NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':82 


 タタタタタン!
 南米、アマゾンの奥地。
 奥地とは言え、この時代ともなればそれなりの通信設備が整っている。
 そこにある村から連絡が途絶えて三日、調査のために入った軍隊を謎の集団が襲っていた。
「う、うわ、うあああああああああ!」
 悲鳴を上げながら軽機関銃を撃ちまくる、が、その銃弾を受けた『それ』は意に介することなく、巨腕を振り上げる。
 ザシュ…
 鬱蒼と生い茂る木々によって日の光さえも遮られた樹海の奥で、また一つ死体が出来上がる。
 グル…
 そのゴリラのような巨体の獣が見上げた頭上の枝には、似たような獣達が赤い瞳で見下ろしていた。



Q_DASH82
「SPRIGGAN」



 時に西暦二千十七年、十月。
 赤木ナオコは困っていた。
「やっぱり道を間違えたのかしら?」
 歳相応に歳を取った口元には、化粧では隠し切れない皺が浮いている。
 赤いオープンカーを止めて、ナオコは地図を広げていた。
「赤木博士?」
 ここはアメリカである、だがしかしその声は日本語だった。
「どなた?」
「迎えに来ました」
 MIB?
 思わずそう尋ねかけたがなんとか堪えた。
 リッちゃんだったら間違いなく口にしてるわね…
 口元に苦笑が浮かぶ。
「どちらの迎えかしら?、今プライベートなの」
「あなたにゼーレと接触されては困る方の迎えです」
「そう…」
 ナオコは溜め息と共に地図を放り出した。
「で、どちらまで?」
「隣、よろしいですか?」
「どうぞ」
 これで完全に遅刻ね。
 確約できない約束は作らない主義なのだが、人生にはどうしても守れない時がある。
「ご心配なく、世界の頭脳でもあるあなたを傷つけることはいたしません」
「…どのくらい付き合えばいいのかしら?」
「状況が終了するまでです」
 なにか起こっているのかしら?
 確かに数日前から接触されている、が、ナオコは袖にしていた。
 あの人の頼みならともかく…
 ゼーレそのものに恩は売っていても義理は無い。
「ちょほいと待ちなは」
 彼は電灯にもたれていた。
 MIBの手が素早く懐に入った。
 アメリカのド真ん中でもテンガロンハットと言う、あまりにも怪しい少年は、ちっちっちっと指を振った。
「ピストルは最後の武器…」
 プシュ!
 抜いて撃ってホルスターに戻す、全てが一秒以内に行われた。
 挙動も動作も完璧だった、さらには最初からサイレンサーを装備している当たり、MIBもそうとう慣れているのだろう。
「余計な邪魔が入り…」
 ガン!
 そのどたまに白いギターが直撃する。
「くはっ!」
 MIBはギブスの代わりにギターで首を固定された。
「人の話は最後まで聞けと、死んだお袋さんに習わなかったか?」
 ちなみに彼の母親は健在である。
「っ!!」
 MIBは再び銃を抜いた、が、目を丸くして固まった。
「きゃああああ!」
 悲鳴が上がる、通行人が逃げていく。
「お楽しみはここからだ!」
 彼はショットガンを構えていた。


「…あれは一体なんだったのかしら?」
 ナオコは車を走らせながら、咥えたタバコに火を付けた。
 赤いサングラスは誰かの真似だろうか?、だが丸ではなく横長のバイザー仕様だった。
「ま、いいわ」
 考えた所で答えが出るえわけではないし、あっさりと他人の振りを決め込んでここまで来てしまったのだから。
 それ以上に、ああ言ったことはアメリカでは良くある誘拐だった。
 そう、誘拐の部分までは。
 気分を切り換えるためにラジオをつける。
『ダブリン郊外で発砲事件が発生し、銃撃戦に巻き込まれた車が立ち往生しております、道路は一時封鎖、この影響により渋滞が発生しており…』
「…ままならないものね」
 帰りはどうしようかと考えてしまうナオコだった。


