NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':82
「で、見せたいものって?」
「これよ?」
施設中央にあるコンピューター塔、別名「電算室」
そこからさらにエレベーターで大深度施設へ、核シェルター並みの堅固さ、堅牢さを誇るそこは多くの機密実験室が並んでいた。
「…相変わらず趣味の悪い」
「あら?、悪の科学者は地下で活動するのが相場じゃない?」
「自覚があるだけに始末に負えないわね?、ここなの?」
扉の前に立ち、ゴンゴンとノックする。
音だけでその扉の分厚さが知れた。
「赤木博士、おかえりなさい」
「どう?、様子は」
様子?
リツコは怪訝そうに眉をしかめた。
室内は廊下とは対照的に雑然としていた。
ひょいとのたうつパイプやケーブルを越える。
「…リス?」
そう、それはリスだった。
誰がどう見てもリスだった。
しかも仔リスだった。
「…母さん」
「なに?」
詰めていた所員と二・三の確認をしながら適当に応える。
「動物実験は愛護団体がうるさいわよ?」
「そうね」
リツコはその所員の口がキャンディーでも舐めているのか?、膨れているのを見て苛立ちを覚えた。
タバコを出して、口に咥える。
「リッちゃん、ここ禁煙だから」
「…火は点けないわよ」
中央、各観測機器の取り付けられたクリアケースの中で、仔リスがヒマワリの種を食べようかどうか悩んでいた。
ざっと眺める、マザーコンピューターとリンクしている端末が示すデータ、これは明らかに「リス」の状態を示していた。
「…遺伝子、異常配列、過剰分泌、身体能力、回復力が通常の」
「このデータを見て、どう思う?」
はぁっと溜め息。
「そうね、確かにわたしの知っている何かに似ているわ?」
嫌な予感がする。
「そのリスね?、もう半年もその大きさのままなの」
「…作ったの?」
「いいえ、拾い物よ?、快く提供してくれた女の子は泣いてたらしいけど」
ちなみにその母親は、この成長しない気味の悪いリスを喜んで手放していた。
「で、わたしに用事ってなにかしら?」
「あなたにはそのデータを否定してもらいたいの」
「…粗探し?」
「これが例のものだと、ゼーレも、ね?」
はあっと溜め息を吐く。
「そうね、わかったわ」
しかしそう上手く物事は動かなかった。
バチン!
突然電源が落ちる。
真っ暗になったが、直に非常灯だけが回復した。
「…はぁ、やっぱりリッちゃんね?」
「…まだ何もしてないわよ」
だが心当たりが無くても汗が伝い落ちてしまう。
「…地上との回線が切られたわ」
緊急用の赤電話をフックに戻す。
「…あたしが来たと同時に襲撃なんて、癪な奴らね」
ピクピクとこめかみが引きつっている。
「あなたのそう言う所、頼もしいわ」
そう言う母さんも余裕があるじゃない…、とは思っても口にはしない。
「電算室は施設の中央にあるんでしょ?、こんなに簡単に侵攻されるなんてね…」
「一応ここへの通路とは区切ってあるもの」
「…入り込まれた上に外とは隔離、ここの性質上、上も下手に原因究明のために動けない」
バイオハザードであればこのまま封印閉鎖もあり得るのだから。
リツコはリスを気にしながら、ふと通風孔の音に気がついた。
「何が鳴ってるの?」
「ああ、鳴子よ」
「なる…」
「車用の警告ブザーを改造して仕掛けてあるの、リチウム電池で動くから見つかりにくくて結構重宝するわよ?」
「あきれた…、で、ここへ来るのかしら」
「さあ?」
「さあって…」
今度こそ本当に呆れ返る。
「ダクトの中を反響してるだけだから、何処が狙われてるかは、ね…」
「いい加減ねぇ」
「まあ狙いなんて…」
ドゴン!
熱過ぎるほど分厚い扉が膨れた、おそらくは向こう側からへこませたのだろうが。
「…ここに決まってるって感じね?」
ナオコは悟ったように呟いた。
ドバァン!
扉が外壁ごと円形に吹き飛んだ、ゴン、ガンと転がりリツコを風でなぶりながら転がっていった。
「この施設は完全に僕達が制圧しました」
「…子供?」
「大人しく僕達に従って下さい」
野球帽を前後逆に被った癖毛の男の子だった、目の下の隈が酷く目につく。
「これは…」
その子供も驚いたようだ。
「名高い赤木博士が両名ともお揃いとは」
くっくと陰鬱な笑いを漏らす。
「さすが、それの重要性を分かってらっしゃる」
わらわらと武装した兵が入り込んで来る。
「悦に浸ってる所悪いんだけど…」
「なんです?」
「…わたしが来てること、知らなかったのね」
シ・ン…
ちょっと耳が痛かった。
「装甲歩兵部隊?、たかが一研究機関を襲撃するにしては大袈裟ね」
リツコは咥えっぱなしにしていたタバコに火を点けた。
「…ここにあるものの重要性を考えれば、この程度は必要でしょう?」
一列に並んだ銃口が威圧する。
「そうだ、博士にもご同行願いましょうか?」
「…なぜ?」
「いいお土産になるからですよ」
馬鹿な子…
リツコは溜め息を吐いた。
「あなた、プロじゃないわね?」
「ほう、これでも大佐ですよ、僕は」
「なら後ろの人達に聞いてごらんなさい?」
ニヤリと笑う。
「ターゲット、特に人のようにイレギュラーな行動を起こす対象を、それも二人も増やす事がどれだけ作戦に影響するのか」
「うるさい!」
少年は吠えた、その周囲の空間が歪む。
「リッちゃん!」
ナオコの悲鳴、だが。
ブゥン!
