって…
それを見ていて、壊れてしまいそうで、だから危なっかしくて、目が離せなくて…
ずっと見続けていた事を、たまに泣いてる時も見ていた事を。
アスカが結して、強くは無い事を思い出した。
玄関前にはカヲルが車を乗り付けて待っていた。
そしてシンジを乗せて車は空港を目指す。
だが間に合わず、飛行機はとっくに飛び立っていた。
「アスカ…」
「ばかシンジ」
その声にはっと振り向く。
「アスカ!、どうして…」
そこにはぽつんと佇むアスカが居た。
「…渚が、シンジが来るから、待ってろって」
携帯電話を見せる。
「カヲル君が…」
ぽろっと、アスカの目から涙がこぼれた。
「アスカ!?」
「ばかシンジ…」
あすかは本気で泣いて見せる。
「いつも言ってたくせに…、見てるからって言ったくせに…」
それはアスカの中で絶対の言葉だ。
「ごめん…、忘れてたんだ」
「だから頑張ったのに」
「アスカに、他人の振りをしろって言われて」
「頑張ってたのに…」
「それが悲しくて、忘れてたんだ」
「ばかシンジぃ!」
首に縋り付く。
「ごめんね?、アスカ…」
アスカの首筋、その赤い髪に顔を埋めて。
そして二人は…
この先はシナリオには書かれていない。
だが二人は自然と行動していた。
●
「…惜しかったんじゃないのかい?」
「なにが?」
ほくほくと帰りの電車の中で、冷凍ミカンを頬張る二人。
「これでアイドルも夢じゃなかったのに」
「はん!、あんなのもうこりごりよ」
「そうなのかい?」
カヲルはニコニコとミカンを剥いた、が、アスカに横から奪い去られた。
「ストレス溜まりまくったわ…、やっぱり自分勝手にやるのが一番よね?」
ウインク一つ。
…シナリオはシナリオだね?
そんなアスカに、思惑通りに行かなかった事が嬉しくなる。
カヲルは少しばかり、複雑な感情を抱いていた。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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