 ゴォオオオオ…
 旅客機が飛んでいく。
 青い空はうっとうしいほどに青い。
「遅いわね、母さん」
 彼女は黒いサングラスを掛けていた。
 欧米人に引けを取らない肢体、日本人特有の肌、そして金色の髪でありながら眉は黒。
 涙の通り道にあるほくろが、まるで男を誘っているようだった。
 だが…
 実際には誰も近付かなかった。
 いや、正確には誰一人として近寄らなかった。
 むしろ遠ざかっていた。
 それは彼女が何故か白衣をはためかせていたからだった。
「…呆れたものね?」
 背中からの声。
「人を呼び出しておいていきなりそれなの?、母さん」
 リツコは振り返る。
「久しぶりね?、リッちゃん」
「ええ…、で、今度はなにがあったの?」
「あら?、まだ別に何も言ってないわよ?」
 ナオコに促されて歩き出す。
「ただの計算ならMAGIにやらせた方が早いもの、でもわたしを呼び出した、これをどう説明するのかしら?」
「ふふ…、相変わらずか、その勘繰り癖、やめた方がいいわよ?」
「よしてよ、この年になって親子の語らい?」
 二人は駐車場へと向かう。
「…リッちゃん、荷物は?」
「手ぶらよ、長居するつもりも無いから」
 研究者としての癖かもしれないが、リツコはしばしば時間を忘れる。
 それがいつの間にか、数日間は風呂にも入らない、着替えもしないと言う事に慣れさせていた。
「お嫁の貰い手が無いわけね…」
「母さんこそ、いい加減人を不倫のダシに利用しないでくれる?」
「あら、何のことかしら?」
「…わたしが知らないと思ってるの?、まったく、教え子のお父さんなんだからやめてよ」
「元、教え子でしょ?」
 赤い車に乗り込む二人。
 アイドリングも短く、タイヤを軋ませ発進する。
「…そう長くないわね」
 この車、とリツコはエンジンの心配をした。


 アメリカの高速道路は快適で、都心部さえ目指さなければそれなりに流れる。
「どこへ行くの?」
 風に吹かれながら、リツコは何処か遠い目をして母に尋ねた。
「わたしの研究室よ?、見てもらいたい物があるの」
 リツコは溜め息を吐いた。
「…母さんの手伝いはお断りするわ」
「研究してもらう必要は無いの、ただ見て、感じた事を言ってもらいたいのよ」
「…なに?、それは」
 リツコは訝しんだ。
「母さんらしくないわね?、なにを迷ってるの?」
「わからないのよ…、そのデータが何を指しているのか、なにを満たせば正解に辿り着くのか」
「そう…」
 なら仕方ないか…
「わたしでもダメなら、リッちゃんしかいないと思ってね?」
「光栄ね…」
 リツコはダッシュボードからタバコとライターを漁った。
「手伝ってくれる気になった?」
「…そうね、ネルフがらみでないのなら」
「そんなに嫌なの?」
「…嫌なのは不倫のダシに使われる事よ」
「あら?、いつからそんな潔癖症になったのかしら?」
「…その年で恋もなにもないでしょうに、もう上がってるんでしょ?」
「失礼ねぇ…」
「ブラックホール?、いいえ言葉の通り『泥沼』かしら?」
「使わないまま腐れるよりマシだとは思わない?」
 非常にギスギスとした空気が流れる、その口からは「ほほほほほ」とか「ふふふふふ」と魂が抜けていく様な笑いが漏れていた。






「相変わらずね、ここは」
 整然とした研究所、広過ぎるほどのロビー、奥へと続く通路もまた通常の建物よりは広く作られている。
 ちなみに敷地は都市のワンブロックにも匹敵していた。
「懐かしいわ、ここで警報が出た時のこと」
「そうそう、あの実験、リッちゃんがボタンを押したのよね?」
 それと同時に電源が落ち、次いで赤い非常灯が点灯、パニックに陥った所員は警報装置を鳴らした。
「…あの時に知ったわ、どうしてこんなに廊下が広いのかをね?」
 こめかみに青筋が浮かぶリツコ。
 みな泡を食ったように逃げた、廊下が広かったおかげでほぼ所員全員が全力で逃げ切れた。
「まあしょうがないでしょ?」
「なにがよ!、まったくわたしがどう思われてたか、ようくわかったわ!」
 ちなみに全ては誤報であった、警報装置を作動させた所員は後に「だって、リツコがボタンを押したのと同時だったんですよ!?」の叫びだけで無罪放免となってしまった。
「ここに来る度にろくなことがなかった気がするわ」
「運がないのね?」
「…ええ、男運と一緒、母さん譲りよ」
 二人は研究所の奥へと進む、その途中で何人もの所員が壁際に背を擦り、いやいやをしながら泣き、あるいは失禁していた。
 …この二人のギスギスとした雰囲気によって。
「…なんなのかしら?」
 もっとも、それが通じなかったのは最初のロビーに居た受付嬢だけであろう。
 彼女は最近入ったばかりの人間だった、白い肌にトップモデルのような肢体を無粋なユニフォームに包んでいる。
 その目は赤、髪は茶色のショートだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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