(衝撃波?)
空間が歪んで襲いかかって来る、しかし…
「なに!?」
リツコの髪はそよ風程度に揺らいだだけだった。
「頭脳磁界増幅装置…、あなた正気なの?」
相手の力の正体を見抜き、リツコは眉をしかめた。
「僕の力が!?」
「あら?、強磁界で防御壁を張るのに、なにも脳に埋め込む必要は無いのよ?」
ニヤリと笑む、誰かの様に。
「その目の隈、あなたもう長くはないんでしょ?」
「無駄にだらだらと生きるよりも、ひと握りの天才となって名を残す方がいい事もある、違いますか?」
「この程度の力なんて、命をすり減らさなくても手に入るのに…」
「そうね?」
割り込むナオコ。
「…その力を使うのはやめなさい」
「ほぉ」
驚いた顔をする。
「赤木博士ともあろう方が、人の命の重さを諭すとは」
「何を言っているの?」
「ん?」
「ここでその衝撃波を使うと、大変な事になるわよ?」
「ならどうなるのか教えてもらいましょうか?」
挑発に乗って力を使う、脳に埋め込まれたブースターが衝撃波を生んだ、しかし
「やってしまったわね?」
ニヤリと笑うナオコ。
−−−−−−−!
鼓膜が破れるような甲高い音がして、少年は膝をついた。
「かっ、は…」
耳と鼻から血が流れる、が、彼はまだマシな方だった。
バタバタと倒れる兵士達、耐爆仕様の壁にヒビが入り計器や計測機器、それにモニター類も割れていた。
「な…」
「歪んだ磁界が衝撃波を生んでいるんでしょう?、バカねぇ、機械から出る電磁波を消すために特別なものを備え付けてあるの、あなたの磁界は最初のでチェック済み」
彼の磁界を消し去るほど強力な電磁波を、その周囲に居たものまで食らっていた。
「まだやるというのなら今度はその頭の中の増幅器に異常が出るわよ?」
「…で、その電磁波をもろに浴びたあの人達はどうなるのかしら?」
リツコは紫煙の立ち上るタバコで、悶え苦しむ兵士達を指差した。
「そうねぇ、もう自分では帰れないかしら?」
「…まずいわね」
「なに?、リッちゃん」
「ペンタゴン辺りでしょう?、証拠を残したのならともかく、実行犯を丸ごとって言うのは国の威信に関るわ」
「あ、じゃあこうしましょう?」
ナオコは何処か嬉々として、近くのキーボードを操作した、直後…
アラート。
『当研究所は、機密保持のため自爆処理を選択いたしました』
「ちょっと待て!」
あせる少年。
「赤木博士っ、あなたは本気ですか!?」
「あら?、だってこれ以上の機密漏洩は出来ないわ?」
にっこりと。
「…呆れた、自分の家だけじゃなくこんな所にまで自爆装置を付けるなんて」
「自爆装置と壊れるバリアーと「こんなこともあろうかと」は科学者の本懐でしょう?」
正気か?
引きつる少年。
「わかりました、ここは大人しく引き下がりましょう」
「そのゴミは後でまとめて送り届けてあげるわ?」
敗者の背中に少しばかりの心遣いを投げかける。
「さて、と」
リツコは彼が出ていったので話を切り換えた。
「そろそろそれ、消してくれないかしら?」
「あら?、やっぱり分かっちゃった?」
「回線が遮断されているのにここからコントロールできるわけないでしょう?、それぐらいわかるわよ」
スピーカーから流れていたのは、ナオコが趣味で作ったただの自爆アナウンスなのだ。
「まあいいじゃない、もう少し流していても」
「苛付くのよ、消して」
「ほら、カウント十秒前よ?」
「…母さん」
「五」
「それ、ただの合成音、よね?」
「一」
カコ…
ナオコはキーを押した。
くっくっくっと口元が笑っている、それはまるでそのアナウンスが本物の自爆装置が作動していたかの様に。
「…この人達は」
忘れてはならないが、ここには中国系の顔をした所員が一人、あまりの世界に壁に張り付いて大汗を流していた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者
nary
さんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元
Genesis Q
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Genesis Q