NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':82 


 ジュニアハイスクールの女の子だろうか?、年齢にはそぐわない異国の文化製品『ランドセル』を背負った少女が駆けていく。
 明るい茶系の髪を色違いのリボンでまとめているのだが、あまり元気に跳ねるものだからいつばらけてしまうか気が気でない。
 そんな微笑ましい姿に微笑みを浮かべるおじいさんが居るのだが、彼の余命は後わずかである。
「ただいまぁ!」
「あらおかえりなさい」
 それを出迎えたのは一部の隙も無い黒髪を腰まで伸ばした女性だった。
 いつもエプロンを付けていると言うより、いつ外しているのか?、と悩ませるような感じは、彼女の歳をやや上向きに見せている。
 あるいは恋をしているか新妻のようにも誤解させて、近所の男連中の心をくすぐっていた。
 もっとも本人にはその気は無いし、誤解されている男には更にその気が無かったりする。
「マイぃいいい、俺にもただいまって…」
「ぷいっだ!」
 思いっきりそっぽを向かれて無視された。
「マイぃいいい!」
「マイも、そろそろ許してあげたら?」
「だってだって!、リキったらジムとかジョンとかコウイチくんが遊ぼうって言ってくれてるのに追っ払っちゃうんだもん!」
「ジョンとジムはともかく、コウイチは高校生だろう!」
「ふーんっだ!、あのね!、今日もこんなにラブレター貰っちゃった!」
「なにぃ!」
 嬉々としてびらっとトランプを広げるようにマイは見せびらかす。
「見て見てサヨコ!」
「えっと…、あら、ジャンって誰?」
「あ、ハイスクールの先輩なの!、この間お手紙出したら返事をくれたの!」
「マイ、飴を上げるからそのジャンって言う奴のことを聞かせなさい」
「マイ子供じゃないもん」
 ぷいっ!
「マイぃいいいい!」
 だばぁあああああっと滂沱のごとく涙を流す。
「ほらほら、マイ、ナオコさんにもただいまって言ってらっしゃい?」
「はぁい!、はかせぇ!」
 ぱたぱたと走っていく。
「…ア○レちゃんみたいね?」
 さてこちらはどうしようかしら?、とロボビタンAの切れたリキの扱いに困ってしまった。


「ただいま”ばあさん”!」
 ビキ!
 確かに何かにヒビが入った。
 つい先程までにこやかにしていたナオコが、ゆっくりと恐い微笑みを張り付かせて振り返る。
「…おかえりなさい、でも”ばあさん”はないんじゃないかしら?」
「え〜?、だって向かいのおじいちゃんが言ってたよ?、”あそこのばあさんは恐い”って」
 あのじじぃ!
 めきめきと何かの音がする。
「…化粧、剥げるわよ?」
「そうね…」
 ナオコはなんとか堪え、向かいで優雅に茶をすする娘に向き直った。
「はかせぇ、この人は?」
「娘のリツコよ?」
「こんにちわ!」
「こんにちわ…、母さん、いつから人好きになったのかしら?」
「知り合いに頼まれたのよ、学校にやりたいからって」
「そう…」
 母さんがねぇ…
 嫌なものは例えノーベル賞や大統領の地位を餌に、あるいは核兵器で脅しをかけても乗ることはないと知っているリツコである。
「あ、リス!」
 しかしマイはそんな二人の内心を無視するかの様に、机の上にある篭に寄った。
「大事な預かりものだから逃がさないようにしてね?」
「はぁい!」
 うきゃうきゃと頭に乗っけて持っていく。
「…いいの?」
「半年も普通の女の子が飼ってたのよ?、別に危ないことは無いわ」
「そうじゃなくて…、もし逃げたりしたら」
「まあ、面倒の種がなくなって助かるわね?」
「…母さんらしいわ」
 どうやらリツコは、全てをそれで済ませてしまうつもりのようだった。






 ダウンタウン方面。
 その街角の電柱にもたれる男女が居た。
 ミヤとアラシである。
 ミヤはスカートに帽子、アラシはパンツにズレ気味のサングラスと違いはあったが、基本的に二人とも黒のレザーを身に纏っていた。
「ミヤ…」
「なに?」
「…そろそろ、薬、考えてみたら?」
 ガス!
 キックバック気味に足を蹴る。
「ったぁ…」
 ミヤはすまし顔でうずくまったアラシを見下ろした。
 その腕が胸を隠すように、レザージャケットの前を合わせている。
 下が大胆な事にノーブラ白シャツ状態だったのだ、が、あまり効果は無いようだった。
「うう、アラシなんかと来るんじゃなかった」
 ちなみにこの恰好をさせたのもアラシである。
「お前がナンパに連れてけって言ったんだろう?」
「言ったけどぉ…」
「女は顔と胸とお尻で釣る!、後二つがダメなんだから」
「ダメって言うなぁー!」
 自覚してるだけに本気で泣きそうである。
 それ以前にこの二人、どう見てもカップルにしか見えない。
 …声を掛けられないのも当然だろう。
 ミヤのナンパ修行は暫く続く…






 カチャカチャカチャ…
 夕食。
 今日は家主の娘を迎えていると言うのに、雰囲気としては何処か重苦しいものがある。
「マイ…」
 その原因はこの男だ。
「そ、それで、その手紙、どうするんだ?」
 …しつこいと嫌われるわよ?
 リツコは言いかけてやめた。
「マイちゃんはどうするの?」
「えっとね!、ジョンとジャンにはお返事書こうかなぁって思ってるの!」
「そう」
 ニコニコとナオコ。
「でも二人は酷いんじゃない?」
「え〜?、だってお友達は大切にしなさいって、それにマイ、売れ残りって言われたくないもん」
 かちゃ…
 マイとサヨコ以外のフォークとナイフが一瞬止まる。
「…マイ」
「なに?、リキ」
「…後で正しい英語を勉強しよう」
「やだもぉん!」
 マイに他意は無い、単に英語の言い回しというか表現と理解に語弊が残っているだけである。
 ちなみに「ばあさん」も人の名称だと思っていた。


「こら」
 ぽんっとテンガロンハットを小突く。
 彼はその聞き慣れた声に帽子の唾を持ち上げ、体も起こした。
「もう少し大人しくできなかったの?」
 メタリックシルバーのトランザム、その”運転席”に乗り込むとカスミは買って来たばかりのホットドッグの包みを漁った。
「そこら中に警官が居たわよ?」
「ニューヨークって言うのはそう言うものだろ?」
 この子は、まったく…
 溜め息が出る。
「ここはニューヨークじゃないでしょう?」
「じゃ、アメリカだ」
「偏った映画ばかり見てるから…」
「…俺の分は?」
「ないわよ」
「ちっ…」
 カッコ付けているようで幼さの分だけ失敗している。
 ちなみに助手席のシートを倒して寝ているのも、車を運転できないからだ。
 はっきり言って”しまらない”
「で、変わりは無い?」
 二人が監視しているのはナオコ邱である。
「そう…、裏に怪しい覗きがいたな」
「ちょっと!、それをそのままにしておいたの?」
「だってまだ何も起こってないじゃないか」
「起こってからじゃ遅いでしょ!」
「起こらなきゃ出番は無いよ」
 懐から出所の怪しい銃を抜く。
「ふふふ、今宵のマグナムは血に飢えてるぜ」
「…それも見る映画間違ってるわよ」
 ちなみにZ級のパロディ映画である。
 ガシャーン!
「そして開幕のベルが鳴った…、ってな」
 すぐさま車を飛び出し…、なにを思ったかトランクを開く。
 それはカスミがホットドッグを口にしようと大口を開けた瞬間の音であった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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